沖縄県医師会勤務医部会部会長 嘉手苅 勤
去る10月13日(土)沖縄ハーバービューホ テルに於いて、「高めよう勤務医の情熱、広げ よう勤務医の未来」をメインテーマに、日本医 師会主催、沖縄県医師会担当により標記連絡協 議会が開催され、全国各地から381名の参加が あった。
初めに、玉城信光副会長の開会宣言のあと、 唐澤人日本医師会長の挨拶があり、続いて、 本会宮城信雄会長の挨拶があった。
宮城会長は、「メインテーマ『高めよう勤務 医の情熱、広げよう勤務医の未来』は、勤務医 の情熱が更に維持・高揚され、勤務医の未来が 展望できる体制作りを目指してテーマを設定し た。また、近年労働改善が本協議会の大きなテ ーマとして取り上げられていることから、シン ポジウムでは著しく変化する医療提供体制に焦 点をあて、『病院の機能分化について〜勤務医の現状をふまえて〜』と題して各分野からの発 表、討論を行い、喫緊の課題である医師不足や 勤務医の過酷な労働環境等について、その窮状 を国政やマスコミに訴え課題の解決に繋げてい けるよう企画した。」と述べた。
続いて、来賓祝辞として仲井眞弘多沖縄県知 事と翁長雄志那覇市長の代理で當銘芳二副市長 より歓迎のご挨拶があった。
特別講演1として、唐澤人日本医師会長に よる「社会保障制度の視点と医療制度の展望」 〜少子高齢社会における地域医療の将来像〜と 題した講演が行われた。次いで、池田俊彦日本 医師会勤務医委員会委員長から「日本医師会勤 務医委員会報告」があった。
また、沖縄県医師会勤務医部会の報告とし て、本年4月、県内94病院に勤務するフルタイ ムの医師を対象に調査したアンケート結果について、勤務医部会を代表して私から現況報告を 行った。
調査対象医師は1,954人で、そのうち1,062人 から回答(回答率は54.4%)を得た。
調査の結果から大学病院においては、給与お よび福利厚生面での処遇の改善が必要であるこ と。研修病院では、長時間による過重労働や当 直回数が多く、特に管理型研修病院ではその割 合が顕著であること。また、臨床研修指導医に 対する経済的保障が不十分であること。女性医 師の問題は、育児支援体制がない等、困難で劣 悪な労働環境におかれ、早急な支援体制の確立 が必要であること。新臨床研修制度では、プラ イマリケアを重視する若手医師が多く、また離 島医療に興味を持つのは若手医師が多いこと。 医師会はもっと勤務医のための積極的な処遇・ 環境改善に努め、加えて、勤務医に対する広報 活動を強化すべきであることが分かった。
次に、特別講演2では、菊池英博日本金融財 政研究所長より、経済アナリストの視点から日 本の医療問題について講演が行われ、特別講演 3では、高石利博ノーブルメディカルセンター 医療顧問より、沖縄の民間信仰から見たターミ ナル医療との関係について講演が行われた。
シンポジウムは、「病院の機能分化について 〜勤務医の現状をふまえて〜」と題して(1) 厚生労働省の考え方、(2)大学病院の現状(3) 県立病院の現状(4)地域一般病院の現状、(5) 慢性期病院の現状、(6)沖縄県の女性医師の現 状と各分野から発表が行われ、その後、鈴木満 日本医師会常任理事より中央情勢を交えたコメ ントがあった。
佐藤敏信厚生労働省医政局指導課長は、病院 勤務医の過重労働を解消するための勤務環境の 整備について、「交代勤務制」等の導入を進め、 医師の勤務時間の短縮化を図ることや医師の業 務を補助するために、医療補助者の配置を進め ると共に、院内助産師や助産師外来を普及さ せ、助産師の活用を進めることが必要である。 加えて、自治体病院等への財政支援の拡充を求 める。その為には、診療報酬全体の見直しや一 般会計からの補助金等で、勤務医の負担軽減の ための方策が図れないか各方面と協議中である と説明した。
須加原一博琉球大学医学部附属病院副病院 長は、研修医の大学病院離れの影響により、大 学病院における診療、指導体制の弱体化と過重 労働を招いている。現場の教職員は疲弊状態に 陥っており、医療安全面の低下が危惧される。 高度な専門性と幅広い知識・技術習得のための 研修医施設として、大学病院を後期臨床研修の 場に選んで欲しいと述べた。
