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「チョウのいる丘」

林正樹

中頭病院 林 正樹

「チョウのいる丘」という本をご存じの方は おられるでしょうか。那須田稔作で、原爆症で 白血病になった小学5年生の長谷川小百合とい う少女が主人公の小説です。彼女が白血病で死 と向き合いながら、生きることのすばらしさを 見つけていくというお話です。絶版となってお り読み返すことはできませんでしたが、1968年 の小学生の読書感想文コンクールの課題図書に もなっていて、その頃の小学校の図書館にはた いていあったのではないでしょうか。私は図書 館で何度か借りて読んだ記憶があり、とても印 象に残る本であったと思います。

24年前の子年に沖縄で医者としてのスタート を切ったときには、私も自分自身でその白血病 を相手にすることになるとは思っていませんで した。中部病院での卒後研修を終える頃には血 液内科医になろうと考えるようになりました が、この本の影響もあったのかもしれません。

抗癌剤治療の進歩や、感染症などの治療の改 善、幹細胞移植の発展などにより、白血病がか なり治る病気となっていることを血液内科研修 で知り、驚くことになりました。しかし、12年 前初めてレチノイン酸を使い急性前骨髄球性白 血病の治療をしたときは、その後に起こる分子 標的療法の発展にはまだ考えが及びませんでし た。今や慢性骨髄性白血病は5年生存率87%の 疾患となり、そのほかの白血病も治療は様変わ りしており進歩を続けています。

医学部を卒業して24年、今年48歳を迎える 私は人生の半分を医者として過ごしてきたこと になります。最近ふと、私がもし長谷川小百合 の主治医であったら、どうしていただろうかと 思うことがあります。病気になって、死と向き 合いながらも、生きることのすばらしさを教えてくれた彼女にきちんと向き合うことが出来た のだろうか?残念ながら、まだ自信を持って答 えることはできそうにありません。これからも 自戒の念をもってそのことを自分自身に問いな がら診療にあたっていきたいと思います。