常任理事 安里 哲好
去る5月18日(金)、神戸国際会議場におい て標記連絡会が開催された。
1.挨拶
主催者・共催者より
総務省消防庁部正男長官より主催者挨拶が 行われた後、厚生労働省並びに日本医師会より 共催者挨拶が述べられた。
2.開会
全国MC協議会連絡会・小林國男会長 挨拶
全国MC協議会連絡会小林國男会長より、開 会の挨拶が述べられた。
3.基調報告:厚生労働省科学研究費補 助金
標記に関する研究として、MC協議会の評価 指標を開発するための基礎となる情報の収集を 目的に、WGによる評価項目の検討、それに基 づいた調査票の作成、更には、その調査票を厚 生労働省、各都道府県を通じて各MC協議会に アンケート調査を行った。
回収結果は、37都道府県からとなっており、 今回の分析は35都道府県とした。
アンケート調査結果では、MC協議会の構成 や予算、開催回数が報告された。また、地区医 師会MC協議会を対象としたプロトコールの作 成状況、オンラインMC(24時間、365日)の 状況、事後検証の過程及び実績、再教育の現状 について報告された。
今回の調査結果から、考察並びに課題とし て、予算の最低基準や都道府県MCと地域MC の役割分担を検討する必要があり、プロトコー ルに関しては、作成主体と適正規模が大きな問 題となっている。
また、オンラインMCの24時間365日カバー の課題と適正規模や件数の最低基準を検討する 必要があるほか、事後検証事例の選定、件数の 最低基準、再教育に関する課題の提示、実施医 療機関と適正規模等を検討する必要がある。
今回、調査結果を提示した事で、今後、全国 においてディスカッションし、検討されれば良 いと期待している。
4.基調報告:救急振興財団委託研究事業
2006年9月、全国の811消防本部に所属する資 格取得後3年以上経過した各2名の救急救命士を 対象に消防本部経由でアンケート調査を実施し た。調査内容は、病院研修の実情、実際の研修 内容、研修が現場に生かされているか等、自由 記載を含め全58項目とし、救命士名、消防本部 名とも無記名で県名のみを記入していただいた。
全回答数は、1,533(94.5%)と回答率が高 く、有効回答数は1,495(92.2%)であった。
調査結果より、県・地域MC協議会に求めら れる役割は、定められた病院研修を個々の救命 士が遂行しているか否かのチェックは各消防本 部が行うが、地域MC協議会はその結果を把握 しておく必要がある。
また、現行の制度では、病院実習の質は地域MC協議会の他に補償するシステムがない。実習 病院の選定や実習カリキュラムの策定について、 地域MC協議会が消防組織と研修病院の調整役 を担い、研修そのものを検証する事が望ましい。
よって、全国MC協議会には、都道府県によ り格差がある救命士の病院研修の実態を認識 し、これを是正する役割が求められている。
県・地域MC協議会は、消防組織と研修病院 の調整を行い、救命士の病院研修の質を担保で きる事が望ましいものである。
5.ワークショップ「地域MC協議会の区
分について」
座長:日本医科大学教授 山本保博
奈良県では、救急業務高度化推進委員会報告 書の提言により、平成15年に人的資源を考慮 して、地域のMC協議会を兼ねた県単位の協議 会を設置し、同年4月25日に第1回奈良県MC 協議会を開催した。
同協議会では、指示、検証、教育の3つの専 門委員会を置く事となり、基幹病院として4つ の病院を選定した。
本県の特徴である1県1MC協議会の利点とし て、13の消防本部(局)が独立して救急業務を 行っているが、1県1MC協議会を立ち上げる事 により、全県の消防機関及び関連する医療機関 の横断的な連携が公的に可能となった。
これまで、1県唯一のMC協議会としてMC 整備を進めてきたが、プロトコールなどの県下 統一的に進めるべき主幹部分に関しては既にな し得たといえる。
今後は、地域MCに分割するために、人的資 源を増加させるべく、MCに協力していただけ る病院と医師の数を増やす事が重要であると考 えている。
【質問】
MCに参画していただく医療機関を増やさなけ ればならないとしているが、組織図からは、ほとんどの医療機関がMCとして参加していると思わ れる。基本的には、4つの基幹病院がほとんどの ことを実施していると考えてよろしいか。
【回答】
気管挿管や薬剤投与等の指示については、4 つの基幹病院、特に奈良医大が指示を多く出し ている。一般的な救急告示病院でほとんどの指 示が出せるよう、メディカルコントロールに関 係するような病院を増やしていくことが課題と 考えている。
横浜MC協議会は、平成14年12月5日に発足 し、MC体制を整備してきた。
同協議会からみたメリットとして、1)指示を 出す医師(救命指導医)の派遣医機関と事後検 証・再教育を担当する医師が同一のため、一貫 したメディカルコントロールが可能、2)救命指 導医が司令センターに常駐しているため、119番 通報時からのメディカルコントロールが可能、 3)管轄する消防本部が1カ所であるため、医療機 関との連携確保がしやすく、救急隊に対する活 動上の徹底が図りやすくなっている等がある。
一方で、他の地区MC協議会の中には、複数 の消防本部を管轄する場合もあり、異なる消防 本部の救急隊の活動に斉一を期すには時間がか かるのを課題とした。
今後の方向性として、県及び地区MC間の情 報の共有化を図るとともに、個々のMCがそれ ぞれの特性を生かしつつ、地域の医療機関と連 携する事により、救急業務の一層の高度化の推 進及び救急医療体制の充実により、更なる救命 率の向上を図っていくことが出来るのではない かと期待している。
