去る9 月20 日(土)、ホテル日航熊本において開催された標記協議会(医 療保険対策協議会、介護保険対策協議会、地域医療対策協議会)について、 以下の通り報告する。
理事 平安 明
挨 拶
熊本県医師会 前田副会長
この度の社会保険庁の再編は、我々がこれま で経験したことの無い事態である。保険指導の あり方については、我々の会員にとっては医師 会への帰属意識につながる重要なものであると 考えている。また本日は外来管理加算、後期高 齢者医療制度関連、レセプトオンライン請求の 義務化等、今後の保険診療に関してどの項目も 重要なものであるので、活発なご意見を出して いただき、この時間が有意義なものになるよう ご協力をお願いしたい。
協 議
【要旨】
今回の診療報酬改定で外来管理加算の算定要 件に新たに「概ね5 分を超える診察」を対象と することが加わり、この要件の解釈において 様々な論議を呼んでいる。また、「5 分ルール」 という造語も出て、改定以降、算定率も減少し ているのが現状である。
この算定要件が新たに加わった主旨は、「わ かりやすい診療報酬体系とするために、患者へ の懇切丁寧な説明や計画的な医学管理等に要する時間の目安を設ける」ということである。
本県では、あくまで「目安」であること、ま た「概ね」という文言が明記してあることから、 患者への懇切丁寧な説明や計画的な医学管理等 の実現に重点をおくことにしている。ついては、 各県医師会の実情についてご教示願いたい。
【要旨】
7 月9 日に開催された「中医協診療報酬改定 結果検証部会」において、外来管理加算につい ては本年10 〜 12 月に実態調査を行い、平成 21 年1 〜 2 月に結果報告を行うことになったと のことだが、日医の緊急レセプト調査の結果を もって、一刻も早い見直し(撤廃)を求めてほ しい。
【要旨】
今回、外来管理加算は「丁寧な診察料」とし て患者への懇切丁寧な説明と計画的な医学管理 等に要する時間は、概ね5 分以上の「5 分間ル ール」が設定された。
これは「医師の技量を時間で規定する」もの であり、看護師や他の医療従事者との「チーム 医療」を否定するものである。
「医科点数表の解釈P30」に記載されている 「提供される診療内容の事例」などは、経験と 修練を重ねてきた現場医師の尊厳を損なうもの であり、不遜であるといわざるを得ない。日医 は厳正な態度で「5 分間ルール」の撤廃に向け 主張していただきたい。
日医および各県のご意見を伺いたい。
(1)(2)(3)は関連している為、一括協議された。
各県の回答状況
外来管理加算の算定について各県では、外来 管理加算の「概ね5 分」についてはあくまでも 目安であり、患者が納得できる診察と説明を行 うことが要件であるとして説明をしている状 況。しかし、カルテに「概ね5 分」「時間OK」 等の記載がない場合には、指導により返還に至 った例もあることから、カルテには時間要件と 診療内容、特に患者からの質問の有無について カルテ記載を行うよう指導しているとの意見が あった。
また今回の診療報酬改定により外来管理加算 の算定要件に時間要件が設けられたことについ ては、「個々の患者の診療時間は症状、疾病に より差が生じるものであり、時間と診察の質は 相関しない」「時間によって提供される医療を 規定することは医師の裁量権を軽視するもので あり、また質を保ちつつ効率のよい医療を提供 するために創意工夫された多職種のチームでの 取組み等、現場の努力を否定するもの」等の意 見があげられ、いわゆる「5 分間ルール」を撤 廃して欲しいとする意見が各県よりあげられた。
<追加・補足意見>
◇沖縄県:本県の個別指導は現在、昨年の10 月版について審査を実施しているところである が、指導官からは平成20 年4 月以降の指導を 行う際、外来管理加算を算定しているにも拘ら ずカルテに5 分要件の記載の無い場合には返還 対象となるとの可能性が示唆されている。社保 庁の再編による10 月以降の指導について各県 において擦り合わせをする必要があるのではな いか。
◇大分県:本来はカルテの記載内容で勝負すべ きではないか。「概ね5 分」の記載が無いだけ で査定されることには空しさを感じる。外来管 理加算の本来の目的を理解していただきたいと 考える。