下地武義沖縄県立南部医療センター・こども 医療センター副院長は、昨年4月に開設した当 院の現状を述べ、沖縄県の小児・救急・周産期 医療を担う立場として、地域医療連携や離島医療支援を推進させながら、県民の医療ニーズが 何所にあるかを念頭に置き調査・分析を行いな がら、両医療センターの機能分化を進めていき たいと述べた。
銘苅晋浦添総合病院副院長は、急性期病院の 医師の過重労働を無くすには、医師を増員させ当 直明けには勤務のない体制をつくり、交代制勤務 が出来る人員を確保する必要があるとし、医師の 生産性を上げるには、コメディカルへの仕事の分 配をはかることで改善される可能性を示唆した。 また、電子カルテへの移行で診断書などの事務処 理の負担軽減が期待されると述べた。
今村義典ちゅうざん病院副院長は、慢性期病 院の方向性として、病院の機能分化に伴い総合 診療科的役割が求められ、慢性期病院は常に地 域医療・福祉と関わりながら地域生活を支援し ていくことが必要であると話した。
依光たみ枝沖縄県立中部病院医療部長は、県 内の女性医師の現状を報告し、育児と仕事の両 立には、育児支援体制の確立や人員補充、長期 離職後の職場復帰システムの構築等が必要であ ると述べた。
その後、行われたディスカッションでは活発 な質疑応答が約1時間にわたり行われた。
協議会の最後に、全国医師会勤務医部会連絡 協議会の総意の下、勤務医の過酷な労働環境の 改善や政府の医療費抑制策の見直し等を求める 「沖縄宣言」が採択された。
引き続き、18時30分から懇親会が開催され、 公務で熊本へ行かれた唐澤人日本医師会長 に代わり宝住与一副会長と本会宮城信雄会長よ りそれぞれ挨拶が行われ、次期担当県藤森宗徳 千葉県医師会長の乾杯のご発声で歓談に入っ た。懇親会は終始和やかな中で歓談され、真栄 田篤彦常任理事の閉会で全日程を終了した。
今回、県内における参加者は68名で協議会 も滞りなく円滑に進められた。参加者の周知方 にご配慮頂いた各地区医師会をはじめ、当日運 営に当たられた役員、座長、シンポジスト並び に関係各位へ謹んでお礼申し上げます。
なお、来年度は千葉県医師会の担当で平成20年11月22日(土)、千葉県浦安市の東京ディ ズニーシー・ホテルミラコスタにおいて開催さ れることになっている。
後日、同宣言文は、日本医師会唐澤人会長 より、福田康夫内閣総理大臣や舛添要一厚生労 働大臣をはじめ、関係各所(計53名)へ送付 し、働かきかけを行った旨ご報告があった。
平成19年度全国医師会勤務医部会連絡協議会
日時 平成19年10月13日(土)10時〜
場所 沖縄ハーバービューホテル
主催 日本医師会
担当 沖縄県医師会メインテーマ「高めよう勤務医の情熱、 広げよう勤務医の未来」
総合司会 沖縄県医師会常任理事 安里哲好
受付 9:00〜10:00
開会式 10:00 沖縄県医師会副会長 玉城 信光
挨拶 日本医師会長 唐澤人
沖縄県医師会長 宮城 信雄来賓祝辞 沖縄県知事 仲井眞弘多
那覇市長 翁長 雄志特別講演1 10:20〜11:05
「社会保障制度の視点と医療制度の展望」
〜少子高齢社会における地域医療の将来像〜
日本医師会長 唐澤人座長 沖縄県医師会長 宮城 信雄
〜〜〜(休憩)11:05〜11:15〜〜〜
報告 11:15〜11:35
「日本医師会勤務医委員会報告」
日本医師会勤務医委員会委員長 池田 俊彦報告 11:35〜11:55
「沖縄県医師会勤務医アンケート調査報告」
沖縄県医師会勤務医部会長 嘉手苅 勤次期担当県挨拶 11:55〜12:00 千葉県医師会長 藤森 宗徳
〜〜〜(昼食)12:00〜13:10〜〜〜
特別講演2 13:10〜14:00
「未来にすくむな日本人」
〜〜日本は財政危機ではない、日本国民のために我々のカネを使おう〜〜
日本金融財政研究所長 菊池 英博座長 沖縄県医師会副会長 小渡 敬
〜〜〜(休憩)14:00〜14:10〜〜〜
特別講演3 14:10〜15:00
「沖縄の民間信仰とターミナル医療」
ノーブルメディカルセンター
医療顧問(理事) 高石 利博座長 沖縄県医師会勤務医部会
副部会長 井上 治〜〜〜(休憩)15:00〜15:10〜〜〜
シンポジウム 15:10〜17:30
「病院の機能分化について〜勤務医の現状をふまえて〜」
座長 沖縄県医師会副会長 玉城 信光
沖縄県医師会勤務医部会委員 城間 寛(1)厚生労働省の考え方 厚生労働省医政局指導課長 佐藤 敏信
(2)大学病院の現状 琉球大学医学部附属病院副病院長 須加原一博
