真栄城耳鼻咽喉科
真栄城 徳秀
私はスポーツの試合をテレビ観戦するのが好 きで特に高校野球、オリンピック、サッカーの ワールドカップを見るのが大好きである。先 日、某ラジオ番組で「本番で力を発揮するに は」というタイトルの講演を聴き、なるほどと 思ったのでみなさんに紹介したい。演者はメン タルトレーニングの権威である福島大学教授の 白石豊先生であった。彼が言うには、スポーツ ではゾーンの世界というのがあって、試合で 120 %の力を出させる心や体の状態を指してい る。スポーツをやっている人に「本番で何%の 力を出せれば良しとしますか」と質問するとプ ロ・アマ問わず、多くの人が80 %と答えるの だそうだ。持てる力の80 %を出せれば勝って も負けても納得なんだと思うが、敗者の多くは 持てる力を出し切れず、中には50 %も出せな いで敗れ去っていく者もいる。かと思えば練習 でもできた事がないプレーを連発したり、まっ たく無名の選手がオリンピックで金メダルをと って周囲をあっと驚かせる事もある。だからス ポーツはおもしろいのだが、120 %の力を出し たヒーロー達は後のインタビューで試合中の心 境を尋ねられると決まって、よく覚えていない と答えるのだそうだ。無我夢中、無心の状態だ ったのだと思うが、ゾーンの世界に入ると一点 に集中して記憶に残らないらしい。バルセロナ オリンピックだったと思うが、当時14 歳で金 メダルをとった水泳の岩崎恭子ちゃん、今年の 春のセンバツ高校野球で優勝した沖尚が準決勝 の東洋大姫路戦で見せた8 回裏の大逆転劇など がいい例である。ゾーンの世界に入ると神がか り的な事ができてしまうのである。じゃあ、ど うすればゾーンの世界に入れるのか。誰でも入 れるわけではなく普段の練習でセルフイメージ を高めていた人が本番でゾーンの世界に入れる らしい。セルフイメージとは自分のやりたい目 標、それが達成された時の価値、具体的な行動 計画(起床時間から食事の内容まで)を立てる 事である。それが実行できると自信がつく。自 信があるから本番で力を出せるのである。
P = SI。これはモントリオールオリンピック のライフル射撃で金メダルをとったアメリカ人 の言葉だが、P はパフォーマンスの事で試合で の成績を意味する。SI はセルフイメージであ る。SI をやっていないと、せっかく技術や体力 があっても本番で感情のコントロールやリラッ クスができず、実力を出せぬまま敗れ去ってい く事になりかねないというのである。彼はま た、こうも言っている。みなさんは自信という のは試合でいい結果がでたら持てると思ってい ませんか。しかし、試合が始まる前に自信がな ければ勝てないんじゃないですか。自信は勝つ ために試合前に持つものです。だから、普段か らセルフイメージを高めておく必要があるので す。この事はスポーツに限らず、仕事の世界で もいえると思います。今日やるべき事をイメー ジしてから仕事に出掛けるのと、ぎりぎりまで 寝ていてあわてて出掛けるのとでは心の持ち方 が違います。体を動かすのは心です。同じ事を やっても心の持ち方で結果が違ってくる事はみ なさんも経験しているのではないでしょうか。 やがて北京オリンピックが始まります。一人で も多くの日本人選手がゾーンの世界に入ってく れる事を願いつゝこの原稿を終わりにします。