◇熊本県:外来管理加算については本県の会員 の間でも「5 分間ルール」について非常に戸惑 いと不満がある状況である。去る2 日に開催さ れた熊本県郡市医師会長協議議においても非常 に議論された結果、「5 分間ルール」の撤廃につ いて要望書を作成し、日本医師会長宛提出した ところである。
○日医 中川常任理事コメント
私は中医協委員として今回の外来管理加算の 決定過程に関与していたので御説明申し上げ る。この件についてはご存知とおり、再診料か 外来管理加算かという最終的なギリギリの判断 について、公益側委員により最後にはこのよう に決定した。算定要件の「概ね5 分」は「きっ ちり5 分」ではないとして医療課長を通じ強調 して申し上げているので、各県とも柔軟に対応 していただきたい。今回の診療報酬改定におい て診療所から病院に対し400 億円強の財源移転 が行われることになり、その内の200 億円につ いては外来管理加算の見直しとデジタル映像処 理加算の廃止とで工面する予定であったが、日 医が行った緊急レセプト調査(4 〜 6 月分)に おいて、実際は診療所において805 億のマイナ ス、200 床未満の病院では120 億円のマイナス との結果となった。
5 分間と設定したことがどれだけ医療現場に 混乱をもたらすのか予測できなかったことにつ いて中医協全体として反省しなければならない と思っている。日医としては10 月1 日の時点 で外来管理加算に関する調査を行い、12 月中 旬頃には調査結果を発表する予定であるが、現 場ではどのようなことが起きているのかその結 果をもとに検証したい。中医協においても検証 部会において実施される予定であるが、それと 併せて中医協で緊急に何らかの処置をしたいと 考えている。
【要旨】
「一患者、一主病、一主治医」の考え方は、 将来の人頭制を目指していることは明らかであ る。同時に、現在の診療報酬体系内において も、1 カ所の医療機関(主治医)以外の医療機 関は、特掲診療料などの基本的な診療料の算定 が制限される。多くの施設がレセプトオンライ ン請求を開始する平成22 年には、このルール が厳格に適用され、その後に、検査や投薬の制 限にまで影響が及んでくるのは明らかである。
厚労省が目指しているのは安上がりの自己完 結型医療である。我々が医師会を中心に構築し てきた連携による地域完結型医療を否定し、地 域医療を更に崩壊させるものである。この問題 について、全国の多くの医師会が懸念を示して いる中で、日医からの発言が聞こえてこないこ とを不思議に思う。「一患者、一主病、一主治 医」の問題は上記のように後期高齢者医療制度 に限った問題ではないが、象徴的存在である本 医療制度に賛成している日医の方針で果たして 対応が出来るのか疑問に思うが、いかがであろ うか。
【要旨】
周知の如く、後期高齢者医療制度の中で主要 な診療報酬として新設された「後期高齢者診療 料」は多くの批判にさらされ、中医協の診療報 酬改定結果検証特別調査項目になっている。
本来、74 歳以下の「生活習慣病管理料」に 対応する項目と考えられていたにも拘わらず、 医学管理料としては異例の施設基準、煩雑な算 定要件や「主病は1 つ」などの留意事項は決し て容認出来るものではない。
日医は「不都合な事態であれば算定しなけれ ばよい」等と説明しているが、「算定するしな い」ことと診療報酬項目に「この医学管理料が 存在する」こととは別次元の問題であると考え られる。日医および各県のご意見を伺いたい。
(4)(5)は関連している為、一括協議された。
各県の回答状況
各県からは、厚労省が示す「一患者、一主病、一主治医」の考え方はフリーアクセスの阻 害、人頭制導入の布石になることが懸念される ことや、医学が細分化・専門化された時代に医 療連携を無視し、一人の医師が全てを診るとい う考え方には到底無理があることから反対であ るとして提案県とほぼ同様な意見が出された。
<追加・補足発言>
◇佐賀県:本日の新聞に「後期高齢者医療制度 廃止」と大きく記事が掲載されている。このよ うに1 つの団体が一生懸命声を上げるよりも、 対象である国民の声に国は動かされるというこ とである。1 年後に良い制度が出てくることに 期待したい。
