沖縄県医師会 > 沖縄県医師会の活動 > 医師会報 > 7月号

現代宇宙物理学と意識

稲福薫

いなふくクリニック 稲福 薫

「わたし達はどこから来てどこに行くのか」 画家ゴーギャンが晩年に問いかけた疑問はすべ ての人間に問いかけているものではないだろう か。わたし達の医学もどこに向かおうとしてい るのだろう。この課題を追求して三十年、よう やくその答えがうすぼんやりとではあるが見え てきたような気がしてきた。そして、宇宙物理 学者達もそのことを追求してきて、同じ答えに たどりついているようである。

現代宇宙物理学の最先端にある学者が宇宙に ついての最新の知見と課題をわかりやすく書い た本がある(「宇宙はこうして誕生した」佐藤 勝彦著、東京大学教授、(株)ウェッジ発行)。 この本を読んで久しぶりに興奮してとりこにな ってしまった。

それによると、現在の宇宙は第二の膨張をし ているという。ビッグバンの第二ステージだと いう。そして、さらに最近の宇宙観測の結果、 宇宙は3%の目に見える物質と97%の現在では 測定不能のダークマターやダークエネルギーに よって成り立っていることがわかった。すなわ ち、宇宙にある星々をすべて合わせても宇宙の 構成要素の3%にしかならず、このダークエネ ルギーが無ければ現在の宇宙は存在し得ない し、宇宙の骨格をなしているのがこのダークエ ネルギーだという。

そして、私たちの宇宙がこの宇宙として存在 するには、実は私たちが認識しているというこ とが肝要だという。というのも、理論的にはい ろいろな宇宙が存在することが示されてはいる が、この宇宙のみが私たち人間に認識される。 ここで卵が先か、鶏が先かの話になる。私たち がいる宇宙以外にも宇宙があることは理論的に 示されてはいるが、それ以外の宇宙の宇宙定数 (この宇宙を定義付けている物理学的定数)は 私たちには認識できない。例えば、どこかよそ にも宇宙があるというのならそれを写真に撮っ てこいと言われても、写真そのものがこの宇宙 でしか成り立たないものだからよその宇宙は写 真に撮れないのである。要するにわれわれ人類 の行っている宇宙観測はわれわれの宇宙しか見 えないというのである。このように、宇宙の語 源であるユニバースという「単一の世界」とは 私たち人類にとってだけ単一であるにすぎない のだという。

さらに最近証明されたというが、宇宙誕生後 100億年目にして第二の宇宙膨張が起こったか ら、この太陽系が、そして地球が、さらには人 間という私達が存在しているというのである。 それがちょうど100億年目の膨張だったからこ そ人間が生まれたという。それが後でも先でも 人間は存在し得なかった。それはあまりにも確 率的にはあり得ないほどにぴったりに起こって いるので、偶然の確率ではとても考えられない ことだという。だから、人間が認識しているか らこの宇宙が存在するという人間原理を入れな いことにはどうしても理論的には成り立たない というのである。

ここで、「人間が認識する」という「人間」 の部分にこだわるから話がおかしくなるのでは ないか。実は、意識は人間だけにとどまらず、 もっと無限に広がったものである。私はこれま での経験から意識というものは無限の広がりが あると実感している。意識は自分だけにとどま らず、他人、空、植物、石、物、動物、大地そ して人類全体、地球全体、宇宙全体とすべてつ ながっている。いや、一つなのである。そう考 えなさいと言うのではない。意識というものは 事実としてそうなのである。私はそれを「無限 の心」と称している。個人の意識が個人にとど まると誤解しているのがすべての間違いのもと であり、その誤解から全体との不調和が起こ り、心や体の病気が起こる。それは人間が思考 にはまっているからであり、思考にはまってい る限り自らの意識の無限性には気がつかない。 そして、人間が思考にはまっていることがこの 人類社会と地球が不調和をきたし、病的にな り、自己崩壊する唯一最大の元凶だと私は声を 大にして言ってきた。その人間の意識を本来の 姿である「無限の心」に誘導することで心も体 も根源的な健康を得ることができ、それだけで なく、それは人類がこの世界や宇宙と調和して生きることにもつながる。これこそが医学の果 たすべき役割であり、毎日の医療で簡単に実践 できることでもある。

