今帰仁診療所 石川 清和
1979 年のマクガバンレポート以来、米国で は日本の食文化を模範とし、炭水化物や、食物 繊維の摂取量を増やし、肉や脂肪の摂取量を減 らすことによって、健康への取り組みは1990 年代には成果をあげてきたと理解していた。し かしこの本を読むことによって米国の健康問題 も、きちんとした成果をあげきれていないと思 えてきた。昨年の欧州循環器病学会のレポート でも、冠動脈疾患を発症しても糖尿病や肥満傾 向は改善しない、食行動は全く改善されていな いと報告されていた。日々の外来だけでなく、 沖縄の健康問題、ひいては世界のどの国におい ても健康を回復する根本的な取り組みは難しい のではないかと思うのである。この本を読み、 日本より10 年進んでいるはずの米国の現状を 知ることは、今まさに取り組んでいかなければ ならない沖縄の健康長寿問題の解決の糸口を見 つける手助けになると思う。
アメリカのベジタリアンはなぜ太っているのか
矢部武 あさ出版
アメリカ人はベジタリアンでも太っているー そう感じ、いろんな角度からアメリカを眺めア メリカ社会の建て前と本音の違いを指摘する。
ベジタリアンになる動機は第1 が動物虐待の 中止、第2 が健康、第3 が環境保護であり健康 と(肥満と)大いに関係しているわけではな い。しかし、肥満大国米国(国民の約2/3 は BMI25 %以上で、約1/3 がBMI30 %)におい て健康的な食習慣を求めてベジタリアンになる 人が多いのも事実である、しかしベジタリアン になることでビタミン不足やミネラル不足にな り、更に偏った栄養価の食物を食べ続けること で肥満になり健康を損ねる人が少なくないよう である。ベジタリアンの25 %がBMI は25 % 以上といわれている。
米国の肥満問題がここまで深刻化したのは食 生活の問題や運動不足だけでなく、自分の感情 をコントロールできない心の弱さ、安易な解決 策を求めたがる行動や心理が原因になってい る。好きなものを好きなだけ食べながら、安易 に食べるだけでやせられるサプリや運動器具な どの虚偽のダイエット広告にだまされ続けてい る。最近はダイエットするために胃のバイパス 手術が増えていて、2006 年の年間手術件数は 約20 万件になるという。しかし食べれなくな ることで満たされない欲求不満が、アルコール 依存となり新たな問題になっているのである。
貧困大国アメリカ 堤未果 岩波新書 1112
レーガン大統領が導入し、ブッシュ大統領が 促進している市場主義政策、企業に対する規制 の緩和、撤廃、法人税の優遇、そして労働者に 厳しく社会保障を削減する(日本もまさにその あとを追随し小泉政権になり加速した)政策を取ったアメリカの現状は眼を覆うものがある。 安価な外国の労働者に負け、米国内の労働者は 次々と失業し中間層が次々と貧困層に転がり落 ちたのである。
ブッシュ政権の打ち出した社会保障の削減に よって増加した最貧困層の児童への、無料給食 プログラム「マカロニ・チーズ」+「ピーナッ ツバター&ジャムサンドイッチ」に代表される 高カロリー高脂肪給食によって肥満児が増えて いる。ニューヨーク州の公立小学校の児童の 50 %が肥満児であるという。貧困家庭は(一 日の収入が7 ドル以下の家庭が6,000 万人)食 糧配給切符に頼るため家庭でも安くて料理の簡 単なインスタント食品、ジャンクフード、ファ ーストフード、揚げ物が多くなる。これらの食 品は人口甘味料・防腐剤がたっぷり入っていて 栄養価はほとんどない。今では「腹の突き出た 金持ち」でなく「腹の突き出た貧しい人々」な のである。
医療を取り巻く問題: 80 年代以降アメリカ の公的医療は徐々に縮小されていった。その代 わり自己責任の名の下で自己負担率を増やし 「自由診療」という保険外診療を増やしていっ た。自己負担が増え家計を圧迫され、民間の医 療保険に入る人が増え保険会社は市場を拡大 し、「医療の高度化」によって製薬会社や医療機 器会社が儲かり、「医療改革」は大企業を潤わ せ経済を活性化したように見えた。その一方で 「いのち」に対し民営化を進めることで、取り返 しのつかない「医療格差」を生み出している。
2005 年の全破産280 万件の約半数が高額医 療による個人破産である。年間の医療保険費用 が約1 万ドル、それを給料から天引きされた 上、保険会社はいろんな理由を付け支払いを拒 否してくる。対象の疾病でない、契約外の医療 機関である等(保険会社と契約している医療機 関は数週間待たされることはざらである)。
例えば盲腸の手術は日本では約5 日間入院し 3 割負担でも30 万円を越えることはない。しか し、ニューヨークは1 日入院で243 万円、ロサ ンゼルスは1 日入院で194 万円、香港4 日入院 で152 万円、ロンドンは5 日入院で114 万円な のである。出産費用の相場は1 万5,000 ドルで、 入院すると日に4,000 〜 5,000 ドルかかるため (全て自己負担)ほとんどの出産は日帰りなの である。訴訟大国アメリカでも特に医療過誤訴 訟のリスクの高い救急外科医や産婦人科医は保 険料が高騰し年間22 万ドルの保険料が払えな くなり廃業に追い込まれた医師も少なくない。 又一般開業医も診療だけでなく保険請求にも悩 まされている。保険会社が1,200 〜 1,500 あり それぞれの会社でマニュアルが違うので事務処 理の仕方が違う。つまり各保険会社と個別に契 約するためそれぞれ違う条件で請求しないとい けないが、保険会社の評価が悪いと契約を打ち 切られるため保険請求事務に手を抜くことはで きない。そのために費やされる時間・ストレス は診療以上といわれる。
1983 年レーガン大統領はDRG(診断郡別定 額払い)を導入した。その結果入院日数は減少 し、ベッド総数も減り病院数も1 割以上減っ た。更に医療機関によっては重症患者の受け入 れを渋るようになった。また、民営の病院チェ ーンが出現し、医療現場に高い利益率を追求す る経営方針を導入した。その結果人員削減が起 こり、少ない員数で医療を担うようになった看 護師が笑わなくなったと指摘する患者もいる。
米国流の「自由経済を導入した医療保険制 度」をよく知るアメリカ人は、日本の国民皆保 険制度を民主主義国家における理想の医療制度 だと賞賛している。日本の国民皆保険制度はい ろんな問題があるにしてもぜひとも守り通さな ければならない、世界でも優れたシステムなの であることを、保険者、医療人が理解し、自分 にできることを、子や孫のために取り組んでい かないといけないと思う。