◇沖縄県:制度としては潰れてしまわないよう に何らかの手を打たなければならないが、日医 としてこの機会に積極的に日医の考える高齢者 医療制度について提案していただきたい。
◇熊本県:この協議会において1)外来管理加算 の「5 分間ルール」の廃止について、2)社会保 障における後期高齢者医療制度の構築、3)後期 高齢者診療料と医学管理料の併算定の件を含め た要望書を作成し提出したいと考えている。そ の内容については後日各県へ送付するので、ご 確認いただきご意見を頂きたい。
○日医 中川常任理事コメント
後期高齢者診療料について当初の役所の提案 は、人頭税に繋がりかねないものであった。日 医としてはこれを選択性にし、生活習慣病管理 料の後期高齢者版として位置付けしたつもりで ある。特定疾患療養管理料との併算定の問題に ついては、現時点においては従来どおりである が、この問題が解決できれば生活習慣病管理料 の後期高齢者版として、後期高齢者診療料につ いても有効に使えるのでないかと考えている。 緊急レセプト調査の時点では届出数はある程度 あるが、算定されているかどうかはハッキリし ていない。各地域によって算定しないようにと 指示を出しているところもあると思うが、各 県・各地区医師会では会員間で問題が出ないよ うに連携していただきたい。併算定の問題につ いては努力したいと考えている。
後期高齢者医療制度については、日医はこれ までも日医の考える後期高齢者医療制度につい て発言してきた。もう決まったことだから今更 との意見もあるが、政局は流動的であり、今後 どのようになるのかは不明である。これからも 日医としては社会保障のなかで格差のない制度 を作れるよう継続して主張していきたいと考え ている。
今回の舛添大臣の「後期高齢者医療制度廃止 する」との発言については、内部において何の 調整もされておらず、大混乱を招きかねないも のである。今は大臣のパフォーマンスに振り回 されないようにしなければならない。また診療 報酬上の後期高齢者の問題と、制度との問題は 区分けして議論すべきものである。
【要旨】
後期高齢者総合評価加算、後期高齢者診療 料、糖尿病合併症管理料などは、施設基準の要 件として医師、看護職等に対し一定の研修修了 が求められている。
具体的な研修会例が疑義解釈等で示されてい るが、特定地域や特定学会主催のもの等受講困 難で届出が出来ない場合もある。又、このよう な要件を看過すれば、今後他の点数でも研修受 講が求められていく可能性もある。
元々生涯学習・研修の重要性は、日医生涯教 育制度に代表されるように我々も十分認識し、 日々研鑽に務めているにも拘わらず、それらの 評価が殆どなされず、改めて厚労省が示した研 修修了を求められることには憤りを感じる。
よって、日医生涯教育制度のデータ等により 医師の生涯教育への取り組みを主張し、研修要 件を削除すべきと考えるが、日医及び九州各県 のお考えをお聞きしたい。
各県の回答状況
各県からは、診療報酬によって研修会参加を 義務化することは、医師の自立的な生涯学習・ 研修制度をゆがめてしまうおそれがあるので、 まずは自己学習など離島県をはじめ、各地域・ 地方でも取り組みやすくした上で、日医生涯教 育制度の質を高め、診療報酬の施設基準要件で ある研修会に取り上げられるようにして欲しい との意見が出された。
○日医 中川常任理事コメント
日医が実施している生涯教育制度については 一生懸命取り組んでいるところであるが、残念 なことにまだまだPR 不足であると感じている。 今回の診療報酬改定では施設基準において研修 受講を算定要件とする点数がいくつかあるが、 現行の日医生涯教育制度で事足りることを今後 は役所だけでなく、一般国民も含めて広く周知 できるよう努力していきたいと考えている。
【要旨】
本県では、救急医療管理加算(600 点)の返 戻が多い。算定要件の中に「コその他、「ア」か ら「ケ」に準ずるような重篤な状態」とあるが、 本県の社保・国保の審査委員会においては、特 に具体的な取り決めはなされていない。各県の 社保・国保においては、例えば、救急車で来 て、次の日に帰ったり、手術が直ちにその日に 行われなかった場合等、「重篤な状態」の判断 基準についてどのような対応をされているのか お伺いしたい。
