理事 今山 裕康
来る2 月16 日(土)、17 日(日)の両日にわ たり、日本医師会館に於いて開催された標記協 議会について、以下のとおり報告する。
【2 月16 日(土)14 : 00 〜 18 : 00】
日本医師会中川常任理事の司会進行のもと会 が進められた。
開会挨拶
日本医師会の唐澤人会長(代読:岩砂和雄 日本医師会副会長)より、概ね以下のとおり挨 拶があった。
ご承知のように、財政主導による国の医療費 抑制政策により、日本の医療は今や危機に瀕し ている。
こうした中、医療分野におけるIT 化は、医療 費抑制、管理医療のツールとして位置づけられ、 ナショナルデータベースやEHR 等のレセプトオ ンライン化、社会保障カードの導入などの施策 が半ば強引に推し進められようとしている。
本会では、国民医療を守る医療提供者とし て、このような施策の前にクリアされるべき課 題を提示すると共に、IT 化に対応できない医 療機関に対しても十分配慮する必要があること を主張してきた。その一つの成果として、「経 済財政改革の基本方針2007」において「レセ プトオンライン化は環境整備を図りつつ」とい う表現が加えられた。今後も環境整備が達成さ れることなしに、これらの施策が強いられない よう厳しく監視していきたい。
日本医師会が今後、このような医療情勢にあ って、医療分野のIT 化のイニシアチブを取る ために、そして情報化の核としての態勢を整え るためにも、この協議会を通じ、医療分野の IT 化に取り組んでこられた先生方に、より具 体的、実践的な議論を交わしていただきたい。
有海躬行運営委員会委員長(山形県医師会長)より、概ね以下のとおり挨拶があった。
当協議会は、「国民医療とIT 〜国民を守 る!安心・安全・最善の医療を目指して〜」を メインテーマに掲げ開催する。
世界は情報化時代の真っただ中であるが、医療 界は情報化の歩みを必ずしも歩んでいなかったよ うに思う。医療情報は、心と体を扱う複雑な人間 を対象としており、社会的・経済的な要因が加わ る等、より一層複雑なものとなっている。
医療は、透明性かつ迅速な情報システムの伝 達が求められている。それは、国民にとって良 質で安全な医療を提供するために不可欠であ り、日医を中心とし、日医の正しい評価を送る ためにも努力すべき課題である。
医療情報システムを考えていく上で大切なこ とは、発信者と受信者が、同じレベルで情報を 共有し、共感し合うことである。すなわち、心 を通じ合わせることである。
特別講演
医療におけるコミュニケーションを考える上 で、重要な視点はソシアルネットワークであ り、そのコミュニケーション研究のポイントが マーケティングである。
近年、インターネットの普及により、患者同 士のコミュニケーションが増加し、人々は、イ ンターネットで情報を入手するだけでなく、情 報を発信したり交換する等、直接情報を取れる ようになった。
一方で、ユーザによる防衛手段も増加してお り、テレマーケティングの電話やスパムメー ル、ポップアップ広告等の押し付けがましいメ ッセージは、収益の増加よりもユーザの怒りを 招くことが多いため、スパム防止ソフトやポッ プアップ防止ツールの利用が増大している。
このように患者の要求(カスタマ・パワー)は 益々強まっており、現代の消費者は、以前では想 像できなかったほどの豊富な知識や情報を手に入 れたり、検索や選別のツールを用いることで、質 の高い製品やサービスを探す事ができる。
企業(行政・医療機関)は、強まるカスタ マ・パワーに適切に対応しなければならない。 そのためには、ユーザとの信頼関係を築くた め、ユーザを支援するといったアドボカシー (advocacy :「支援」「擁護」「代弁」)マーケ ティングが必要となってくる。
それは、自社の利益追求や短期的メリットの 提供は二の次にして、ユーザにとっての最善を 徹底的に追求することである。ユーザの利益や 満足度を最大化するためなら、一時的に自社の 利益に反してでも、自社製品より優れた他社製 品があるなら、率直に他社製品の購入を勧める べきであるといった考えである。
