首里城下町クリニック第一
田名 毅
平成20 年3 月9 日に日本医師会館にて開催 されましたシンポジウムに関してご報告致しま す。テーマは脱「格差社会」と医療のあり方 でした。
平成19 年度医療政策シンポジウム
日 時:平成20 年3 月9 日(日)13:00 〜17:10
場 所:日本医師会館 大講堂
テーマ:脱「格差社会」と医療のあり方次 第
総合司会:今村定臣(日本医師会常任理事)
開 会
主催挨拶 竹嶋康弘(日本医師会副会長)
基調講演 脱「格差社会」戦略と医療のあり方
神野直彦(東京大学大学院経済学研究科 教授)
講演T 医療のあり方−患者の立場から立花 隆(評論家)
U 格差社会と医療システム
田中 滋(慶應義塾大学大学院経営管理研究科教授)V 社会保障をめぐる政治の展望
山口二郎(北海道大学法学部教授)パネルディスカッション
脱「格差社会」と医療のあり方
司会:中川俊男(日本医師会常任理事)
パネリスト:神野直彦
立花 隆
田中 滋
山口二郎
竹嶋康弘閉会
挨 拶
まだ公務に復帰したばかりの唐澤日本医師会 会長に代わり竹嶋副会長がなさいました。救急 医療の問題がマスコミでも多く取り上げられ、 地域により医療格差が生じているが、これは政 府による医療費抑制政策によるところが大き い。現場の医療者の献身的な努力により何とか 現在の医療は支えられているが、政府もこれ以 上の医療費抑制は現場を追い込むということを ようやく理解できてきたようだ。今後も医師会 としては注意深く見守って行きたい。その意味 でも今回のシンポジウムの開催は意味があると 考える、と話されていました。
基調講演
図1
図1 は内閣府が調べた「社会意識に関する世 論調査」より、よい方向に向かっている分野 (上位6 項目)を示したものである。平成17 年までは第1 位だった医療。福祉が平成19 年に かけて急激に低下し、悪い報告に向かっている と感じている人が急激に増加していることがわ かる。
1.ラーゴムとオムソーリ
福祉国家であるスウェーデンにはいい言葉が 二つある。まずは、ラーゴム(lagom)である。 これは「ほどよい」という意味である。ほどよ くバランスをとるという意味であり、貧と富の 格差、公的と私的サービスの格差を小さくしよ うと解釈できる。次に、オムソーリ(omsorg) である。これは、医療などの社会サービスの基 本となる「悲しみを分かち合う」、気にかける ということを意味している。高齢者福祉がそう であるが、お互いにかばい合うということであ る。医療のみならず、教育もそうである。人が つらい思いをしているときに、それを他者が一 緒に共感し悲しむことによって、他者がその人 にとって必要な存在であることを認識できると いうことでもある。
2.9.11 と「小さな政府論」
9.11 というとアメリカで起こったテロのイメ ージが強いが、実はチリの民主的大統領であっ たサルバドール・アジェンデが殺された日であ り、その日は民主主義が否定された日として知 られている。現在の日本は格差と社会的病理の 拡大が問題になっています。私の恩師である鵜 沢先生はブッシュによるアメリカ政権、小泉政 権によりはびこった市場原理主義と決別すべき と唱えている。以前起こったオイルショックが これらの動きに影響を与え、市場原理主義を勢 いづけた。イギリス政府はその後、経済を優先 させ医療費を抑制し、生産性の高い企業はもう かったが、結局格差が拡大していった。
では「小さな政府」論とは何か?福祉国家と されるスウェーデンなどは税金などにより資本 の再分配を行い、悲しみのわかちあいを行って いった。それをせずに市場の流れにまかせ手を 離してしまったのが、いわゆる「小さな政府」 である。税金はとらないかわりに、責任もとら ないという考えである。この考え方を支えるの は、トリクル・ダウン理論であった。これは豊 かなもののおこぼれを貧しい人が拾っていき、 最終的には富は分配され、底辺の人々の生活も 支えられるという考えである。このトリクル・ ダウン理論は、人間の欲には限界があるという 考えが基本だった。ところが富が権力をもって しまうと結局富が人を動かそうとするので、ト リクル・ダウンしなくなり一人勝ちのようにな ってしまう。
3.ファウンテン理論と「再分配のパラドックス」
