会長 宮城 信雄
みだし合同会議が平成19年11月2日(金)午 後4時から福岡市のアークホテル博多ロイヤル で開催された。同会議は毎年1回輪番制により 開催され、行政と医師会における懸案事項につ いて議題を募り協議が行われる。今回は福岡市 の担当で開催され、「特定健診・特定保健指導 への取組み」と「療養病床の確保」について協 議が行われた。
始めに司会を務めた福岡市保健福祉局総務部 総務課西嶋課長より開会の辞があり、挨拶と して福岡市川副市長から、「少子・高齢化、 制度改革が急速進展する中、福祉や医療を取り 巻く環境は大きく変化している。将来に亘り安 定した保健医療の提供を行っていくためには、 行政のみの力では限界があり、地域医療の現場 で医師会の皆様のお力添えをお願いし、今後の 医療のあるべき姿について議論して頂くことが 不可欠である」とのことが述べられ、引き続き 井石九州医師会連合会長から、「医療制度改革、 関連法の成立により、様々な変革が急激に進め られている。医療提供者として各県行政と連携 をとりつつ、安心かつ安全な社会保障制度の構 築に向けた方策を推進していかねばならない。」 との挨拶があった。
その後、青柳親房九州厚生局長より来賓挨拶 があり、座長を選出し協議が行われたので概要 について報告する。
来賓挨拶
厚生労働省九州厚生局長 青柳親房
皆様には平素より、保健医療福祉をはじめと した厚生行政の遂行にあたり、格段のご支援を ご協力を賜り厚く感謝申しあげます。
我が国の医療は、世界に誇れる国民皆保険制 度の下で世界最高水準の平均寿命を実現し、極 めてアクセスがより高い保健医療水準を実現してきた。しかしながら、日本の医療保険の制 度、医療提供体制、更に健康づくりの面におい て、様々な課題を抱えている。今後、厳しい舵 取りを迫られている。こうした課題を解決をす べく平成18年度9月に成立した医療構造改革関 連法、食生活習慣病の予防や医療提供体制、或 いは医療保険制度に関する大改革を総合的かつ 一体的に行うということで行った改正である が、国民皆保健制度創設以来の大改革であると いうご指摘をいただいている。九州厚生局とし ては、この医療制度構造改革の推進に当たり関 係機関と連携を図ることが肝要であると考えて いるので、何卒よろしくしたい。又、本日の各 県の事情を把握して本省にも伝えていきたい。
以上が事務局で用意したものであるが、折角 の機会であり、今、申し上げた制度改革につい て九州厚生局の考え方、取り組みについて私の 存念も申し述べさせていただきたい。
医療制度構造改革については既にご存知のと おりであるが、私は3つの観点について、でき れば共有させていただきたいと思っている。
第一は、時間軸と一言で申し上げさせていた だきたい。
今回の医療構造改革の中で提示されている問 題は、全てある意味では30年来或いは40年来 の課題ばかりである。即ち、昨日、今日生じた 問題ではないということを大変重く受けとめて いる。一例を挙げると、介護療養病床の課題に ついて、この元を辿っていくと、昭和40年代に 大きな社会問題となった老人病院の問題にいき つく問題である。或いは来年4月に実施される 高齢者医療保険制度についても、昭和48年の 老人医療費の無料化制度というところに端を発 したものが、今日、大改革を迫られている。こ のような原因は、突き詰めて言えば、やるべき ことを、やるべきタイミングにやってこなかっ たんではないかという反省を、厚生行政に携わ った人間として強く感じている。従って、今度 の医療構造改革を今やらずして、先に延ばすと いうことはご出席の関係者全員が、今度は未来 に対して責任を負わなければならない立場にな るということを共通の認識として是非共有させ てもらいたい。
第二に、医療供給、医療保険、そして健康づ くりが相互依存の関係になるということを、今 回の医療構造改革は極めて鮮明に打ち出してい る。私は医療構造改革における三位一体の問題 であると受け止めている。又、これは医療構造 改革という名前を冠しているが、これは医療を 軸にした社会保障の構造改革でもあると重く受 けとめなければならないと認識している。ここ で抽出されたグランドデザインをよく見てみる と、年金は国が中心となってこれを所得補償制 度として進めていく。そして介護福祉の制度に ついては、市町村が実施の責任主体としてこれ を進めていく。一番大事な医療は都道府県県域 というものを中心にして、その仕組みを組替え ていく、そういう大きな社会保障全体のグラン ドデザインの中心をなすものが、この医療制度 改革であるということを是非認識していただき たい。