こうした姿勢が今の医療にも求められてきて いる。すなわち、自施設の医療水準より優れた 医療施設があるなら、率直に他施設に紹介すべ きで、患者本位の医療を考えた場合、患者が求 めているのは信頼であり、その継続により、信 用やブランドへと変わっていく。そのために必要 なものは、透明性(Transparency)、納得させる 説明(Accountability)、自己責任(responsibility) といった事実に基づいた評価・判断で、患 者中心の医療のために必要なことであり、対立 関係ではなく患者や家族と一体となって病気と 戦うという姿勢が本当の患者本位の医療である。 アドボカシー「支援」「擁護」「代弁」こそが、情 報化を進めていく初歩である。我が子が安心し て医療を受けられる仕組み、皆保険を維持して いく仕組みをどのようにしていくか、今後先生 方と一緒に考えていきたい。
電子カルテは、これまでのレセプトシステム やオーダリングシステムの技術では実現できない別な情報論的側面を持っている。それは、情 報のステートが恒久的で失われず、常に情報が 増加し続けるからである。
そのため、RDBMS 中心の技術だけで取り扱 うことには、性能が困難であるため適しておら ず、別なアーキテクチュア/技術方式が必要と なる。
従来使用されている、データを表形式に分解 して格納し、関係演算により利用時に結果を得 る「リレーショナル型」ではなく、データを意 味のある単位に格納し、ポインターから結果を 得る「トラバース型」が有効であると考えられ るが、どちらが良いというものではなく、情報 の構造に合っているかが一番重要である。
また、複雑化する医療情報のデータ移行に は、永続的な情報を取り扱う「レイトバインデ ィング技術」を使うことにより、新旧の世代の 情報が混在していても正しい処理を行える。
膨大なデータを移行する際にパフォーマンスを 維持する方法として、トラバース型を採用するほ か、SOA(Service Oriented Architecture:サー ビス指向アーキテクチュア)といったシステムを バラバラのパーツとして作っていくという技術の 採用により、システムのパフォーマンスを維持で きる。
電子カルテに必要な見読性と永続性を保障す るには、見れる形の情報の集合体を初めから用 意していく。その内容を自由に取り出して見る ということが電子カルテに求められていること である。それは、取り出す時になるべく処理を せず、保障されている情報を表示するといった 「データウェアハウス」が考えられる。医療界 を考えた時、マルチメディアな情報を自由に取 り出すことが重要になってくる。それにはイン ターネット等の様々なネットワークを経由する 必要がある。
今後、ネットワーク境界を超えられるアーキ テクチュア/ SOA による次世代の文書データウ ェアハウス型電子カルテが主流になるであろう。
シンポジウム:「レセプトオンライン化」
これまでのレセプトの取扱いは紙を中心に行 われてきた。
平成18 年4 月より、これまでの紙又は電子媒 体に加えて、オンラインによる請求が可能とな っている。平成20 年4 月からは、段階的にオン ライン請求に限定し、病院では、規模、コンピ ュータの機能・導入状況(400 床以上= 20 年度 から、400 床未満は21 年度から)によりオンラ イン請求を実施することとなっている。
診療所では、コンピュータの導入状況(既に 導入している診療所)により、22 年度からの 実施で、それ以外は23 年度から実施すること となっている。
よって、平成23 年度4 月からは、原則とし て全てのレセプトがオンライン化で実施するこ とになる。
オンライン請求への移行期限に関しては、相当 の準備期間を設定しており、最大5 年間の準備期 間を設定している。また、レセコンを使用してい ない小規模の医療機関においては、さらに最大2 年間の準備期間を設定している。さらには、患者 数(月=100 件以下)や手書きレセプトでの対応 で充足、コンピュータの使い方が分からない、設 備投資に見合わないといったケースに関しては、 代行請求(三師会)を想定している。
