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宮古島に来て思うこと

上原真理子

沖縄県宮古福祉保健所
上原 真理子

昨年の4月、4年間居た中央保健所からの異 動で、宮古への単身赴任となりました。初めて の離島勤務、初めての単身赴任と、初めて尽く しでしたが、離島とはいえ大きいこと、開けて いて大きなサンエーやブックボックスがあって 嬉しかったのを覚えています。しかも、美しい 海と空に加えて、人情の島であること。ギブ、 ギブ、ギブで、もてなし上手。恐れていたオト ーリが、ちっとも怖くないのに拍子抜けしまし た。「飲めない」ことにしようと、固く決心し て赴任したのですが、そんなに思ったほどの頻 度ではなく、また、例えオトーリを回す時も、 強制ではない(量も種類も)ので、とても安心 しました。

ただ、健康診断業務(北部以外の本島では平 成18年度からやっていませんが)を担当する時、 飲酒の機会について問診すると、「毎日」とか 「週5〜6回」という男性によくお会いします。そ の代わり、家で晩酌する方はなかなかいません。 皆、明るく楽しく付き合い酒でコミュニケーシ ョンをとっておられます。でも、宮古も肥満の率 が高く、メタボ対策や糖尿病対策は非常に大き な課題です。ですので、当福祉保健所では2年前 から、「オトーリ・レッドカード」「オトーリ・イエローカード」を作成して、ドクターストップの 方や下戸あるいは肝機能低下の方に発行すると いう活動を実践しています。3ヵ月後に、カード の使用経験や使い勝手など電話でインタビュー させてもらって評価・改訂しております。お酒 そのものが悪い訳ではないですし、本人の体調 によっては断ってもいいのだという風潮が形成 されつつあり、そういった意味で貢献できたので はないかと考えています。

さて、宮古に来て知ったことがあります。地 下水が飲料水の水源になっているということで す。だから、水を汚さないための環境保全は重 要な業務となります。保健所は産業廃棄物の業 務も持っていますし、不法投棄防止についても 市町村と一緒に取り組みます。沢山の一般ごみ や家電等が原野・海岸に放置されているのを見 るのは辛いことです。5月30日は「ごみゼロの 日」ということで、不法投棄防止一斉パトロー ルも毎年、関係者と一緒に実施しております が、禁止の立て看板のすぐ傍に多くの不法投棄 物を見ると暗澹たる気持ちになります。とうと う今年度から監視カメラ設置の予定となってお ります。自分で出したごみが自分の飲み水に影 響しないように、自己完結型の循環型社会の実 現こそ、宮古での最重要課題であると認識して おります。

また一方で、保健所という所は平成13年よ り「健康危機管理の拠点」とされておりますの で、全国では地震災害や和歌山砒素カレー事 件、白い粉事件、SARS、高病原性鳥インフル エンザなどでよく知られたと思います。宮古で は、平成15年の台風14号(最大瞬間風速78.1 メートル)や0−26感染症などが代表的かと思 います。SARS騒ぎの折は検疫所がないので、 保健所が肩代わりをして台湾のクルーズ船の検 疫に当たったこともあります。黒子として黙々 と業務に励んでいる姿は、なかなか外からは窺 い知ることができないでしょうが、冬場のノロ 対策もかなり時間を取られています。24時間・ 365日体制で、何か発生すればすぐ動くように 連絡網と要員を整備しております。北部での麻 疹持ち込みの患者から、約1,000名の接触者調 査をして封じ込めた北部福祉保健所の頑張り は、記憶に新しいと思います。

最近では、医療制度改革という医療費削減の ための大きな制度変更に向けて、福祉保健所と して「医療難民」「介護難民」を作らないため の最大限の働きをしようと動いています。これ までの健診のあり方を変えて、効果的にできる 支援をすること。在宅に向かって、療養病床の 転換に見合うだけの受け皿を整備できるのか? 国の言う「切れ目のない」医療を提供できるよ うに調整すること。疑問・煩悶と使命感の狭間 で揺れながら、それでも地域住民・県民が困る ことのないように動こうと考えて、作戦を練っ ています。

小児救急の問題も、8割が軽症で、その3割は 受診不要であったというデータがあります。少 子化と核家族化が止まらない今日、育児不安や 孤立無援による不安が大きな割合を占めると思 います。県医師会でも小児救急に関するシンポ ジウムなど様々な取り組みをなさっていますの で、是非、そこへ地域住民と保健分野を組み込 んで頂けたらと思います。受診すべきかどうかの 医学知識も大事ですが、経験者が傍にいて明日 まで待てる、あるいは一緒にすぐ受診する協力 者の存在も大切です。医療費も下げたいですが、 小児科医が倒れないためにも、そういった当事 者を含めた話し合いを進める必要があると思い ます。それで、平成13年に立ち上がった「はし か“0”プロジェクト委員会」も、予防接種全般 の底上げを目指した方向性で活動を継続してい ますが、私はそれをもっと広く「子育て支援」 の視点で活動していこうと提案しているところ です。どうぞ、地域保健の分野で活動している 保健所や市町村の力を汲み取ってください。

以上、徒然なるままに書かせていただきまし た。今後とも、公衆衛生という幅広い分野にお いて、生活者の視点で住民と関わる職場に勤務 する医師として、環境の中にある人間という在 り方を模索していきたいと思っています。タンデ ィガータンディ(ありがとうございました)!!