(3)県立病院の現状 沖縄県立南部医療センター・こども医療センター副院長 下地 武義
(4)地域一般病院の現状 浦添総合病院副院長 銘苅 晋
(5)慢性期病院の現状 ちゅうざん病院院長 今村 義典
(6)沖縄県の女性医師の現状 沖縄県立中部病院医療部長 依光たみ枝
コメンテーター 日本医師会常任理事 鈴木 満
沖縄宣言採択
閉会 17:30 沖縄県医師会副会長 小渡 敬
〜〜〜(休憩)17:30〜18:00〜〜〜
懇親会 18:00〜19:30 アトラクション
司会 沖縄県医師会常任理事 真栄田篤彦
開会 沖縄県医師会副会長 玉城 信光
挨拶 日本医師会長 唐澤 人
沖縄県医師会長 宮城 信雄
乾杯 千葉県医師会長 藤森 宗徳
閉会 沖縄県医師会常任理事 真栄田篤彦
印象記
常任理事 安里 哲好
平成19年度全国医師会勤務医部会連絡協議会は381名の参加のもとに、成功裡に終わったこと を関係各位に感謝申し上げる。昨年の6月より実質的な準備をし、勤務医部会役員会4回、実行委 員会を10回行った。かなり早い時期に協議会のプログラムができ、日本医師会勤務医委員会に報 告に行くと、シンポジウムに女性医師の参加を望む意見があり、一方、「沖縄宣言」について述べ ると多くの賛同を得た。今回の協議会は全体において実りある充実した会であったと感じている が、強く印象に残ったのを列記する。
日医会長唐澤人先生(特別講演1)は、医師の地域偏在・科の偏在を超えて、明らかに医師 不足であることを話され、勤務医の過重労働の現状に対しては、早急な医療制度的対策が必要で あることを述べていた。菊池英博先生(特別講演2)は我々を元気づける講演で、日本は財政危機 ではなく政策危機である。日本は官民とも投資不足であるから、政府は社会的共通資本(環境保 全・医療関連インフラ・エネルギー関連)への投資を増やし、民間には投資減税によって投資の 増加を図れば、経済規模が拡大して税収が増加するので、社会保障費を削減する必要はまったく 無いと述べていた。
嘉手苅勤先生(沖縄県医師会勤務医部会アンケート調査報告)は各県で行われる基礎アンケー ト調査に独自の3項目のテーマ(*勤務医と臨床研修制度、*勤務医と離島僻地医療、*医師会 への関係)を追加し、報告していた。週平均の実労働59時間以上は、私立病院(研修病院管理 型)が最も多く79%で、大学病院と国公立病院は65%であった。4週8休は大学病院49.4%、国 公立病院43.1%、私立病院(研修病院管理型)2.0%で、特に私立病院の労働環境はかなり厳しい ものがある。大学病院ではアルバイトをして生活ができている現状は80%で、早急に待遇面を改 善しないと、近未来の医療に貢献する臨床研究がなおざりになり、医師が大学を去っていくので はと危惧するところである。その他、興味ある報告が多くあり、「まとめ」に加えて「エッセンス」 も記載されており、ぜひ、報告書をご一読いただきたい。フロアーから質問したい雰囲気を強く 感じたが、慣例として質問を受けていず、また時間もオーバーしており、質問を受けなかったの は報告の内容が素晴らしかっただけに心残りがした。
シンポジウムは6名の演者の発表後、日医の鈴木満常任理事のコメンを受けて進められた。須 加原一博先生は、沖縄県の初期研修医は制度の前に比べ80名から140名に増えていると述べ、初 期研修は一般病院を選択することは別として、高度の専門性と幅広い知識、技術の習得が必要な 後期研修・専門研修は、大学病院が中心となってできないか、加えて一定期間臨床研究あるいは 基礎研究に従事することは、国際的に評価される優れた臨床能力を養う上で必要不可欠であると 述べていた。下地武義先生は県立南部医療センター・こども医療センターの現状について述べ、 周産期医療の充実、小児心臓血管外科の集学的治療の向上、そして成人の心臓血管外科の手術症 例数も激増し、脳神経外科もERや離島からの患者の受け入れで手術症例の著しい伸びがあると報 告していた。銘苅晋先生は地域医療支援病院やドクターヘリ活動の現状を述べると共に、医師数 や実際の就業時間についての国際比較をし、日本における勤務医の過重労働の現状を述べると同時に、県医師会のデータと自院の現状との比較を行っていた。今村義典先生は病院機能分化と連 携の中で、慢性期病院の立場より、亜急性期病床・回復期病棟の必要性と具体的な活動状況につ いて話され、入院時の患者のゼネラルな再評価が必要であり、その能力が必要とされていると述 べていた。依光たみ枝先生は県内の女性医師の現状を報告し、女性医師が仕事と育児の両立のた めには保育施設を含む同僚・家族のハード面、ソフト面での育児支援体制と復職に向けての再教 育が課題と指摘していた。県内には400名の女医が在住していると思われるが、現在300名前後し か把握していないとも述べていた。