各県の回答状況
各県とも、「重篤な状態」の基準については、 社保・国保とも特に具体的な取り決めがされて いない状況であった。また「重篤な状態」は、 主治医の判断によるところが大きいので、レセ プト上において病名から一見すると「救急を要 しない」と判断されそうな場合には、病状詳記 を行うよう指導しているとの意見が出された。
<追加・補足意見>
◇鹿児島県:全国の外科会において、具体的な 事例を出して救急医療管理加算が算定できるか どうかのアンケート調査を行った結果、算定可 否の意見が2 つに分かれた。それだけ判断が難 しい点数だと思う。あまりに査定が行われると 救急に携わる者のモチベーションの低下に繋が らないか危惧される。
【要旨】
診療報酬の改定は、十分な周知期間を置き、 医療現場が熟知した上で実施されるべきもので あると考えるが、毎回3 月初めに日医での担当 理事協議会で説明を受け、4 月1 日までの僅か な期間で会員への周知を図っており、現場では 大混乱を起こしている。
一方、厚労省も3 月下旬、多くは4 月以降に 訂正や疑義解釈を何度も出し、又、施設基準も 短期間のため届出が集中することから審査・受 理が大幅に遅れ、結果的に要件を満たさないと 返戻になる等、現在の日程では医療現場、行政 機関とも対応出来ないことは明らかである。
以前から何度となく協議された問題ではある が、厚労省からの告示時期を早めるか、改定の 施行日を早くても5 月1 日にするなど、医療現 場に混乱をもたらさないような日程とするべき である。
各県の回答状況
各県ともに、診療報酬改定については点数の 算定や施設基準の届出について医療現場の混乱 等を避けるため、充分な周知期間を設けて欲し いとする意見が出された。
<追加・補足意見>
◇佐賀県:現在の医科点数表は解釈が難しく、 日医版の医科点数表を作ることは出来ないか。
◇福岡・熊本県:点数改正実施後、訂正や疑義 解釈等の通知により算定した点数が遡って査定 される現状である。行政からのハッキリとした 通知がある以前に算定した点数についてはその まま査定しない方法はできないか。
○日医 中川常任理事コメント
先生方のご意見、ご不満は充分に理解して いる。
しかしながら12 月に予算が成立し、その時 に次期診療報酬の改定率も決定する。それから 診療報酬の議論が始まるのが従来の流れであ る。しかし今回の診療報酬改定に限っては、自 主的に9 月より中医協の小委員会で検討を始 め、年末に本体改定率プラス0.42 が決まり、 最終的に点数の答申を出したのが2 月13 日で ある。それから通知・疑義解釈が次々と出さ れ、3 月5 日に告示という流れであった。「年末 の予算編成終了後、改定率が決まる」この流れ は動かすことが出来ないものである。私は中医 協でも発言したが、秋から検討を始めるといろ んな意見が出されるが、それぞれ必要と思われ る事項ばかりであり、その時点で沢山の項目に ついて了承してしまうと、後々、実際の改定率 が決まった際には、その財源がない状態となる 恐れがあり、非常に悩ましい問題であることを ご理解いただきたい。改定率が決まらない前か らの議論は難しいのが現状である。
また、診療報酬改定の告示の時期をたとえ4 月1 日から5 月1 日に遅らせたとしても、疑義 が減るかといわれると、あまり変わらないので はないかと感じる。また遅らせた場合、マイナ ス改定ならばそれも良いが、プラス改定ならど うだろうか。同じく改定後の訂正について遡ら ないようにとのご意見についても減額なら良い が、増額だとどうだろうか。この件については 様々な問題があるので、これらをクリアしてい かなければならない。
それらを含めて出来るだけ早く皆様にご迷惑 をかけないようにしたいと考えている。
【要旨】
病院における適時調査は、施設基準を中心に 実施されている。
