沖縄県医師会 > 沖縄県医師会の活動 > 医師会報 > 1月号

Aging への挑戦

石川清和

今帰仁診療所 石川 清和

今年で48歳になる。人生の折り返し点を過 ぎ、復路をゴール目指して道半ばである。残り の人生30年として約365×30=10,950日残っ ている計算になる。どういう日々が待ち受けて いるのか、不安と期待が半々である。

外来でオバーたちに「年をとるといいこと無 いさー」とよく言われる。手足の関節痛や腰痛 に悩まされ、足腰が弱り歩くのも億劫になって しまう。血圧や血糖さらには心臓や脳の薬を毎 日欠かさず飲まないといけない・・・。年をと るとつらいことのみ増えていくことを嘆いての ことである。

先日のNHKドキュメンタリーで、60歳代で 脳血管障害で倒れた後に、それまでの凶暴な性 格が跡形も無くなくなり、それまでは全く興味 を示さなかった芸術の才能が突然目覚め、絵を 描いたり、芸術的な物を作るようになった男性 の話を放送していた。

私にも似たような経験がある。猛暑の中バト ミントンをしていて熱中症になってしばらくし て、方向感覚が失われているのに気づいた。出 張で東京の品川駅に降り立ったときに、突然迷 子になった感覚に襲われた。どこにいて、どう 進んで行ったらいいのか全くわからず、混乱し てしまい、生まれて初めての経験に戸惑った。 その後も時々慣れた道を、車で通るときに突 然、迷子になった感覚に襲われるのである。(東西南北の感覚が無く、自分がどこにいるの かが分からない)

しかし、その頃からそれまでは苦手だった人 の顔と名前が比較的簡単に頭に入るようになっ た。特に顔を記憶することは、以前に比べ遥か に容易になっている。もう一つ、それまでは人 前で話すのが苦痛であったが、その事件以来、 人前で話すのも苦痛でなく、緊張して言葉に詰 まることも少なくなった。

人間の脳は主な情報伝達をシナプスで行う が、オンかオフかのいずれかである。優位な神 経回路が働くためには、他の回路を抑制しなけ ればならない。優位な神経回路がなくなったと きに、それまで抑制されていた回路が働くよう になる。そう考えると、一つの能力がなくなっ たときに、別の能力が発現してくるのも説明が つくと思う。年をとることは、いろんな能力が 失われるだけでなく、自分の中に隠されてい る、未だ発現していない能力が目覚めるかもし れないと思うと、年をとることも面白いんじゃ ないかな〜、と思えてくるのである。

そのためには健康長寿が大切である。動脈硬 化を起こし、脳梗塞や心筋梗塞を起こす状態で は、隠された能力が発現することは不可能であ ろう。呆けないようにするためには、しっかり と頭を使うこと(鎌でも放っておけば錆びてし まうが、使うことによって錆は落ちピカピカに なる)脳神経細胞に必要な栄養素をとり、抗酸 化作用のある食品を十分にとることが大切であ る。また、体力低下を予防するためにバドミン トンを週に2回楽しんでいる。根っからの負け ず嫌いで、もっとうまくなるために、筋力トレ ーニングによって身体能力を維持・向上させる こと、目薬やサプリはもちろん、目の運動やト レーニングによる視力の維持も欠かせない毎日 の日課である。

人生の復路にどんな困難や、楽しみが待って いるのか想像もつかないが、外来での先輩方の 声に耳を傾けながら楽しんで生きていきたい と、5回目のねずみ年に思うのである。