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第4 回男女共同参画フォーラムに参加して
〜もはや女性医師なくしては医療はなりたたない〜

依光たみ枝

沖縄県医師会女性医師部会長
依光 たみ枝

去った2008 年7 月19 日(土)、ホテル日航 福岡で第4 回男女共同参画フォーラムが開催さ れた。昨年立ち上がった女性医師部会より、初 めて私と銘苅桂子先生が代表として参加した。 会場は座れない程の盛り上がりで、全国から集 結した? 300 名以上の参加者で埋め尽くされて いた。

今までのフォーラムで、男性の方々の参加が 一番多いとの発言があった。女子医学生の増 加・女性医師の2000 年度の国家試験の合格率 が30 %を超え、さらに増加し続けている現状 をしっかりと見据える事が重要である。もはや 女性医師支援を如何にすべきかという問題の解 決なくしては、日本の医療はなりたたないとい う医療現場の危機感の表われだと実感したのは私だけではないと思う程の熱気であった。

前日睡眠不足であったが、眠気をふっ飛ばす 活気に満ちたフォーラムの報告と感想を述べて みたい。

男女共同参画委員会委員、家守千鶴子先生の 総合司会で会が進められた。日本医師会唐澤会 長、福岡県医師会横倉会長の挨拶に続き、「基 調講演」、「報告」、「シンポジウム」、「総合討論」、 「フォーラム宣言採択」、「次期担当医師会挨拶」 と4 時間に及ぶフォーラムは、日本医師会常任 理事今村先生の挨拶で閉会となり、その後の懇 親会でも大勢の参加者で大盛況であった。

1. 基調講演

「男女共同参画推進のために」
講師:財団法人福岡県女性財団理事長
稗田慶子先生 座長:男女共同参画委員会委員委員
春木宥子先生

はじめに「男女共同参画社会基本法」が目指 すものと題して、「男は仕事、女は家庭」では なく、男女があらゆる分野で均等に活躍できる しくみ、家庭・仕事両立支援の法律が出揃った が、医療人として働き続けるには多くの課題が 山積し、道はまだまだ遠い。

しかし両立支援の法律・制度が出揃った今が 働き続けるチャンスである。一旦仕事を辞めた ら社会復帰は困難で、細々でもいいから仕事を 続ける事の大切さを力説されていたのに私自身 も共感を覚えた。「継続は力なり」で経済的に もメリットは大きいが、医療人にとってどのよ うな働き方が望ましいか?―短時間正職員制度 (フルタイム正職員より1 週間の所定労働時間 が短い職員の勤務体制)を行なっている施設の 具体例を挙げて説明がなされた。メリットとし て有能な人材が育児・介護などの必要に応じて 正職員のまま仕事を続けられる事で、有能な人 材の確保につながる、また人事、労働時間、賃 金等の管理や業務の進め方等を見直す事によ り、組織運営の効率性を高める事ができるとの話しに「そうだ、そうだ」と1 人で頷いていた。

多様な働き方を求めるためには、ネットワー ク作り、トップの意識改革が重要で、トップの 宣言により女性の就業率がアップした事例が紹 介された。

最後に、日本の医療の発展のためにと題し て、厚生労働省「医師の需給に関する検討会報 告(2006)」の説明で、就業11 年目まで働き 続けている男性医師を100 %とすると女性医師 は83.1 %に留まっている。まず女性医師から 短時間正職員制度などに取り組み、ついで男性 医師や他の医療人にも拡げていくことでワー ク・ライフ・バランスを進め、優秀な人材に良 い仕事をしてもらうことができると締めくくら れた。

2. 報告

<日本医師会男女共同参画委員会について>
前男女共同参画委員会委員 櫻井えつ

委員会活動として以下の事項が報告された。

  • 1. 男女共同参画フォーラム
  • 2. 会長への要望書提出
    • (1)講演会などにおける託児所の設置について
    • (2)日本医師会内委員会への女性医師の登用について
  • 3. 女子医学生、研修医等をサポートするた めの会
  • 4. 院内保育所を含む医師就労支援の現況に 関する調査
  • 5. 都道府県医師会における女性医師に関わ る問題への取り組み状況調査
  • 6. 医師再就業支援事業(女性医師バンク) への協力
  • 7. 女性医師の勤務環境の整備に関する病院 長、病院開設者・管理者等への講習会
<日本医師会医師再就業支援事業について>
前日本医師会医師再就業支援事業部長
保坂シゲリ

以下の事項が報告された。

1. 女性医師バンク(平成20 年3 月末時点)

