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歩き遍路を愉しむ

吉俣哲志

石垣島徳洲会病院 吉俣 哲志

石垣島徳洲会病院に就職が決まり、鹿児島か ら移動する前に、去年6月一人で四国遍路へ出 かけ、16日間かけて徳島・高知のほぼ8割を歩 きました。朝5時に起きて7時から午後4時頃ま で毎日20〜25kmお大師さまと「同行二人」の 旅です。菅笠を被ると頭が蒸れず、汗をかいた 身体には微かな風でも涼しく心地よい。快晴の 室戸岬で浜の玉石に座って、うち寄せる太平洋 の波の音を聞きながら、故郷の奄美を思い出し ました。宿に着いたらまず入浴です。昼間の服 を洗って翌朝またそれを着るので、着替えも最 小限にして荷物はできるだけ軽くします。食欲 が旺盛でいつもお代わりをして、夜はビールと 日本酒が旨い。一番大切な装備は靴です。出発 前に数足の靴を試して10〜20km歩く練習もし ましたが、本番になると2日目からマメができ て、キズパワーパッドを毎日貼りながらの全行 程でした。途中で出会ったベテランの方から 「足の裏が猫の足のように柔らかくなったらマ メができなくなる」と意外な話を聞きました。

車で通り過ぎた婦人が車を止め小走りに「お 遍路さん接待させてください。ジュースでも飲 んで」と声を掛けられたので、ありがたく頂戴 しました。立ち話で伺うと、お母さんが36歳で 肺結核に罹った後、遍路に行って元気になり86 歳まで長寿だったとのことでした。高知・牧野 植物園のレストランでコーヒーを飲んだら会計 でラスクを下さり、農作業している方からもぎ たてのトマトを戴きました。民宿で洗濯をして 下さったり、昼のおにぎりを戴いたところもあり、歩き遍路ならではのありがたいお接待でし た。地元では新しいヘンロ小屋を造るボランテ ィア活動が進められていて、これまでに17カ所 以上が建てられていると新聞に載っていまし た。徳島県出身の歌一洋氏(近畿大助教授)の 呼びかけに、各地の賛同者の皆さんが設計・建 築・維持・管理まで手弁当で行っています。疲 れた身体を休めて元気を回復でき、歩き遍路に とっては大変助かります。私は3カ所利用して それぞれのデザインも愉しみました。

信徒を引率して参拝されてるお坊さんと会釈 を交わす機会があり、次の札所で再会した際 「歩くのが速いですね」と声を掛けられ、天草か らバスで来られたこと、遍路への思いを伺うこ とが出来ました。金剛杖でなくトレッキング・ ポールを使っていたせいで、声を掛けてこられ た男性と話が弾みました。山のベテランで北海 道から屋久島まで高い山のほとんどを登ってい て、遍路も自家用車で6回目とのことでしたが、 歩き遍路をしてなくて関心を引いたようでした。 退職後、青年に働きかけてフィリピン・タイ・ ラオスといった国々で植林などのボランティア を続けているご夫婦から話を伺って、納札を交 換しました。いろんな方と楽しく話ができるこ とは遍路の大きな魅力です。58番札所の住職小 山田憲正さんは「腕時計と名刺を持たないで」 「遊べ」と助言されています。これからも機会を 作って歩き続け結願を果たしたい。