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第39回九州地区医師会立共同利用施設連絡協議会

金城忠雄

理事 金城 忠雄

去る7月7日(土)・8日(日)の2日間に亘 り、ホテルニュー長崎において、長崎市医師会 主催によるみだし協議会が開催されたので、そ の概要について報告する。

7日の1日目は、諸岡久夫連絡協議会長(長 崎市医師会長)から歓迎の挨拶があり、日本医 師会長(代理 今村常任理事)並びに九州医師 会連合会会長の井石会長から来賓祝辞が述べら れた。続いて、今村日医常任理事より「特定健 診・特定保健指導における医師会共同利用施設 の活用」と題して基調講演が行われた。その 後、施設長会・事務長会・技師長会等が行われ た後、懇親会が盛大に催された。

翌日8日の第2日目はシンポジウムが行われた。

基調講演
演題「特定健診・特定保健指導における医 師会共同利用施設の活用」
日本医師会常任理事 今村 聡

特定健診・特定保健指導については、厚生労 働省がこれだけ大きな制度改革をやったことが ないというぐらいの大きな改革である。関係し ている局も、健康局、保険局、労働基準局、老 健局の4局が関わっている。しかしながら、行政 の縦割りの為に、いろんな問題が残ったまま法 律が出来ており、現場の先生方にこれから大変 な負担が掛かるだろうと予想されると説明があ り、パワーポイントを使用して講演が行われた。

○現行の各種健診

制度改革の説明に入る前に、各種健診の現状 から理解してもらいたい。

・「老人保健法」の中で、市町村が40歳以上 の基本健診を行っている。

・「医療保険各法」の中で、健康保険組合が健 診等の努力義務ということで行っている。

・「労働安全衛生法」の中で、事業主が義務で 一般健診を行っている(上乗せ健診、人間ド ックを同時に実施する場合がある)

・「介護保険法」の中で、市町村が65歳以上 について、生活機能評価ということで行われ ている。

・「法律に基づかない事業」の中で、市町村が 40歳以上に胃がん・肺がん・大腸がん検診、 40歳以上女性に乳がん検診、20歳以上女性 に子宮がん検診を行っている

・「老人保健法」の中では、市町村が歯周疾患 検診、骨粗鬆症検診、肝炎ウィルス検診を行 っている。

このような健診が地域の中で行われているも のであるが、それぞれの自治体が独自に行って きたというのが実態である。

○平成20年以降の各種健診

今回の医療制度改革関連法により、老人保健 法が「高齢者の医療の確保に関する法律」に改正 された。この高齢者医療確保法の中で、「特定保 健・特定保健指導、データ管理」は医療保険者に おいて実施することが義務化された。市町村では 医療保険者として国民健康保険、職場では、共済 組合や健康保険組合などが実施主体となる。

なお、労働安全衛生法に基づく「職場健診」 はこれまでと同様に事業主に義務づけられる。 職場健診に特定健診項目が追加される。

○医療制度構造改革のポイント

将来の医療費の伸びを抑えることが重要だと している。今回の改革のポイントは3つで1)健診・保健指導にメタボリック・シンドロームの 概念を導入。2)糖尿病等の生活習慣病有病者・ 予備軍25%の削減目標を設定。3)医療保険者 に健診・保健指導を義務化したことである。

1)メタボリック・シンドロームの概念導入につ いて

メカニズムを理解すれば、保健指導で予防が 可能になる。

保健指導の対象者が明確になる。内臓脂肪の 改善で予防できる対象を絞り込むことができ る。リスクに応じて保健指導に優先順位をつけ ることができる。

腹囲という分かりやすい基準により、生活習慣 病の改善による成果を自分で確認・評価できる。

2)糖尿病等の生活習慣病有病者・予備軍25% の削減目標について

25%削減の目標を達成するためには、標準的 な健診・保健指導プログラムを作成し、健康づ くりのための運動指針等ポピュレーションアプ ローチを充実させ、国民に分かりやすい学習教 材を開発することになった。

