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がん征圧月間(9/1 〜 9/30)に寄せて
〜がん検診の受診率向上をめざして〜

鎌田義彦

那覇西クリニック 鎌田 義彦

はじめに

日本人の主要な死因のなかで、がんは1981 年以来第1 位となっており、年間死亡者数は 2005 年人口動態統計で32 万5,941 人である (図1)。また、日本人が生涯がんにかかるリス クは2001 年の統計によると3 人に1 人(男性 49.0 %、女性37.4 %)となっている(表1)。 このような状況の中で今年も「がん征圧月間」 を迎えるわけであるが、「がん征圧」のなかで検 診の役割、課題と提言について、筆者が取り組 んでいる乳がんを例に述べる。

乳がんの増加

本邦女性の乳がん生涯リスクは2001 年度の 統計で5.1 %(20 人に1 人)(表1)で、罹患率 は年々増加している(図2)。1999 年と2003 年 の罹患率を比較した沖縄県のデータを見ても、 乳がんの罹患率の増加はあきらかであり(図 3)、2007 年現在では全県的に年間約600 件の 乳癌手術が行われたと推定される。また、乳癌 による死亡率は他の癌種が横ばいまたは減少傾 向を示す中で、未だ増加傾向にある(図4)。そ して、本邦においては乳がんの発症のピークが40 代、50 代と女性が社会の中また家 庭の中でもっとも活躍する年代にある というところが、他のがん種や欧米と 違うところである(図5)(図6)

表1

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図1

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図2

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図3

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図4

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図5

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図6

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日本の癌対策

このようにがんが国民にとって大き な問題となっている中で、2007 年4 月に国のがん対策として「がん対策基 本法」が施行され、この法律に基づい て策定された「がん対策推進基本計 画」(図7)では、全体目標の1 つとし て「がんによる死亡者の20 %減少」 が掲げられた。その方策として、がん の早期発見のために検診受診率を 50 %以上にする目標が設定された。 高い検診受診率の重要性は諸外国の成 績から明かで、マンモグラフィ検診受 診率が70 %以上の欧米諸国などでは、 乳癌死亡率の減少が1990 年代以降に 認められている(図8)。

図7

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図8

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低い検診受診率

本邦の乳癌検診受診率は2005 年度の調べで 17.5 %と、欧米諸国と比較すると極端に低い。 その中で沖縄県の受診率は26.2 %と比較的高 い中に入っている(図9)。これは、マンモグラ フィ検診が厚生労働省通達で推奨された2000 年に、マンモグラフィ検診には欠かせないマン モグラフィ撮影技師と読影医師養成のための 「マンモグラフィ講習会」が全国6 カ所の中の 一つとして本県で開催され、その早期の取り組 みにより撮影・読影資格者の確保を得て、2003 年度よりこの制度に基づいたマンモグラフィ検 診が開始できたことなどによると考えられる。

図9

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受診率向上の障害

ここで、受診率向上の障害となっている要素 について考察すると、受診者側の問題と検診を 実施する側の問題に分けることが出来る。受診 者側の問題についてはアンケート結果(図10)より、「たまたま受けていない」28.8 %ととも に、「健康状態に自信があり、必要性を感じな いから」17.3 %、「心配な時はいつでも医療機 関を受診できるから」16.9 %などと、検診に対 する誤った認識が伺える。検診を実施する側と して、自治体の検診対象者数の算定方法が必ず しも適切でなかったり(図11)、自治体が検診 を委託している検診機関に対して十分な精度管 理評価を行っていない(図12)という問題があ る。沖縄県全体としては乳がん検診の指標値 (図13)を見ると、精検受診率84.1 %、未把握 率3.8%、未受診率12.1%、癌発見率0.319%、 という点では精度管理上問題ないが、要精検率 1 4 . 0 1 %、陽性反応的中率(癌/要精検者) 2.274 %と精検機関に負担をかけ、受診者に無 用な心配をかける、効率の悪い検診を行ってい ることになり、改善が必要である。

図10

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図11

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図12

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図13

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受診率向上のために

がん検診の受診を促進するのに不可欠なのが 受診への啓発活動である。なんら症状を自覚し ていない「健康な」人が時間的、経済的、場合 によっては身体的な「苦痛」を経験しながら検査を受けるのには、本人の検診への理解・納得 が必要である。その点では、沖縄県に於いて受 診対象女性の4 人に1 人(図9)という乳がん 検診受診率は、これまでの政府、自治体、医療 関係者・企業、患者団体などの啓発努力の結果 であり、評価できるものと言える。乳がんに関 する啓発運動では米国で1990 年代初頭に始ま った「ピンクリボン運動」がよく知られている。 沖縄県でも今年初めて「ピンクリボン沖縄 2008」という形で、医療関係者と患者団体を 中心に、自治体などの後援を得て乳がん検診受 診を促す啓発活動が展開されている(図14) (http://www.pinkribbon-okinawa.jp/)。沖縄 県も「健康おきなわ21 〜長寿世界一復活に 向けて〜」という取り組みを行っており、その 指導の下で各市町村それぞれに健康増進計画を 策定しているが(図15)、それぞれの中でしっ かりとした検診計画、窓口案内、精度管理がな されていくことに期待したい。

図14

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図15

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結語

乳がんを例に、受診率向上というがん検 診の課題について述べた。乳がん検診の各 論について語ると、検診対象年齢や超音波 検診の導入、マンモグラフィのデジタル化 やIT 的側面など様々な要素がある。また、 がん征圧には検診の他に予防や治療も重要 である。しかし、全ての国民に等しく与え られ得る機会としての検診、がんの早期発 見のために正しく提供し、是非受けてもら いたいものである。

文献
1)がんの統計2007 年版.がんの統計編集委員会、財 団法人がん研究振興財団(国立がんセンター内). 平成19 年10 月1 日発行( http://www.fpcr.or.jp)
2)厚生労働省関係審議会議事録等、がん対策推進 協議. 厚生労働省 (http://www.mhlw.go.jp/ shingi/gan.html)
3)健康おきなわ21 〜長寿世界一復活に向けて〜. 沖 縄県(http://www.kenko-okinawa.jp/21index.htm)
4)Althuis MD, et al. Global trends in breast cancer incidence and mortality 1973-1997. International Journal of Epidemiology 34:405-412, 2005
5)鎌田義彦他. 施設検診におけるマンモグラフィ検 診の精度向上に関する研究 発行責任者大内憲 明、平成11 年度老人保健事業推進費等補助金 「マンモグラフィによる乳がん検診の推進と精度 向上に関する研究」研究報告書、カガワ印刷、 仙台、18-24、2000
6)鎌田義彦他. 地域検診へのマンモグラフィ検診導 入報告、日本乳癌検診学会誌12:395、2003