沖縄県医師会 > 沖縄県医師会の活動 > 医師会報 > 8月号

都道府県医師会地域医療問題
担当理事連絡協議会

常任理事 安里 哲好

去る5月11日(金)、日本医師会館にて標記 会議が開催されたので報告する。

挨 拶

日本医師会長唐澤人(宝住副会長代読)

次のとおり挨拶があった。

「去る4月に厚生労働省が纏めた「医療の経 緯、現状及び今後の課題について」は、都道府 県医師会担当職員向け資料として作成されたも のであるが、これが今後の医療政策の重要な方 針とも思われるので、日本医師会では緊急に各 都道府県医師会担当役員にお集まりいただい た。関係役員から、同資料の問題点と、日本医 師会の対応についてもご説明申しあげたい。

各都道府県医師会におかれても、各地域にお いて、行政との調整が重要になってくるものと 思われるので、よろしくお願いしたい。」

協 議

「医療政策の経緯、現状及び今後の課題につ いて」
〜厚生労働省案に対する日本医師会の考え方 を中心として〜

(1)地域ケア整備計画における各都道府県医 師会の対応について(療養病床の再編)

天本常任理事より、次のとおり説明があった。

各都道府県で地域ケア整備計画が策定され る。国は15万床に削減という指針を出そうとし たが、いろいろ議論があって地域の特性をいか した都道府県の地域ケア整備計画の数値をたし たものをこれからの数値目標に取り組もうとい うことになった。各都道府県が計画を策定する 際には、都道府県医師会や識者の会合における 協議・検討により、療養病床再編が大きく変わ ってくるものと思われる。

国は、15万床ありという財源を目標数値にし たものであり、地域住民のニーズに沿うという 我々の考え方と大きく隔たりがある。

各都道府県医師会で行政と議論し、療養病床 再編計画を立てる際には、このようなことを理 解して取り組んでいただきたいと急遽お集まり いただいた。

第3期介護保険事業計画が、診療報酬改定と 同時にスタートしたにもかかわらず、受け皿の 第3期介護保険事業計画に考慮されていない大 きい矛盾がある。

○医療保険・療養病床医療区分構成

厚生労働省は、医療区分1を53.3%、医療 区分2を37.8%、医療区分3を8.9%と想定し ている。これは、実情にあっていない。

○患者分類(11 区分、患者区分・医療区分) 別のケア時間の状況

区分が違っていてもケア時間はほとんど差 がない(医療区分1ADL 区分3 と医療区分 3ADL区分1はほぼ同じ時間)。しかし、診療報 酬は相当差がある。厚生労働省の政策的な誤 りがある。従って、これに基づいて療養病床 再編計画を作成すると、医療難民が生じる恐 れがあることを日本医師会は主張している。

○介護療養型医療施設で行っている医療処置の 実施率

医師の指示が必要な経鼻経管栄養が14 % もあるが、この状態でも医療区分は1と低い。 これらの処置は医療施設で行うべきものであ る。診療報酬だけが先に決まっていて介護保険事業計画に反映されていない。

○平成18年度療養病床の報酬改定における手 続き上の重要欠陥

第3回介護事業計画には医療区分1の大量の 医療難民、介護難民への対策は盛り込まれてい ない(地域ケア体制整備指針ができていない)

介護施設サービスの実態を無視した廃止、 介護施設における医療のあり方についての議 論はない(介護施設へのビジョンがない)、 医療区分導入の大前提が覆されたにもかかわ らず整合性のない同時改定を断行、医療区分 におけるコストが見合っていない、受け入れ 体制に関した検討は一切していない。

○厚生労働省の療養病床再編について

療養病床の入院患者の医学的ニーズに基づ いて行った推計は、財源に基づく療養病床数 の推計を大きく上回る。2012年以降も医療療 養病床の必要性は高く、それらを踏まえた議 論が必要である。病床の削減を行い、その 後、再度、病床を新設することが起これば、 明らかに社会的資源の無駄遣いである。

○将来の推計人口・主要な疾病別にみた推計入 院患者数の推移(75歳以上)