標準的な健診・保健指導プログラムは、1)健 診の標準化、2)保健指導の標準化、3)データ分 析・評価の標準化をする。健診の標準化について は、健診項目、判定基準の標準化により保健指 導の対象者を客観的に絞り込むことができる。健 診データの電子的提出様式を標準化する。保健 指導の標準化については、階層化基準の標準化 により保健指導の対象者に優先順位をつけること ができる。保健指導データの電子的提出様式を標 準化する。データ分析・評価の標準化について は、保健指導の成果を客観的に評価できる。

3)医療保険者に健診・保健指導を義務化について

40歳〜74歳の被保険者・被扶養者が対象で あり、40歳未満、75歳以上は努力義務である (75歳以上は後期高齢者医療制度で対応)。対 象者を明確に把握でき、健診未受診者を把握 し、発症予防できる。

健診・保健指導をデータ管理する。レセプト と突き合せすることにより医療費との関係を分 析できる。治療中断者、治療未受診者を把握 し、重症化を防止できる。

特定健康診査等実施計画を策定する。健診実 施率、保健指導実施率、メタボリック・シンドロ ーム該当者・予備軍の減少率を明記。後期高齢者 医療制度への支援金の加算・減算に反映させる。

○内臓脂肪型肥満に着目した生活習慣病予防の ための健診・保健指導の基本的な考え方

老健法に基づく基本健康診査と保健指導の目 的は、個別疾患の早期発見・早期治療であった が、これからの健診・保健指導は内臓脂肪型肥 満に着目した早期介入・行動変容へと大きく変 る。これまでは健診結果の伝達、理想的な生活 習慣病に係る一般的な情報提供であったが、対 象者が代謝等の身体のメカニズムと生活習慣と の関係を理解し、生活習慣の改善を自らが選択 し、行動変容につなげることになった。

○標準的な健診・保健指導プログラム

・特定健康診査の項目は、質問票(服薬歴、喫煙 歴等)、身体計測(身長、体重、BMI、腹囲)、理 学的検査(身体診察)、血圧測定、血液検査、検 尿を必修項目とする。心電図検査、眼底検査、 貧血検査は詳細な健診項目として、一定の基準 の下、医師が必要と認めた場合に実施できる。

・保健指導対象者の選定については、ステップ1 (内臓脂肪蓄積に着目してリスクを判定)〜ス テップ4の流れで対象者を選定する予定である。

・標準的な保健指導プログラムについては、生 活習慣病の予備軍に対する保健指導を行う。 対象者ごとの保健指導プログラムは、保健指 導の必要性ごとに「情報提供」、「動機付け支 援」、「積極的支援」に区分する。又、各保健 指導プログラムの目標を明確化する。

情報提供:健診結果の提供にあわせて、基本 的な情報を提供する。

動機づけ支援:医師、保健師又は管理栄養士 の面接・指導のもとに行動計画 を策定し、生活習慣の改善のた めの取り組みに係る動機づけ支 援を行うとともに、計画の策定 を指導した者が、計画の実績評価を行う保健指導。

積極的支援:医師、保健師又は管理栄養士の 面接・指導のもとに行動計画を 策定し、生活習慣の改善のため の、対象者による主体的な取組 に資する適切な働きかけを相当 な期間継続して行うとともに、 計画の策定を指導した者が、計 画の進捗状況評価と計画の実績 評価(計画策定の日から6ヶ月経 過後に行う評価をいう)を行う。

○特定保健指導の実施者

・特定保健指導実施者のうち保健指導事業の統 括者は医師、保健師、管理栄養士である。

・1)初回面接、2)対象者の行動目標・支援計画 の作成、3)保健指導の評価に関する業務を行 う者の範囲は、医師、保健師、管理栄養士、 そして一定の保健指導の実務経験のある看護 師としたら、看護課の猛反発があり、看護師 は5年間に限ると条件つきになった。

・特定保健指導の実施者の範囲とは、医師、保 健師、管理栄養士の他、食生活、運動指導に 関する専門的知識および技術を有する者をい う。例えば、健康運動指導士、THP指針に 基づく運動指導、産業栄養指導、産業保健指 導担当者等である。

