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乳幼児突然死症候群(SIDS)対策
強化月間(11/1 〜 11/30)について

小濱守安

沖縄県立中部病院小児科 小濱 守安

はじめに

乳幼児突然死症候群は、何の予兆や既往歴も ないまま乳幼児に突然の死をもたらす疾患であ る。乳児の死亡原因の上位を占めていることか ら、その発生の低減を図るための対応が強く求 められている。厚生労働省は平成11 年度より 11 月を乳幼児突然死症候群対策強化月間と定 め、乳幼児突然死症候群に対する社会的関心の 喚起を図るとともに、重点的な普及啓発活動を 実施してきた。11 月を対策強化月間と定める 理由は、12 月以降の冬期に乳幼児突然死症候 群が発生する傾向が高いことから、発生の予防 に対する普及啓発を重点的に行う必要があるた めである1)。平成20 年度も同様に、11 月の対 策強化月間を中心として、乳幼児突然死症候群 の予防に関する取組の推進を図る。

乳幼児突然死症候群とは?

乳幼児突然死症候群は、生後2 〜 5 ヶ月児に多 く、大部分が6 ヶ月未満であるが、2 歳までは発 症する可能性がある。年々、発症は減少傾向に はあるが、2006 年においては全国で194 人の発症があり、1 歳未満乳児の死亡原因の第3 位とな っている(図1)2)。発症頻度は、出生4,000 人 に1 人と推定され、乳児死亡の約6 %を占める。

図1.

図1.乳幼児突然死症候群死亡数の推移
(http://www.mhlw.go.jp/houdou/2007/10/h1031-2.html)

定義

平成17 年厚生労働科学研究(子ども家庭総 合研究事業)「乳幼児突然死症候群の診断のた めのガイドライン作成およびその予防と発症率 軽減に関する研究」において、乳幼児突然死症 候群を、「それまでの健康状態および既往歴か らその死亡が予測できず、しかも死亡状況調査 および解剖検査によってもその原因が同定され ない、原則として1 歳未満の児に突然の死をも たらした症候群。」と定義し、診断に際しての 留意事項として

1)原則として新生児期を含めて1 歳未満とする。

2)診断は剖検に基づいて行い、解剖がなされ ない場合および死亡状況調査が実施されない 場合は、死亡診断書(死体検案書)の分類は 「不詳」とする。

3)乳幼児突然死症候群(SIDS)は一つの疾 患単位であり、診断のためには、乳幼児突然 死症候群以外の疾患およ び窒息や虐待などの外因 死との鑑別診断が必要で ある。

4)外因死の診断には死亡 現場の状況および法医 学的な証拠を必要とす る。また、虐待等意図 的な窒息死は鑑別が困 難な場合があり、慎重 に診断する必要がある。

原因と危険因子

乳幼児突然死症候群の 発症原因は、脳における 呼吸循環調節機能不全が 原因と考えられている が、単一の原因で起こる かどうかの点も含め、未 だに不明である。正常児 では無呼吸による低酸素 状態が起こると呼吸中枢 が刺激されて覚醒反応が 起こる。しかし乳幼児突 然死症候群児では無呼吸 による低酸素状態が逆に 呼吸中枢の抑制を引き起 こし、さらに無呼吸を促 進すると考えられ、悪循 環に陥り死亡すると推察 されている。早産や低出 生体重の乳児、秋から早 春にかけての寒い季節に 発生が多いとの報告もあ る。発症の危険因子とし て、(1)うつぶせ寝、(2) 人工栄養保育、(3)妊婦 および養育者の喫煙など が乳幼児突然死症候群発 生の危険性を相対的に高 めるとの結果が得られて いる。乳幼児突然死症候 群発症の危険性を低くす るための留意点として

(1)赤ちゃんを寝かせるときは、あおむけ寝 にする4)

うつぶせ寝にに関しては表に示すように 諸外国でうつぶせ寝をやめることにより、 乳幼児突然死症候群の著明な減少が得られ ている3)

うつぶせ寝が乳幼児突然死症候群を引き 起こすものではないが、医学上の理由でう つぶせ寝をすすめられている場合以外は、赤ちゃんの顔が見えるあおむけに寝かせる ようにする。

表

表.うつぶせ寝中止前後の乳幼児突然死症候群発症率の変化

(2)できるだけ母乳で育てる

母乳育児が赤ちゃんにとって最適である ことは良く知られた事実である。人工乳が 乳幼児突然死症候群を引き起こすものでは ないが、できるだけ母乳で育てるようにす る。人工栄養児は母乳栄養児に比べて乳幼 児突然死症候群児が多い。母乳育児の母親 の多くは夜は添い寝をするなど昼夜を問わ ず乳児との接触時間が長いため、変化に気 づきやすい1)、また 母乳栄養児では仰 臥位から腹臥位へ の寝返りが遅いな ど、母乳が予防的 に働くという論文 が多い。

(3)妊娠中や赤ちゃ んの周囲で、たば こを吸わないよう にする。

喫煙に関しては、 両親が喫煙してい ると、喫煙をして いないものに比べ乳 幼児突然死症候群 の発生は有意に高 く、妊娠中の母体 の喫煙で乳幼児突 然死症候群の発生 が3 倍に、出生後の 乳児の受動喫煙で 2.5 倍に増加すると 報告されている。

乳幼児突然死症候群診 断のフローチャート(図 2)と問診・チェックリ スト(図3)を示す1)

図2.

図2.乳幼児突然死症候群(SIDS)の診断の手引き

図3.

図3.問診・チェックリスト

参考文献
1)厚生労働省ホームページ.
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2007/10/h1031-2a.html.
2)乳幼児突然死症候群の予防対策について、厚生省児童 家庭局母子保健課長通知(児母第88 号,平成10 年12 月25 日付).
3)佐藤雅彦,小口弘樹:諸外国のSIDS の発症頻度.小 児内科1998 ; 30 : 459 − 463.
4)仁志田博司:うつぶせ寝,添い寝.小児内科 2007;39:977-980.