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子年に因んで

伊藤悦男

介護老人保健施設おおざと信和苑
伊藤 悦男

新年明けましておめでとうございます。今年 もどうぞ宜しくお願い致します。

私が子年生まれのため、年頭にあたって子年 に因んだ一文をとの依頼がありました。私にと って「ネズミ」は色々な意味で身近な存在で す。ネズミといえば余り良いイメージが先行し ないのが普通かもしれません。世間ではネズミ の害とかネズミ駆除などの言葉が真っ先に思い 浮かぶのではないでしょうか。

しかし、子供の時から「お前はネズミ年だよ」 と言われ育った私には、ネズミに対する悪いイ メージは余りなく、むしろ親近感があります。ネ ズミのイメージは真面目で賢くコツコツと熱心 に働く動物で、大成するといった感じはありま せんが勤勉な姿勢が真っ先に浮かびます。これ らのネズミに対するイメージの根拠はネズミの習 性から連想されるものだと思います。

ネズミの習性は警戒心が強く、人の食べるも のは何でも食べ、人家に巣を作って集団で活動 する。環境に適応する能力が強く、夜間に活動 する等の性質からまるで人間と共生しているよ うな身近な存在として大昔から語られてきてい ます。だからと云って人間にとってはペットで もなく、好ましくない存在ながらも家族に近い 動物といえるかも知れません。

ミッキーマウスは80年ほど昔に作られたキャ ラクターだそうですが、現在もあれだけ世界中 から愛される理由は何がしか親近感が感じられ る動物のシンボル化だからでしょう。マウスとは 英語で小さいネズミの事を指し、大きいイエネ ズミやドブネズミなどはラットと呼ばれます。

占いの性格判断によれば、子年の人は華やか ではないが勤勉でコツコツと真面目に仕事をす る。大金を得るタイプではないが、特別貧乏にも成らないで堅実な生き方をする運勢を持つと 云われていたような記憶があります。自分の性 格や今までの生き方を振り返って見て、当って いるかも知れないと感じたりします。今年72歳 に成る私自身も決して華やかな成功者ではあり ませんしお金持ちにもなれませんでしたが、真 の貧乏にも成らないといわれた通りだったと今 でも思っています。

私は自分の仕事に関連してネズミには大変お 世話になりました。医学部病理学講座で研究し た当時は約40年間にわたって白血病や癌治療 の研究を行い、本当に多数の愛らしいマウス (二十日鼠)を動物実験に使いました。残酷な 話ですが数万匹を越える数の命を頂いた事にな ります。年頭の挨拶文には相応しくない話かも しれませんが鼠の命への感謝の思いは些かも薄 らいではいません。

この少子高齢化が大きな社会問題となってい る昨今、ネズミは繁栄のシンボルでもあります ので、今年が少しでも出生率の増加に役立つ年 になれば良いのだがと期待する気持ちがありま す。わが国などでは政治的、経済的に国力を維 持し高めるために必要な人口の減少が心配され ています。しかし、地球規模で見るとこの小さ な宇宙船地球号に人類は増える一方で、開発途 上国では人口が急増し、次第に生活レベルの向 上に伴って資源の食い潰しや自然破壊が進んで います。地球規模では将来の人口爆発の恐れも 危惧されます。

専門家の予想速度より50年も早く海水温度 が上昇し、北極海の氷が解けて陸から離れて浮 遊し、回転を始めている映像も見られます。既 に手遅れになっているとも云われる地球温暖化 の進行、砂漠化が人間による自然破壊や開拓の 結果と無縁とは考えられません。こういった地 球の破壊が人類のエゴによってネズミ算式に増 えているのではないかと不安になります。地球 を救うための適切な対応が今直ぐに世界中で行 われなければならない緊急状態にある事を一人 でも多くの人が理解し、周囲の人達にも伝える 必要があります。

ネズミ算とかネズミ講といった表現は数が爆 発的に増える表現ですが、子年の年頭にあたり 理解者をネズミ算式に増やしたいと思わずにお れません。