垂直的再分配よりも水平的再分配が重要とさ れる。これは、下から水が広がるようにすること が大切ということである。垂直的再分配とは、 例えば生活保護のようなものである。貧しい人 のみが補填されるという考えである。水平的再 分配とは豊かだろうと貧しかろうと病気になっ たら、等しく補填されるという考えである。これ が再分配のパラドックスなのである。再分配と いっても、その方法が大事なのである。
他の国は社会的扶助支出が低いと相対的貧困 率は低い(表1)。これは政府以外のほかのシス テムが社会を支えていることを意味している。 一方日本は社会的扶助システムが低い割には貧 困率が高い。もっと他のOECD 加盟国のよう に、医療をオムソーリして、ラーゴムしないと いけないと考える。医療、教育などの社会サー ビスは市場原理から離さないといけない。現在 は、生活保護をしながら対象者に医療費の支払いを強要している状態である。対価原則でやる のではなく、分かち合う等価原則であるべきで ある。
コミュニティーに埋め込む「医療」という考 え方が重要である。
4. 医療改革のアジェンダ
ラーゴムとオムソーリを大切にして、市場原 理から「分かち合い原理」への転換を。
講 演
(前置き)2007 年12 月に膀胱がんの手術を受 けた。今年の1〜2月には化学療法(BCG 療 法)を受けた。最初は何ともなかったが、最後 は発熱などの副作用がでて大変だった。そのた めに延び延びになっていた大腸ポリープを今月 切除予定。僕は全身生活習慣病のかたまりであ る。過去11 年、高血圧、脳梗塞、脳出血、大 腸ポリープなどで通院している上で今回さらに 膀胱がんの治療になった。自分の場合再発しや すいということも知っているので恐れている。 東大の永井先生が主治医で診てくれている。
(本論)自然科学研究機構 栗原敏(慈恵医大 学長)によるとこれまでは日本の医療は総合評 価で世界一の水準にあったが、大崩壊が始まろ うとしている。2000 年World Health report でも世界一の医療費の水準という評価であった が、2004 年の医師数はOECD 加盟国の中で27 位、国内総生産に占める医療費も22 位という 状況である。すべては吉村厚生省事務次官が書 いた医療費亡国論(参考図書1))から始まっ た。これにより医療費は圧縮しないといけない という流れができてしまった。今すでに日本の 医師は14 万人不足している。国策として医療 費圧縮の方向に進んでいった。医療崩壊など多 くの本が書かれるようになった。これらの本は 青戸病院の事故などを冷静に分析しながら、今 の医療のおかれている状況、危機を大変よく書 いている(参考図書2))。
現在の日本の医療は問題が山積である。具体 的に挙げると救急患者のたらいまわし、医療事 故頻発、病院崩壊、医局崩壊などである。
大学病院革命(参考図書3))という本の中 で、黒川清先生は新聞の取り上げた医療事故 の件数が1999 年から激増していることを引き 合いに出し、医療レベルが落ちていると訴え、 その後研修医制度が改革されていった。これは 正しいのであろうか?医療崩壊などを読むと、 これは実際的ではではないと感じる。マスコミ に代表される世間一般のバイアスがかかった見 方で政策を決めていくのはよくない。
研修医制度がもたらした影響・・・これによ り日本の医療に何が起こるかというシミュレー ションが十分にできていなかった。
医療事故は一定の確率で起こることであり、 司法の介入が本当にいいのか考える必要があ る。お産などリスクを問われる分野に身をおく 医師が減っていることはあっていいことなの か?東京女子医大も医療事故を経験して、内部 からADR(裁判にかわる紛争解決)を考える 動きを起こすようになった。
本 明香ちゃんの心臓(参考図書4))はよく 書いてある。これらを考えると厚労省の第二次 思案には問題がある。
最近の中央公論(参考図書5))に研修医が匿 名の対談で「患者のみなさん、まずはあきらめ てください」で以下のような問題提起をしてい る。「患者さんを、距離で殺すか、価格で殺す か、待ち時間で殺すか・・・・」
このままでいくと日本は医療破綻国家になっ てしまう。
現在進行中なのは、「土建家政治亡国」であ って「医療費亡国」ではない
