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中南米の医療事情を見て

小渡輝雄

南部徳洲会病院院長 小渡 輝雄

平成19年1月末から2月初旬にかけて中南米、 キューバや日本人移民の多いボリビア、パラグ アイ、ブラジルの医療事情を10日間で走って見 てきました。

まず、キューバは米国と直接国交が無いため、カナダのトロント経由でハバナに入りまし た。キューバは自国で多くの医師を育て、医師 の少ない南米の国々に送り込んでいる様です。 また中南米医学校を設立して中南米からの医学 生も引き受けて教育しているとの事でした。医 療費は原則的に無料ですが、慢性疾患の薬代は かかると話していました。

国内には多数のファミリー・ドクターがお り、事務所のような場所で診察をしているので すが、X線を始めとして検査は全く出来ません。 聴診器と血圧計のみの診療です。

検査が必要であれば診療所に紹介して行いま す。検尿・血液検査・胃カメラ・腹部エコーは 可能ですが、CT・MRI等はありませんでした。 診療所では入院は出来ませんので、入院が必要 であれば大きな病院へ紹介します。ハバナ市内 の外科系の病院を見せてもらいましたが、救急 はもちろん心・肝・腎の移植等も行っていると のことでした。設備も一応揃っていました。厚 生官僚の話では、「国民は貧しいが、富める国 の如く死亡している。」(生活習慣病が多い)と の話でした。

ボリビアは南米でも最貧国の国です。サンタ クルス市内でも道路はでこぼこでした。

日本のJAICAが建てた病院がありましたが、 病床数が199床しかなく、患者さんは廊下にま でベットを並べて入院していました。救急は断 らず支払い能力のない患者さんもきちんと診て いるとのことでした。県出身者の移住地を訪問 したところ、歴史館があり先人達の大変な苦労 が偲ばれました。また農作業姿の夫婦と本を小 脇にかかえた子供2人の像が建てられていまし た。どんな状況でも勉強は欠かせないという姿 を表しているように思えました。

パラグアイでは首都のアスンシオンにある国 立大学の付属病院を見せてもらいました。現 在、一部建築中で市内にある他の部門を統廃合 して大きな病院にするとのことでしたが、一般 撮影を日本製のポータブルX線装置で撮ってい ました。CTはメーカーからの寄贈で64列が入 っていましたが冠動脈のソフトが入っておら ず、十分には活用されていませんでした。小児 病棟も新しく出来てはいましたが、機器が殆ど 無く、今後どうしてやって行くのか心配になり ました。パラグアイでも貧富の差が激しく、富 める人はプライベート・ホスピタルか国外の病 院を受診するそうです。そこで放射線科専門の プライベート・ホスピタルも見学させてもらい ました。ここは放射線診断からCAGや癌の放 射線治療まで全て出来る病院でしたが、もちろ ん貧しい人々には受診できません。

最後の訪問国であるブラジルでは地方都市で あるフオスイグアスに入りました。バチスタ手 術で有名なバチスタ先生が院長をしている病院 を訪問しました。国・県・市の援助で建築中で したが、一部で診療を行っていました。財政難 のため、予算の半分ぐらいしか執行されていな いそうです。医療費が払えない人が殆どなので 個室は全く無く、全て大部屋でした。それで も、バチスタ先生はきちんと医療を行っていま した。高名な先生が地方都市で貧しい人々のた めに医療を行っている姿を見て胸が熱くなりま した。

今回訪問した国々はキューバを除いて保険が 無いかあっても十分には機能しておらず、一般 の人々は医療費も払えない国がほとんどでした。

ところで、徳洲会は平成18年12月にブルガ リアのソフィアに1,016床の病院を作りました。 ブルガリアはここ40年間新しい病院が出来てい ないそうです。病院は現在経営的にも良いよう ですが、利益は国外に持ちださず国内の医療の ために再投資するという方針で行っています。 医療に恵まれない他の国々の人々と一緒になっ て、何か協力できることがないか模索していま すが、今後現実の事になるかも知れません。

還暦を迎えるにあたって、診療や会議に忙殺 されながらも、高齢者の方々の行く末を案じ (私も近いのかも知れませんが)さらに医療に 恵まれない方々のことを案じ、なかなか気がか りなことは無くなりません。どうにか診療中だ けでも、目の前のオジーやオバーと話しながら 楽しくやりたいものだと思っております。

今年も皆様にとりまして良いお年となります 様にお祈り致します。