第三は、財政の問題として構造改革は表裏一 体の問題である。1980年代の土光臨調のころ 国の財政が非常に窮迫しているということをス タートラインとして進められた改革である。当 時の厚生省は財政問題として使いながら長期的 に必要な制度改革を進めている。現に一般歳出 の4割以上が社会保障の関係がある中で、我々 は財政に対して責任があるという立場を主張 し、必要な改革をしていくことが、この構造改 革にも求められていると認識している。
最後に九州厚生局が何をするかという結論を 申し上げたい。
医療の構造改革を都道府県域を中心に位置づ けたわけであるが、そのことは都道府県に努力 して頂かないといけないということであるが、 逆説的な言い方をすると、それだからこそ広域 ブロックでの調整の必要がより高まると考えて いる。即ち、これは国並びに九州厚生局が汗を かくと言うことに外ならないという認識であ る。来年4月から後期高齢者医療制度がスター トする。又、10月から医療保険の指導監査業務が従来の社会保険事務局から厚生局へ移管され るという大きな変革もある。先生方のご指導ご 協力を得て進めていきたいのでよろしくお願い したい。
座長選出
慣例により開催担当市の福岡市保健福祉局 石井局長を座長に選出した。
議 事
佐賀県医師会の提案要旨として、「特定健 診・特定保健指導については、質の担保された 健診事業者によって適切な料金で、統一化され た方法により円滑に受診できる体制が整えられ ることが望ましい。佐賀県ではその実施体制の 整備に向けて関係者で『保健事業の在り方検討 会』を設置し県保険者協議会等に提言や要望を 行っている。例えば、保険者協議会に専門部会 を設置し適切な健診事業者を評価・選定するの こと、その為には専門家の保険者協議会への参 画が必要なこと、特定保健指導を円滑に実施す るには人材確保が必要であり、保健指導支援ス テーション(仮称を)設置すると共に、そこで 保健指導技術の維持向上を図るため研修を実施 する必要があること等を提言している」とし て、各県行政の取組み状況について意見が求め られた。
九州各県の状況については、資料に基づき順 次説明が行われた。
沖縄県の現況として、出席した仲宗根統括官 から「本県においては、今年度からこの医療制 度改革を担当する専門官を配置し、この特定健 診、特定保健指導については国保連合会と一緒 に健診の実施体制について県域ごとに市町村、 地区医師会或いは健診機関等と説明会、意見交 換会を通して調整を図っている。又、それぞれ の地域での特定保健指導の研修会についても県 全体と各地区離島県域ごとに研修会を行ってい る。課題として、現在老人保健事業については 生活習慣病の制度管理委員会を設けているが、 その内容を引き継ぐ形で今後の特定健診の制度 管理の在り方について検討している」との説明 があった。
質疑では、保険者協議会に医師会として3県 (鹿児島、佐賀、長崎)が正式メンバーとして 入っているが、横倉会長よりメンバーとして受 け入れて不都合があるかとの質問が出された。
行政側からの回答として、「特定健診を担っ ていただくので参画していただいた方が良い。 精度管理の面からも専門家としてリードしてい ただきたいと思っており、不都合ということは ない」との説明があった。
青柳局長コメント
・政管健保が来年10月から新たに全国健康保険 協会として独立した組織になり、しかも県単 位ごとに保険料率を決めていくような形に変 わる。いわゆる最大保険者である政管が地域 のために積極的に努力する必要がある。これ まで健康保険協会の組織整備のため動きが取 れなかったこともあるが、これから前向きに動 いていきたいと思っている。又、保険者協議 会にも積極に関わっていきたいと思っている ので、各県の部長においてもオブザーバーと して参加できるようご協力をお願いしたい。
