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感染症危機管理対策協議会

理事 金城 忠雄

去る3 月5 日(水)、日本医師会館において 標記協議会が開催されたので、その概要につい て報告する。

開 会

定刻となり、飯沼雅朗日本医師会常任理事よ り開会が宣言された。

挨 拶

唐澤人日本医師会長の代読で岩砂和雄副会 長より、概ね次のとおり挨拶があった。

都道府県医師会感染症担当の先生方には、日 頃の地域における感染症対策にご尽力いただき 心から感謝いたします。

また、本日は日本医師会の感染症危機管理対 策委員会の先生方にもご出席いただいておりま すことに心から感謝申し上げます。

厚生労働省からは、ご多忙のところ講師とし て、三宅智結核感染症課長、並びに正林督章肝 炎対策推進室長にご出席頂き誠にありがとうご ざいます。

昨年は大学生を中心とする若者の間で大規模 な麻しんの流行がみられ、大学が休校となるな ど社会問題となりました。十分な免疫を持たな い、あるいは免疫力の弱い若者が増えてきてい る事が現行の原因であり改めて予防接種の重要 性を国民の健康を守る立場から訴えていかなけ ればならないと考えております。

本日は、まず、「感染症対策をめぐる最近の 動向について」飯沼常任理事より報告をいたし ます。その後、「感染症法の改正、麻しん・風 しん対策」について三宅智厚生労働省健康局結 核感染症課長より、「新しい肝炎総合対策につ いて」は正林督章厚生労働省健康局疾病対策課 肝炎対策推進室長からご報告を頂くことになっ ております。

日本医師会におきましては、平成9 年に感染 症危機管理対策室を設置して以来迅速な情報提供を心がけています。国民の生命・健康を守る ため、新型インフルエンザの発生等に備え、さ らに万全の体制を期す必要があると考えている ところであり、そのためにもご出席の先生方に おかれましては本日のご報告を踏まえ忌憚のな い協議会の進行をご期待申し上げる次第であり ます。

改めまして、本対策協議会の成果を踏まえ、 各地域において感染症対策が混乱なく円滑に実 施されますよう今後とも先生方のご協力をよろ しくお願いいたします。

報 告

1.感染症対策をめぐる最近の動向について

飯沼雅朗日本医師会常任理事より、以下のと おり報告があった。

(1)子ども予防接種週間について

「子ども予防接種週間」が始まって5 年にな る。日本医師会、日本小児科医会、厚生労働省 が主体となり、麻しん予防接種を接種すべき期 間に接種できなかった子ども達のために、3 月1 日から7 日までの一週間、全国で実施している。

特に麻しんに関しては「第2 期」(就学前に2 回目を接種する事)が法律で定められて2 年目 になる。昨今の麻しんの流行を考えれば是非と も接種していただきたい。

日本医師会では昨年度より、都道府県医師会 に対し、住民に対する啓発、講習会等の実施の ために30 万円の補助をしている。昨年度は7 万5 千人の接種が行われ、全国的に非常に評価 が高い事業の一つとなっている。今年度の実施 医療機関は、12,000 件以上となっており、本 年度もたくさんの子ども達が接種することを期 待している。

(2)予防接種法施行規則の改正について

予防接種法の改正にともない、長年厚生労働 省に要望していた非常に画期的な事がやってい ただけるようになったので報告する。

・「百日せき」に対してDPT ワクチンを接種 していいかどうかの問題があったが、エビデンスが揃い接種が認められ、間もなく実施さ れる。

・「はしかの流行に関して」、「第3 期(13 歳 (中1)時)」「第4 期(18 歳(高3)時)」の 予防接種が認められ、間もなく実施される。

・最後に「DPT ワクチンの接種期間は3 週〜 8 週」、「日本脳炎は1 週〜 4 週」と期間が決め られ、期間を過ぎると公費が使えなかった事 が、医師の判断で医学的な理由があれば、一 日〜二日過ぎても受けられることになった。

これらが改正されたことにより、「予防接種」 というものがやりやすく、わかりやすくなった と思う。

(3)市民公開講座について

昨年5 月に市民公開講座「どう防ぐ新型イン フルエンザ」を開催し、NHK 教育テレビで5 月27 日(日)18:00 〜 19 : 00 に放映したとこ ろ反響も高く、DVD を各都道府県医師会に配 布している。

