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第107回九州医師会総会・医学会
及び関連行事

U.九州医師会連合会委員・九州各県医師会役員合同協議会

  • 日 時:平成19年11月17日(土) 午前10時〜11時30分
  • 場 所:ホテルニュー長崎(3階 鳳凰閣 東・中)

九州医師会連合会長挨拶

九州医師会連合会長・長崎県医師会井石哲 哉会長より、概ね次のとおり挨拶があった。

長年に亘る国の財政難の中で、医療費抑制策が 推進されてきた。地域医療はまさに崩壊寸前という 状況である。国民医療を守るより良い医療制度の発 足に向けて、医療人が日本医師会を中心に大同団 結を図り、更に取り組みを強化する必要がある。

本日は、日本医師会の取り組みや方向性を拝 聴し、九州医師会連合会としてあるべき日本の 医療資質の定義、地域医療のあるべき姿の実現 に向け努力しなければならない。

座長選出

慣例により、九州医師会連合会井石哲哉会長 が選出された。

講  演

「超高齢社会における医療体制の確保をめざして」
〜国民医療の視点と日本医師会の取り組み〜
日本医師会 会長 唐澤人

T.超高齢社会における社会保障制度

日本の人口に占める高齢者(65歳以上)の割 合は、2025年に約30%、2045年には約40%を 占めると言われている。

アメリカやドイツなどの欧米諸国に比べ、か なりの速さで超高齢社会に達する見込みである。

日本の国民医療は、低医療費で高度な医療提 供し、かつ、国民皆保険制度である。

現在の少子高齢社会と地域環境は、小児は家 庭に取り残されており、高齢者は地域に取り残 されているのが現状で、我が国の地域力または 家庭力の低下が見られる。

産業・経済と地域医療の関係においては、産 業構造も重工業からIT等の情報産業へ変化し、 労働者も地域や家庭への回帰の方向にあり、地 域医療の重要性が増大している。今後、地域に 着目する時代へとなっていくであろう。

地域医療提供の現況は、小児・産科・救急医 療の崩壊、都市部への人口集中による人口減地 域の地域医療、医師、看護師など専門職の育成 と確保が必要となっていく。

U.地域医療提供体制の展望

医療制度改革の現況として、全て財政削減を 目的とされてきた。国は、毎年約50兆〜60兆 の国債を発行しているなかで、医療は全体で約 13兆といわれており、医療制度が国債を増やし ているとされてきた。

しかし、国民が求める医療と医療制度の現況 は、小児科勤務医の過重労働や医療関係訴訟の 増加等により、小児科・産科医療崩壊が現実と なっている。

実際に小児科を標榜する施設は、10年間で 6 %減少しており、分娩実施施設は10 年間で 27%も減少している。

そのような状況において、国民からは、「産 科医不足や緊急時を考えると次の妊娠は控えた くなる」等の不安の声があがっている。

また、医師の不足と偏在の直接的要因とし て、新医師臨床研修制度や医療訴訟の増加と刑 事訴追があり、本質的要因として、医療費抑制 策、財源手当を伴わない拙速な制度変更、勤務 医の低待遇、女医の増加がある。

OECD加盟国では、先進国のほとんどが人口 10万人対医師数約300人、または、今後医師数 を増加するとの声もあがっているが、日本は未 だ210人程度である。

このように医師不足が叫ばれる中で、「孤独 死」の増加と地域の不安が国民の声としてあげ られており、終末期医療を受けられる場所とし て、自宅と施設を同じくらい望んでいるとの回 答があがっている。一方、患者からすると、自 宅での終末期医療を望む声も高いが、施設での 終末期医療を望む声が上回っている。

さらに厚労省は、2012年度までに38万床あ る療養病床を15万床に削減するという、在宅 での独居老人等に厳しい状況を押し付けてい る。まさに財源優先のみの施策である。

我々は厚労省に対し、2012年度には医療療 養病床26万床、介護療養病床15万床、計41万 床が必要であると主張しており、そうでなけれ ば新たな介護施設等が整備されない場合、医療 難民11万人、介護難民15万人が出てくると主 張している。

V.医療提供機能と医療機能連携

医療機能分化と推進が叫ばれる中で、医療機 能、急性期医療と慢性期医療、医療施設、基本 的医療提供のあり方が問われてきている。

これからは、専門医療を支えつつもプライマ リケア医療を支えながら、地域包括的医療を中 心としたフラットなネットワークの形成が重要 となっていく。

疾病構造の変化と地域医療では、旧来の感染 症の減少と新感染症の克服への取り組みが必要 となってくるが、慢性疾患の増加と疾病予防医 療に重点が置かれつつある。また、家庭の負担 を減少させるといった日常生活重視の医療が重 要で、そのためには、包括的地域医療提供基盤 を形成する必要がある。

医療機能分化と連携を推進していく上で、勤 務医師の不足に対する施策を緊急的・短期的・ 中期的対策をとるほか、診療所医師のあり方と して、「かかりつけの医師」としての機能が必 要ではないかと考えている。