・健康増進法については、タバコのことだけが 取り上げられているが、大事なこととして精 度管理として安全衛生も含めて健診基準も示 されている。特定健診制度が医療構造改革の 柱として出来上がっており、精度管理が現場 で機能するように運営を図ってもらいたい。
・これまで、健診やメタボの数値を管理するこ とが、その後どのように影響するのか事実に 基づいた議論が行われてこなかった。政管健 保が平成11年に健康上のリスクがあった方々 を追跡して、平成18年6月から11月までの間 の医療費を見た場合に、メタボの医療費のリ スクがあった方の医療費が高くなっていることが実証されている。(北海道、長野、福岡3 県のデータ)これを、具体的に根付かせてい く段階にきていると思っているので、現場の 先生方もよろしくお願いしたい。
鹿児島県医師会の提案要旨として、「今秋を目 処に策定が進められている『地域ケア整備構想』 については、療養病床転換意向のアンケート調 査でも転換先の将来の姿が見えない状況下で不 安を抱える会員も多く、在宅医療も整わない中 で、患者の受け皿確保が難しい現状が浮き彫り になっている。いたずらに療養病床が削減され るようなことがあれば、地域医療の崩壊につな がり、ひいては医療難民、介護難民が出てくる ことは必至である。財源論のみでなく中長期的 な展望に立って各県行政と医師会が十分に議論 を尽くす必要がある」として、各県での対応と 具体的な考え方について意見が求められた。
九州各県の状況については、資料に基づき順 次説明が行われた。特に療養病床の数値につい ては、各県とも国から示された参酌基準では非 常に厳しいとの意見が出され、アンケート結果 や地域の実情を十分に配慮して、医師会とも協 議のうえ進めていきたいとの意向が示された。
沖縄県の状況として、仲宗根統括官から「療 養病床の目標数については、後期高齢者の人口 の増加など地域特性に応じた療養病床の確保を 図る考えであり、県医師会とも十分議論する。 現時点で数値について県医師会と調整を進めて いるところであり、離島県でもあり本県の特有 の要因についてどのように加味できるのか、最 終的に詰めていきたいと思っている。」との説 明があった。
質疑では、国が示す数値目標と実態に乖離が あった場合にどのようなことを考えているかと の質問では、仮定の中での話しはふさわしくな いと思われる。ただ、国の参酌標準の話しでは 非常に厳しいとの回答があった。
又、病床を少なくするとした場合、病院と有 床診療所の療養病床をどういう形で少なくして いくのかという質問については、熊本県から、 調査に対する回答から小規模の医療機関におい ては転換の判断に非常に苦慮している状況があ る。特に有床診療所においては規模が小さく、 老人保健施設等に転換する事が困難であり、有 床診療所が可能なモデルを早急に提示してもら うことを国に要望しているとの説明があった。
最後に、横倉会長より各県とも大変苦慮しな がら検討している。財源がないからということ で国の数値目標と非常に乖離した場合、行政の 皆様からは国に対してこれでは地方は持たない ということを主張してもらいたいとの意見があ り、九州厚生局に対しても戦後日本の社会構造 の変化の中で、九州のあり方ということを踏ま えて国の政策決定をお願いしていただきたいと の意見が出された。
青柳局長コメント
一般論として、介護の世界においていわゆる 3施設の類型の問題の整理が進まないというの が背景にあると思う。まず老人保健施設を本来 あるべき機能が果たせるようにして療養型病床 群、老人保健施設、特養等のバランスを図って いく必要がある。又、そういうバランスのとれ た療養環境、介護環境が整った時点でソフトラ ンデイングをしていく必要がある。そこへ今回 の療養病床再編を繋いでいくということを考え ていくことが、今回の問題であると思う。理想 を言えばそういう絵を書きたい。これは自治体 と現場の先生方にお願いしたい。
順番により次回は医師会の担当で、長崎県医 師会が担当することに決定した。
次回開催県として、井石会長から、「全力を 尽くして務めていくので長崎にご来県いただき たい」との挨拶があった。