(4)肝炎対策について

昨年の6 月頃から川崎二郎前々厚生労働大臣 が中心になられて、新しい肝炎対策のなかで、 「肝炎対策推進室」とういうものができた。

肝炎対策というのは主体があくまでも都道府 県であり、各々の都道府県の行政と連携を図り ながら解決していく問題である。

2.感染症をめぐる最近の動向
〜感染症法の改正、麻しん・風しん対策〜について

三宅智厚生労働省健康局結核感染症課長よ り、今回の新型インフルエンザ対策に対する感 染症法の改正、麻しん・風しん対策について次 のとおり報告があった。

○新型インフルエンザ対策に対する感染症法の 改正

まず、新型インフルエンザとは、従来ヒトか らヒトへの感染が認められていなかったインフ ルエンザウイルスが遺伝子変異により、ヒトからヒトへ容易にかつ持続的に感染するようにな ったものをいう。

感染症の予防及び感染症の患者に対する医療 に関する法律及び検疫法の一部を改正する法律 案の概要について、鳥インフルエンザ(H5N1) を感染症法上二類感染症に位置づけ、入院措置 等の法的根拠を整備する。また、新型インフル エンザについては、感染症法及び検疫法に新た な感染症類型として位置づけ、検疫措置、入院 措置等の規定を整備し、感染したおそれのある 者に対する健康状態の報告要請や、外出自粛の 要請、規定の早設停留先施設に医療機関以外の 施設を追加する等、まん延防止策を拡充する。

新型インフルエンザ対策については、現在、 フェーズ4 以降のガイドラインを策定中であ り、詳細は以下のとおりとなっている。

1)早期対応戦略ガイドライン【国内発生初期に おける対応(予防投与等)】

2)検疫ガイドライン(海外からの水際対策)

3)個人及び一般家庭等におけるガイドライン (個人・一般家庭における対応)

4)医療体制に関するガイドライン(国内発生時 の医療体制)

5)ワクチン・抗ウイルス薬ガイドライン(薬剤 の優先投与、供給体制) 等

現在の抗インフルエンザウイルス薬の備蓄に ついては、タミフルを中心に、平成19 年度ま でに治療用を約2,500 万人分備蓄することを進 めている。さらに、予防投与用も300 万人分備 蓄予定である。

ワクチンの開発、生産については、プレパン デミックワクチンを1,000 万人分事前備蓄をし ている。これは、最低限の社会機能維持用と医 療従事者用である。

また、インフルエンザ(H5N1)については、 指定感染症・検疫感染症として定め、フェーズ 4 に入ってもすぐに措置が取れる状態に引き上 げている。

さらに、新型インフルエンザ対応訓練や国際協力(特にアジア諸国でのインフルエンザ対 策)等を行っている。

課題は、患者が多数発生した場合の医療施設 の病床数である。現状の行動計画の中では、感 染症指定医療機関の病床や結核病床の陰圧病床 を合わせた全国約5,000 床で対応するとあるが、 緊急時には、大型施設(体育館等)を利用する などの対応を考えていかなければならない。

タミフルの副作用の問題に関しては、インフ ルエンザでも同じ症状が出る場合がある。一昨 年にインフルエンザ患者の中でタミフルを服用 した患者と服用しなかった患者の比較研究を行 ったが有意差は見られず、精神症状がタミフル の影響とは言えないという結果が出ている。し かし、これからも副作用に関しての情報収集は 引き続き行っていく。

また、ワクチンができるまでは半年以上かか ることが想定されるため、それまでの間はタミフ ルが大きな支えとなる。WHO としてもタミフル を推奨しており、アメリカやヨーロッパなどの諸 外国でもタミフルを備蓄している状況であるこ とから、我々の方針としてもタミフルを備蓄す るという状況は変えずに取り組んでいく。