日本は、種々の国際機関から「世界最高水準の 成果をあげ続けてきた医療システムをもつ数ヶ国 の一つ」の評価を得ていながら、二つの環境変化 のため、医療システムの維持が難しくなってきて いる。その第一は、小泉内閣以来、加速化された わが国社会の格差拡大傾向である。第二は、「医 療技術の急速な進歩と患者・医師の意識および行 動の著しい変化の下での資源投入不足」という誤 った政策選択である。ゆえに、医療をめぐり、多 くの問題点が一挙に顕在化してしまった。
こうした状況をふまえると、「医療・介護な どにかかわる社会保障の拡大を抑制すると、 税・社会保障負担率が増加せずに、国民の手元 に残る金額を確保できる。ゆえに小さな政府の 実現は好ましい」などの単純化されたロジック がもたらした格差拡大を放置してはならないこ とが分かる。
いわゆる新古典派とされる、市場原理を行き 渡らせようという人びとが、小泉改革を先導し た竹中平蔵元総務大臣などである。
格差社会:小さな政府が強くなると、一般の 人々の負担がふえ、特に貧しい方々の負担が増 加する。特定者による集中負担を招く。例えば 県民所得は、東京は沖縄の2倍以上多い。
有効求人倍率でみると沖縄は愛知の4 分の1、 高卒の就職になるともっと差が顕著になる。
豊かになっていくことは否定しないが、下が下 に向かって広がっているのが日本の現状。貧困水 準世帯が多いのが日本の現状。日本は階層の固定 化(生まれによる差)への警告がなされている。 健全な医療が成り立つためには、格差ある社会は 好ましくない。
イギリスのサッチャー政権と小泉政権が誤っ たのは、医療と教育に市場主義を持ち込んだこ とである。自国で医療をまかなえないイギリス は患者を近隣諸国に輸出までしてしまって大変 不評をかった。
実際には高齢者の医療費は減っている!(表2、3)。医師数、看護師数が増加しているにも かかわらず医療費は削減されている。
アメリカは低負担、低福祉だが、互助の精神 があるので、国としてもっている状態。地域社 会の助け合い、寄付が多い。医療への寄付が多 い。日本は低負担低福祉だが、カバーするもの がない・・・(表4)。
表2
表3
表4
わが国の医療人は、実現可能な改革案を示し、「皆保険制度を堅持しながら、誰もが安心 できる安全で質の高い医療が受けられる提供体 制を進化・向上させる」重大な責務を担ってい るのである。
小泉構造改革のインチキに国民も気づきはじ めた。
小泉構造改革はトリクル・ダウン(豊かなも ののおこぼれを貧しい人が拾っていき、最終的 には富は分配され、底辺の人々の生活も支えら れるという考え)していないことを国民は気づ いている。
北海道に住む3,083 人を対象にアンケート調査を行った。(表5)
表5
・小泉改革による日本の現状を3 割の人は楽観 し、7割の人は不安視している。
・自民党支持者は楽観が多い。
・年金、医療に不安。
・北欧型の公的保障を望んでいる人が多い、公 的保障の強化を国民は望んでいる。
昨年の参議院選挙で生活第一という訴えをし て、民主党が大勝したことの意味を考えるべき である。国民は医療、教育、年金をちゃんとし て欲しいと考えている。
では、何故、小泉は受け入れられてきたのか?
破壊した平等システムは何か?・・・グロー バル資本主義が生み出す大きな不平等。
日本、欧州はこれまではリスクを社会化して きた。
日本は普遍的政策が弱かった。伝統的に自民 党は分配的政策(裁量的)が中心だった。地方 議員の陳情に基づく政策決定など無駄な投資を してきた。政治が密室化したことに国民が無力 化した。小泉改革はこれらを壊したが、聞く耳 を持たずに一方的に政策を決定していく。擬似 的な参加感覚があるので認めてしまった。こう して行われたリスクの個人化がかえって貧困層 に負担をかけるようになった。(図2)
図2 政策分類と政治勢力の位置付け
政策決定システムのひずみ
1)根拠のない命題が政策形成における自明の全 体にされる
=国民負担率の神話 国民負担率が50 %を 超えたら経済はだめになる
2)医療費亡国論の嘘 医療費増加率をGDP 成 長率を超えたら経済はだめになるというデマ/p>
3)「小さな政府」・・・自由という錯覚、実際は 税金は減っても介護施設で払うお金が増える/p>
4)財務省主導と「プロクラステスのベット」症 候群
リハビリの期間を区切ってそれをはみ出し た部分は切り捨てるという考え方
これからの社会保障政策論議をどう進める か?