要するに、意識は時空を超えている。そして、 この宇宙に遍在する、あるいはこの宇宙と一体 不可分である意識の存在が、この宇宙の構造を 決め、果てには地球や人間を作ったということ である。宇宙は意識そのものなのである。現代 宇宙物理学はこの事実に肉薄しつつある。とす ると、計画通りぴったりに地球や人類ができる のは当然のことである。たとえば、ある人が何 億分の1という確立のくじ引きにあたったとし よう。その人は当たったことに驚いてはいるが 実はくじ引きを作ったのは彼自身であり、自分 が当たりくじを知っていたことに気がついてな かっただけだというわけである。現代宇宙物理 学がダークエネルギーといっているのは、実は この意識ではないか。古来、宗教はそれを神と 表現していたのではないか。しかし、宗教は信 じることであり、科学は実証である。実証検分 の方に進んでこそ真実が見えてくる。ここから 現代宇宙物理学の驚異的な成果が生まれた。

人間の意識は宇宙を見ながら実は自らの意識 を再発見している。それは以下のように例えら れるだろう。人間の中のある一つの細胞は細胞 単独として独立して存在し得る。人間の細胞一 つから人間の全体が出来上がることは理論的に 証明されている。そして単細胞生物もいる。細 胞とはもともとそんな存在である。だから細胞 は、自分は自己完結して存在しているという認 識を持っていた。その細胞が自分の周囲には何 があるだろうと探索を始めた。その結果、細胞 は、自分が実は心臓の一部であったことに気が ついた。それは細胞にとっては驚天動地の事実 であった。自分の周りを宇宙が回っていると思 っていた人間が実は地球の上に立っていること に気付いたのと同じである。さらに心臓の外側 には何があるのか探索を進めた。その結果血管 が見つかり、神経が見つかり、骨筋肉が見つか り、とうとう人間全体が見つかり、自分が人間 という体の一部であることに気がついたのであ る。細胞が、これまで自分の意識は自分個人と して自己完結していると思っていたのは誤解で あり、実は、自分の外側に自分の何億倍もの巨 大な人間がいて、その意識の一部だったことに 気付いたわけである。これが宇宙物理学に起こ っていることではないか。

宇宙物理学は宇宙の果てを探索していくうち にいつのまにか人間に戻ってきた。一方、医学 も細胞にまで探索を進めていくうちに、人間に 戻ってくるだろう。ここで宇宙物理学と医学の 融合がおこる。そして、宇宙物理学も医学も、 いつかは意識を測定できるようになるかもしれ ない。そこですべてが判るというわけである。 宇宙物理学が「宇宙は神が作った」と信じる宗 教を否定し、実証を検分し続けたあげく、その 神が何であるかにとうとう行き着くというわけ である。

いや逆に、結局のところ意識は測定できない ということになるのかもしれない。というのも、 例えば意識がブラックホールの中から出てきた ものとすると、意識は他次元の世界から来るも のであり、現次元の世界では測定できないこと になる。だから、結局のところブラックホール の中は神様に任せることしかなくなるのかもし れない。それは今までの人間の神の概念、すな わち神は、確かに居はするが、わたし達人間に は見ることのできない、どこかよその世界から 来るものであるということとよく一致してい る。しかし、ここで大事なことはその神が実は 意識であり、その意識が自分とは離れた別のと ころにあるのではなく自分と一心同体であるこ とに気がついたことにある。

いずれにしても、人類の心はそのうち第二の コペルニクス的転換をきたすだろう。ある宇宙 物理学者の予言では、人類は地球生物から宇宙 生物へと進化していくという。その時、今まで の地球生物学的な生命の概念は乗り越えられ、 宇宙に漂う暗黒物質も生命である、あるいは宇 宙そのものが生命である、なんていう新しい生 命観が起こるだろう。それは、命の境界は不明 であり、全体が個であり、個は全体であるとい うはるか2,500年前の老子の「さとり」が事実 であったということに気がつくのである。そし て、その事実は一部の覚者だけのものではな く、多くの地球人が共有するようになるだろ う。その時、地球と人類は全く新しい時代を迎 えることになるかもしれない。