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第40回米国腎臓学会(American Society of Nephrology
40th Annual Meeting and Scientific Exposition)に参加して

桑江紀子

豊見城中央病院腎臓内科
桑江 紀子

サンフランシスコMoscone Center におい て、2007 年10 月31 日〜 11 月5 日の日程で ASN in 2008 が開催された。10 月31 日から 11 月1 日の2 日間はCME, 〈Postgraduate Education Course〉が、ついで11 月2 日から 5 日までの4 日間は〈Scientific Exposition〉 が行われた。

CME のための2 日間、いくつかのテーマの うち、筆者は〈Maintenance Dialysis: Practical Aspects, and Case-Based Workshops〉を選択した。早朝7 時から午後5 時半まで、間にコーヒータイムを挟みつつ、20 代の若者からシルバーグレイの50、60 代と思 しき人まで混じったroom で密度の濃い講義が 行われる。2cm ほどの厚さのノート(左ページ は講義のスライド、右ページは書き込み用のス ペースのある)を手渡され、講義中にメモを取 っていく。31 日には先日10 月25 日に来沖し たHarvard のDr. Ajay Singh の〈Anemia, Iron, and Erythropoietin〉の講義もあった。 フロアーからは率直かつ活発な意見が出され、 自由に議論が交わされる。日本人は筆者のみで あったようで、珍しさも手伝ってか、隣の席の インド系の人が〈Dr.黒川清を知っているか〉 と尋ねたりする。

11 月2 日Scientific Exposition 初日、チャ イナタウンの門前のTriton Hotel を出、 Market Street に向かう早朝7 時半。街々の建 物はかすみ、道には冷気が立ち込めている。思 わずコートの襟を立て、〈霧のサンフランシス コ〉を、あらためて実感する。途中ターバンを 巻いた人や中国人と思しきグループ、アクセン トの強い英語を話しているヨーロッパ系らしき 人々と一緒になったが、肩にかけたASN のマ ークのついた大振りのブルーのバックのそれ で、参加者なのだとわかる。

徒歩約10 分、4th Street の会場に到着。大 会場に入ると、埋め尽くす多国籍の人々の頭の 向こうにやっと壇上の会長が見える。いくつか のスクリーンに映し出された会長のD r . William は今回のASN 開催に尽力した人々へ の謝意を述べ、現在の医療保険制度、NIH の研 究基金等について言及した。MIH の研究基金 1 0 億ドルへと達しているという。つづく Award, State of Art Lecture ではイタリア 人、Brenner の弟子、Mario Negri Institute for Phamacological Research Center のDr. Giuseppe Remuzzi が紹介された。スクリーン に妻、家族の写真も登場、彼の履歴、業績及び 研究課題が披露された。25 年以上、米国の visiting doctor であり、かつ、腎学会の著名な メンバーであるGiuseppe 氏の、New England Journal of Medicine のような医学雑誌の著者、 もしくは共著者である論文の数は880 以上にも のぼる。それに続き、Massachusetts General Hospital のDr. David Altshuler が2 型糖尿病 の遺伝子に関する講演を行った。

ランチョンセミナーを終了、午後は主会場及 び、徒歩2 分ほどのところにあるMoscone Center East にてポスターセッション、セミナ ーが行われる。Amgen, Genzyme, Baxter, Astellas, Abbott 等、製薬会社の立ち並ぶブ ースの出店が非常に個性的でアメリカ人の発想 のユニークさを感じさせる。とりわけ、Amgen のブースは魅力的であった。ビニール製の色彩 も鮮やかなerythorocyte やら、幹細胞、内皮細胞やらが、天井よりぶら下がり、血管の内部 を参加者がツアー体験する、というものであ る。各企業の展示場所をぬけてポスター展示前 に着くと、日本の学会とは異なり(数が膨大な ゆえであろう)プレゼンテーションの時間は10 時から12 時までの2 時間、各発表者はポスタ ーの前で待ち、質問に答えるという形式であ る。発表者が不在のポスター前では当事者抜き で議論がなされているのも見かける。(その間 にlecture、その他へ参加している。)日本から は大学病院の研究発表が多く、一般病院からは 稀であった。民間病院からの発表者と、臨床そ の他日常業務に追われ、キチンとした研究を組 むことが困難であることに、集積したデーター の処理が稚拙であり、発表までこぎつけるのは 大変であるとのことを話す。香港からの参加者 の一人は、製薬会社からの資金提供で研究を組 み、ASN に参加していると、語っていた。資 金と時間の不足は一般病院に勤務する者の共通 の悩みである。

その後セミナー、講演のあとはマリオットホ テルでのdinner 講演がつづく、という風に数 日、学会が継続する。11 月3、4 日のState of Art lecture もStanford 大の2006 年度の Novel 賞受賞者Roger Kornberg の“Beyond Genes: The Molecular Basis of Eukaryotic Transcription”、腎臓生理学における第一人者 であり、vacuolar ATPase を発見、今回、 Homer W. Simith Award を受賞したDr. Qais Al-Awqati の講演等、盛りだくさんであった。

今回のアメリカ腎臓学会のテーマは多岐にわ たるが、40 周年記念学会では、時代を反映し てか、腎疾患のGenome 遺伝子的解析、とりわ け、糖尿病性腎症の遺伝的変異、stem cell に 関する研究、PKD(多のう胞腎)に関する研 究、RAS 系及びアルドステロン系に関する研 究等が焦点となっていたように思う。これまで 数回ASN に参加した筆者の経験では、例年1 万人程度の人が集まるが、今回は40 周年とい うこともあり、米国内外から約1 万3,900 人を 越す人々が参加していた。その内訳は、国内よ り50 %、国外より50 %とのことであった。日 本人の姿も多くみられ、ポスターセッションだ けでも全体の演題約300 題中、10 %が日本人 の発表であった。日本の研究はきわだっていた が、英語による議論があまりうまくないがゆ え、聴衆へのアピールが今ひとつ、という印象 をうけることがあった。英語力及びプリゼンテ ーション能力に磨きをかけることも今後の課題 と思われた。

11 月5 日、帰国の朝、ホテルのすぐ後ろの China Town の門をくぐり、赤いケーブルカー が斜めに視野を横切る(傾斜のある坂なので) California Street 沿いに歩いていくと、まも なくGrace Cathedral に到りついた。そこか らサンフランシスコの街並みを眺め、心に刻ん でASN 学会をあとにした。

謝辞:派遣してくださった豊見城中央病院副院 長潮平芳樹先生、学会出席中、ご協力くださっ た腎臓内科メンバーの皆様に深く感謝申し上げ ます。

Harbor-UCLA のDr.Kalantar らと。

Harbor-UCLA のDr.Kalantar らと。