将来の推計人口を見ると、90歳以上の人口 は2030年まで増加する。推計人口と、疾患 別入院受療率脳血管疾患のみから将来を予測 すると、認知症・脳血管疾患・心疾患・肺炎 の入院患者数は今後も増加する。

○介護療養型医療施設廃止後の課題

長期療養者をどこで受け入れるのか、受け 入れ施設における医療提供はどうするのか、 介護医療施設でこれまでみていたターミナル ケアをどうするのか(病院死を減らす)、医 療費適正化後介護保険でカバーできるのか、 サービス構造による各種保険が給付になるの か、明確に決まっていない。検討する判断材 料が少なすぎる。

○高齢者の介護施設の将来像(私案)

これから、介護保険3施設が一元化し、中 重度者対応に機能特化した老人保健施設と特 定施設に二極化される。しかし、介護療養型 医療施設がない中で老人保健施設の役割がど うなるのか、特定施設の機能がどうなるのか はっきりさせなくてはならない。

○長期療養・介護施設の整合性

新型老人保健施設と旧型老人保健施設との 違い・役割分担、介護施設と老人保健施設と の違い、旧の老人保健施設から新型に転換可 能か、新型老人保健施設と医療療養病床との 違い・役割分担、医療療養病床の機能と施設 体系全体像における役割、等々明らかになっ ていない段階で財源削減を強調するのは、社 会資源の損失である。

○2005年時点で必要な医療療養病床数・必要 な医療療養病床の推計

そのようなことから、日本医師会は、財源 からではなく、地域ニーズに沿った形で予 測・整備計画を立てることが必要であるとい う主張をしている。

医療・介護療養病床を患者の医学的ニーズ からみた必要数を推計すると、2005年の医療 療養病床は22.0万床となる。2025年は、33.5 万床となる。15万床に減らしたものをまた増 やすのは大きな社会資源の損失につながる。 ニーズに対応できていないことになる。

各都道府県においても、2025年には33.5万 床必要になることをもきちんと主張していた だきたい。その計算方式として日本医師会の 考え方を述べた。

(2)医療提供体制:医師確保、医療機能の分 化と連携

内田健夫常任理事より、次のとおり説明があ った。

18年度及び今後の医療制度改革、今後の課 題〜病床の今後のあり方について、医師の確保 の3点について説明。

○第5次医療法改正の概要

有床診療所に対する規制の見直し・情報提 供の推進・医療計画見直しと医療連携体制の 構築・医療従事者の確保・医療安全の強化・公的医療機関の見直し・医療法人制度改革。

○医療法は、それだけで考えるべきではない。

生活習慣病対策、医療保険、後期高齢者医 療制度、介護保険と相互に関連付けて考える べき。

○医療法改正の主要テーマ

医療連携体制の構築・・地域の医療機能分 化と連携、在宅医療の推進、連携。

医療費の伸びの抑制・・平均在院日数と総 入院期間の短縮、病床の削減。

○医療連携体制の構築

1)疾病ごと、事業ごとの医療連携体制の構築

  • 4疾病(がん、糖尿病、急性心筋梗塞、脳卒中)
  • 5事業(救急医療等確保事業、救急医療・ 災害医療・へき地医療・周産期医 療・小児救急を含む小児医療)

2)医療計画の見直し

  • 疾病ごと、事業ごとに数値目標を設定する。
  • 医療費適正化計画と、医療計画・健康増 進計画・介護保険事業計画と調和を保つ必 要があり、目標を達成できなければペナル ティがある。

3)保健・医療・福祉の連携

  • 病院・診療所の管理者に退院調整機能の義務付け。
  • 地域連携クリティカルパスの努力義務 化、医療提供施設に「調剤を実施する薬 局」の新たな位置づけ。

4)医療機能情報の住民・患者への提供

  • 医療機能情報の提供制度の創設。
  • 広告規制の緩和。
  • 院内クリティカルパスの義務化、地域ク リティカルパスは努力義務化。

5)公的病院の役割

  • 救急医療等確保事業の実施義務付け、公 的病院の民間への委託・譲渡、公的病院を 中心とする集約化・重点化、医師等医療従 事者確保策への協力義務付け。
  • → 公的病院や社会医療法人を中心とした医 療連携体制を構築しようとしているのか。

6)医療法人制度の改革

  • 社会医療法人を自治体病院等の受け皿と して位置づけ。
  • → 自治体病院を中心とした保健、医療、 福祉のグループ化にならないか?