保健指導看護師、事務官、必要に応じ保険指 導薬剤師等が合同で行なっている。個別指導と 異なり医師会役員の立会はないが、施設基準の 内容に不備がある場合は高額の返還金を求めら れることがある。また、会計検査院の指摘に基づ く医療機関の直接の調査が毎年県庁の事務吏員、 指導監査専門医によりおこなわれ、実地調査に 基づき返還が求められている。
本県の現状では会員よりの通報により調査内 容を把握し対処する状態であるが、これら適時 調査や会計検査院の調査に基づく調査に対する 各県の対応をご教示願いたい。
各県の回答状況
適時調査・会計検査院の指摘に基づく医療機 関の調査については、各県ともに会員からの通 報等により調査内容を把握し、対処している状 況との意見であった。長崎県では適時調査につ いては事前に対象病院について通知があるた め、把握出来ているとのことである。
<追加・補足意見>
◇熊本県:会計検査院の指摘に基づく医療機 関の調査についてはいきなり実施され、会員と しては摘発されたように感じ、その後の診療に も影響が出るほど非常にダメージが大きい。こ のようなことが無いように通常の個別指導等と 同様、県医師会を通じて行ったほうがよいと考 える。
◇佐賀県:会計検査院の調査における医療機関 の選定については、だいぶ以前ではあるが、医 師会もその選定に関与していた。医師会がそれ に関与するということは会員に対し直接手を加 えることになるので、医師会は会計検査院の調 査には係らず、中立の立場であるべきと考える。 但し現在はそのようなことは行われていない。
【要旨】
日本医師会は、医療の適切なIT 化について は賛成であるが、レセプトのオンライン化につ いては、現時点での義務化は時期尚早との見解 を示している。
特に診療所については、最終的には一律義務 化ではなく、希望する会員が実施できるように 「手挙げ方式」を前提に対応するよう働きかけ ている。
本県でのレセプトオンライン化の現状は、本 年6 月請求時点で、病院レセプトの69.7 %が レセ電・オンライン請求となっており、診療所 については、レセ電・オンライン請求をしてい るところは11.4 %となっている。
日本医師会が行ったアンケート調査による と、レセプトオンライン義務化によって閉院・ 廃院となると答えた診療所が8.6 %あり、全国 の約3,600 の診療所がそう答えている。
全ての診療所に一律に期限を決め強引にレセ プトオンライン化を進めると、地域医療は混乱 し、医療安全確保や良質な医療の提供に大きな 影響を与えることは必至である。小規模な診療 所では、多くの投資とステップを踏まなければ 実現は困難である。
各県医師会の現状、また、現在の厚生労働省 との折衝経過を含めた日本医師会の方針につい てお伺いしたい。
【要旨】
レセプトオンライン請求全面義務化について 日医は基本的に反対の立場と認識しているが、 事実上の完全実施まで約1 年半となり、廃院ま で考える開業医師も高齢層を中心に多いといわ れている。
完全義務化反対を訴える一方で、いわゆる 「手書きレセプト請求」を行っている医療機関 等へのサポート(地域レベルでの日レセ導入支 援、代行請求の検討など)も現実的課題として 取り組む必要があると考える。
また、本年の規制改革会議中間とりまとめに おいて、レセプトオンライン請求による情報を 用いて「標準的な医療」を確立するとしてい る。現状のレセプト情報(病名、検査、投薬な ど)で医療の実像が把握できるとは到底信じが たく、医療の現場を知らない者の発言としか思 えず、医師の裁量権の制限にも繋がる。また、 これらの情報を「広範囲に活用」するとしてお り、個人情報保護の観点からも大いに問題とな る動きに注意せねばならない。
さらに、レセプトオンライン請求は支払い側 において劇的な省力化をもたらす一方、現状で は医療機関側に対するインセンティブがあまり にも少ない。診療報酬が実質マイナスとなって いる中でオンライン請求に伴うシステム導入費 用、回線維持費用などは医療機関に大きな負担 であり、オンライン請求に伴う経済的インセン ティブを要求する必要があると考える。
以上のようなことから、レセプトオンライン 請求全面義務化に伴う諸問題について、
1)日医の基本的戦略、今後の具体的な対応策
2)県における医療機関へのサポートの取り組 みについて
ご教示願いたい。
