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医療安全推進週間にちなんで
(2008 年11 月25 日〜 12 月1 日)

地方独立行政法人那覇市立病院医療安全管理委員長
島袋 洋

今年も11 月25 日が含まれる1 週間を医療安 全推進週間として、常日頃より一層の医療安全 を推進しましょうということで、厚生労働省は 患者の安全を守ることを旨として、幅広い関係 者の参画の下に、体系的かつ広範な取組を推進 し、2001 年を「患者安全推進年」と位置付け、 各関係者との共同行動として、総合的な医療安 全対策を推進することとなりました。第3 回医 療安全対策連絡会議資料として平成13(2001) 年3 月26 日に『患者の安全を守るための医療 関係者の共同行動Patient Safety Action (PSA)』を公表してから7 年余も経過していま す。医療事故防止のため、医療関係者(医師、 歯科医師、薬剤師、看護師等の医療従事者や病 院関係者、医薬品等の製造、販売に関わる事業 者等)によって種々の努力が行われてきました が、未だ、国民の不安を払拭するには至ってい ません。

医療の安全や医療の質を掘り下げて考えて いますと、病院のhard & soft の改革は、即ち システム(組織)のマネジメントという視点か ら一元的に捉えられます。医療は研究、教育、 医療行政そして診療の現場をはじめ患者中心 に動いてしかるべきで、どちらかが機能不全に 陥っても、また逆にどちらかが自己主張を前面 に出して原則論を振り翳すと、医療そのものが 崩壊することは論を待ちません。いずれにして もどの要素も排他的独善主義があってはいけま せん。

医療事故はあってはならないことですが、ど う考えて捉えて行くかと言うことが大切で、い きなり刑事責任を問われるのであれば、医療従 事者は診療現場から立ち去ってしまいます。医 療事故は結果を問題にするのではなく、予防が 大切であることはいうまでもありませんが、譬 え起きてしまっても発生に至ったプロセスを検 証し、それを病院(医療)管理という面から透 明性を高めて公正な評価システムを構築し、再 発予防に努めるべきです。

最近、福島県立大野病院産婦人科の問題でマ スコミや世間の話題になりましたが、根本的な 問題が置き去りにされたまま議論されているよ うな気がします。鉄道・航空機事故調査委員会 や海難審判庁のような原因究明を目的の第1 と すべきで、当事者の過誤をいきなり刑事責任に 問うような現在の医療事故でありがちな手法は 改善していかなければなりません。漸く『医療 事故調査委員会』の発足に向けて国も動き出し てはいますが、果たしてどのような形になりま すでしょうか。

さて、日頃の医療行為の中で医療事故防止あ るいは医療安全推進を皆さんが既に行っている 事を再確認してみたいと思います。

【アメニティーは?】

外来受診の患者さんが如何にして玄関まで来 られるのでしょうか。決して新しい器(建物) が良い訳ではありません。段差はないか、杖歩 行や車椅子の患者さんに不必要な絨毯は敷かれ ていないか、車椅子の置き場所は適所にある か、傘立てが動線を妨げていないか、受付の位 置や高さ、自動受付機の位置や向き、待合室の 椅子の位置は良いかなどを考えれば、既に医療 安全推進は始まっているのです。病院や施設内 では、廊下に物は置かれていないか、手摺りは シッカリと取り付けられているか、トイレは車 椅子用もあるか、その中には安全手摺りが設置され、非常用ボタンもあるか、シャワー室は段 差もなくストレッチャーごと入れるか、安全チ ェアはあるか、非常用ボタンはいつでも使える ように目立つところにあるか、ベッドは高すぎ ないか、ベッド柵は患者さんに不都合ではない か等、数え上げればきりがありません。しか し、それでも入院患者さんの転倒・転落は医療 者側からすれば大変難しく多くの課題がありま す。最近、抑制帯(ミトン着用)により無意味 な苦痛を強いられたとの事で医療機関側が敗訴 しました。今後も種々の面から検討していかな ければならない大きな問題の一つです。