○医療連携体制の構築のあり方

医療機能の分化と連携は「どのような地域 でも、公平で平等な医療が受けられる体制」 を確立するためのものでなければならない。医 療費抑制の見地に立った、平均在院日数の短 縮策、病床の削減策であってはならない。患 者が特定の地域や医療機関に集中することな く、適切な医療連携が行われることが必要。

医療連携体制の構築は、地域の医療体制を 代表する地域医師会が中心となるべき。

○医療制度改革の主なスケジュール

段階的に実行される医療制度の中で、特に 平成20年、24年の施行分が重要。

○今後の課題〜病床のあり方

今回の医療制度改革は、医療連携体制の構 築により医療機能の分化が進展する。医療制 度改革は、日本の病床のあり方にも影響。

○病院や診療所、「一般病床」の機能

厚労省「医療政策の経緯、現状及び今後の 課題について」では、中小病院や有床診療 所、あるいは一般病床の機能、役割分担が明 確ではないとしている。しかし、地域の医療 機関の機能はそれぞれの地域の医療ニーズに より決定されるものであり、行政的に制限す るものではない。

○平均在院日数の考え方・国際比較

病床削減、医療費抑制を目的とした平均在 院日数の短縮は、医療難民、介護難民の発生 につながる。

平均在院日数の短縮は、退院から社会復帰 までの橋渡しが前提。

適切な医療連携の確立が前提である。

国により病床の定義が違うので、国際比較 は意味がない。

○医師の確保・主な医師確保策

「どのような地域でも、公平で平等な医療が受けられる体制」に関わる課題であり、現 在の医師不足の状況は、国の医療費抑制策が もたらしたもの。

主な確保策としては、ドクターバンク・女 医支援・女医バンク・大学医学部の地元枠と 奨学金・臨床研修マッチング・後期研修での へき地診療の実施など。

また、医療機能の分化・連携を図るため、 かかりつけ医の普及・地域医師会による初期 救急医療体制の運営・医療機関の集約化など を行う。

医療安全・医療事故については、無過失補 償制度の創設の働きかけ・医師法第21条の 検討・医療事故報告や調査の第三者機関創設 の検討など。

その他、診療報酬財源の確保・人員基準標 準の見直しなど。大学医学部の定員増は、即 時的な効果はない。

○マグネットホスピタル

厚生労働省はマグネットホスピタルの活用を 検討しているが、これは、公的病院等への医師 等の医療資源の集約化に繋がるものである。

公的病院等中心の医療連携体制の構築は、 地域医療のバランスの観点から慎重に検討す るべき。(地域医療対策協議会:医師会を中 心に)

○開業医の役割

勤務医の厳しい現状は、医療費抑制策の結 果である。

多くの開業医は、日常診療だけでなく、休 日夜間の在宅医当番医など一次救急にも携わ っていて、医業経営にも尽力しなくてはなら ない。

こういう状況にあって、財源の裏づけもな く、開業医に過大な負担を押し付けることは 容認できない。開業医全体が何もせず高収入 を得ているかのような報道がなされることは 極めて遺憾である。

○厚労省「医療政策の経緯、現状及び今後の課 題について」に対する日本医師会の意見

1)多くの開業医は、休日夜間の在宅当番医な ど一次救急体制にも携わっている。

 財源の裏づけもなく、開業医に負担を押 し付けることは容認できない。

2)「総合的な診療に対応できる医師」構想 は、医療抑制策を目的としたものであり、 医師会の生涯教育制度が組み込まれること は認められない。

 日医で検討している認定制度は、あくま でもフリーアクセス・国民皆保険・現物給 付の三本柱からなる日本の医療制度を前提 としたものである。

3)「在宅主治医」は、フリーアクセスを侵害 するものであり、「総合的な診療に対応で きる医師」構想とともに、官主導による机 上の構想である。国民の医療に対する信頼 を崩壊させかねない。