中でも、「総合科」「総合科医」の問題があり、患者から医療機関を自由に選択できる権利 を奪ったり、人頭払いなど、フリーアクセスの 崩壊に繋がるとして、医療が国営路線に近づい ていくのではないかと危惧しており、日医は真 っ向から否定している。

また、国民や患者は、夜間や休日の診療や救 急医療体制の整備や高齢者などが長期入院する ための入院施設、介護老人保健施設の整備、医 療従事者の資質の向上等を望んでおり、それら に対応していく必要がある。

今後の外来医療として、外来診療の現況の分 析と推計値、病院と診療所の必要医師と看護師 数の推計、入院医療・外来医療・在宅医療の連 携が必要となり、有床診療所の機能が今後のあ り方も含めて重要となってくる。

病院医療体制に関しては、体制のあり方の見 直しや医療機関の医療機能連携の推進、外来医 療機能の適正化と外来医療連携を図るなど、院 内外を対象とした基幹病院だけでない専門職研 修の協力体制を強化していく必要がある。

W.医療保険制度の課題と展望

日医総研「第2回日本の医療に関する意識調 査」によると、国民の求める医療保険制度は、 所得に関係なく国民みんなが同じ医療を受けら れるしくみが良い、または、どちらかといえば賛 成が、全体の72.2%を占めている。一方、お金 を払える人は、公的保険以上の医療を受けられ るのが良い、または、どちらかといえば賛成が 16.6%と、2割に達していないのが現状であり、 国民皆保険制度は明らかに支持されている。

しかし、質の高い医療を提供するためには、 医療機関の健全経営は大前提であるが、過去3 回の診療報酬改定はすべてマイナス改定であっ た。特に2002年度と2006年度には技術料であ る診療報酬本体が大幅に引き下げられた。その 結果として、健全な医業経営の維持が困難にな り、地域医療の確保を脅かしている。

我が国の病院、診療所の損益分岐点比率の推 移は、年度毎に増加を辿ってはいるものの、 2007年度における医療機関の倒産件数の年間 推計は67件と、前年度の2倍以上が予測されて いる。

これ以上の社会保障の削減は、生命の安全保障 を崩壊させ、憲法第25条の目的を果たせなくなる。

そのためには、現在の医療費を10%上げるこ とにより、総医療費のGDP にしめる比率を OECD加盟国平均並みの8.8%にする必要がある。

厚労省は2015年度の医療費は44兆円と算定して いる。しかし、日医は、医療費抑制が進んだ場合 の医療費は37.8兆円と推計しているが、それでは 医療が成り立たない。あるべき医療費として44.6 兆円が必要であると主張しているところである。

社会保障制度の流れと見通しでは、2011年度 までに12.1兆円の削減が見込まれており、その 中の医療費は7.8 兆円であると予測している。

また、国・地方を合わせた公費については、 2011年度までに4兆円の公費を削減すると見込 まれており、このような中で国民の医療を守れ ということは、ますます地域医療が崩壊し、国 民はみじめな医療しか受けられない。日医は 5.7%の必要な医療費の引上げを提言しており、 それは最低限の数字であるとしている。

さらに、日医は後期高齢者公費9割の制度と 一般保険は自己負担2割負担を導入し、10年か けて、医療保険の公平化、一元化に取り組むよ う提案している。

そのためには、医療財源確保策と展望とし て、あるべき医療費と新たな財源確保が必要で ある。また、先進国並みの医療費水準を実現す るためには、国家財政全体の見直しに立ち返る ことを提案したい。

詳しくは、国家財政においては、連結国家財 政の視点からの見直しや特別会計改革の徹底。 社会保障費においては、医療費における事業主 負担の見直しや被用者保険の保険料率の公平化 を図る必要があると考える。

その他、消費税の問題については、我が国の 消費税5%は、外国に比べて例外的に低い。家庭の負担を考えるといきなり消費税をあげるこ とはなかなか出来ない。

むしろ、喫煙が発がんの要因となり、呼吸器疾患、心臓・血管病など健康被害が大きく、健康増進と医療費節減のためにも、タバコ税の増 税を提案していきたい。

X.疾病予防と保健事業

生涯保健事業と地域保健事業、がん・生活習 慣病など予防医療の推進、健診・保健指導・母 子保健・乳幼児保健、小児・就学児童および生 徒・現役世代への疾病予防と保健事業、中高年 齢者・高齢者への疾病予防と保健事業等の地域 的取り組みが必要であり、今後、地域の役割が ますます重要になってくる。

Y.日本医師会の取り組み

日医では、生き永らえれば喜ばしい社会、質 の良い医療サービスの確保、心身両面の満足 度、対話と語り合う医療を担って、国民の健康 と生命を守ることが責務であると考える。

そのための医療政策として、グランドデザイ ン2007を提言し、その実現へ向けて取り組み を開始している。