レセ電及び試行的オンライン請求の普及状況 (1 月請求機関数)は、2,705 件(1.2 %)で、 まだ普及されていないのが現状である。
レセプトの電算化・オンライン化によるメリ ットは、医療機関側で、1)請求事務の効率化、 2)返戻・査定等の減少、3)被保険者資格の確認 (社会保障カードを検討)。審査支払機関では、 1)請求支払業務の合理化、2)審査業務の効率化 と質の向上、3)事務所リサイクルの改善。保険 者側では、1)レセプト点検業務の効率化、2)再 審査請求の迅速化、3)保健事業への活用を目指 している。
支払基金に送られるレセプト(ファイル)の 中身はどちらも同じであり、レセプト電算を導 入して、アクセス回線を用意するとオンライン 請求となる。
レセプト電算処理システムでは、手作業から の解放、事務経費の節減、正確なレセプトによ り、医療機関・審査支払機関・保険者を通じて の事務の効率化が図られる。また、レセ電基本 マスタの使用による用語・コードの標準化によ り、外部や他システムとの互換性が図られる。
レセプト電算処理システムへ移行するにあた り、診療所の場合で約3 ヶ月間の期間を要し、 独自病名から標準病名への置き換えや紙レセプ トとは若干入力方法に変更がある場合があるた め、運用指導が必要となってくる。
オンライン請求システムの概要として、閉域 IP 網を介したSSL 暗号化通信や20 年度から IPSec + IKE によるセキュアなインターネッ ト接続の導入を想定しており、医療機関や薬局 側に請求用のパソコンやネットワークの導入費 用等を用意していただく。基金側では、環境設 定や電子証明書、オンラインで送信するための ソフトを提供する。
オンライン請求の開始手続きは、1)オンライ ン請求を希望する月の前々月の20 日までに最 寄りの支払基金へ届出等を提出(ネットワーク 回線接続の申込も必要)。2)支払基金は、オン ライン請求を行うための設定ツール等を翌月の 15 日頃までに送付。3)設定ツール等を用いて、 環境設定及び電子証明書をダウンロードし、導 通試験を行う。4)15 日から25 日までの間、オ ンラインによる確認試験が可能。5)届け出の 翌々月の5 日からオンラインによる請求が可能 という手順になる。
運用と特有のメリットは、毎月5 日から10 日までの間、オンライン請求が可能(受付時 間:休日(土・日・祝日)を含む9 : 00 〜 21 : 00 で、10 日のみ24 : 00 まで可能)となり、エラーが判明したレセプトは、12 日までに 訂正し、再度オンライン請求が可能となる。請 求書(総括表)は不要で、基金が受領書を発行 する。
支払基金におけるレセプト審査は、オンライ ン請求であっても審査の基本姿勢に変化はな い。ただし、結果が一義的に定まるルールはコ ンピュータ処理による。
オンライン請求については、平成18 年8 月 に日医の見解として、まずは、基盤整備が必要 であると示している。
今回、宮城、石川両県においてアンケート調 査を行ったので、概要を報告する。
アンケートでは、両県ともにほぼ同じ割合で あった。
回答施設は両県合わせて、病院114(8.5%)、 有床診療所209(15.5 %)、無床診療所1,026 (76.1 %)の回収率であった。(以下、両県合わ せての結果)
平成23 年4 月からオンライン提出が義務化 されることについて、知っているとの回答が 1,160(86.0 %)で、レセコンを使用している と回答したのは、1,198(88.8 %)であった。 一方で、レセプトの提出方法として、紙レセプ ト用紙を提出しているのが、1,104(81.8 %) と、磁気メディア215(15.9 %)、オンライン 18(1.3 %)に比べ、紙レセプト用紙での提出 が8 割を超えている。