リスクを社会化していくためのインフラの 整備が急務
構造改革の総括、リスクの社会化をどう実 現するか?
リスク中心路線からの脱却
お金で買えるものと買えないものをはっき り識別する
自己責任領域と共同・相互扶助領域を識別 する
パネルディスカッション
神野先生:バンリは、市場が巻き起こす矛盾と 市場がカバーできないことを守ることの重要性 をいっている。国民は分かち合いのない社会を 拒否しはじめている。子沢山、長寿化が人口増 加にはいいが、今の医療政策では両方とも「不 要」と言っているようにみえる。
立花先生:日本の医療制度のよさを痛感してい る。フリーの人間の生きにくさを感じている。やすい、うまい、早い(チェーン店の宣伝文句 であるが)というクオリティーを維持できるよ うな医療制度を是非、維持して欲しい。医療立 国論(参考図書6))はいい本だ。医療を保障す ることは国が豊かになるということを示してい る(参考図書7))
神野先生:消費税を上げる前に個人所得税など いじれるところはある。ちいさな政府を目指す のは限界。(図3)
図3
田中先生:ビスマルクは、社会保障は暴動を起 こさないための仕組み。市場経済論者はこれを 無視しようとする。社会保障を所得比例に払う のは理屈がある。頭割り保険料になっていない 現状(国保、介護保険など)に、社会保険をつ ぎこむことを考える必要がある。事業主負担の 比率をあげることも考えるべきである。
山口先生:税制改革の議論は難しい部分がある ので、政治ではまだどうなるか不透明。まず消 費税増税ありきは待ってほしい。グローバル企 業の話ばかり聞かないで欲しい。競争力が少な くなるので、負担を増やさないでなどというの は通らない。累進性を戻して欲しい(お金のあ る人に負担を増やして欲しい)。消費税増税は その上で考えて欲しい。但し、その際は、食料 費は別にするなど考えて欲しい。
竹嶋副会長: 1990 年から所得税、法人税を減 らしたのは日本とスウェーデンのみ。
神野先生:社会保障を増やすなら消費税も増や してもいいが・・・。
山口先生:生活第一ということを実現するな ら、痛みも伴いながら税金で手当てをあげるこ とも考えないといけない。
神野先生:アメリカは予算で半年議論する、日 本は密室で予算を議論するのがおかしい
立花先生:自分自身健康なときには医療のあり 方を考える機会がなかった・・・。日本は財務 省が密室で議論して予算を決めてしまう。マス コミ・ジャーナリズムのパワーが本当の社会の 現状を伝える能力が弱っている。財務省は赤字 をどう減らすかということから議論をはじめる。
田中先生:外国債は破綻しない。国内そして国 民の経済は少なくとも破綻することはない。借 金と赤字の意味が違う。いろいろなものを無視 して間をとばして、社会資本に使うことを亡国 というのは明らかにおかしい。
山口先生:政権の再編はありうる。民主党の中 にも新自由主義者はいるので、結集はありえる こと。いまさら小泉氏の待望論も確かにある が、やらせればいい。アメリカの新自由主義が 崩壊しているので、今度は日本国民も考えるだ ろう。医師会は政策集団をしっかり作って、社 会保障のために働ける人をしっかり見極めてい くことが大切。
立花先生:自分はまだ楽観できないと思う。ま た、ブームのように市場主義、新自由主義を唱 える人が国民うけする可能性もある。
(感想記)
今回のシンポジウムは、現在の日本における 格差社会を作り上げた政策がどのように医療政 策に影響を与えているかを理解し、ひいては 我々医療現場への影響そして国民が望んでいる 医療がどういうものなのか(年金制度、医療崩 壊など現行の社会保障のあり方に危機感をもっ ている)、またそれを踏まえた上で今後の日本 の医療政策をどのようにしていくべきか(市場 原理を医療に適用するのではなく、リスクの社 会化を考えた社会保障)ということを考える貴 重な機会となった。