○標準的な健診・保健指導プログラム確定版に おける健康スポーツ医の位置づけ

第3章 保健指導の実施(基本的事項−保健 指導の実施者)の中で、「なお、医師に関して は、日本医師会認定健康スポーツ医等と連携す ることが望ましい」としている。

また、(委託基準−基本的考え方)の中で、 「保健指導として運動を提供する施設について は、日医認定健康スポーツ医を配置、あるいは 勤務する医療機関と連携するなど、安全の確保 に努めることが必要である」との書き込みにな っている。

○標準的な健診・保健指導プログラム確定版に おける産業医の位置づけ

委託基準−基本的考え方の中で、「保健指導対 象者が勤務する事業者に保健指導業務を委託する 場合は、その事業者の産業医が中心的な役割を担 い保健指導を実施することが考えられる。」また、 「産業医の選任義務のない小規模事業場の労働者 に対しては、日頃から、地域産業保健センターに 登録された産業医等が中心的に産業保健サービス を提供していることから、こうした産業医が勤務 する医療機関等が、小規模事業場の労働者等に対 して、特定保健指導を実施できるようにすること が望まれる」との書き込みになっている。

○医師会の健診・保健指導の受託パターンとそ の準備

・特定健診の費用の考え方として、医療機関が 必修項目を個別方式で、診療報酬をもとに試 算したもので、価格は7,461円となっている。

・特定保健指導の費用の考え方として、必要な 資源の提供に係る経費して試算したもの(人 件費、設備費、通信費、材料費、評価のため の血液検査費を含む)で、価格は1人当たり 21,544円となっている。(「第6回 保険者に よる健診・保健指導の円滑な実施方策に関す る検討会」に対して積極的支援の価格として 提示されたもの)

・なお、事業者団体の独自の支援パターンによ る試算は18,709円で、特定健診・特定保健指 導の実施に関するアンケート調査からの試算 は、動機づけ支援が7,000円〜12,000円、積 極的支援が30,000円〜60,000円の価格が示 されている。

・受託パターン例としては、診療所や病院が、 特定健診・保健指導を行っても良いし、健診 だけを行い、医師会検査・健診センター等他 の機関に指導をお願いしても良い。また、医 師会検査・健診センターが特定健診・保健指 導を行っても良いし、健診だけを行い、運動 施設等他の機関に指導をお願いしても良い。

・特定保健指導を地域医師会が受託した場合、 「共同利用施設活用型」という。今後、医師 会共同利用施設が取り組んで行くにあたって の準備について、日医総研が「特定健診・特 定保健指導の共通業務」、「特定健診の管理業務と実施業務」、「特定保健指導の管理業務と 実施業務」等機能別に分けた表が示されてい るので、活用いただきたい。

○特定健診の契約関係と健診結果の送付先

市町村や市町村国保(国保加入者)について は、医師会と契約を結び、健診結果を市町村へ 送付する。

被用者保険(政管健保、組合健保、共済組合 等の被保険者、被扶養者)については、都道府 県の代表保険者に連なって、医師会と集合契約 を結び、データは支払基金を通して、それぞれ の組合へ送付する。

○特定保健指導の契約関係と健診結果の送付先

特定健診と同様な契約になると思う。但し、 健診は1ヶ所で行うが、保健指導の契約は、必 ずしも1ヶ所で行う必要はない。いろんな機関 と契約するというパターンがある。

○特定保健指導受託の作業工程

これから、国保・健保等における特定健診受 診者数の推計(年間)、特定保健指導対象者の 推計(年間)をしていかなければならない。

それぞれの保険者が2012年度までに健診受 診率を参酌標準で65%まで持って行くために計 画し、5年間で徐々に増やしていく。そうする 事で、動機付け対象者、積極的対象者も増加す る。こういう計画を地域の中で、きちんと考え ておく必要がある。

○決済について

・健診・保健指導機関はデータや請求を電子的 媒体にて行う(オンラインではない)。

・フリーソフトが厚生労働省より提供される(ソ フトは完成していない。現在進行中である)。

・データの受け渡しは支払い基金、代行機関が 関与する。

・なお、参考までにフリーソフトの流れを説明 すると、保険者が健診についての「受診券」 を発行し、利用者の被保険者に送る。健診で きるリストがあるので、それに基づき被保険 者は受診する。健診機関でリストが出ると、それを支払い基金等に送付され、更にデータ は保険者に送付。健診結果に基づいて、保健 指導対象者を決定し、「利用券」を発行する 流れとなっている。