○今後のスケジュール(19年度)

6月頃、骨太の方針の閣議決定、政府・与 党による医師確保策とりまとめ、7月が参議 院選挙、7月から9月まで、2007年度の予算 欲求、8月にグランドデザインの各論発表、 秋には次期診療報酬改定の基本方針のまと め、12月は自民党税制改正大綱まとめ、12 月から3月にかけて診療報酬改定作業となる。

7月の参議院選挙がとても大事なので、各都 道府県医師会においてもご協力いただきたい。

(3)グランドデザイン2007−国民が安心でき る最善の医療を目指してー総論

中川俊夫常任理事より、次のとおり説明があ った。

2007年3月にグランドデザインを発表。骨太 の方針・概算要求といった来年に向けた我々の 最大の武器にしようという考えである。

日本医師会のグランドデザインは、総論と各 論に分けており、今回は総論を出した。各論は 今年8月に発表予定。

総論は、<第1章あるべき医療の実現に向け て><第2章国民のニーズにこたえる医療提供 体制><第3章医療保険制度のあり方><第4 章社会保障資源の可能性>からなる。いったい国民はどういう思いで医療に期待しているのか を検討した上で公的医療保険の再構築をした。

一方、先月の中旬に厚生労働省が作成した 「医療政策の現状と課題」は、医療機関の集約 化、病床数削減によりフリーアクセスの権利を 侵害しようとする内容であり、日本医師会のグ ランドデザインとは別の次元だと考えている。

生計・生命の不安が最小限になったとき、人 は安心して生きることができる。社会保障と防 衛・外交は国家安全保障であり、医療は社会保 障の中核としてあるべき。社会保障を向上させ ることは、国の責務である。

<第1章あるべき医療の実現に向けて>

○国民が望む医療(一般国民・外来患者・医師 の三者にアンケート調査)

医療保険のあり方として、医師の72.1%、患 者の76.8%が、所得に差があっても医療には差 がないことを望んでいる。それに対して、医師 は58.3%で公的医療保険で十分な医療が提供で きない苦悩がでているものだと思われる。

今、後期高齢者は在宅という考えが主流に なっているが、我々は警鐘を鳴らしたいと考 える。国民が考える終末期医療については、 必ずしも高度な医療を望まない傾向があり、 看取りの場としては自宅と同じくらい緩和ケ ア施設を挙げる人がいる。国民は多様な選択 肢を残してほしいと考えている。国がきまり として在宅でという方向性を取るべきではな いと日本医師会は考える。

○経済力と医療資源(総医療費支出・医師数) のバランス

日本医師会が、一貫して主張してきたこと は、国民はその国の経済力に見合った社会保 障・医療を受けるべきであるというのが大前 提である。今回数字を分析することにより説 得力を出そうと考えた。

日本の2003年の対GDP比総医療費支出は、 8.0%で30か国中18位。OECD加盟国平均の 8.8%にするためには、約10%引き上げる必 要がある。イギリスは最新データでは日本を 追い抜く勢い。

国際的にみれば、日本は経済力に比して、 医師数もかなり少ない。総医療費支出の増加 を前提として、医師数の増強も必要である。

<第2 章国民のニーズにこたえる医療提供体 制>

○医療を取り巻く環境

在宅医療が困難な75歳以上のみの世帯が 増えている。2005年には75歳以上の3人に1 人が「独居」または「老々」世帯である。在 宅重視の政策は危険を伴う。医療施設などハ ード面の整備も求められる。