【接遇は?】

患者さんに対する接遇は大丈夫でしょうか。 一寸した一言が患者さんやご家族の感情を害 し、苦情・クレームに発展し、時に裁判沙汰に なることさえあります。最近よく耳にするモン スターペイシェントへの対応は職員泣かせで、 並々ならぬ労力を強いられることもあります。 退院が決まった患者さんに「何時頃お帰りにな りますか?」と尋ねた看護師に突然いきり立つ 患者さんもいます。丁重にお訊きしたにも拘ら ずTPO を考えなければ、言葉の使い方一つで 相手の感情を逆撫でする事もあります。

職員同士も笑顔で挨拶はできていますでしょ うか。身だしなみは大丈夫でしょうか。診察時 の高圧的で高慢ちきな態度を取る医師が患者さ んから最も忌み嫌われるそうで、医療事故以外 での医療訴訟の発端は些細な感情の縺れから起 こると言われています。

【Human is err ?】

「人間はミスを犯すものである」という前提 に立って対応や改善策を講じること、確かにそ のとおりです。私達医療従事者も人間です。い つも100 %の体調で業務を遂行できるとは限り ません。当直明けの医師、準夜勤、深夜勤の看 護師、必死になって患者さん達のために職務を 全うしているのですが、疲労により注意散漫に なったりします。99 人の職員が一生懸命頑張 っていても、たった1 人の職員のついうっかり の失態で全てが反古にされてしまいます。 100 − 1 = 0 なのです。これが世間一般の習わ しですが、医療の世界では時として軽んじられ ていた頃もあります。決して当事者を責めては いけません。何故、そのような状況になってし まったかと言う原因追求型の展開が大切です。 リスクマネージメントを一生懸命頑張っている 職員を“風紀委員”呼ばわりして腐す同僚職員 はいませんか。況や上司にそのような方がいる と職場は暗澹たる世界になってしまいます。職 員一人一人がリスクマネージャーとして各部署 で振る舞うと、もうそれで医療安全推進は実践 されているのです。

【5S 活動とは?】

整理、整頓、清掃、清潔、しつけの頭文字S の5 個です。

「整理」とは必要なものと不要なものを分 け、不要なものは捨てること。これは職員のヒ ューマンエラーの軽減・削減にも繋がります。 「整頓」とは必要なものがすぐ取り出せるよう に置き場所、置き方を決め、表示を確実に行う こと。これは患者さんの事故防止に直ぐに現れ てきます。「清掃」とは掃除をしてゴミ、汚れ のない綺麗な状態にすると同時に細部まで点検 すること。これはモノを探す無駄の削減となり ます。「清潔」とは整理・整頓・清掃を徹底し て実行し、汚れのない綺麗な状態を維持するこ と。スペースの有効活用になるばかりか、気分 も爽やかで職務に精が出ます。「しつけ」とは 決められたことを、決められたとおりに、実行 できるように習慣づけること。良い“しつけ” はたちどころにして患者さんや来客者の満足度 が向上します。実に当たり前のことを当たり前 にできているかどうかが問題なのです。S-mile (笑顔)、S-ervice(奉仕の心)、S-tudy(自己 研鑽)、S-peciality(専門性)、S-afety(安 全)、これも日頃の標語になりそうな5S です が、如何でしょうか。

どこの世界(社会)でも同じだと思います が、医療安全の基本は『確認・照合』です。所 謂“指差し確認”の繰り返しです。スチュワー デスさん達がドアの開け閉めに何気なく行っている姿に感心しながら、さて私達の医療界では 如何なものかと暫し考えさせられます。医療過 誤の背景はまるでタマネギのようなもので、医 療制度の問題、病院のあり方の問題、病院管理 の問題、道具(医療器具)の問題、個々人(資 質)の問題、そして人間の本質という(タマネ ギの)芯にジワジワと迫って来るようなもので す。現在の日本の医療は現場に犠牲を強いてい るところに問題がありそうです。そして、それ を公にしようとしない体質にも問題はあるよう です。しかし、そうは言っても一番困るのは患 者さんで、日々の診療にはリスクマネージメン トの“しつけ”がなければなりません。今後は 医療界でもより一層の透明性(情報の共有化) を高め、シッカリと公明正大に評価をした上 で、対策を練っていくことを強化しなければ医 療安全の発展はないのではないでしょうか。



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