1 ヶ月の平均レセプト件数は、100 件以下 (3.1 %)、101 〜 300 件(13.7 %)、301 件〜 500 件(16.9 %)、501 〜 700 件(17.4 %)、 701 〜 900 件(15.0 %)、900 件以上(10.0 %) であった。
オンライン請求義務化への対応については、 時期に間に合うように対応を考えているとの回 答が半数を超えているが、「対応できないので 保険診療を止めるかあるいは廃院を考えてい る」との回答が7.6 %と、極めて重要な問題であるとの認識を得た。
オンライン請求義務化に対する問題点では、環 境が整備されないままの義務化は問題であるとの 回答や医療機関の費用負担は国が負担すべきであ る。また、画一的審査の問題(医師の裁量、審査 の形骸化など)等の回答が目立っている。
現行のオンライン請求の段階的義務化政策で は、多くの医療機関が対応に苦慮しており、義務 化をするのであれば、費用負担(代行請求を含 む)を含めた環境整備を優先すべきである。
また、セキュリティや画一的審査への不安を 解消する対策や高齢な医療機関、小規模医療機 関に配慮した政策が必要で、義務化ではなく手 上げ方式を採用すべきである。
韓国では、医科・歯科・薬局を合わせて、 99.8 %が電子請求を行っている。
その請求方法は非常にシンプルで、医療機関 →韓国テレコム(日本でいうNTT)、健康保険 審査評価院(HIRA)→国民健康保険公団の順 で実施される。
健康保険審査評価院(HIRA)では、記載点 検、自動点検で判断できなかったものをコンピ ュータによる専門家点検、看護師や審査専門員 による審査が行われており、日本と違うところ であった。
私も4 年前より、レセプト病名点検ソフト 「レセプトチェッカー」を活用したオンライン 請求を実施している。
支払基金で言われている病名の標準化に対し て、病名は標準でなくても文字コードで判断す れば良いことで、現に、98.6 %の判定正解率を 有している。
「レセプトチェッカー」を使用した結果、こ れまで目視点検に5 時間掛っていたのに対し、 現在では、わずか15 分で済んでいる。もう紙 には戻れないというのが現状である。
しかしながら、それが全ての医師に対応できるものではない。
多くの離島を抱える長崎県でアンケート調査 をしたところ、比較的若い50 代の医師に関し ては、平成23 年4 月から義務化のオンライン 請求に対して、対応できるとの回答が多かった のに対し、70 代以上の高齢医師では、対応で きるか分からない、対応できないという回答が 多くを占めた。
また、これらの中には、義務化された場合に は本土へ移る、または、開業医をやめる、後継 者へ継承するといった回答が寄せられ、開業医 は続けざるを得ないので、法に違反することも 止むを得ないといった回答もあがった。地域医 療を支えてきた多くの高齢医師が開業医を辞め た場合、まさに地域医療が崩壊の危機に立たさ れることになる。
国はこれらを考慮し、検討すべきである。
その後、フロアからの指定発言並びにフリー ディスカッションが行われ、種々の意見交換が 行われ会を終了した。
【2 月17 日(日)9 : 00 〜 16 : 00】
シンポジウム
「地域医療連携とIT〜医療連携ネットワークを
阻害するものは何か〜」
1)「Virtual Private Network(VPN)と医療 救護サイト構築の取り組み」
江東区医師会理事 鈴木茂
2)「IT 等を用いた新健診対応地域モデル事業の 実践」
日本橋医師会 浜口伝博
3)「福岡市医師会における地域医療連携とIT 化の報告」
福岡市医師会理事 原祐一
4)「岐阜県におけるIT 化を活用した地域医療 連携の現状」
岐阜県医師会 河合直樹
5)「IT利用による在宅患者24時間支援システム」
八日市場市匝瑳郡医師会 福島俊之
6)「松戸市医療情報ネットワークシステム (EMI ネット)」
松戸市医師会長 岡進
7)「地域医療連携とIT :鶴岡地区医師会にお ける取り組み」