(10)(11)は関連している為、一括協議された。
各県の回答状況
各県ともレセプトオンライン請求義務化につ いては、医師及び事務員の高齢化や、レセ電算 を導入するために多額な費用がかかることを理 由に「廃院」することが考えられ、地域医療の 混乱に繋がることから、一律義務化ではなく希 望する会員が実施できるように「手上げ方式」 とすべきであるとの意見が殆どであった。また 事務代行については個人情報を取り扱う事務作 業であることや、入力ミス等の対応の問題等か ら医師会で代行業務を行うことは困難であると 考えられる為、手書きレセプトを提出している医療機関への対応については代行請求ではな く、現状のまま紙レセプトでの請求・審査を認 めさせるようにして欲しいとの意見が出された。
<追加・補足意見>
◇鹿児島県:レセ電・オンライン化請求の現状 は34.6 %、画面審査も3 割程度であり、本県 でのIT 化の取組みは遅れていると感じている。 医師会での代行請求については検討していると ころである。
◇沖縄県:本県では病院のレセ電への参加が 71.3 %、オンライン請求が37.3 %、診療所で はレセ電への参加が29.1 %、オンライン請求 が5.7 %となっている。
2011 年の完全義務化後の基金の対応につい ては非公式ではあるが、紙で提出された場合で もそれを断ることは難しいのではないかとの話 であった。代行請求についてはこれから検討を 行うことになる。
◇大分県:コンピューター審査は行われないこ とになっているが、もしそうなった場合は莫大 な査定となる為、やはりオンライン請求には反 対である。
○日医 中川常任理事コメント
日医は平成13 年の坪井執行部のときにIT 化 宣言を行っている。その後、オルカプロジェク トを推進するなどIT 化自体については反対で はない。
但しこのオンライン請求の完全義務化につい ては一貫して反対している。レセプトオンライ ン化が出来る先生方についてはぜひ取り組んで いただき、そのためには何らかの支援をしたい と考えている。手書きのレセプトを出されてい る先生方だけの問題ではなく、オンライン請求 となるとレセコンを使うより数段上のレベルと なるからである。そこに財政的な面でいかに支 援できるかということでいろいろと努力してい るところである。
その他、現時点において取り組んでいること としては、まず来年度の予算概算要求として代 行請求を含めたオンライン請求の整備費用とし て26 億円を請求している。この中には代行請 求の為のソフト開発費が含まれている。
次に省令では少数該当の医療機関の緩和要件 として、21 年4 月に現存している医療機関であ ること、レセコンを使用していないこと、21 年 度の年間の請求件数が1,200 件以下であること となっているが、その要件のうち請求件数につ いて1,200 件を3,600 件にしたいと考えている。 また義務化の延長期間については「2 年間の範 囲で別に定める日」となっているところをさら に延長したい。どこまでも延長したいと思って いる。
次に代行請求についてであるが、実際問題と して個人情報を取り扱う作業を含む為、医師会 で行うことは無理と考えている。そこで審査支 払機関において代行入力が出来ないか交渉中で ある。オンライン請求が出来ない医療機関につ いては従来どおり紙で審査支払機関に提出し、 審査支払機関がオンライン請求を行う。そこで 一つ問題となるのが、省令では代行業務は医師 会が行うことが出来るとなっていることから、 医師会から審査支払機関へ委託することが出来 ないか調整中である。併せて代行手数料の緩 和、財源確保についても、いかに安くできるか 現在鋭意努力中である。
次に特定健診においてもオンライン請求と電 子媒体の提出が選択できることから、オンライ ン請求についても、なぜ電子媒体を提出するこ とで駄目なのか交渉中である。IT 化の目的は、 この電子媒体の提出で充分達成できるものだと 考えている。
次にレセコンメーカーに対する指導である。 レセコンについては5 〜 6 年で買い替えるもの なので、順次レセプト電算機能を標準搭載する 機器を開発することは可能なはずである。
