ちばなクリニック内科
新垣 紀子
<今となっては懐かしい笑い話>
外来をしていると「女性医師希望なのでお願 いします」とナースコメントのついた問診がで てくるようになった。時代は変わったと感じ る。研修医の頃、外来での特に壮年の男性の診 察は非常に苦手であった。診察室に入ったとた ん「冗談でしょ」という顔をされる。経験の浅 い研修医の私が担当なのだからこれはしょうが ないと言い聞かせ我慢、我慢。
同じく研修医の頃、軽い脳梗塞で入院した離 島の患者さん(ご高齢の女性)のお話。毎日朝 夕とベッドサイドへ足を運んだ。退院の日、 「ありがとうね〜。あんたには非常にお世話に なったさ〜。でもね、私の先生は一度も診に来 てくれなかったよー」と残念そう。「私は医者 だよー。看護婦さんではないよー。」と説明し てもあまり理解してくださらなかった。
ナースステーションにて、ご家族への病状説 明のためにレントゲンフィルムを並べ準備して いた。さあこれからという時、ご家族は一斉に 婦長の方を向いたのである。ご家族が婦長のこ とを主治医と勘違いしていたのは言うまでもな い。確かに婦長の方に貫禄があった。
<あと5年早かったら>
ここ最近、新聞には「医師不足」に続き「女 性医師の復職支援」のタイトルが登場する。6 年前に子宝に恵まれた。私自身が共働きの家庭 で育っているため出産後も働くのは当然と思っ ていた。しかし現状は厳しかった。当時大学院 生で医局にもいろいろとご迷惑をかけつつ、さ らに配慮していただき週に数回のみ外来・老健 施設を担当(これは非常にありがたいことでし た)。子供は生後3ヶ月より病院附属の保育園 へ入園。園の先生には非常によくしていただいた。残念だったのはその当時、園を利用するほ とんどの親が医療職であるのにもかかわらず、 土日休みであること。平日はもちろん通常の保 育園と変わらない時間帯での保育であること。 これでは「あなたの復帰は無理です」と通告さ れたようなもの。さらに病院の施設でありなが ら病児保育機能が備わっていないことであった (もちろんこの全てを備えた保育施設というの はなかなかないであろう)。子育て中一番困る のは子供が病気をした時ではないだろうか。発 熱すると呼び出される。仕事を中断し迎えに行 かなければいけない。しかし仕事や実験は休め ない。お迎え可能なのは私一人。毎日せっぱつ まった状況の中、周囲の先生や同僚に迷惑をか け、助けていただきながらその日その日を乗り 切る。夜は夜で子供の夜泣きに苦しみ(体調が 悪いともっとぐずる)不眠・不休の日々。これ なら当直の方がよほど楽ではないか(当時の私 の感想です)
ここで非常にお世話になったのが小児デイケ アであった。U 病院の先生方、看護師の皆さ ん、事務の皆さん、この場をお借りして深く御 礼申し上げます。
当時、朝一番に受付を済ませ診察をしていた だきそのままデイケアへ。ゼーゼーがあれば吸入 もしていただける、食物アレルギーや下痢症状 の子供には食事も対応してくださる、本当に至 れり尽くせりであったと思う。現在、わが子も 小学1年生。免疫力もついてきたがやはり熱でも 出せば仕事は休めないのでドタバタするだろう。
女性医師だけではなく女性の医療職(ナー ス・検査技師など)を獲得するには院内保育施 設、さらに余裕があれば病児保育の併設が不可 欠だと思う。女性が一旦仕事を辞めブランクを つくり、再度出てくる時の再教育を行うより、 妊娠・出産後もどのような形態でもよいから仕 事を継続してもらうという方が効率的ではない かと思っているが私だけであろうか?そこに国 も支援をして欲しい。
数年前に比較すると、子育ての環境は改善し つつある。実際に私の住む自治体にもファミリ ーサポートセンター(自宅でこどもを預かる、 保育園の送迎、育児援助などをサポート)、親 の出張などにも対応するショートステイまであ るようだ。
各医療施設に男女ともに仕事のしやすい環境 が増えていけばと願っています。これがあと5 年早かったら…。
<運動習慣ゼロの結末>
高血圧や高脂血症、糖尿病の患者さんに呪文 のように「運動をしましょう」と診察の最後に 付け加える。また3年前から取り組んだ睡眠時 無呼吸症候群の患者さんの8割が肥満である。 これまた食事・運動療法をおすすめする。しか し我が身を振り返ってみると月に1〜2回、2時 間の運動時間を確保するのがやっと。この運動 すらも1年前からようやく取り組むようになっ たものである。
元来腰痛・肩こりのひどい私は子育て中(抱 っこにて)さらに腰を悪くし、現在の電子化の すすんだクリニック(つまり一日中デスクワー ク)に勤務するようになって今度は肩こりが悪 化した。クリニックが休診となる水曜の午後な どはマッサージに駆け込んだ。身体が固まって いるのである。ほぐすと一時的に楽にはなるが症 状は繰り返す。運動習慣ゼロの私の結末である。 どうにかしなければいけないと思っていた矢先、 生活習慣病外来担当のナースから「ウォーキン グレッスン」に参加しませんかと声をかけられ た。職員を対象に講師の先生を招き、ストレッ チ体操からはじまるそのレッスンでさらに自分の 体が鉛のように重いことを痛感した。この講習 会をきっかけに運動に関心を持ちスポーツクラ ブなるものに初めて入会。しかし、やはり子供 をみてくれる場所がないので1年で退会。どうに か「ウォーキング」のみ月に1〜2回参加する状 況だ。不真面目な生徒であるが、講師の先生の しなやかで健康的なスタイルに魅せられ、もしか して私もあのようになれるのかもしれないと幻想 をおって取り組む。運動時間の確保も働く母に は厳しい。患者さんへの「運動しましょう」の 指導は自分自身への呼びかけでもある。