鶴岡地区医師会 田中俊尚
8)「あじさいネットの広域化について」
大村市医師会理事 田崎賢一
9)「あじさいネット〜会員アンケート医師会調 査の結果〜」
大村市医師会理事 牟田幹久
事務局情報担当者セッション
「医師会における情報伝達はどうあるべきか」
福岡市医師会では、平成7 年度よりIT 化の 取り組みが行われている。平成1 6 年度に、 ORACLE やAccess といったデータベースシ ステムの互換的な問題や、OS バージョンアッ プ等の課題を解決するため、基幹システムの更 新が行われ、現在では、データベースサーバ、 ファイルサーバ、文書管理サーバ等、計6 つの サーバにて会内システムが運用されていると報 告があった。
また、会員向けのIT サービスの取り組みに ついては、携帯電話等を活用した“モバイル一 斉連絡システム”が構築されており、当システ ムを活用することで、緊急時においても迅速な 情報伝達が可能となっていると説明された
鶴岡地区医師会では、医師会等に届く各種公 文書をPDF 化し、当ファイルに役員や担当部 署等といった役職に応じた閲覧権限を持たせ、 文書の回覧や承認を行う文書管理システムを開 発し、昨年4 月より本運用させていると報告が あった。
当システムは、VBScript で開発され、デー タベースはAccess が用いられている。閲覧権 限にはID とパスワードが付与され、外部から はインターネットVPN を経由して閲覧承認す ることも可能となっている。
当システムを導入することで、文書の紛失等 がなくなったことや、必要文書を探すための労 力が大幅に改善されていると説明された。
金沢市医師会では、平成13 年度先進的情報 通信システム整備推進費補助金を受けイントラ ネットシステムを構築しており、金沢市医師会 で課題とされていた、病院と診療所における情 報格差を改善するための取り組みとしてグルー プウエアの構築を行っていると報告があった。
グループウエアを運用することで、重要度が 高い情報を迅速に提供することができ、またグ ループウエアに参加している会員に対し一斉に 通知を行うこと等が可能となり、効果的かつ効 率的な情報伝達が行えていると説明があった。
沖縄県中部地区医師会では、情報システムの 専属スタッフを擁しており、会内事業のシステ ムサポートや、日レセ(ORCA)導入を主とし た会員サービスを行っていると報告があった。
会内事業のサポートについては、基幹システ ムを独自に開発することで、法改正や顧客のニ ーズに対応したカスタマイズを随時行うことが でき、同時に開発や改修に係るコストを低く抑 えることが可能となっていると説明され、会員 向けサービスについては、日レセの導入支援の 他、パソコン講習会の実施や、IT に関する相 談窓口を設置し、各会員より医師会内の事業所 なので相談し易い等、概ね好評を得ていると説 明された。
神奈川県医師会では、平成9 年に事務局内の LAN が整備されるとともに、インターネット サーバの導入によるホームページの開設・運用 が行われ、インターネットを活用した情報サー ビスとして、会員向けに会議資料のホームペー ジ掲載や、講演会の動画配信等が行われ、県民 向けに医療機関検索システム等が取り組まれて いると報告があった。
現在、既存システムの老朽化によりシステム 障害が頻出しており、会内システムの再構築 や、シンクライアントシステムの導入等が検討 されていると説明された。
日本医師会では、平成12 年より都道府県医 師会宛ての文書をPDF 化並びにデータベース 化し、インターネット上で閲覧できるようにし た“都道府県医師会宛て文書管理システム”を 構築・運用しており、平成19 年には当システ ムを再構築することで、各都道府県医師会にお いても各郡市区医師会宛ての文書を独自に登録 できるようにサービスの拡大が図られていると 報告があった。
