沖縄県医師会 > 沖縄県医師会の活動 > 医師会報 > 5月号

沖縄を離れたから、沖縄が見える。

池原康一

中部徳洲会病院外科
池原 康一

沖縄に帰ってきて6 年が過ぎる。実に早い。 振り返ると私がどれだけ成長したかと反省ばか りである。しかし、沖縄のために頑張りたい。 医療もそれ以外もという思いは益々強くなるば かりである。

私は大学卒業後、すぐに大学を、そして沖縄 を離れた。その当時はほとんどの医学部卒業生 は医局に属する時代であり、私は異端児であっ ただろう。家族・友人にも心配をかけたと思う。 まず私が医局に属さなかった理由は、ただ臨床 がしたかったとういうに過ぎない。そもそも医 師を目指すほとんどの人が、臨床医になりたい と思うのではないだろうか。しかし医局では、 あるいは大学では臨床以外の雑務が多く、臨床 がないがしろにされるのではないかと考えた。 もちろんそれを否定しているのではない。研究 や教育は重要であり、その上に臨床が成り立っ ていることを十分に知っているつもりである。

またなぜ県外で就職したかと言うと、沖縄を 離れ、厳しい環境で自分を鍛えたかったからで ある。なんくるないさーとのんびり屋の私は、 このまま沖縄でのほほんと暮らしていると、大 変な大人になると不安を持っていたのだ。内地 での研修は非常に厳しかったが、また勉強にも なった。それと内地での生活がいろいろな見 方・考え方を教えてくれた。これは私の人生・ 生活のなかで非常に役立っている。私の価値観 が広がったように思われる。

沖縄を離れて、沖縄を外から見ると沖縄の良 さが分かる。沖縄の自然、人柄、文化など、皆 に教えたくなる。沖縄に住んでいるときは当た り前だと思い、気にしていなかったことが、と ても素敵に思われるから不思議だ。しかし沖縄 の欠点も見えてくる。が、それも愛らしく思え るのである。欠点も慣れてしまえば欠点と思わ なくなってくる。

しかし、一旦外から見つめ直すとその欠点に 気付き、改善することもできるのである。沖縄 に基地があることも考え直す必要があるだろ う。きれいな海を埋め立てる事もそうだ。飲酒 運転が多いこと、朝まで酒飲む悪しき文化など 例を挙げればきりがない。しかし沖縄で暮らし ていたときは前に書いたことは当たり前だと思 っていた。私も若いころ飲酒運転したことがあ る(もう時効だと思うので白状するが)。変え るべきところは変えて、さらに良い沖縄にする べきである。医療面でもそうだと思う。沖縄に は「ゆいまーる」と言う言葉がある。しかし沖 縄に帰って驚いたことは、非常に沖縄の病院同 士の競争が激しいことだ。どの病院も自分の病 院が一番になろうと必死のように見える。私は 現在属する病院で乳癌の診療をさせていただい ている。その関係で沖縄の乳癌を診療される先 生方と交流を持つことができた。そこで学んだ ことは、自分の病院だけが乳癌診療をして、患 者を集め満足しているのではなく、沖縄の全て の乳癌患者さんを幸せにしたいとの思いであ る。そのため頻回に乳癌に関する勉強会があ り、私も招待を頂いている。乳癌について何も 分からなかった私にもいつも声をかけていただ き感謝している。

しかし沖縄の病院はお互いをライバル視し、 十分な協力体制がないように思える。お互いの 病院はライバルではなく、同志ではないだろう か。もちろん切磋琢磨して成長し、それを患者 に還元する必要はあるが。まず沖縄の患者を幸 せにしたい。日本の患者を幸せにしたい。そし て世界の病で苦しむ患者を幸せにしたい、と思 うのである。なんだか大きなことを言い過ぎて いる気もするが、それを願っている。私が属す る法人はすでに外国にも病院を建てた。今後も 多くの国で病院建設を計画中である(実際に進 行中である)。私自身が直接していることでは ないが、私が現在の病院で働いていることのいくらかは、それらの役に立っていると思うと感 慨深いものがある。沖縄から世界の医療に貢献 している気がする。

いきなり大きなことはできない。まず目の前 にある小さなことをしっかりすることから始ま ると思う。目の前にいる患者に対して真摯に診 療することから。そこから私の沖縄医療が始ま ると思う。毎日気を引き締めて頑張りたい。

私は沖縄が大好きだ。妻はないちゃーなので しばしば沖縄の文句をブツブツ言うが、一生懸 命にそれに反論している自分のことが、私は好 きである。小さいながらこの大好きな沖縄の医 療のために頑張りたい。

★リレー状況
−平成17 年以前掲載省略−
50.樋口大介先生(独立行政法人国立病院機構 沖縄病院)Vol. 42 No.3
51.古謝淳先生(南山病院)Vol. 42 No.5
52.城間清剛先生(城間クリニック)Vol. 42 No.7
53.野原正史先生(のはら元氣クリニック) Vol. 42 No.10
54.久貝忠男先生(沖縄県立南部医療センター・ こども医療センター)Vol. 42 No.12
55.米田恵寿先生(沖縄県立宮古病院) Vol. 43 No.3
56.仲地広美智先生(宜野湾記念病院) Vol. 43 No.6
57.与座一先生(ハートライフ病院)Vol. 43 No.9
58.勝連英雄先生(かつれん内科クリニック) Vol. 43 No.12
59.真栄田宗慶先生(アメカル耳鼻科クリニック) Vol. 44 No.3