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『国際麻薬乱用撲滅デー(6/26)、「ダメ。ゼッタイ。」普及運動に因んで』

我部政男

沖縄県薬剤師会・学校薬剤師(麻薬取締官OB)
我部 政男

薬物乱用問題は地球的規模で解決すべき問題 として1987年「国際麻薬会議」において参加 各国の国際協力で麻薬乱用撲滅対策を推進する ための宣言が採択され、会議終了の6月26日を 「国際麻薬乱用撲滅デー」として各国がこの宣 言の趣旨を普及する日と決定。我国においては 薬物対策推進本部長を内閣総理大臣とし標語を 「薬物乱用はダメ。ゼッタイ。」を意味する「ダ メ。ゼッタイ。」を薬乱防止の合言葉として全 国普及により薬乱から若者を守る大きな目的と しています。「ダメ。ゼッタイ。」キャンペーン を全国各地で実施する理由がここにあります。 6-26キャンペーン地区大会には内閣総理大臣か ら青少年に訴えるメッセージが寄せられ、私も 厚労省・沖縄麻薬取締支所長時代に国家機関 の出先の長として総理大臣メッセージを代読し ていました。厚労省は薬乱防止啓発活動を強力 に推進させる目的として、1987年の閣議におい て(財)麻薬・覚せい剤乱用防止センター(沖 縄県の(財)麻薬覚せい剤乱用防止協会(元、 三悪追放協会)と名称が酷似していますが無関 係の別組織です)を国の委託事業として設立 し、全国8地区麻薬取締部所在地に薬乱防止キ ャラバンカー8台を配置して、乱薬に染まって いない若者に薬乱防止に関する正しい知識を啓 発する目的とし、車内での薬物見本説明、質疑 応答担当として薬乱の危険性を熟知する麻薬取 締官(麻取)OB同乗により学校等での啓発活 動を全国的に展開しています。麻取OBは、厚 労省麻薬対策課長命により(財)麻薬・覚せい 剤乱用防止センターのキャラバンカー職員とし て全国的に啓発活動に従事。私の場合は高校主 体の薬乱防止啓発講師も年間約25件ボランテ ィア対応継続中。

では何故、学校に対する薬乱防止啓発活動が 重要か、何故、覚せい剤に絞っているのか、と いうことにつきましては大きな理由がありま す。数多くの違法薬物がありますが、事犯の発 生率、押収量等から見れば、覚せい剤事犯が全 体の約90%と突出しており、次いで大麻事犯 が約10%、麻薬等は約1%で推移している現況 があります。

覚せい剤事犯では20代、30代が全体の約80% を占めており、学校での薬乱防止啓発推進によ り5〜10年後に目標を置き、乱用者減少、事犯 減少を狙った対策がここにあります。他都府県 の中高生は覚せい剤主体であるのに対して沖縄 の現状は中学生が覚せい剤主体、高校生が大麻 主体と特異現象があり、毎年検挙が継続。乱薬 は国境なき問題のため、時代の経過と共に種々 変化して当然であり、講師は現状と先を見据え た対応をすべきは当然。しかも、沖縄は観光客 流入も増加傾向にあり、他都府県からの移住者 も増加。薬乱関係者の来沖も増加して当然の確 率。しかも学生の深夜徘徊が多い特徴があり、 サラ金業者数が全国一の問題も後に続きます。

中学校では45分授業、高校では50分授業。 この時間内に体育館に集合させ出席確認、校長 の講師紹介、生徒代表のお礼の言葉。勿論、中 高共に整列まで騒ぎがあり時間ロスが生じる。 講師が使える時間は中学では30分、高校では 35分程度が現実。ビデオ1巻放映すれば講師の 持ち時間は5分程度。これでは質疑応答どころ か薬乱防止のポイントである怖さの指導が出来 ず、ビデオ(教養部分のみ)放映主体で終了 し、目的達成には疑問。しかも、ビデオは学校 内部用の何時でも使用できる啓発資材として作 成され、多種類をセンターでも販売し、教育庁 も学校内部用として配布される物を活用。内容 は若干異なるもほぼ同一内容。そのため専門家 は理解してもらいたい多くの怖さのポイントか ら数点に絞ってパソコン利用によるビデオ無し の独自講話として対応しているのが現状。講話 の成果は野球の試合結果とは異なり全く見えな い。しかし、専門家は講話を聞けば先読み可能 で成果が期待できるものか否かの推測は可能。 養護教諭も毎年外部講師を対応しながら各種研 修会で自己研摩を重ねた専門家であり、講師の 批判には厳しいものがあります。その上、生徒 の感想文ではビデオのマンネリ化表現が多くな っている現実あり。講師はこの現状を踏まえて 学校での薬乱防止啓発は沖縄に関して「覚せい 剤」のみで良いのか、ビデオ主体(残念ながら これが一般的)でいいのか、等々、講師は何を 伝えたいのか課題は山積しており、しかも沖縄 のみ自生の最強マジックマッシュルーム(麻薬 含有)が法で規制された現実、今年2月3日施 行として政令改正により麻薬指定薬物が1品目 追加もあり責任重大な責務を負わされていま す。確かに全国的に見れば平成9 年最悪時の 40%弱まで学生の検挙数は減少していますが、 沖縄県は学生の検挙が毎年継続の現況下にあ り、他都道府県とは異なる状況下にあります。

私は麻取時代34年間に家族からの申告事件 を受けたことが数件あります。その何れも「息 子が覚せい剤に手を出しました。家族も暴力を 受け夜も寝むれない。他人を刃物で傷付けるの は時間の問題。出来るだけ早く逮捕して出来る だけ長く刑務所に入れて下さい。」大半が共通 内容。家族は地獄を体験します。自宅で暴れる 被疑者を逮捕して捜査車両に乗せる時、両親が 家の中からこっそり息子の哀れな姿を見ている のが通常ですが、その顔は寂しそうな、悲しそ うな、何とも表現出来ない哀れさを感じます。 この「顔」を数回見てきました。捜査側も普通 の人間、涙がでます。特にお年寄りは、これで やっと安心して眠れる、だけど孫は刑務所に入 れられる、等々の安心と不安が交差した一種独 特の寂しい哀れな「顔」は一生忘れることが出 来ないお年寄り独特のわびしい被害者の顔で す。第一の被害者は家族と痛感する強烈な瞬間 です。今でも焼き付いています。被疑者には自 業自得、取締法違反という重い責任を取らされ 前科者という冷たい重い看板を一生背負った台 無しの人生が待っていますが、家族は地獄を体 験します。悲惨な現象です。覚せい剤に手を出 す若者はこのことに全く気付いていない現実が あります。捜査経験者は現場の危険性、裏を熟 知しているため、学校において重責を感じなが ら真剣に講話する大きな理由がここにありま す。若者に対して教養部分ではなく、ただ聞い て貰うのではなく薬乱の現実の怖さ、警鐘を理 解させる重要課題があり外部講師の重責は想像 以上のものがあります。私の場合は、高校主体 のため点呼、講師紹介等を出来るだけ簡単にし て貰うため講師依頼は1時間受持ちが大半です が昨年は2時間依頼が急に多くなり学校側も重 要性の認識から少しづつ変化しています。薬剤 師会としても薬乱防止の重責を感じ「薬乱防止 県民大会」「街頭キャンペーン」「キャラバンカ ー」「学校での薬乱防止講師」「不正大麻・けし 撲滅運動」「薬の相談会」等、薬の専門家とし て薬剤師を送り込み薬乱防止啓発活動を幅広く 展開しています。