日医が行ったレセプトオンライン請求に関す る調査では、8.6 %の医療機関が「廃業」を考え ていることは深刻に受け止めており、この結果 については内閣府の担当者に強く申し上げてい る。ただ最初にも申し上げたが、出来る方にはIT 化という面も含めて取り組んでいただきたい。 但し、レセプトオンライン化はレセコンを使用 していれば全てOK という考え方は危険である。 その辺りの支援についても各県医師会において 考えていただきたい。現状について細かいこと でもよいので私に情報をいただければ検討した いと考えているのでよろしくお願いしたい。
レセプト情報管理の問題についてであるが、 現時点ではレセプト情報をうまく利用すること はまだ出来ないというのが一般的な認識となっ ている。しかし病名、氏名、年齢、性別ぐらい は識別することは出来るので、民間保険会社に とっては重要な情報であり、その管理には注意 していかなければならない。日本医師会はオル カプロジェクトを実施し、現在の導入件数は 6,500 件程度に達している。目標の1 万ユーザ ーに向けて順調に伸びているところである。定 点調査については350 箇所程の医療機関につい てご参加いただいているが、この場を借りて定 点調査へのご協力をお願いしたい。
【要旨】
社会保険庁の再編に伴う、地方厚生局への新 たな事務の移管により、平成20 年10 月以降、 地方厚生局に指導・監査部門を移転し、保険医 療機関等に対する指導・監査や、取り消し等行 なうこととなっている。
移管後の指導・監査等の実施方法などや、各 県支部での業務内容分担について日本医師会に ご教示願いたい。
また、各県の現状についてお伺いしたい。
【要旨】
本年10 月から指導、監査業務等が社会保険 事務局から九州厚生局に移管されることにな る。これまで指導については指導大綱に基づい て実施されてきたが、実態としては各県によっ て実施方法、実施数等は異なっていた。
本県社会保険事務局からは、本年度分は基本 的に年度当初に立てた指導計画に基づいて実施 されるだろうとのことであったが、今後は均一 化を求めつつより厳しい方向に行くことも否定 できないことから、九州医師会連合会としての 対応も重要になると考えるが、各県のお考えを お聞きしたい。
(12)(13)は関連している為、一括協議された。
各県の回答状況
これまで、各都道府県社会保険事務局におい て実施されてきた保険医療機関の指導、監査、 取消等の業務であるが、この度の社会保険庁の 解体・組織編制に伴い、平成20 年10 月から九 州厚生局に業務が移管されることから、新たな 体制における実施体制や実施方法等に関する質 問が各県より出された。九州厚生局が行う指導 を含めた今後の業務内容並びに実施方法につい ては、当日15 時より開催された「社会保険庁 改編に伴う九州厚生局の説明会」の中でひとと おり説明され、質疑応答も行われていることか ら、本協議会では特に協議はおこなわれなかっ たが、各県からは情報交換並びに九州厚生局と の今後の調整等を目的に社会保険担当理事連絡 会議を持ってはどうかとの意見が出され、協議 された結果、同連絡会議を必要に応じて開催す ることになった。
<追加・補足意見>
◇沖縄県:先程の厚生局からの説明ではまだ何 の基準もない状況との説明があり、これから各 県毎に調整を行い、ある程度の規準にもって行 くことになると思うが、当然その際には九州各 県の医療保険担当理事が中心になると思われ る。また指導・監査後に取消の事案等が生じた 場合など、今後は厚生局の総会で協議されるこ とになる為、各県との情報交換が出来る場とし て、社会保険担当理事連絡協議会等が開催できればと考えている。
◇佐賀県・福岡県:九州厚生局が落ち着くまで は、各種協議会とは別に連絡協議会を持ち、意 見交換をした方がよいのではないか。
◇熊本県:各県でも同様だと思うが、本県の社 保事務局では職員の大半が移動になる。指導医 療官からは、10 月以降についてまだ何も決ま っていないということで、10 月以降の個別指 導については全てキャンセルとなっている状況 である。したがって、やはりこのような場を持 ち、各県のある程度の意思統一は必要ではない かと考えている。