○療養病床の必要性

医療療養病床は、2005年度には25万床で あった。今後、一部在宅復帰を実現しても、 高齢者の増加に伴い2015年度には27万床が 必要となる。

○一般病床の必要性

高齢社会に突入しており、急性期の病床の 必要性も高まる。

<第3章医療保険制度のあり方>

2015年のあるべき姿は、43兆円と推計される。

日本医師会は、給付割合を一般8割(患者一 部負担2割)、後期高齢者9.5割(患者一部負担 0.5割)にすることを提案する。この場合でも、 2015年度の給付費推計は、厚生労働省の推計 値とほぼ同じ。2025年度は下回る。

○後期高齢者医療制度の基本的スキーム

1)格差に苦しむことなく、公平な医療を受け られることを目的とする。

2)75歳以上対象

3)保険者は都道府県単位

4)後期高齢者は疾病の発症リスクが高く、保 険原理が働きにくい上、保険料、患者一部 負担は後期高齢者にとって大きな負担とな るので、所得格差の不安なく国が支える

5)財源は、医療費に対して公費9割、後期高 齢者の保険料・患者一部負担1割

6)診療報酬は、外来出来高払い、入院も原則出来高払い、慢性期の一部のみ選択性の包 括払い、都道府県単位の特例診療報酬の設 定は認めない。

○後期高齢者医療制度は保障原理で運営する

75歳以上では、疾病の発症率、受領率、医 療費(特に入院)が急速に高まり、保険原理 は機能しにくい。したがって、保障原理で運 営し、公費負担割合を医療費の9割に引き上 げる。

<厚生労働省「医療の経緯、現状及び今後の課 題について」の問題点>

政策の主な失敗例、地域医療の崩壊(1)(2) (3)、今後の対策について次のとおり説明があ った。

○政策の主な失敗例 −「U わが国の医療提 供体制の現状と課題」より−

1)患者は、フリーアクセスということで大病院

 でも専門病院でも直接に受診が可能である が、(中略)勤務医に過度の負担がかかる」

 ※日医の意見:フリーアクセスのみが犯人に されているが、医師不足から来る勤務医 の疲弊は、医療費抑制政策の結果である。

2)「新たな臨床研修制度の導入を契機として、 (中略)大学の医局による医師の供給調整機 能が低下し、一部地域において医師の需給 のミスマッチが発生している」

 ※日医の意見:ミスマッチの原因は、新臨 床研修制度にあることを認めているが、 「一部地域」に矮小化できる問題ではない。

○地域医療の崩壊(1)−開業医の管理強化−

1)在宅当番医制ネットワークを構築、休日・ 夜間の救急センターに交代出務。

 時間外でも携帯電話で連絡がとれるこ と、在宅療養支援診療所として24時間体 制での対応

 ※日医の意見:「在宅療養支援診療所は、 「24時間体制」のハードルが高く、開業 医の疲弊へ繋がっている。(福岡県医師 会2007年1月調査参照)

○地域医療の崩壊(2)−在宅主治医の特定−

1)「普段自分がかかっている医師の中から在 宅主治医を選ぶこととし、その在宅主治医 が、必要に応じ関係する医師の間の調整を 行う

 「病気になるまでは地域に主治医がいな い患者の場合でも、(中略)、予め公表され た地域の医師の中から在宅主治医を選び、 (後略)」

 ※日医の意見:国民と医師の行動を限定し、 さらに不安に落とし入れるような施策。

 公的医療保険の最大の特徴である「フ リーアクセス」崩壊の第一歩

○地域医療の崩壊(3)−公立公的病院への資 源の集中

1)公的病院を中心としたマグネットホスピタ ルで医師の供給調整機能を発揮。

 へき地での勤務をマグネットホスピタル に勤務する医師のキャリアパスに組み込 み、ここから派遣。全国的な病院ネットワ ークを有する団体に働きかける。

 ※日医の意見:充分な医師数を確保しなけ れば、派遣元の急性期病院が共倒れ。

 これまでの財政中立の理屈からいえ ば、民間病院の財源(診療報酬)を抑制 する。

 民間病院は公立公的病院の下請け化に つながる。

 全国的な病院ネットワークを有する団 体とは、全国社会保険協会連合会(社会 保険病院)の生き残りか?