広島県MC協議会は、県MC協議会の下に、 7つの地域MC協議会で構成されている。
メリットは、災害医療圏域と同様であり、医 療行政上抵抗のない区分けがされている。
MC体制(教育、オンラインMC、検証)の 課題として、1)再教育として病院実習が実施困 難な地区が存在した。また、気管挿管病院実習 受け入れ医療機関が圏域内で確保できない地区 が存在した。2)救急救命士による薬剤投与が許 可されるにあたり、オンラインMCを実施でき ない圏域が発生した。3)検証事案件数は、圏域 において大きなばらつきが存在する。また、検 証医1件あたりの検証数にも地域差が存在し、 一部の地域では検証医へ過度の負担がかかって いることが示唆された。
MC体制を支える基盤の課題として、1)救命 救急センターが設置されている圏域は3カ所の みで、保健医療計画では新たな設置予定はな い。2)救命救急センターがない地域において は、MCを担う救急医療機関は現状体制で行う 必要がある。3)専門診療科における日常診療業 務の負担は増加傾向にあり、MC関連業務が更 なる負荷となっている。4)病院群輪番制病院の 機能低下により、救命救急センターへの救急患 者の集中が進んでいるため、日常臨床業務の多 忙化からMC関連業務への貢献が困難となりつ つある現状が懸念されている。
これら課題解決に向けて、1)MC圏域の区域 わけの再検討として、プロトコル管理・オンラ インMC の集約化及び再教育プログラムの検 討、2)MC中核医療機関の整備として、財政的 な支援と評価制度の導入、3)MCを担う医師の 教育と育成として、地域における計画的な医師 育成、4)財政基盤の再整備等が重要である。
6.意見交換
【広島県 谷川教授より質問】
私どもは、奈良県とは逆にMCを集約化する という方向で考えている。
MCの業務を考えた場合に、必ずしも細かく 分けなくていい活動と、細かく分けるべき活動 があると思う。そういう意味では、MC体制を 行政的な区分けにするのも一つの方法であり、また、一つの県単位のMC で業務区分を分け て、それをどの地域に下ろしていくか等、MC を任せる業務に応じて分ける部分と中央集約化 したものに分ける部分を区別した方が良いと考 えるがいかがか。
【奈良県 奥地教授より回答】
報告の際にも述べたが、プロトコールの作成 作業等については、1県1MCの方が良いと考え る。しかし、顔の見える関係を構築する事にお いて、教育研修に関しても地域の搬送を依頼す る病院の先生に教育をして頂くということを消 防も望んでいる。
また、検証に関しても、より細分化して地元 密着とした方が良いと考える。
我々は、細かく分割する気はない。2つ3つ が適当と考えている。特に南部の地域では、病 院自体が医師確保に難渋しているので、MCに 協力してくれる医師を確保する事は極めて困難 であると考える。
【埼玉県より質問】
本県では、4つの輪番病院が2つに減り、人 的な資源が確保されずMCへの参加が困難な状 況である。
広島県の報告で、財政基盤を強化するという 解決方法を掲げているが、全ての医療の問題、 メディカルコントロールの問題等、財政基盤が 強力でないと、どんなに一生懸命にこのような 協議会を開いても意味がない。財政基盤を強力 に強化する方法があれば伺いたい。
【広島県 谷川教授より回答】
まず、行政に交付金を使っていただく。それを 我々が積極的に声を出していかなければならない。
また、メディアを含めた外部評価委員を取り 入れて、県のMC が何を行っているのかを県 民・市民に発信し、味方につけることで予算を つけていただくことができないか。
更には、可能であれば外部機関からMC関連 予算という形で、募金を募る方法が考えられる。
印象記
常任理事 安里 哲好
救急救命士法は平成3年に成立・実施され、救急救命士が平成4年に誕生、活動が開始された。 平成15年4月より包括的支持による除細動の実施、平成16年7月より、医師の支持による気管内 チューブによる気道確保の実施及び平成18年4月から医師の具体的指示によるアドレナリン投与 がすでに実施されている。病院前での医療提供に関する監督・監修を目的とした管理運営を行い、 傷病者へ質の高い医療の提供等を図るものとしてメディカルコントロール(MC)があり、県MC 協議会を中心に圏域ごとに医師会、救急医療機関および消防関係の代表者から成る諸組織などの 参画によりMC協議会の充実化が図られてきた。
この度の協議会は第10回日本臨床救急医学会総会・学術集会(神戸)が終了した直後に行なわ れた。全国のMCを高め、情報を共有し、MCの地域差を改善し、全国的充実を図る目的で開催 された。評価指標として、協議会の構造、予算、プロトコールの作成、オンライン指示体制、事 後検証や再教育が提示された。その中で、全国規模の指標として県別病院実習時間達成度と2年 間の平均病院研修期間について報告があり、沖縄県は前者40〜60%、後者60から104時間で、両 方とも全国で中位に位置していた。
沖縄県の事後検証状況(心肺停止事例、包括指示下除細動、気管挿管、薬剤投与)と気管挿管 の実習修了状況を県防災危機管理課より提供してもらったので提示する(表1、2)。これまで、 301名の救急救命士が育成され、気管挿管病院実習修了者は30名、薬剤病院実習修了者は20名で あった。事後検証実績は1年間で心肺停止945例、包括的指示下での除細動114例、気管挿管24 例、薬剤投与18例であった。プレホスピタル・ケアは徐々に充実してきているが、今後とも、気 管挿管病院実習修了者の増加に伴う気管挿管例の増や薬剤病院実習修了者の増加に伴う薬剤投与 例の増を期待したい。そのためには、引き続き、MC病院の積極的協力を今後ともお願いしたい。