司会より開会が宣言され、九州医師会連合会 会長・熊本県医師会北野邦俊会長から挨拶が 述べられた後、座長の選出を行い、慣例により 北野九州医師会連合会会長の座長のもと講演に 移った。
講 演
今回の当協議会では、予め九州各県医師会か ら質問等をあげていただいているが、それらを 喫緊の課題として受け止め、日医役員で確認 し、今後早急に取り組んでいきたいと説明され、 スライドに基づき標題による講演が行われた。
T.超高齢社会における社会保障制度
社会保障制度には、年金・医療・介護があ り、その中の医療とは国民医療を示している。
国民医療とは、国民が求める医療であり、迅 速、安全かつ安心で安価な医療でなければなら ない。こうした医療には国民皆保険制度や医療 のフリーアクセスが大きな役割を果たしている。
しかし、地域単位での医療崩壊が起こってい る。各地域における医療提供や社会保障は地域 によって違い、国では、それをきめ細かく捉え る作業は大まかにしか出来ない。
今後、地域が果たす役割が益々大きくなって くる。
我が国は、国富の増加と産業、経済の発展に 伴い、家族構成の変化や家族関係が希薄化する など、地域社会の広域化や独自性が明確化さ れ、高齢者の孤立化等が進んでいる。
今後の日本の社会のあり方として中心的な課 題は医療であると自覚し、地域の医師の取り組 みが重要であると考えられる。
また、日本の産業・経済は重工業が発展し、 環境汚染により様々な疾病の増大がもたらされ た。今後は、自然環境への配慮やエコロジカル な配慮の他、資源がない上でどう対処していく か等、知識の構造化や専門分野の融合が重要と なってくると同時に地域・家庭への回帰と地域 の再評価の重要性や地域医療の重要性が高くな っていく。
U.地域医療提供の課題
地域医療提供の課題として、医師の不足と偏 在がある。
その直接的な要因に新医師臨床研修制度の発 足、医療訴訟の増加と刑事訴追(大野病院事件 等)があり、本質的要因に医療費抑制策や財源 手当てを伴わない拙速な制度変更がある。また、 その他の要因として勤務医の低待遇等がある。
新医師臨床研修制度については研修年数を含 めた見直し、医療訴訟については産科医等が積 極的に医療に携われるような法の整備、勤務医 については女性医師の増加による積極的な支援 等を視野に入れながら取り組んでいきたい。
また、療養病床数の近年の推移をみると、制 度の変換もしないうちに減っている。2005 年 9 月に38.0 万床あった療養病床が2007 年4 月 には36.7 万床に減少している。一方で、行き 場のない患者が増加している状況にある。
今後、これらを強く訴えていく等、注視して 取り組んでいきたい。
V.医療提供機能と医療機能連携
救急医療、急性期医療、療養病床(慢性期医 療)、介護施設、外来医療、入院医療、在宅医 療、医療機能連携、病院医療、診療所医療、有 床診療所、専門医療、プライマリケア医療とい った医療等を対立する存在ではなく、連携を強 化して運営していくことを考えていかなければ ならない。
また、医療機能連携を強化していく上でも医 師(勤務医)の不足に対する施策として、緊急 対策、短期的対策、中期的対策を掲げて医師不 足に対する取り組みを徹底したい。
W.医療保険制度の課題と展望
医療機関の損益分岐点比率は悪化を続け、 2006 年度には診療所で95 %を超えた。わずか な環境変化(患者減による収入減など)にも耐 えられない実態で、喫緊の課題として位置付け ている。
そのような中、社会保障を取り巻く課題と国 民の思いは、これ以上の社会保障の削減は、生 命の安全保障を崩壊させるとしている。
一方で、「骨太の方針2006」では、今後も過 去5 年間と同様の改革効果を継続するとされて おり、制度改革による医療費抑制など、今日の 医療崩壊に繋がっている。
また、後期高齢者医療制度に関して、日本医 師会は、一般医療を保険料・患者一部負担(2 割)、後期高齢者を9 割公費負担とする案を作 成し提案しているところである。
先進国並みの医療費水準を実現するために は、新たな財源も必要である。そのために、も う一度国家財政全体の見直しに立ち返ることを 提案したい。
新たな財源の一つに消費税があげられるが、 消費税を頭から否定するのではないが、その前 にやることがあると考えている。例えば、たば こ税の増税等があるので、それらを先に検討し ていきたい。
主な保険者等の総務費では、組合健保と比べ ると、国保、国保連の総務費(人件費、経費) は、削減傾向にあるとは言い難い。
また、政管健保を経理する厚生保険特別会計 は、「年金」特別会計に統合されたが、業務取扱 費(人件費、経費)はかえって増加している。
独立行政法人等の中には、健康保険料率が低 く、事業主負担比率が高いところがあり、1)事 業主負担を50.0 %まで引き下げ、2)保険料率 を政管健保並みに引き上げる(他の健保組合も 同様)ことが必要である。
また、国が丸抱えしている状態にある法人は 廃止し、業務は本省に再吸収するなど、自立性 の高い法人から順次、民営化すべきである。
さらには、運営費交付金・施設整備費の金額 は、ほぼ一般管理費に相当しており、一般管理 費の年間削減目標を引き上げ、連動して、運営 費交付金等を削減すべきである。
社会保障の財源確保に向けたステップ(案) として、国家財政は特別会計の改革、独立行政 法人等への交付金の見直しを行う。社会保障費 は、保険者の一般管理費の見直し、被用者保険 の保険料率の公平化を行う。国民の負担として は、企業等の税金、個人の税金、消費税の順で 行うこととし、消費税は最終手段であると考え ている。
X.疾病予防と保健事業の推進
生涯保健事業と地域保健事業、がん・生活習 慣病など予防医療の推進、健診・保健指導・母 子保健・乳幼児保健、小児・就学児童・生 徒・現役世代、中高年齢者・高齢者に対する地 域的取り組みが必要である。
Y.日本医師会の取り組み
日医では、生き永らえれば喜ばしい社会、質 の良い医療サービスの確保、心身両面の満足 度、対話と語り合う医療を担って、国民の健康 と生命を守ることが責務であると考える。
そのためには、現況把握を行い、それを分 析・数値化・予測値提示した上で、ビジョンを 掲げ、今後も医療政策としてグランドデザイン を提言し、その実現へ向けて取り組みを行って いきたい。
合同協議会終了後、セミナーが開催されたの で、その概要を以下のとおり報告する。
セミナー
横井小楠は来年、生誕200 年になる記念すべ き年で、また、坂本龍馬は11 月15 日生まれ で、暗殺された日も11 月15 日の本日である。 幕末期の富国安民・国際協調を提唱した思想家 である。
1847 年「小楠堂」という塾を新築し、のち、 ここに吉田松陰らも来塾した。小楠は江戸在 中、勝海舟や坂本龍馬らと交流して実践躬行を 重点とした政治理念を明確に、理想政治を実現 した。61 歳のとき京都で暗殺された。