日本人が小泉元首相を盲目的に支持して結果 がこのようにも大きな影響を残し、その側近に より誘導された間違った医療費抑制政策がもたらした代償の大きさは計り知れないと感じた。 たとえば研修医制度は「一人一人の十分な研修」 という意味では理想の形かもしれないがそれが 地域医療にどのような影響を与えるかという事 に関してのシミュレーションが足りなかったとい うのは、否めないのが今の現状と考える。
立花氏以外の講師の先生方(経済学、政治学 がご専門)は医師会の中でも各種委員会に参加 されており会員がこれからも指導を仰ぎ意見を 聞く機会が得られると思うが、立花氏の話は医 師会の招聘にはじめて応じて講演されたという 経緯があり興味深かった。自身の医療体験から 医師と接するようになり日本の医療のあり方を 真剣に考えるようになったとのことであった が、医師会の活動についても「いいことやって いるじゃないか」と最近になってはじめて知っ たとのことであった。立花氏でもこのような状 況であることを考えると、現在のジャーナリズ ムの限界(本当に伝えるべきものを読み取る能 力が現在のマスコミには欠如していると立花氏 も語っていた)そしてジャーナリズムとどう関 わっていくかということも考えさせられるが、 それ以上に政治がどう変化しても医師会の内部 に常に政策を研究して政府が医療政策を提案す るときはそれがもたらす利益、不利益をよく検 討して、譲れないものは譲らないというような 筋が通った政策論争ができるようなシステム作 り、そしてそのために会員一人一人のモチベー ションを上げていく必要性を感じた。政府、厚 労省にまかせきるのではなく、身近な患者さん をいかに守っていくかを会員一人一人が真剣に 考えて意見を交換し、必要とあれば傍観者に徹 するのではなく行動を起こす時代になっている ということを痛感させて頂いたシンポジウムで あった。
参考図書
1)吉村仁:医療費亡国論(1983 年社会保険旬報)
2)中央公論:医療崩壊の行方 吉本隆明×中沢新一対談
(2008 年1 月号中央公論新社)
3)大学病院革命:黒川清 著(2007 年日経BP 社)
4)明香ちゃんの心臓:鈴木敦秋 著(2007 年講談社)
5)中央公論:医療崩壊の行方(2008 年1 月号中央公論新社)
6)医療立国論:木村昭人 著(2007 年日刊工業新聞社)
7)世界(月刊誌):三つのドグマを打ち破ろう―均衡財政・小さな政府・消費税―神野直彦
(2008 年4 月号岩波書店)
印象記
理事 稲田 隆司
リスクの社会化か個人化か
本シンポジウムではっきりした事は、今後この国が市場原理主義、新自由主義に基づき弱肉強 食社会へと突入するのか(リスクの個人化)、富の再配分を通して「悲しみを分かち合い」、互助 し、生きがいの持てる共同体を造り上げていくのか(リスクの社会化)の分岐点にあるという現 状認識である。
この対立軸が自民、民主両党内にも存在し、このねじれ現象が政治のわかりにくさを生み、今 後の政界再編への動因となるであろうとの山口教授の論は説得力があった。これは、小泉内閣時 代の日医の戸惑いをある部分説明する。国民皆保険の堅持、平等な医療を掲げる日医と、アメリ カ型の弱肉強食、不平等な医療、市場原理主義をふりかざし、医療への株式会社の参入、混合診 療を迫る小泉「改革」とは、依って立つ思想、理念が異なるのである。
政権与党を支持するとの日医のスタンスが、与党内のねじれによってさらにねじあげられた状 況であったと考える。
本シンポジウムは、人々の健康と共生を目指す日医の堂々たるアピールであった。
今後、そこに賛同する政治こそ支持するべきであろう。
「乱世」の感を持ち帰路についた。