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「私の減量雑記」

佐久田治

佐久田脳神経外科・外科
佐久田 治

平成16年8月に禁煙にふみきった。食習慣の 問題と相まってあれよあれよといううちに体重 が増し、約2年で6Kgも太ってしまった。健康 診断ではじめて総コレステロール値が正常値を 超えた。日常の外来で禁煙指導には力がはいり それなりの効果(患者さんでの禁煙の達成)も あったが、もちろん肥満の指導は説得力がな く、また減量に成功する患者さんも皆無であっ た。巷ではメタボリック症候群についてその診 断基準(男性で胴回り85pなど)の是非が話 題になっていた。健診結果に愕然とした私は平 成18年10月に減量を決意した。手段は減酒・ 食事制限とウォーキングである。禁煙後に徐々 に増えつつある体重を気にし、それまでも低カ ロリーのものを選んで食していたつもりだった が、よく考えるとその程度のものは日々の酒の つまみで帳消しとなっていた。約1ヶ月の減酒 (およびつまみを食べないこと)で体重が約2kg 減った。その頃に体調の変化に気づいた。朝の 散歩の際に躯が軽く感じ、またいつも感じてい た胃のもたれが無くなっていた。なんてことは ない、今までが毎朝二日酔い状態であったこと に気づいた。散歩の後に空腹を感じ、また夜9 時以降に食すると翌朝胃のもたれを感じた。こ れは肥満を経験していない人にとっては当たり 前と思う。しかしその時の私には新鮮あるいは 久しぶりの感覚であった。減量開始2〜3ヶ月 にかけては体重の大きな変動はなかった。カロリー換算ができる万歩計を購入した。例えばチ ーズケーキが約250Kcalでそれを消費するのに 約100分のウォーキングが必要であると知った。 場所は宜野湾海浜公園とその周囲を選んだ。職 場から帰宅し夕食を摂った後に出かけるのであ る。ちょうどビールを飲みながらテレビを観て いた時間帯に相当する。車で歓海門をくぐり、 体育館横の駐車場に停め、コンベンションセン ターに向け歩き出す。その先ヨットハーバーの 横の遊歩道は最初樹木で暗い。そこを過ぎしば らく行くとベンチがあり、上部を網で被われた 木枠がある。右奧に蔓草が植えてあり、その傍 らに木枠の天井に達する棒が添えられている。 いつか蔓草が木枠上部の網に達し真夏に涼を与 えてくれるのを期待されている。何度かその傍 らを通ったときに気づいた。蔓草は土上約50p で留まり、その先に這い上がれない。海風が蔓 を揺らしているのである。ある日思い立ってひ もで蔓を棒に固定した。蔓が棒をつかめるよう になり蔓草は上に伸びていった。その都度私は 固定するひもを追加した。7 月に蔓草は棒の 2/3の高さに達し、初めて淡い紫色の花をつ けた。その頃に私の体重は約6kg減っていた。 遊歩道の先にヨットハーバーの防波堤の尽きる 所、点滅する灯りがある。夏はその左側に夕日 が沈む。茜色の最後の光が海に没する瞬間に静 けさが漂う。そこから元の遊歩道に戻り、トロ ピカルビーチの先、出島へと向かう。牧港から 読谷まで続く光のパノラマが広がり、美浜の観 覧車の明かりがアクセントを添え、遠く残波岬 の灯りがゆっくりと回旋している。手前の海は 季節や時間、天気で表情を変える。多目的広場 を過ぎ、野球場の横を通るころには少なくとも 1匹の蝙蝠(こうもり)が飛んでいる。向こう は関係ないと思っているだろうが私にとっては 顔なじみ(同じ蝙蝠かどうかは知らないが)で ある。減量の手段として始めたウォーキングで あったが、今は生活の一部となっている。スト レスや悩みがある場合でもその途中出会える樹 木や花、波や夕日に心いやされる自身を感じ、 ある意味ほっとしている。