各都道府県医師会における当システムの利用 状況は、本格的に利用している医師会が4、テ スト的に利用している医師会が6、利用を検討 している医師会が6 という状況であると報告さ れ、当システムが積極的に利用されない理由と して、マンパワーの不足、使用方法がわからな い、独自システムを開発済み等の意見があげら れていることから、今後、日本医師会として は、文書管理システムの講習会の開催や、文書 管理システムのプログラム公開、更なる機能追 加等を検討していると説明があった。
名古屋工業大学では、日本医師会情報企画課 の協力のもと、各郡市区医師会における情報伝 達の方法や情報化の実態調査等を行っており、 その概要について報告があった。
各郡市区医師会において、役員への情報伝達 方法はFAXの利用が一番多く、次いでE-mail、 郵送という順となっており、各会員への情報伝 達方法ではFAX が一番多く、次いで郵送、Email という順となっていた。役員並びに各会員 における各郡市区医師会からの情報伝達方法の 満足度についても調査を行った結果、FAX や 郵送の利用は概ね満足との結果であるのに対 し、E-mail の利用については使用頻度に比べ 満足度は決して高くない状況であることが報告 された。
また、各郡市区医師会が各都道府県医師会に 求める情報化の内容と、各都道府県医師会が日 本医師会に求める情報化の内容とはほぼ同じ内 容であると報告があり、具体的には、配布資料 の電子化、ある程度整理した情報の配信等が求 められていると説明された。
講 演
「ORCA プロジェクト〜現状と今後の展開〜」
日医標準レセプトソフトの導入医療機関数が 平成19 年2 月現在で5,453 件となったことで、 国内におけるレセプトコンピュータのシェアが 4 位となった。このように導入件数が好調に伸 びている要因としては、日医という大きな看板 を利用して開発が進められていること、政府の 進めるIT 化やインフラ整備等のタイミングに マッチしたこと、各地区からの多大なご支援を いただいていることなど、天の利、地の利、人 の輪に恵まれた結果であると説明された。
日医総研では、今後もより多くの普及を目指 し、IT フェアを継続して開催していくことや、日医標準レセプトソフトを操作できる医療事務 員の養成や、日医認定の資格の制度化等を検討 していると説明があった。
また、厚生労働省等が提示する様々な情報と 対比するための基礎データの収集を目的に行わ れる、日医標準レセプトソフトを活用した定点 調査研究事業についても、来年度からの本格実 施を予定していると報告があり、日医標準レセ プトソフトを導入されている医療機関におい て、データ提供に同意いただいた医療機関から 個人情報を省いたデータの収集、分析、フィー ドバック等が行われると説明があった。
その他、日医総研では、平成20 年度から実 施される特定健診・特定保健指導に対応したフ リーソフトの開発も進めており、2 月末から3 月の初めにかけて提供できるよう取り組んでい るところであると説明があった。
日医総研では、インターネット上における、 盗聴、改ざん、なりすまし、否認等の悪意ある 行為に対し、真正性、見読性、保存性を確保し た医療データを取り扱うため、公開鍵暗号技術 を用いた電子署名や認証を保証する機関として の“日医認証局”の整備に取り組んでいると報 告があった。
日医認証局では、HPKI(Healthcare PKI) という仕組みを用い、発行する電子署名の中に 「保健医療福祉分野の国家資格」と「医療機関 等の管理者の資格」の情報を格納することを規 定していると説明があり、厚生労働省において も平成18 年度にHPKI 認証局を稼働させてお り、近い将来には、厚生労働省の認証局を介す ることで、異なる認証局が保証する電子署名の 真正性を確保したデータの取り扱いが可能にな ると報告された。
シンポジウム
「医療系メーリングリスト:その光と影
〜果たしてきた役割と今後の方向性〜」
