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身の病は、人類文明の心の病か?
老人介護からみえてくる生活習慣病

山城竹信

勝山病院老人内科 山城 竹信

秦の始皇帝は不老不死の薬を求め徐福を日本 へ使わしたと伝えられている。人生の道のりで 大病を患うことなく、死を迎えられたら、大 方、親からいただいた自身の肉体に感謝するも のだ。長生きを誇りにしていた沖縄は暖かくて 住みよい島なので全国から羨ましがられるよう である。沖縄県人として気高く生きるべきであ る。今、かかわっている仕事は、脳、心臓、肺、 消化器などの疾患を患って寝たきり状態に近い 70〜90才代の方々のケアーを中心とする病院 での勤務である。そのように病んだ方々の病歴 をみてみると、多くは40〜50才代に肥満、高 血圧、糖尿病などを含むメタボリック症候群や 癌や脳神経疾患などの様々な病気の芽が噴出し はじめている。

太っている人、痩せている人、神経質な人、 気難しい人といろいろなタイプの人とかかわり ながら医療にたずさわっていると、よりよく人 生を生きるにはカルテをとおして個々の生活史 をのぞき、単にくすりの処方にとどめるのでは なく、人生における病という生活史から未病へ の道をサポートする話を心がけることで、先々 要介護を防ぐ一つの助けになるのではなかろう かと考える。

「人は生きたようにしか死ねない」とよく言わ れる。つまり人生には生きる手本が必要であり、 その最も身近な存在が親で、その生き方の良し 悪しから、すべてを学び、子供や孫へその意を伝 えることで自分自身が変わり成長してゆくことに なる。人生において子供と老人の病気は多くの 人々の看護が必要とされる。医療の貧困さは制 度として修正されるべきであり、現実の病は、医 師をはじめとする医療スタッフの手を借りると共 に身内または知人友人の支えを受けて自身の強 き心で立ち向かってゆくべきものと思う。

団塊の世代は美しき国をつくるために社会を 円滑に動かし発展させるための知的技術や精神 的財産を後輩へ教えてゆく責務があると思う。 これも師弟である。小説「宮本武蔵」を書いた 吉川英治は「我以外、皆我が師なり」と語った と耳にしたことがある。人生すべて師弟でなり たっている。

その究極が親子という師弟であろう。団塊の 世代は、親の恩を忘れてはいけない。特に介護 の世界はその最たるものである。意思の疎通を 欠くような状態の寝た切りの親であっても、命 とは何なのか、生きる、または生かされるとい うことは何なのか、ということを考えさせても らえる時間のゆとりを介護する人に与えている のかもしれない。

この介護の体験は団塊の世代が子供や孫たち に伝えてゆくべき「チムグクル」であり、現実 の競争の世界でも決して失ってはならないもの である。美しき国をつくるための法律の整備と ともに、人間社会の繁栄の礎としてあるべき規 範を、すべてに恵まれた王子である「釈迦」は あえて難行苦行の実践の末、悟った法華経(人 生すべてにありがとうという意味とのことらし い)を涅槃に至る中で弟子に伝えている。仏心 で語られる「抜苦与楽」の心を介護という体験 で勝ち得たときの「自らの命の喜びのエネルギ ー」として子や孫へ伝授すべき「心の財産」に なるのであろう。そして、現代のすさんだ世の 中で四十代から団塊の世代といわれる方々が文 明病としての生活習慣の改善を地道な戦いによ って勝ち取ることで未来を明るくする第一歩に なるものと思われる。

図 介護の人的サイクル

週刊ほーむぷらざ 第979号(2006.2.23)
「キラリ!女性のWorkスタイル」より転載