  • 延べ求職者数      291 名
  • 求人登録施設数     795 施設
  • 求人登録件数      1,422 件
  • 就業成立件数       57 件<
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  • 再研修・再紹介開始件数  6 件

登録件数の増加を受け、平成19 年12 月に コーディネーター養成講習会を開き、平成 20 年2 月からコーディネーターを4 名から11 名に増員し、事業の充実を図っている。また 若い女性医師への広報活動について新たな方 法を模索中である。

2. 病院長、病院管理者等への啓発講演会

平成19 年度28 都道府県で開催された。社 会全体の理解も深まりつつあるが、現実的な 対応はこれからの課題である。

3. 勤務の継続・復帰

実効ある保育支援が必要不可欠であるが、 今年度はその点への具体的な取り組みを予定 している。

3. シンポジウム

「医療崩壊をくいとめるために、今何ができるか、何をすべきか」
座長:男女共同参画委員会委員 小栗貴美子

様々な立場より3 名の女性医師と、男性代表 としてマスコミ関係から1 名の演者の発表はと ても興味深い内容であった。印象に残った事を 述べてみたい。

<ワーク・ライフ・バランスの視点から>

男女共同参画委員会委員/
大阪厚生年金病院病院長 清野佳紀

病院長としての立場から、実際に行なってい る支援の内容に管理者としてではなく、1 人の 人間としてのあり方を見る思いだった。もっと も大事な事は、女性医師支援のために残りの医 師が協力するのではない。女性であれ、男性で あれ短時間勤務の正職員が、気兼ねなしに入っ てこれるシステムを構築することにある―目か らウロコであった。

<医師の働き方を見直す>

名古屋市立東部医療センターセンター長・
東市民病院副院長 津田喬子

痛烈な1 枚のスライドに考えさせられた。 「女性医師の勤務支援体制の功罪―功:働き過 ぎへの警鐘、女性医師のモチベーション向上、 罪:女性医師の依存度強化、女尊男卑、男女共 同参画社会基本法の誤った解釈」

<天の岩戸を開く―女性医師の意識改革>

宮城県医師会常任理事 小田泰子

人を引き付けるパワーのある内容であった。 かって男性の横暴を怒った天照大神は天の岩戸 に隠れ、その際に多くの災厄が高天原を見舞っ たように、女性医師の離職は多くの問題を派生 させている。女性医師支援、本当は?―女性の 働き方こそ人間本来の姿、女性の復職支援、本 当は男性支援?、男性を十字架から開放し男 性、女性、共に生きる―そんな社会を実現させ るためには、女性の力が必要と思うことが、女 性医師の意識改革につながるのかもしれないと 思ったしだいである。

<マスコミの視点から>

西日本新聞社専任職編集委員 田川大介

紅の中の黒?白? 1 点の登場であった。マス コミ界での女性記者の増加を女性医師問題と重 ね合わせての講演に、思わず笑い出す場面があ った。「男女共同参画と男女共用便所?便所は男 女共同参画のバロメーター?」の最初のスライ ドはインパクトがあった。

4. 第4 回フォーラム宣言採択

男女共同参画委員会委員 長柄光子先生に より以下の宣言文が採択された。
「家庭と仕事の両立、ワーク・ライフ・バラン スは単に女性医師のみならず男性医師にとって も、充実した人性を送る上で重要なことであ り、礎の上にたってこそ、社会的使命を万全に 果たしうるものである。そのためには、社会の 理解・支援が必要であることを再認識しなけれ ばならない。医師としての使命を継続できるよ うな環境整備・施策の実践は、医療崩壊をくい とめ、日本の医療を守るために喫緊の課題であ ることを、このフォーラムに参集した皆の総意 により、ここに宣言する。

初めてのフォーラム参加は私にとって、日頃 から感じていた事は皆の共通のテーマだったと いう事を、再認識させられた非常に貴重な経験 であった。また懇親会では、保坂シゲリ先生と 直接お会いして第2 回沖縄県女性医師フォーラ ムの講演を依頼し、快諾してもらえたのも大き な収穫であった。

県医師会女性医師部会が女性医師のみなら ず、全ての医療関係者がお互いに支え合って、 働きがいのある職場に少しでも貢献するには何 ができるか?を考えさせられ、またシンポジス トの先生方から発せられる力に勇気づけられた。