医療系メーリングリスト(ML:mailing list) は、10 数年前より、医療従事者同士を横断的 に双方向性に繋ぎ、大勢で情報・意見を共有 し、時空を超えて語り合える簡便なツールとし て用いられており、現在では、数多くの医療系 ML が存在し、膨大な量の情報交換が日常的に 行われていると説明があり、医療系ML で共有 される玉石混淆の情報・意見はweb 上に集約さ れ、有志による自由闊達な会議や研究が国の内 外を問わず盛んに行われ注目されていると報告 された。
具体的には、1999 年冬のインフルエンザ流 行時に、medpract-ML(実地医療研究ML) という医療系ML を通じてアマンダジンの有効 性が初めて全国的に注目され、その後、迅速診 断法や抗インフルエンザ薬等の情報も、医学会 や医師会に先んじて様々な医療系ML に流れ、 全国各地との医師同士の実体験が共有された等 の事例が挙げられると報告された。
しかし、パソコンやキーボードが苦手で、イ ンターネットは怖い等の壁に阻まれ、既存の組 織へのML 普及は順調とは言いがたいと述べら れ、技術の進歩がこれらの壁を乗り越えるま で、個々の善意が支える医療の分野では、ML を既存のツール、あるいは近年登場した簡便な 映像会議システム等と上手に組み合わせ、十人 十色の各位に柔軟に対応する工夫が必要である と考えるが、ML 等の普及については、組織の トップが“隗より始めよ”で決断しさえすれ ば、ML 等による会務の効率化は比較的容易と も考えられ、その決断は詳細を支えるネット世 代にも歓迎されると意見された。
平成23 年度には、国家による医療のIT 化としての国家医療情報ネットワーク(NHIN : National Health Information Network)や 日本版マネジドケア(疾患管理プログラム)の 構築、社会保証カード(国民総背番号制)の導 入、レセプトオンライン化等、国主導による 様々なIT 化の出現が予定されていると説明が あり、このような現状において、医療側は原則 として「IT にはIT で対抗する」必要があり、 また医師会の組織強化や協同組合化(INH 構 想)が必須と考えられると意見され、具体的な 方策として、郡市医師会の広域化や評価システ ムの確立、情報伝達網の整備が喫緊の課題であ ると説明があった。
情報伝達網の整備については、「広報なけれ ば理解なし」、「理解なければ協力なし」、「協力 なければ団結なし」と意見され、会内広報の一 環としてのIT 化の推進の必要性が述べられた。
また、IT 化を推進する理由の一つとして実 際に会う会議の限界として、時間空間コストが かかりすぎる点や、意思決定が遅くなるという 点を上げ、実際に会う会議とテレビ会議やメー リングリストとの比較の報告が行われ、時間、 距離、金銭的な角度でみた場合にメーリングリ ストはもっと有効利用されるべきであるとし て、実際に会う会議、テレビ会議、メーリング リスト等、各々の盟約な欠点と利点と理解した 上で機能分担を行い、それらをきちんと使い分けることが必要であると説明された。
IT によるコミュニケーションの形は様々な 変遷をたどり、現在、メーリングリストや WEB2.0 と呼ばれる大きな変化とともに、ブロ グ(WEB LOG)やSNS(Social Network Service)等の新しい仕組みが登場し、医療に おいれもこれらの新しいサービスを活用した情 報共有が取り組まれていると説明があった。
これまでの掲示板等のサービスと異なり、ブ ログは個人利用が中心となり、更新の容易さや 論陣や主張の掲載等に便利なサービスであり、 SNS は招待制や希望者のみの登録制といった 仕組みにより、荒しと呼ばれる誹謗中傷を抑え た形で情報発信、情報共有が可能となるサービ スであると説明された。
このようなブログやSNS、メーリングリス トをはじめとした情報共有サービスや、テレビ 会議やYouTube 等に代表される動画配信サイ ト等、様々なIT ツールの特性を生かした複合 利用が今後必須であると意見され、またIT の 利用が広報活動だけでは息が詰まるため、継続 的に利用されるためには楽しみも必要であると 述べられた。