 アクセスポイントの縮小(フリーアク セスの崩壊)

※日医の意見:今後の対策

都道府県は、国の考えを鵜呑みにする のではなく、医療現場との緊密な連携に より、地域の実情を反映した計画を策定 し、積極的に国に発言し、あるべき方向 に向かわせていくべきである。国レベル の全国医療費適正化計画・医療政策に 反映させる。

質疑応答

Q:平均在院日数を、一番低い長野県との差では かるのはどうかと思う。医療の必要な患者は 診なくてはならない。病院から出された患者 への対応を含めて日医の考えを伺いたい。

A:平均在院日数については、厚生労働省の算 出したものを外国との比較は意味がない。 今の方向でいくのは大変乱暴である。

厚生労働省は、一般病床と精神病床を含 めて長いと言っている。一般ではすでに20 日をきっており、限界に来ていると考えて いる。医療が必要かどうかは地域で判断す るものである。

Q:日医は、医師確保について、医学部の定員 増は即時的な効果がないという定員増につ いて明確でないが、ご意見を伺いたい。

A:10県1医科大学が10名の定員増が認められ た。戦力となるのは、10年後である。日本 は、1,000人に対して2.1人、先進国に比べ て少なく医師数の充足が必要である。しか し、これは単に高齢化に合わして増やす必 要はあるが、将来、偏在、へき地・外科系 の不足が起こり混乱する。

医師不足対策を解決するには、どこかか ら財源をもってこないといけない。7月の 選挙の前にはっきりとした政策を出してい きたい。

Q:偏在という言葉は余っているところがある ことに対して使うので、使わないでもらい たい。徳島県ではそういう状況にない。

Q:地域ケア整備構想について一度行政と話し 合った。行政はとんでもない数字を出して くる。我々も医師会の案を出しているが、 日本医師会でも検証していただきたい。ど の部署に聞けばよいのか。それぞれの地域 で加味すべきことがあれば教えていただき たい。

A:本年5月から総合医療政策課を作った。課 を横断してやる。他の事務局でやるか、総 研でやるかを判断する。各県のデータ、尺 度を作りたい。検討中であるのでお待ちい ただきたい。

Q:リハビリ日数については、日医で病気別・ 年齢別にデータを出して欲しい。

A:90歳以上の方のリハ、疾患、年齢、これを どう加味していくか、リハ学会等の意見を とり寄せて対応していきたい。

Q:日本医師会は、25万床がどうしても必要だ ということをしっかり主張して欲しい。とて も都道府県医師会で行政と交渉できない。

A:公のデータは、都道府県ごとにはないと思 うが、疾病ごとの90歳以上の25年からの 資料を出してほしいと、住宅状況の資料を 出してほしいと都道府県に言ってもらいた い。日医としても厚生労働省にもマスコミ にも言う。厚生労働省は簡単に数字を変え ないが、15万床では苦しいことがわかって きている。地域から出てきた数を中央で積 み重ねるので、きちんとした数字が出てく ると思われるので、各県でも行政との調整 をお願いしたい。

最後に、竹嶋康弘副会長より、次のとおり今 後の方針について説明と協力依頼があった。

○私どもは、あくまで療養病床は26万床と言っ ている。厚生労働省の各部門の責任者に集ま っていただき、15万床がどこから出てきたの かとはっきり聞いている。各県でも是非行政 に確認していただきたい。

○日本医師会総合政策課で作った資料を持って 関係者のところに説明に行っている。諸問題 を明確に出していきたい。その中で、財源を もってくる。地域の医療体制を作っていく。

○各県で行政と調整される際には、データなど については日医総合政策課にご連絡いただき たい。

印象記

常任理事 安里哲好

上記緊急連絡会議が5月11日、日本医師会館大講堂にて行なわれた。会議の趣旨は19年4月に、 厚生労働省医療構造改革推進本部総合企画調整部会より、「医療政策の経緯、現状及び今後の課題 について」が取りまとめられた。同報告書は、都道府県職員向け参考資料と位置づけられている が、わが国の医療・介護の将来にとって、大きな影響を与えかねないものである。厚労省案(同 報告書)に対する、今後の医療・介護のあり方について、日本医師会の考え方を中心に議論を行 うことにある。

