沖縄県医師会 > 沖縄県医師会の活動 > 医師会報 > 10月号

臓器移植推進月間(10/1〜10/31)
−献腎移植について−

新垣義孝

沖縄県立中部病院 泌尿器科 新垣 義孝

はじめに

日本の透析患者さんは毎年増加の一途をたどって26万人を超えています。沖縄県では透析患者さんが3,800名以上になりました。透析治療にかかる費用は約1兆2千億円になっています。この金額もさることながら、透析では実際さまざまな不便が存在します。血液透析では週3回、1回で約4〜6時間要し、また食事制限や旅行の制限など生活の質が著しく損なわれます。この不都合を解決する有効な手段として腎移植があります。腎移植は心臓移植や肝臓移植などと違って救命というのではなく生活の質の向上が目的です。腎移植には亡くなられた方から腎提供していただく献腎移植と、身内から腎提供していただく生体腎移植があります。いずれの腎移植も手術の術式に違いはありません。機能が廃絶し萎縮した自己腎は通常は残したまま、移植腎を腸骨窩に移植しますので、3個の腎臓があることになります。本来、健康な方にメスを入れて腎臓を提供していただく生体腎移植よりも亡くなられた方から提供していただく献腎移植が望まれます。日本では年間約1,000例の腎移植が行われていますが、献じん移植は200例ほどというのが実情です。

県立中部病院ではこれまでに150例の腎移植が行われ、そのうち献腎移植は46例でした。献腎移植の比率が比較的高くなっています。腎不全の原因の多くは糖尿病、高血圧、腎炎です。糖尿病や高血圧は予防や治療が可能ですので腎不全にならないように啓蒙活動や教育活動が必要です。

献腎移植の実際

では、献腎移植はどのように行われるのでしょう(表1)。

表1

表1

まず、献腎移植を希望する患者さんは必ず日本臓器移植ネットワークへ登録しておく必要があります。腎移植ができるための条件は悪性腫瘍がないこと、感染症がなく、手術に耐えられることです。献腎はある日、突然に連絡がきます。腎摘出チームは外来や手術の最中に連絡が入ることもありますので、外来や予定手術を中止して提供病院に摘出用機材を持って出かけることになります。その間に血液型や組織適合性の程度によってコンピューターが自動的に登録した患者さんの中から数名を選びます。その中から希望や健康状態をクリアした方に腎移植を行います。

腎臓は30分間血液が止まると、組織がだめになります。ですから、心停止の直前に体内還流用のカテーテルを大動脈と大静脈に挿入しておきます。心停止後に4℃の還流液を流して腎臓を脱血するとともに冷却します。冷却還流すると約24時間温存可能です。この間に、移植希望患者さんの健康チェックや手術室や病棟の手配、また必要なら術前に血液透析を行って移植手術に臨みます。めまぐるしい一日です。摘出チームが引き続き移植を行うとなる場合は、時に30時間以上不眠不休で対応することになります。摘出チームは時に数日間提供病院に待機せねばならないこともあり摘出チームの医療スタッフや病院のみならず提供病院の医療スタッフにもかなりの負担がかかっているのが日本の献腎移植の実情です。献腎移植を進めるにあたって改善されるべき課題です。提供された腎臓が血栓形成や感染などによって移植に適さないことが判明した場合は移植手術が途中で中止となることもあります。移植手術のあとは2〜3ヶ月間は特に拒絶反応や感染症に注意が必要です。この時期を過ぎるとほとんど安定します(図1)。亡くなった方から提供された弱った腎臓ですので、腎機能が回復するまでに2〜4週間の血液透析が必要です。時に腎機能が回復せず移植腎を摘出せざるを得ないこともあります(表2)。移植は拒絶反応などの、まだ十分に究明されていない事象のため100%の成功率ではないのです。このため、移植腎が拒絶反応で温存困難な場合は移植腎をあきらめて透析に戻る覚悟も必要です(表3)。

図1

図1

表2

表2

表3

表3

表4

表4

表5

表5

表6

表6

献腎移植を希望する場合の備えを表4に示します。

献腎移植は脳死判定をしなくとも心停止下なら、臓器提供意思カードは必要ありません。参考までに法的脳死診断と臨床的脳死診断を表5に示します。

献腎移植で提供できない場合を表6に示します。ようするに、感染症や癌がないことが重要です。

献腎移植希望者の優先順位の選択基準を表7に示します。点数の高い方から優先的に移植が行われます。献腎移植は提供のあった地域で点数が高くなっています。心停止下の手順を表8に示します。

表7

表7

表8

表8

献腎の手術の実際を図に示します(図2、図3)。左の図は心停止前に大動脈と下大静脈にカニューレを挿入し還流の準備をした状態です。心停止後に冷却した還流液で腎臓を還流します。献腎の摘出手術に際しては腸管を損傷することなく両側腎を一塊として摘出して大動脈を切り開いて内面から動脈の本数を確認して、左右腎を別々に冷却液に保存して搬送します。

図2

図2

図3

図3

腎提供者が出たときの移植コーディネーターと沖縄県から委嘱され献腎移植に関与する移植情報担当者の動きの流れが図4です。ご家族から献腎移植について申し出があるか、あるいはご家族に選択肢を提示することが献腎移植の始まりです。

図4

図4

献腎移植、特に心停止下での腎提供は法的脳死判定は必要としていません。本人または家族の希望で腎提供が可能です(図5)。

図5

図5

沖縄県民と腎移植

130万沖縄県民の中から毎年200名以上が透析に導入され、増え続けています(図6)。腎不全の原因は糖尿病、高血圧、腎炎です。だれでも、腎不全となる可能性はあり、実際のところ他人事ではないのです。多くの方が慢性腎不全を自分自身に関係した問題だと認識することは大切なことです。ぬちどぅ宝、という言葉があります。献腎を通して助け合う輪が広がることを期待します。

図6

図6

参考文献
1)臓器保存シリーズ33 当施設の献腎摘出方法 新垣義孝 Organ Biol Vol.13,No.4, Page411-418 2006.12.10