・代行機関については、集合契約方式により、 特定健診・特定保健指導の実施を行う場合、 健診等結果の収集、請求・支払業務等、膨大 な事務量となるため、保険者による円滑な健 診・保健指導の実施を図るため、この事務等 を代行する機関が必要と考えられる。

○医療保険者との契約について(被扶養者)

健診機関の全国組織と代表医療保険者(健保 連等)が健診委託契約を結ぶパターンがある。な お、被扶養者について、全国にある健保連と日本 医師会が集合契約を結べないかという話を進めて いる。そうすれば、健保組合等の被扶養者は地元 の健診機関で健診を受けることができる。

○市町村における各種健診の連携について(保 険担当課等に執行委任)

住民に対して従来実施してきたがん検診等に ついて、厚生労働省の指導により、地域住民に 一体的な提供をするために「実施取りまとめ部 局」を設置する予定である。今後、医師会はこ の部局と交渉することになる。いろんな自治体 の関係部署を同時に呼び、話し合いをする事が 重要である。

○国保ヘルスアップモデル事業について

国が指定した市町村が実施主体となり、高血 圧、糖尿病等の生活習慣病予備軍に対する個別 健康支援プログラムを3年かけて開発・実施・ 評価してきた。

今回、国保ヘルスアップ事業の実績を踏まえ た、特定保健指導を核とした市町村国保におけ る保健事業実施のための手引書を発行している ので、参考にしていただきたい。(医師会も関 与している)

○今後の課題

・保険者と健診、保健指導機関の契約準備(単 価の設定、事業実施地域の検討等を前提)

・従来の健診との整合性(項目、費用、体制) を行政と検討

・健診機関、保健指導機関における体制整備 (人材の養成等)

・契約締結

・要治療者の受け皿

印象記

理事 金城 忠雄

平成19年7月7日(土)・8日(日)長崎市医師会主催の第39回九州地区医師会立共同利用施設 連絡協議会に参加した。九州各県医師会立施設代表が500名以上集まり、熱心なディスカッショ ンがなされた。

メインテーマは、平成20年4月から施行される「共同利用施設における特定健診・保健指導の 対応策について」の基調講演とシンポジウムである。

まず、「特定健診・特定保健指導における医師会共同利用施設の活用」と題して日医本部からの 今村聡常任理事の基調講演を拝聴した。

今度の医療制度改革の目的は、ひとえに国民医療費の伸びを抑制するためである。

厚生労働省の過去最大の改革であり、健康局、保険局、労働基準局、老健局の4局に関わり、 法律は成立しているが、具体的な対策は調整進行中との事。

医療制度構造改革のポイントは

1.誰にでも分かる腹囲を基準に内臓脂肪型肥満(メタボリックシンドローム)の概念導入

2.糖尿病、心脳血管病等生活習慣病予備群の管理

3.医療保険者に健診・保健指導の義務化

・40〜74歳を対象に健診データの管理と保健指導

要約すると「糖尿病や心脳血管病等の生活習慣病を予防に関して特定の健診」と、その健診 の結果から「健康保持のため特定の保健指導」の実施を義務づけたことにある。

・特定健診・特定保健指導の実施者について

統括者は医師、保健師、管理栄養士が担当する。

保健指導実施の業務は、一定の保健指導実務経験のある看護師にも当たらせるとしたところ、 看護課の猛反発があり、看護師は、5年間に限るとの条件付になった。保健師が充分おればいい のだが、看護師の活用ができないのなら、今村常任理事の危惧しているように保健指導者スタ ッフ不足が気がかりである(産婦人科における助産師不足の例にならぬよう)。
保健指導の中に日本医師会認定スポーツ医や産業医と積極的に連携して活躍の場を求められる。 全般的な印象として、現在のところ厚生労働省、保険者も医師会等の「特定健診・特定保健指 導」を受託する私供も手探り状態である。法律は出来ているので、確実に「特定健診・特定保健 指導」の準備はせねばならない。

厚生労働省から提供予定になっているデータのフリーソフトや費用などまだ決まってはいないため、 実施機関すなわち私ども医師側の具体的な対応のための準備、試行錯誤がしばらく続きそうである。