感染拡大防止策としては、1)家庭・施設内予 防投薬、2)接種者予防投薬、3)地域内予防投 薬、4)薬剤以外の感染拡大防止策等を行うこと としている。

フェーズ4 になった場合には、検疫所におい ては国外から到着した飛行機等に検疫官が入り 検査を行い、医療機関においては、発熱外来を 設置し対応する。

○麻しん・風しん対策

昨年の春の成人の麻しん流行をうけて、平成 20 年4 月1 日から施行される予防接種法施行令 の一部を改正として、平成20 年4 月1 日から 平成25 年3 月31 日までの5 年間、麻しん・風 しんの定期予防接種対象が現行に加え、「第3 期(13 歳(中1 相当)時)」「第4 期(18 歳 (高3 相当)時)」まで拡大。この期間、集中的 に対策を講じることによって一挙に麻しんを排除しその状態を維持することが目標である。ま た、麻しんに関する特定感染症に基づいた予防 指針の中で大きく変わった点として、今までの 定点報告から全数報告になり、全ての医療機関 は、患者全員の発生状況を可能な限り24 時間 以内に保健所に報告。(土日祝日など医療機関 が休みの場合は守衛へ報告)その後、診断検査 を7 日以内に保健所に報告することにより地 域、県、国、レベルでの対策が早急にできるよ うになるので是非お願いしたい。

3.新しい肝炎総合対策について

正林督章厚生労働省健康局疾患対策課肝炎 対策推進室長より、新しい肝炎総合対策につい て次のとおり報告があった。

国内最大級の感染症である肝炎について、肝 がんへの進行予防、肝炎治療の効果的推進のた め、経済的負担軽減等により現在5 万人である インターフェロン治療の受療者の倍増を目指 す。そのための総合的な施策を展開する。

施策の方向性として、肝がんへの進行予防、 肝炎対策の効果的促進(経済的負担軽減)、検 査・治療・普及・研究をより一層総合的に推 進、検査未受診者の解消、肝炎医療の均てん 化、正しい知識の普及啓発などがあげられる。

来年度に向けて一番大きな変化として、「肝 炎対策関連予算案」が平成19 年度の75 億円か ら破格の大幅増207 億円である。理由としてイ ンターフェロン治療に関する医療費の助成の創 設などがあげられる。インターフェロン治療の 実施主体は都道府県で対象者はB 型及びC 型 肝炎の患者である。

検査や治療体制の整備、正しい知識の普及、 研究の促進、相談事業など総合的な対策の強化 が必要である。

協 議

Q:<京都府医師会> ※厚生労働省への要望

・プレパンデミックワクチン、タミフルは、全国民分備蓄してほしい。

・不幸にも新型インフルエンザが発生した際にも、迅速に全国民分のワクチン製造をお 願いしたい。

A :三宅課長

タミフルについて、現在のところ備蓄は 2,500 万人分あり、内訳として国に1,050 万 人分、各都道府県に1,050 万人分、卸に400 万人分あります。これで足りるのか、足りな いのかはまだわからない。タミフルでいいの か、全く別の薬がいいのかを検討していく。

Q :<兵庫県医師会>

疑似症定点拡大設定をめぐる疑義について

新型インフルエンザ等を想定した疑似症定 点の依頼が各医師会になされているが、あい まいな形で綱だけを広げるやり方では、接点 をもつ前後から始まる各フェーズ毎の二次感 染拡大予防対策等との明確な連携がなされて いない。報告だけをオンラインで済ませば終 わり、というものではないことをしっかり追 及すべきだ。

A :三宅課長、正林室長

「疑い症候群サーベイランス」を行うこと で進めている。新型インフルエンザやバイオ テロにも対応できるように想定している。

昨年の3 月に新型インフルエンザのガイド ラインを策定した。その中でいち早く患者を 見つけなければならない。

飯沼常任理事

徳島県では、新型インフルエンザを想定し た訓練が行われたそうですがご説明をお願い します。

<徳島県医師会>

徳島県では、昨年に国、県、共催で関係 19 省庁で構成される鳥インフルエンザに関す る関係省庁対策会議を行った。

フェーズ4 時の訓練を行い「新型インフル エンザ」というものは、同時的かつ多発的に 発生するため、国、隣県からの応援は期待で きないと想定されるためこのような訓練を自 主的に行った。他の県もこれから地域を巻き込んだ協議を考えていただきたい。

<岩手県医師会>

徳島県医師会の県レベルでの訓練の前に、 まず、机上レベルからスタートし、市町村、 県、といったような訓練のほうが連絡がスム ーズじゃないかと思われる。

Q :<福井県医師会>

プレパンデミックワクチンの医療従事者へ の接種は?