「社会保障カード(仮称)に関する厚生労働省 の調査」に対する日医の対応について
○日医 中川常任理事コメント
社会保障カードについては既に検討が始まっ てところであるが、これは医療・年金問題の不 祥事から始まったものである。社会保障カード は年金手帳・健康保険証・介護保険証を一体に したカードであり、年金記録やレセプト情報 等、自分の情報を確認・活用すること等が可能 となるが、併せて国民1 人一人に社会保障番号 を付けることが検討されており、そのようなこ とになれば医療費抑制を目的とした管理医療に 繋がる恐れや、プライバシーの侵害等が懸念さ れる為、日医としてはこのような医療現場に混 乱をもたらすことは容認できないとして主張し ているところである。
今回の調査については、社会保障カードにつ いて検討する「社会保障カード(仮称)の在り 方に関する検討会」において諮られることも無 く勝手に実施されているものであり、厚生労働 省に対し、日本医師会、日本歯科医師会、日本 薬剤師会の連名で抗議文書を送付した。
日医としてはこのような調査に関しては協力 しないと判断しているので、各都道府県におい ても会員の先生方へご周知いただきたい。
○総括・日医 中川常任理事
政治情勢が慌しくなっているが、例え政界再 編が起きてどのような政権になったとしても、 日医の日本の医療を守る姿勢は決して軸がぶれ ない、変わらないということを確認している。 今後も先生方の現場の声や、厳しいご意見を 我々に伝えていただきたいと思う。
これからも御協力をお願いしたい。
印象記
理事 平安 明
平成20 年9 月20 日、ホテル日航熊本にて九州医師会連合会平成20 年度第1 回各種協議会医療 保険対策協議会が開催された。
各県から提案された協議事項はまとめると、1)外来管理加算、2)後期高齢者診療料、3)レ セプトオンライン化、4)厚生局による指導・監査、に関することであった。
(1)外来管理加算については、「5 分要件」の設定が想像以上に現場に混乱を生じていること や、そもそも5 分の設定に根拠がないばかりか、医療の本質も見失う結果となっていることなど から「5 分要件」は撤廃を求めていくことで各県統一した意見であった。
(2)後期高齢者診療料については、「一患者、一主病、一主治医」という考え方が、複数の疾患を有することが多い高齢者をみていく上でそもそも無理があり、将来の人頭制を目指している ことは明らかである。医療連携を無視し、フリーアクセスを阻害するもので、地域医療を更に崩 壊させるものとして、各県とも見直し又は廃止が必要との意見であった。
(3)レセプトオンライン化については、2002 年に日医がIT 化宣言をしたこともありレセプト の“電算化”はやれるところはやるべきとした上で、“オンライン請求”については、義務化でな く「手挙げ方式」とするべきとの意見が多かった。今のところ2011 年には原則完全義務化となっ ているが、対応が困難な医療機関に対しては紙レセプトも受付け、代行請求等の対応を支払い基 金等で行えるよう日医が交渉中とのことであった。
(4)厚生局による指導・監査については、協議会前に持たれた九州厚生局の説明によると、厚 生局側も何をどうすべきかが明確でないため、ある程度落ち着いた状況になるまでは九医連の担 当理事で連絡協議会をもち、指導内容等の情報交換を行っていくことで合意した。
その他詳しいことは前述の報告書を参照していただきたいが、特に外来管理加算と後期高齢者 問題については現場での混乱が大きく、九医連として「外来管理加算の“5 分要件”は撤廃を求 める」「後期高齢者診療料は見直しや廃止を求めていく」との要望書を提出することとなった。ま た、会議の当日、新聞紙上に「舛添厚生労働相が、後期高齢者医療制度の廃止に踏みきり、新た な制度の創設を検討する意向を固め、次期首相が確実視される麻生太郎氏も合意」との記事がで た。後期高齢者医療制度は当初から問題が多かったが、制度施行から半年も経たずに、廃止につ いて担当大臣自ら発言するのは極めて異例の事態であろう。今後どのような経過を辿るかわから ないが、制度の見直しが検討されるのは確実であろうから、日医案をしっかりと反映させたもの としていくことが求められる。