沖縄県医師会 > 沖縄県医師会の活動 > 医師会報 > 6月号

第1回指導医のためのステップアップ講習会
〜行動変容し、研修医と共に進化する指導医〜

常任理事 安里 哲好

過去に、「指導医のための教育ワークショッ プ」を3回行い、この度「指導医のためのステ ップアップ講習会」をカルチャーリゾートフェ ストーネ(平成19年3月21日、宜野湾市)にお いて開催した。

地域保健医療協力施設・診療所医師15 名、 臨床研修病院医師4名、初期研修医8名、後期 研修医1名(計28名)の参加のもと、日程は半 日コースなれど、午後1時より始まり懇親会も 含め午後9時まで続いた。当日早朝の打ち合わ せを含め計7回のミーティングを開き、特に今 回の主要テーマである『この2年を振り返り地 域保健・医療研修の問題点を探る』に関しては その進め方に、二転三転もあり、当日まで検討 した結果、全体討論会と称する大討論会を行う こととした。

当日、箕輪良行先生(聖マリアンナ医科大学 救急医学部教授)が飛行機の中での患者急変へ の対応のため到着が遅れたのでプログラムの順 序を変更し、10分間のアイスブレーキング(グ ループワーク「“聴く”ということ」)の後に、 武田裕子先生(東京大学医学教育国際協力研究センター助教授)による『行動変容モデルを 考えた患者教育のコツ』と題した講演が行われ た。さらに、4つのグループに分かれ4名の模擬 患者さんの協力を得て、各グループとも2症例 について、ロールプレイを通じて、医師の役 割、司会者の役割とグループ発表者の役割を担 った。

グループワーク「“聴く”ということ」

グループワーク「“聴く”ということ」

【Cグループよりの講演の感想】

・行動変容モデルによる患者教育は、当院の DM外来で取り入れており、名前は知ってい たが、内容について講義を受けたのは初めて で非常に参考になった。

・患者の状態(ステージ)を十分に把握するこ とが大切で、その状態をいかに適切に評価す るかという具体的な方法を聞けてよかった。

・各ステージの患者さんを指導する上で、自己 効用感を高めることが重要であることを理解 できた。

・非常にいい内容の講演であったので、もう少 し時間をとって具体的なケースについても講 義してほしいと思う。

ロールプレイ

ロールプレイ

【Dグループの感想】

・学習経験モデルから、読んだことの知識保持 は悪く、体験したことが効果的であり→ロー ルプレイを行うと良い。

・行動変容のステージ:無関心期→関心期→準 備期→行動期→維持期→逆戻り。

・Self−Efficacy:自己効用感が大切→主治医 からあなたならできると言われれば、自己効 用感が高まる。

・問題解決アプローチ:1)問題を扱わず解決を 探る。2)ゴールをつくる。3)フィードバック ‘がんばりましたね’4)レフレーミング「3日 しか続かなかった」→「3日も続いたのです か」と述べていた。

箕輪先生は、はじめに『日常診療に役立つコ ミュニケーションスキル』にいて、「患者満足 度とコミュニケーションスキル」と「基本的コ ミュニケーションスキル」について講演を行っ た。引き続き、「医療面接の悪いデモ」と「医 療面接の良いデモ」について模擬患者さんの協 力を得てロールプレイを行い、「医療面接の悪 いデモ」についての4グループごとのディスカ ションを行った。

【「患者満足度とコミュニケ−ションスキル」に ついて、Aグループよりの感想】

患者満足度を意識して常に診療することの重 要性を学ぶことができ、満足度が医学の質や医 療経営に深くかかわっていることを認識し、面 接のコミュニケ−ションスキルも大変参考にな り、スキルの各項目を意識し、今後の面接に生 かしていきたい。

医療面接デモ

医療面接デモ

グループワーク作業

グループワーク作業

グループ発表

グループ発表

【「基本的コミニケ−ションスキル」について、 Cグループよりの感想】

情報収集、医師−患者関係、解釈モデル、非 言語的なコミュニケ−ション、医療面接では Opended Questionや診察の最後に「ほかに 何かありませんか」−Door knob Question、 促し・確認・共感等のスキルの磨き方など実際 に使える話が多かったと述べていた。

『この2年を振り返り地域保健・医療研修の 問題点を探る』のコーナーは田名毅先生の司会 により進められ、1)事前アンケートの結果報告 について説明し、2)管理型臨床研修病院、地域 保健・医療研修協力施設と研修医の3つグルー プに分かれ、まずはアトランダムに問題点を挙 げてもらい、1)の結果と2)の問題点の中から抽 出し、3グループを中心とした大討論会を行っ た。多くの問題点や意見が出されたが、時間も 予定より30分以上オーバーしていたので、次の 5点について討論を行った。

T.研修医に対し、どこまで実践してもらうか?

