理事 金城 忠雄
経過
平成12 年度厚生労働省の「HIV 母子感染予 防の臨床的研究」の報告でHIV 感染妊婦の出産 が139 例に達したと報告され社会問題になった。
その報告によると、HIV 感染妊婦が自然分娩 した場合の児への感染率が33.3 %に対して、 抗HIV 薬と帝王切開との組み合わせによる児 への感染率は2.1 %で、適切な対策によりHIV 母子感染が予防できることが示された。
当時、妊婦HIV 検査が無料の埼玉県では、 検査実施率99.6 %に対して、任意の沖縄県で は6.3 %と全国ワースト2 位であった。
このようなことから、妊婦のHIV 検査率向 上のため、平成13 年当時の比嘉国郎県医師会 長と日本産婦人科医会の糸数健沖縄県支部長の 連名で県福祉保健部に「妊婦HIV 抗体検査の 無料化について」の要望書が提出された。
当時の福祉保健部の稲福恭雄次長も妊婦 HIV 感染に行政としての危機感を抱いており予 算獲得に奔走、平成15 年度に公費補助2010 万 円が予算化され、「妊婦HIV 母子感染防止事 業」が開始された。
妊婦HIV 母子感染防止事業
実施主体は沖縄県医師会で、対象者は県内の HIV 検査に同意する妊婦、検査に要する費用の うち、妊婦1 人に1,500 円を公費補助する事業 である。
県医師会では、「妊婦HIV 抗体検査マニュア ル」を作成し、産婦人科医会支部長や役員が、 宮古、八重山はじめ各地区産婦人科に検査につ いて、妊婦のプライバシー保護の重要性、実施 報告の方法等について手分けして説明に回った。
事業開始以来、5 年間の妊婦HIV 検査平均実 施率は81.6 %である。県当局や関係者は90 % 以上の実施率を期待しており、産婦人科医の一 層の努力が必要である。
公費補助継続の重要性
平成20 年になり、県は、財政逼迫を理由に 妊婦HIV 検査の補助費の削減を提案してきた。 そうなると検査実施率の低下は明らかである。 県医師会産婦人科医会・産婦人科学会は、共同 で県関係各位に対して「妊婦HIV 抗体スクリ ーニングに対する公費補助継続に関する請願 書」を提出した。要望額には届かないが、妊婦 1 人に750 円の公費補助が継続されることにな った。県福祉保健部担当官の努力もあり、県財 政の厳しいなか、この事業の重要性が再認識さ れた。
琉球大学第一内科の健山正男准教授は、県内 で母子感染が2 例認められており、母子感染防 止のための医療技術は100 %近く確立されてい るため、この事業は、対費用効果にみあう、重 要な事業であると報告している(県医師会報 2007 年12 月号)。
妊婦HIV 抗体検査の公費補助により、尚一 層検査実施率を向上させHIV 母子感染防止に 継続努力したい。
なお、今回、琉球大学医学部器官病態医科学 講座女性・生殖医学分野の佐久本薫准教授と青 木陽一教授に沖縄県の妊婦HIV 抗体スクリー ニングの現状について、ご報告いただいたので 下記のとおり報告する。