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2人のイタリア珍道中

喜瀬道子

浦添総合病院 喜瀬 道子

バレリア・ラソ・松本さんのイタリア料理教 室に通っていた私と小児科医の友人(彼女はイ タリア語も習っていた)は、1995 年秋、イタ リア旅行へ出発しました。幸運なことにはちょ うどその頃、バレリアさんの妹のエマニエルさ んが、出張のためにローマ市内のアパートを留 守にすることになり、私たちが彼女の部屋を使 えることになりました。

成田空港で、お土産の明太子と日本酒を購入 し飛行機へ、フィウミチーノ空港に着いたのは 夕方でした。白タクに気をつけ、観光客が並ん でいる場所でタクシーに乗りましたが、時速 100km を超えるスピード。窓外の景色は吹っ飛 んでいき、シートベルトを締め座っているのが やっとでした。無事にローマ市内に到着した時 にはほっとしましたが、今度は友人のシートベ ルトが外れません。首をかしげる運転手に手伝 ってもらい、やっと車から降りることができま した。薄暗くなった古い石造りの街並みの中、 2 人はT シャツにジーンズ姿でリュックを背負 い、旅行鞄を1 個ずつ持って探し歩き、目指す アパートを見つけました。1 階入口の大きな扉 の鍵を開け、3 階へ上がり部屋を見つけ、持参 した鍵を鍵穴に入れて回したのですが、何度やっても扉は開きません。友人は勇気を出して階 上の住人を呼びに行き、私は踊り場で2 個の鞄 を抱え、部屋に入れなかったらここで野宿か も・・・と不安でした。しばらくすると、階上 の婦人が友人とともに降りて来て、こうするの ですよという仕草で鍵の使い方を教えてくれま した。鍵を差し込み右へ7 回、その後左へ3 回 まわすと扉が開きました。世界中にはいろんな 鍵があることを知りました。扉を開けると床に 降りる数段の階段があり、灯りを点けてみると 100 年以上は経ていそうな古い造りの部屋で、 壁にはタペストリーが掛かっていました。扉の 内側にはさらに3 種類の鍵、ローマは物騒な所 に違いないと思いました。その晩は荷物を解く と、浴室のボイラーを何とか操作してお湯を沸 かし、壁固定式のシャワーを浴び、大きなベッ ドで眠りました。

翌日はヴァティカン博物館へ。早朝に出発し ましたが、入口は長蛇の列、並んで順番に中へ 入りました。こちらには世界でも有名な美術品 が集められています。左右の壁、さらには天井 にも荘厳で華麗な絵が描かれ、本やテレビで見 たことのある作品も多数ありました。元々は歴 代法王のプライベートコレクション、小部屋や 細い廊下も展示室として使われていて、内部は 迷路のようでした。システィーナ礼拝堂では、 ミケランジェロの“最後の審判”を観ることが できました。イタリアは美術品の宝庫を抱えて いるので、ファッションやデザインの発信地に なるのだろうと理解しました。

アパートの場所はローマ旧市街、広場にはい ろんな店があってとても賑やかでした。通りを 闊歩する赤い幅広ネクタイの男性は、いかにも マフィアの一味という感じで、どきどきしなが ら側を通り抜けました。ナヴォーナ広場には3 つの噴水があり、そこでは多くの観光客、絵描 き、大道芸人を見かけました。

早朝のバールでカプチーノとクロワッサンの 朝食を経験。市場でトマトや洋梨を、食料品店 でチーズやピッツアを買い求めては試食、パン テオンの広場ではジェラートの食べ歩き、ロー マ市民になった気分でした。タバッキ(タバコ 屋)で切手を購入、絵葉書を自宅へ送りました。

メトロを利用しコロッセオへ、そこから遺跡 群が散在するフォロ・ロマーノを越えて『真実 の口』まで、乾燥した暑い日にもかかわらずて くてく歩きました。『真実の口』では少し緊張 しながら手を入れてみたり、トレヴィの泉で は、コインを後ろ向きに投げてローマへの再訪 を願いました。

旅の終わり頃、ローマからヴェネチィアへ列 車で行くことになりました。テルミニ駅で、イ タリア語と英語を駆使しながら何とかチケット を手に入れ、発着アナウンスのない構内で、や っとこさ列車に乗り込みました。ヴェネチィア のサンタルチア駅に到着、そこからはヴァボレ ット(水上乗り合いバス)に乗り換えました。 運河を渡るゴンドラの漕手は黒い横縞の上着を 着け、カンツオーネを歌いながら櫂を漕いでい ました。ヴェネチィアは中世の雰囲気漂う街 で、縦横無尽な運河と細い道が特徴的、ガラス 製品や仮面のお店などが軒を並べていました。 暗闇の中、近道を試みた友人が運河に落ちかけ るハプニングもありましたが、無事でした。小 雨降る寒い夜で、リストランテ外での待ち時間 にはワインが1 杯ずつ振舞われ、暖かい店内で は、海鮮料理を食べながら観光客同士で会話を 楽しみました。運河に面した1 つ星のプチホテ ルは、ベッドが2 台やっと入るような狭い部屋 で、浴室へ入るにはベッドと壁の間を体を細め て通る状態、その扉は1 回開けただけで外れま した。帰りは、2 人が別々のヴァボレットに乗 ってしまい、心細い思いをしました。列車の途 中ではチケットのダブルブッキングが判明、そ の後はずーっと立ったまま、足が棒になった状 態でローマへ戻りました。

本屋や空港でイタリアの雑誌を購入、それを お世話になったバレリアさんへのお土産とし、 無事帰路に着きました。

ラテン的感性の国イタリア。3,000 年もの歴史 を刻む永遠の都ローマは、古代の遺跡と現代の 人々が同居している不思議な街でした。この旅では、自由でスリル満点の楽しい時間を過ごし ました。機会があればもう一度、今度はお互い の家族を伴ってイタリアを訪れたいと思います。