シンポジウムにおいては、フロアーから例年のごとく、今回もたくさんの質問があり、予定時 間を30分もオーバーしたが充分に応えきれていなかった嫌いもあり、松明が煌々と燃え上がる手 前で会を閉じ、「沖縄宣言」に移ったのは多少不燃焼気味であったと感じるところである。しか し、全国医師会勤務医部会連絡協議会において、素晴らしい「沖縄宣言」を採択できたことは記 念すべき1ページであったと記したい。
印象記
沖縄県医師会勤務医部会委員(豊見城中央病院) 城間 寛
それは昨年、11月3日から始まった。勤務医部会担当理事の安里先生から、埼玉で開かれる勤 務医部会の全国大会に参加してこようと声をかけられ、気軽に参加を同意したところから始まっ た。「医師会の行事で勤務医部会の全国大会があるので、雰囲気を見るのもいい事だよ」との言葉 に、気軽に考えて、埼玉への旅を同行する事になった。初めての参加で、特に発表するわけでも ないので、プログラムを見ながら、進行を見守った。ところが、いざ協議会が始まり、色々な報 告や、シンポジウムが始まると、それまで安易に考えていた事が吹き飛んだ。沖縄ではまだそれ ほどでもないと思うが、全国的には医療崩壊が想像以上に深刻で、悲鳴とも聞こえるほどの報告 が相次ぎ、現場で苦悩している姿が鮮明に伝わってきた。特にシンポジウムの質疑応答では、こ れまで勤務医部会自体が勤務医の置かれている現状をあまり問題視してこなかった事への反省や、 日本医師会に対して、もっと窮状を改善する対策を講じて欲しいという要望が出るなど、医師会 の中での勤務医部会の立場の微妙さが表れる一幕もあったが、会は非常に盛り上がりを見せた。 私も、気楽に参加する予定だったが、その気持ちは吹き飛んでしまった。
その後、安里先生から、来年は沖縄で開催するから頑張ってくれよ、と言われた時には、しま った!と思ったがもう後には戻れない。そのときから平成19年10月13日は特別の日になってしま った。埼玉で盛り上がったあの熱気を、絶やさずにさらに広げるにはどのようなプログラムを組 めばいいのだろうか、講演の人選は、どうすればいいだろうか、1年もあると言う気持ちと1年し かないと言うあせった気持ちが同居しながらこの1年は過ぎた。例年勤務医に対するアンケート調 査をしているが、ただありきたりのアンケートではなくて沖縄独自の内容を組もうではないか、と 言うことになり、研修制度に関する項目と、離島県沖縄ということで、離島診療に対する項目を取り入れた。おかげさまで、1,000人余の勤務医の先生方からアンケートに対する回答を頂くこと が出来た。
また、シンポジウムの内容も、沖縄事情を反映して、“卒後臨床研修”にするか、“病院の機能 分化”にするかで意見が盛り上がったのだが、全体的に見て、“病院の機能分化”が適当だろうと いう事にまとまり、そのタイトルで行うこととなった。現在、医療を取り巻く状況は厳しく、機 能分化といっても決った形があるわけでもなく、病院の生き残り、医療の質の向上と、勤務医の 環境改善のために、機能分化をどう捕らえるか、また女性医師の職場環境の向上を目指して発表 していただくことになった。
前置きが、長くなったが、このようにして10月13日を迎えた。全国から300人余、県内からも 多くの医師会関係者の参加がある中で、当地担当で平成19年度全国医師会勤務医部会連絡協議会 が始まった。内容については、また別に報告があると思うので、詳しく述べないが、それぞれ得 るものがあったかどうか、それは参加者各人の評価に委ねたいと思う。ただ一つ、強く感じたの は、“今、勤務医の状況改善のためには、与えられるのを待つのではなく、良い状況を作り上げて 行くことが必要だ”と言うことである。また、今回、勤務医部会の委員の先生方と親しく議論す ることが出来ましたことは、私にとって大いなる収穫であり、この場を借りて感謝申し上げます。
懇親会風景