天本宏常任理事より、「地域ケア整備計画における各都道府県医師会の対応について(療養病床 の再編)」についての日医の考え方を話された。国は、財源を目標数値にした15万床の提示であ り、地域住民のニーズに沿うという我々の考え方と大きな隔たりがある。高齢化社会で今後更に ニーズが高まり、必要医療療養病床は07年25万床、25年は33.5床と考えている。各都道府県が 計画を策定する際には、都道府県医師会や識者が意見を各会議の中で主張することによって、療 養病床編成が大きく変わっていくものと考えている。このことを理解し、各都道府県医師会は行 政と議論し取り組み、25年には33.5万床必要であることを主張することを切望する。

内田健夫常任理事より、「医療提供体制:医師確保、医療機能の分化と連携」について報告があ った。医療法改正の主要テーマは医療連携体制の構築(地域の医療機能分化と連携、在宅医療の 推進と連携)と医療費の伸びの抑制(平均在院日数と総入院期間の短縮、病床削減)にある。医 療連携体制の構築は、1)4疾病(がん、糖尿病、急性心筋梗塞、脳卒中)ごと、5事業(救急医 療、災害医療、へき地医療、周産期医療、小児救急を含む小児医療)ごとの医療連携体制の構築。 2)医療計画の見直し:医療費適正化計画と、医療計画・健康増進計画・介護保険事業計画と調和 を保つ必要があり、疾病ごと、事業ごとに数値目標を設定し、目標を達成できなければぺナルテ ィがある。3)医療機能情報の住民・患者への提供。4)公的病院の役割:救急医療等確保事業の実 施義務付け、医師等医療従事者確保策への協力義務、公的病院を中心とする集約化・重点化、公 的病院の民間への委託・譲渡。5)医療法人制度の改革:社会医療法人を自治体病院等の受け皿と して位置づける。

日医の考え方として:医療機能の分化と連携は「どのような地域でも、公平で平等な医療が受 けられる体制」を確立するものでなければならない。医療費抑制の見地に立った病床の削減、平 均在院日数の短縮策であってはならないし、そのことは医療難民・介護難民の発生につながるの で、平均在院日数の短縮は退院から社会復帰までの橋渡しとしての適切な医療連携が大切である と述べていた。患者が特定の地域や医療機関に集中することなく、適切な医療計画が行われるの が必要。医療連携体制の構築は、地域の医療体制を代表する地域医師会が中心となるべきである と述べていた。また、厚労省は中小病院や有床診療所、あるいは一般病床の機能分化・役割分担 が明確でないとしているが、地域の医療機関の機能はそれぞれ地域医療ニーズにより決定されて いるものであり、行政的に制限するものではない。その他、医師の確保、マグネットホスピタル、 開業医の役割等についての日本医師会の考え方を述べていた。

中川俊夫常任理事より「グランドデザイン2007−国民が安心してできる最善の医療をめざし て−総論」について説明があった。2007年3月にグランドデザインを発表。骨太の方針・概算要 求といった来年に向けた我々の最大の武器にしようという考えである。日本医師会のグランドデ ザインは、総論と各論とに分けており、今回は総論を出した。各論は8月に発表予定である。総 論はすでに日医会員に郵送済みであるので、ご一読いただきたい。

医療制度は大きく変わろうとしている。地方分権の時代に、県における医療連携体制の構築の マップ、新医療計画や県が担当(どの部署が担当するのか)する総医療費とその分配をどのよう にして行うのか、また、県医師会は日本医師会の様に県行政(厚労省の役割を担うであろう)や 医療保険者組合と交渉して行くのか、ロビー活動は誰に対して行うのか、まだ充分なイメージは できていない。しかしながら、それに対応する県医師会の担当理事や担当部署(比較的独立した) の設置も視野に入れ、それを中心にワーキンググループを作り、即時に対応できる環境(会員へ の説明、情報提供も含め)を作っていく必要があることを強く感じた。