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旅は異なもの味なもの

小渡有明

老健施設嬉野の園 小渡 有明

いろいろな所へ旅することは自然やその地域 の歴史、風物などに触れ、新しい感動を覚える ことは気持ちのいいもので、ストレス解消にも なり、明日への活性化につながる。

春には春の、夏には夏の、秋には秋の、冬に は冬の、四季おりおりの景色、風情、食べもの を楽しむことがきる。

6年前、東京オぺラシティクリスマスコンサ ートへ妻と出かけたのがきっかけになり、年に 2〜3回沖縄を離れ、ひと時の楽しみに浸って いる。

去る10月、松江へ・・・裏日本の秋を心ゆ くまで満喫した。初めて見る沿道の黄色い背高 泡立ち草とススキの鮮やかなコントラストには ただただ目を見張るばかりであった。

また、女郎花、不如帰、撫子の佇まいに秋の こころを感じさせられた。

大社造りの出雲大社に詣で、出雲蕎麦に舌づ つみをうち、昔話「因幡の白うさぎ」に幼少の 頃思いを馳せた。

静寂真っ只中の山宿で、松茸、島根牛、松葉 ガニを味わい、星のない空を見上げ、出雲の湯 に身もこころも洗われ、時の流れに身を委ね、 何とも云えぬ心地であった。

くしくも初代松江藩主堀尾吉晴による松江開 府400年、その後松平氏に受け継がれ、松平7 代藩主松平冶郷(不昧公)が茶人であったこと もあり、お城内の庭で松江城大茶会が催されて いた。

松江城は千鳥城とも呼ばれ、その天守閣は優 美、壮大でありながら頑強である城と云われ、 今に残る数少ない天守閣の一つで眼下に雄大な 宍道湖を見下ろす。

久方振りに茶をたしなみ、天守閣から松江の町並みを見渡し、不昧公の偉業をも偲ぶことが でき、また一つ良き思い出となった。

島根といえば宍道湖、宍道湖といえば島根、 しじみ、宍道湖に秋風が静かに流れ、その流れ の中に水鳥の群れを成している光景はひと時の 心を癒してくれる。

また、宍道湖のしじみの味は格別で絶品である。

暗い夜空に一つの灯りを燈す安来清水寺三重 の塔、秋風だけが爽やかに吹き、音一つない小 高い山は、無常の世界であった。

島根への旅を思い立った大きな目的は、足立 美術館を訪ねることであった。

足立美術館の大きな狙いは横山大観に代表さ れる多くの芸術家達の人のこころを惹きつけ、 揺り動かす、静かな中にも動きのある美(この ような表現が適切かどうかわからないが)もさ ることながら、その美術館をとりまく調和のと れた日本的美を配した広大な日本庭園である。 優しい秋の陽が差し、優雅ながらも心を和ま せ、ホットさせてくれるのである。

旅の思い出にと写真に収めたり、スケッチを したりすることが多いと思うが、わたしは旅の 想いを俳句に詠むことにしている。旅に出ると 5、7、5がわたしの頭の中を駆け巡るのである。 拙句ではあるが・・・

  • 山けむりススキ泡立ち山陰路
  • 深々と湯の香ただよう湯の川や
  • 旅ごろも金木犀の香に惹かれ
  • ぼてぼて茶古しえ偲び秋暮るる
  • 空やさし滝音やさし庭の秋

人間はみな人間稼業という仕事をやりながら 人生という旅をしているようなものである。気が ついてみると、わたし自身も人間稼業が少し長 くなったかなあ!!これからも楽しい、わくわくす るような旅へ出かけたいと考えている。

そして、より意義のある、豊かで楽しい、息 の長い人生旅行がつづけられたらと願ってやま ない。