有意義なフォーラムに参加させて頂いた県医 師会にお礼を込めて、私の報告を終わります。

〜医療崩壊をくいとめるために、 今何ができるか、何をすべきか〜

銘苅桂子

沖縄県医師会女性医師部会委員
銘苅 桂子

「皆さんも、うすうす気づいていると思いま すが、女医問題はつまり勤務医の問題なんで す。どうしてこの場に勤務医会が参加して一緒 に討論しないのですか。」

福岡で行われた第4 回男女共同参画フォーラ ム、約4 時間に及ぶシンポジウムの最後に会場 の1 人が発した言葉である。会場はたくさんの 参加者で埋まり、熱気に満ちていた。 シンポジウムのテーマは「医療崩壊をくいとめ るために、今何ができるか、何をすべきか」。 そのなかから、特に印象にのこった講演につい てご紹介させていただく。

名古屋市立東部医療センター東市民病院院長 の津田喬子先生は、「医師の働き方を見直す」 と題して講演された。女性医師支援は必要不可 欠であるが、その本質は「医師の働き方を見直 す」ことにある。ワーク・ライフ・バランス、 家庭と仕事の両立は女性のみの問題ではない。 即ち、男女に関わらず医師の働き方を見直して こそ実現するものである。勤務医不足、コンビ ニ受診や大病院志向、医療に対する要求の高度化が勤務医の過重労働を引き起こし、勤務医不 足にさらに拍車をかけている。医療費抑制政策 により病院は待遇改善のために人件費を増やす のは困難。従って、「医師の働き方を見直す」 ためには患者への啓蒙、行政の支援が必要であ ると説いた。

大阪厚生年金病院(清野佳紀院長)では育 児支援として産前6 週・産後8 週の休暇、育児 休暇3 年とし、現在21 人の女医が育児支援を 受けているという。具体的には産後3 年間は休 暇をとるか、または時短(5 〜 7 時間)、勤務日 短縮(週4 日)、当直・残業免除をうけながら 正規職員として働いてもよいという夢のような 話である。その期間を過ぎれば通常通り復帰す る。ここまで聞いて、残された医師達の過剰な 労働や、支援をうけながら働く女医たちの気兼 ねが透けて見えて、絵に描いた餅のように思え てきた。しかしその後強調されたのは、「子育 て支援の成功の秘訣は男女を問わない全職員の 待遇改善にある」とし、主治医制の見直し、シ フト制の導入、地域連携(当直医を地域へ依 頼)など、女性であれ男性であれ、短時間勤務の正職員が気兼ねなく働けるシステムの構築が 重要であると結論した。

2 名の先生のシンポジウム内容を紹介させて いただいたが、フォーラム全体を通して、「男 女を問わない環境改善、施策の実践」の重要性 が強調されていた。そして最後に発言されたの が冒頭の言葉である。一瞬皆がうなずいたよう に感じられ、この問題は女性医師支援をメイン とした男女共同参画という視点とともに、男女 を問わない勤務医の労働環境改善が最も重要な 問題であることが再認識された。今後、勤務医 部会も合同で協議が行われ、より具体的な施策 が実行されることを願う。

フォーラム終了後懇親会が行われ、県医師会 女性部会会長である中部病院の依光先生とご一 緒に楽しい時間をすごさせていただいた。北海 道医師会会長である長瀬清先生より第5 回男女 共同参画フォーラムの日程と(平成21 年7 月25 日札幌グランドホテル)、次回はよりいっそう 具体的な施策が行われるよう抱負が述べられた。

今回のフォーラム参加で、医師会が女性医 師、勤務医の待遇改善をしていこうと働きかけ ている姿勢を知った。いままさに医療の現場で 激務に耐えている医師にとっては、決定的な具 体案に乏しく、物足りない感もあるかもしれな い。しかし、このような会が継続されていくこ とによってより多くの人が関心をもってとりく み、道が開けていくことを期待したい。

今年、琉球大学産婦人科医局に入局した5 人 の若手医師を含めて、沖縄には11 人の新たな 産婦人科医が誕生した(男性5 人、女性6 人)。 激務、訴訟が多いという点で若者に敬遠されが ちな産婦人科にあえて飛び込んできてくれた若 き医師たちは賞賛に値すると思う。彼らは昼夜 を問わず営まれる産婦人科医療を、疲れも見せ ずに生き生きとこなす。こちらがパワーをもら う。それは、学ぶこと、探求することが楽しい という医師としての本質を謳歌しているからだ と思う。若き産婦人科医が将来、激務を理由に 立ち去ってしまうようなことだけはないよう に、同じ若手として、今私に出来ることはなに かを考えさせられたフォーラム参加であった。

講師の保坂シゲリ先生を囲んで

講師の保坂シゲリ先生を囲んで