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運動器不安定症

本部紹一

コザ整形外科医院 本部 紹一

私、12年前(H.7)還暦の干支にも本誌に寄 稿させて頂いたことを思い出し、書棚より探し 出し再読したところ感慨深いものがあった。文 章を書くことは嫌いではないが、書き出すまで は大変億劫である。しかし、過去の自己主張を 自分の目で確認できることは、自分史の一端を 知ることにもなり貴重である。従って今回の原 稿依頼にも快く応ずることにした。

元来、ネズミは人間に直接、間接に害を及ぼ す害獣であり、中世ヨーロッパではペストの媒 介者、魔女の使いとみなされ、日本の一部地区 では大黒天の使いであるとするネズミ信仰もあ るようである。現代社会ではペットとして飼育 されたり、実験動物として人間に貢献している 種類もある。その他、物語のなかにも多数登場 し、言葉や慣用句にもよく用いられている。

「二鼠藤を噛む」と言う言葉もあるが、人間 誰でも穏やかに終末期を迎えられるとは限ら ず、今や高齢化社会を迎えさまざまな問題が生 じてきている。日本人の平均寿命はどんどん伸 び、老人が増え続けている。何時も外来や居宅 介護の現場で思うことは健康寿命の大切さであ る。人間、年を重ねる毎に己の意志とは関係な く心身共に老いて行く。我々はこれを防ぐこと は出来ない。

「年をとると、先ず足、腰から弱ってくる」 とはよく耳にする言葉である。骨(骨粗しょう 症)、関節(変形)、筋肉(萎縮)、神経(脊椎 変形)等運動器官の退化が進み、バランス能 力、移動歩行能力の低下が生じ,転倒し易くな り、それが怖くて外出は控えめとなりやがて廃 用障害を来たし寝たきりとなる。前期高齢者で は要介護原因疾患の約50%を占める脳血管疾 患も後期高齢者では次第に減少し、80才以上 になると骨折、転倒、衰弱の原因疾患が増加し てくる。

「運動器不安定症」という用語をご存知の会 員諸兄も多いかと思うが「高齢化によりバラン ス能力および運動歩行能力の低下が生じ、閉じ こもり、転倒リスクが高まった状態」と定義さ れ、診断基準も設定されているが、ここでは省 略したい。運動器疾患が原因で寝たきりになっ たり要介護状態になる危険疾患を包括して Locomotive Syndrome(Locomo)といい、運 動器不安定症はそのなかの1疾患とされている。 Metabo(症候群)については啓蒙活動が効を 奏し、広く国民の知るところであるがロコモに ついては殆ど知られていないのが現状である。 今後、運動器健診事業を推進していく上でもメタボ同様一般国民、マスコミ等に対し運動器の 重要性をアピールしていくことが重要と考えら れている。

介護保険では介護予防が導入され各市町村で は要介護(支援)者の予防事業が展開され、 時々主治医に対し運動方法や強度について意見 を求める文書が送られてくる。しかし、現場にど のような運動機能訓練指導員がおるかも知らず、 事故発生時の責任の所在もはっきりしないまま 意見書を書くのは大きな不安を禁じえない。

いずれにしても、人生を最大限楽しむには各 自にあった、自宅でも可能な運動(体を動かす) を継続していくことが肝要であり己の人生を健 やかに全うすることができると思う次第である。