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沖縄県はしか”ゼロ “プロジェクトの 「全数報告制度」

浜端宏英

アワセ第一医院 浜端 宏英

沖縄県はしかゼロプロジェクト

沖縄県はしか“0”プロジェクトは、平成13 年4月に発足した。麻疹発生時対策として、平 成15年1月1日より「沖縄県麻しん発生全数把 握実施要領」、いわゆる「全数報告制度」が施 行され、県医師会会員の協力のもとに実施され て来た。この制度は麻疹発生を疑い例の段階で 報告してもらい、迅速な確定から発生の予防及 び拡大を防ぐことを目的としている。麻疹とい う感染力の極めて強い疾病に対応した取り組み である。この制度の概要については冊子「沖縄 県からはしか発生“0”にむけて」を参照して いただきたい。今回は沖縄県の経験で得られた 知見とこれまで4年間の「全数報告制度」の成 果を報告し、この制度で重要な検査であるPCR 法と麻疹IgM抗体検査について説明する。

1.麻疹の診断

典型麻疹例であってもコプリック出現前での 診断は出来ない。また母体からの移行抗体が存 在する場合やワクチン接種後のSVF(二次性ワ クチン不全)で見られる修飾麻疹の診断は困難 である。さらに麻疹様のウイルス発疹や薬疹は 時々経験する。診断確定のためには実験室診断 の証拠が求められている。

実験室診断は血清診断とウイルス学的診断が ある。IgM抗体検査は急性期確定に重要な血清 診断であるが、IgM抗体だけでは確定できない 例がある。一方ウイルス学的診断はその価値は 高いが、商業的に行なえない。

平成18年10月に作成された石川県の麻しん対 応マニュアルでは分かりやすく下記のように記載 されている。(http://www.ishikawa.med.or.jp/)

麻疹の確定方法

・IgM抗体:急性期麻疹確定に用いられるが、 病初期やSVFの場合に偽陰性となったり、ま た、陽性でもワクチン接種後や偽陽性があり その判断は慎重でなければならない。

・ウイルス学的診断:Golden Standardであ り、PCR、ウイルス分離などがある。

2.沖縄県の経験

1)ワクチン接種後の麻疹IgM抗体の推移(図1)

沖縄県では平成13年の麻疹流行時に旧具志川市をはじめとして6〜11ヶ月乳児に緊急麻疹 ワクチン接種を行い、国立感染症研究所の協力 によりIgM検査が行なわれた。ワクチン接種後 の平均麻疹IgM抗体価は接種後2週目から陽性 となり、3週で最大となり、7週目まで陽性であ った。さらに10週目まで陽性となる例もみられ た。ワクチン接種によりIgM抗体は陽性となる ために、この時期に野外麻疹ウイルスによる発 症が疑われても血清学的な診断は出来ない。

2)偽陽性麻疹IgM抗体の症例(表1)

はしかゼロプロジェクトで集められた症例を 示す。偽陽性IgMが疑われた時にはIgG抗体の 有意な上昇を確認する必要がある。抗原特異性 が高いのはIgG抗体である。IgM抗体は感度が 良くなったため偽陽性が検出されるようにな り、文献的には反復するRSウイルスの感染後、 エンテロウイルス、ヘルペスウイルス、帯状疱 疹、サイトメガロウイルス、EBウイルス、風 疹、ヒトパルボウイルスB19などで報告されて いる。

図1

図1

表1
3.WHOの報告

沖縄県での知見が集められてきた頃に一致し てWHO(世界保健機構)から麻疹IgM抗体に 関する報告が出された。麻疹IgM抗体が陽性時 には以下の3つを挙げている。

  • 1)最近の野外麻疹感染
  • 2)偽陽性
  • 3)最近の麻疹ワクチン接種(接種後8〜56日)

WHO では偽陽性が疑われる時の診断手順 (アルゴリズム)を示している(図2)。麻疹の 確定はIgG抗体の有意な上昇(4倍以上)を確 認することが望ましい。また、ワクチン接種後 8〜56日後にIgM抗体が陽性となるため、この 期間ではウイルス学的診断が必要である。

図2

図2

4.全数報告4年間のまとめ(表2)

「全数報告制度」では、福祉保健所及び県衛 生環境研究所の協力のもと、麻疹確定診断には 24時間で判定できるPCR法を可能な限り行っ ている。麻疹IgM抗体の測定は、有用ではある が通常3,4日かかり、また追加の検査が必要な 症例がある。全数報告はPCRとIgM検査の2本 立てが理想である。

全数報告では平成15〜18年の4年間で160例 の麻疹疑い例が報告され、53例(33%)が確 定された。報告に占めるPCR検査例は年々増加 し、平成18年では95%(56/59)で同検査が行 われた。PCRに引き続きウイルス株の同定も行 われ、平成18年の症例はすべて関東で流行して いる株と一致していた。またワクチン株と野外 ウイルス株の鑑別も行なわれている。平成 15,16,18年の発生では保健所による追跡調査が 行なわれている。特に平成18年の北部地域12 名の発生に対しては1,077名の追跡調査が行わ れ、PCR検査の迅速性、有用性が確認された。 平成17年には全数報告制度下で麻疹発生ゼロ が確認された。

ウイルス学的検査の問題点は、報告数が多く なってくると保健所職員や衛生環境研究所職員 に多大な負担を強いることである。今年はすで に6月末で50例を越える報告があり、今後も報 告数が増えると検査を行なう症例の絞込みが必 要となる可能性がある。ウイルス学的検査はマ ン・パワーを要するので、あくまでも発生数が 少ないときに最も有効である。

表2
5.まとめ

沖縄県の麻疹に対する取り組みから貴重なデ ータが得られており、県医師会会員への情報還 元を目的としてまとめた。麻疹の診断は血清診 断としてIgM抗体陽性を確認すれば良いと考え られていたが、IgM検査だけでは判断できない 例がある事が判明した。ウイルス診断のPCR検 査は実施に際しての負担は大きいが、麻疹排除 には適した検査であり、今後も継続して行くべ きである。沖縄県の「全数報告制度」は全国の 範となる素晴らしい体制であり、今後も県医師 会会員の皆様のご協力をお願いしたい。

尚、本要旨は第104回沖縄県医師会医学会総 会一般演題にて報告した。

文献
1.安次嶺馨 知念正雄:日本から麻疹がなくなる日、日 本小児医事出版社、東京、2005
2.浜端宏英:麻疹IgM(EIA)抗体:ワクチン接種後お よび偽陽性について、外来小児科、9:48−50、2006
3.Dietz V.: The laboratory confirmation of suspected measles cases in settings of low measles transmission: conclusions from the experience in the Americas、Bull World Health Organ、82:852−7、2004
4.平良勝也:2006年の麻疹流行状況−沖縄県、IASR、28: 145-147、2007 http://idsc.nih.go.jp/iasr/28/327/pr3262. html