A :三宅課長

ライフライン従事者や医療従事者を中心に 接種するように考えている。

【日本医師会】飯沼常任理事

日本医師会としては、予算の確保(マス ク、ワクチンの運搬体制、ワクチンの備蓄 等)、ガイドラインの作成、市民公開講座な どの啓発運動等の事業を行う予定。

Q :<奈良県医師会>

麻しんワクチンを18 歳で接種することに関 し、就労しているものなど学生以外の対象者 はどのようにして補足して、接種させるのか。

A :三宅課長

MR ワクチン未接種者には、これから色々 キャンペーンなどを考えて呼びかけをしてい き、文部科学省に入学前の健康診断などで区 別をし接種を促す。

Q :<神奈川県医師会>

対象者は1994 年以前フィブリノゲン製剤 の被投与者、1992 年以前に輸血、凝固因子、 大きな手術、血液透析、臓器移植、入れ墨、 ボディピアスをした方、過去に肝機能異常が あるにもかかわらず精査を受けていない方な どと新聞広告がされているが対象者があまり に多いのでは?

A :正林室長

肝炎というものは、経路が色々ある。感染 経路によって区別するのは不可能。そういう ことよりもひとりでも多く検査を受けていた だく考えをもっている。

総 括

感染症対策をはじめとする公衆衛生事業は国 民の生命・健康を守るために全力で取り組んで いかなければならない問題の一つであると認識 しております。

また、新型インフルエンザ、麻しん・風しん は決して侮ることの出来ない疾患であり、医師 会、行政等、関係者が一丸となった取り組みが 必要ではないかと思われます。また、情報の共 有と迅速な対応は必須であり、都道府県医師 会、郡市区医師会、日本医師会との双方との連 携が重要であります。感染症対策全般につきま しても問題等生ずることがあれば、厚生労働省 と協議を行う所存でありますので、ご遠慮なく 感染症危機管理対策室までお申出をしていただ きたいと思っております。

印象記

金城忠雄

理事 金城 忠雄

日本医師会館における早朝日帰りのせわしい会議である。

感染法の省令改正について

一旦決めた法律や制度を変更するには、かなりのエネルギーが要るようだ。
日頃の医師会員の意見やメールから判断すると、厚労省は医師会の抵抗勢力のようである。
長年厚労省に要望していたことが省令改正により、次の事がやっと実現できたとの報告があった。

・「百日せき」にたいしてDPT ワクチンの接種可能となったこと。

・昨年平成19 年の「高校修学旅行生や成人のはしか流行」により諸外国から日本は「はしか輸 出国」と非難もあり、平成20 年4 月1 日から5 年間、「第3 期、第4 期はしかキャッチアップキ ャンペーン」が実施されることになった。

・これまでの「DPT ワクチンの接種期間」を過ぎたら公費扱い不可であったが、医師の判断で1 〜 2 日過ぎても公費扱いできることになったこと。

これらの改正は助産師看護師問題に匹敵するほど画期的な改正であると説明された。

新しい肝炎総合対策について

今般のフィブリノーゲン血液製剤問題を契機にして肝炎一般に対して関心が高まり検査受診希 望者の増加が見こまれる。厚労省としては、これまで保健所で無料でしていたのを、一般医療機 関でも行えるようにした。しかし沖縄では、まだ実施していないようである。

B 型肝炎約120 万人、C 型肝炎は2 倍の約240 万人を予想されると。肝炎を放置すると肝硬変 や肝臓がんと重篤な病態を招くことから、厚労省は国内最大の感染症と位置づけて、新しく「肝 炎対策推進室」を立ち上げた。

各県に「肝疾患診療連携拠点病院」を指定して「かかりつけ医」と各々の役割を担うように対 策を立て、治療対象患者は、検査後直ちに連続してインターフェロンなどの抗ウィルス療法等の 治療ができる。所得に応じて自己負担は3 段階、1 万円、3 万円、5 万円となり、1,800 億円にも のぼる予算をつけている。沖縄県は、一般医療機関での無料検診や「肝疾患診療連携拠点病院」 指定はまだできていない。県の指導を求めたいところである。

感染症をめぐる最近の動向について

新型インフルエンザ対策も厚労省は、ワクチン・抗ウィルス薬の準備等緊張感をもって準備し ている。ヒトの鳥インフルエンザは、2008.2.28 現在全世界において369 名罹患し、死亡234 名、 63.4 %の死亡率である。フェーズ4 になった場合の検疫体制、医療機関の発熱外来等準備をして いる。

沖縄も新型インフルエンザに備えて、診療所での発熱外来等具体的な診療体制の訓練シミュレ ーションを組まねばならない。パンデミックになった時の状況を聞くと恐ろしい話である。