・患者は、研修医の診察を求めていないのが現 状である。従って、当院では見学重視であ る。(協力施設・診療所)

・当院の方針は、患者全てを診てもらう(新 患・再患問わず)。その中で何かを感じ取っ てもらう。その後、指導医が診察している。 →時間がかかる。(協力施設・離島診療所)

・1週目は、見学。2週目に新患を診てもらっ ている。指導医の証書と研修医の写真を待合 室に張り出して、患者さんに研修医の事を説 明し、許諾を得たうえで、一緒に診察を行っ ている。手技については、責任問題の面もあ るので、させていない。(協力施設・離島診 療所)

・危険でない手技については、研修医の希望を 聞きながら、できるだけ参加させ経験しても らう。また、看護師にトリアージしていただ き、研修医ができそうな手技をやってもらう (待ち時間短縮効果)。なお、危険な手技につ いてはさせていない。(協力施設・診療所)

・都市型の診療所では、患者の医療レベルへの needsが高く、研修医にどこまでさせてよい か悩むところである。(協力施設)

・米国式の外来研修を取り入れている。診察に 関しては、最初の2日間、診療システムを見 ていただき、実際に診察を行う。その後、デ ィスカッションを行い、能力のある研修医に 関しては、説明までやってもらう。そうでな い研修医に関しては、指導医が説明を行って いる。また、手技に関しては、経験があるも のに関しては、実際に行ってもらうが、経験 がない場合、または、見学のみの場合はさせ ない。(協力施設・診療所:タスク)

・研修医用の診察室がある。指導医の判断のも とに患者のhistoric及びphysicalをとった上 で、指導医がsummarizeを行う。その後、方 針を確認し、検査のオーダー等を決める。ま た、ナースが様子を見て、指導医がタイミン グよくサポートしてくれた。(研修医)

・コメディカルの仕事をする機会があり、大変 貴重だった。(研修医)

・管理型病院では、1年間で充分なスキルを磨 く事が可能である。一方、医療面接に関し て、OSCEのみではマンネリ化(形骸化?) し、接遇の再トレーニング(管理型若しくは 受け入れ診療所で)が必要である。更には、 保険診療に関する勉強を受け入れ施設で教え ていただければありがたい。(管理型)

U.フィードバック(振り返り)について

・2年目研修の際にDr.コトー診療所の撮影が 行われた診療所へ研修に行った。その時は、 フィードバックがなかった。完全に施設内で 手術まで完結されるので、むしろ、患者さん から直接フィードバックを受けた。(研修医)

・毎日、外来の終わりに、気になる点等を聴き 出し、Discussionした。(研修医)

・毎日フィードバックがあった。午前は診察を メインに、午後は経験した症例をまとめたも のを指導医と一緒にフィードバックしてい た。指導医が患者背景などを把握していたこ とが印象的であった。また、離島病院の研修 でも同様に毎日フィードバックが行われた。 担当の指導医から経験した症例を何でもいい から小ノートに記入するよう勧められ、現在 でも活用している。(研修医)

・2 人の研修医を交互に毎週水曜日の7:30 〜 8:30に症例発表をさせた。その発表に対し、 ツッコミを入れ、アドバイスしている。また、 研修医のmotivationにもよるが、入院患者の 回診を実践したい。(協力施設・離島病院)

・motivationをあげるために、毎日の目標を立 て、毎日達成できているかを確認している。 受け入れ施設に対して、モラルや身だしな み、言葉遣い等も含めたフィードバックをや っていただけるとありがたい。また、フィー ドバックする内容、時間が知りたい。(管理 型)

・症例をまとめて頂いたものを朝or夜に30分 程度のフィードバックを行っている。ちなみに、服装については、一人前として扱ってい るのでとやかく言えない。(協力施設・診療 所:タスク)

・1ヶ月で学べることは決まっているように思 う。一般的にいえば、感染症でのバクテリア 除外、生活習慣病の本人のmotivationを高め るカウンセリング、高齢者医療での社会信念 の調節、mild depressionの見分け方等が概 ね網羅できるようにフィードバックする。 (協力施設・診療所:タスク)

V.研修で工夫していること

・慢性患者のケアを研修教育の中に取り入れて いる。(協力施設・診療所)

・医療スタッフの全ての職務を経験し、理解し ていただく。(協力施設・診療所)

・地域保健の研修目的にもよるが、外来診療や 各種資源及び制度の理解。(協力施設・病院)

・最初の1週間は、白衣を着ずナースやソーシ ャルワーカー等と動いていただき、チーム医 療を学んでもらう。また、ホスピス、看とり の経験、患者・家族からみた治療・ケアの選 択等、その施設ならではの研修内容を前面に 出す。(協力施設・病院)

W.研修期間はどのくらいが適当か?

1)1週間のみ

受け入れる研修医の数に応じて(受け入れ数 が多いため1週間のみ)。実際は、1週間では、 離島医療を知ることはできない。(協力施設・ 離島診療所)

2)2週間程度でよい

1週目は、指導医との付き合い方を伺ってい る。2週目から自分のスタンスで動いている。 希望があれば、3週間も可能としている。また、 離島は海が近いため、「夏」に症例が多く、バ ラエティーに富んでいる。夏に来ていただける といろいろな経験ができると思う。(協力施 設・離島診療所)

3)1週間は短い

離島診療所を自由枠で再度望む研修医もいる。保健所等は、お客さん扱いで終わってしま う。(※受け入れてる施設によって期間は異な る)(管理型)

4)1ヶ月は短い

慢性疾患の場合等、患者の真の経緯が追えな いため。(協力施設・診療所)

5)3ヶ月でも足りない

研修医のやる気次第。コメディカル業務など 現場を理解し始めた頃に終わってしまう。 (協力施設・離島病院)

<タスクフォース>

受け入れ施設の特徴によって、期間・時期は それぞれ考慮されるべきである。管理型施設の 都合だけで決められるのではなく、管理型施設 と受け入れ施設とで話し合う場をつくる必要が ある。

X.研修医のmotivationをあげるには?

・研修医がどのようなneedsを持っているかが keyになるのではないかと思う。指導医側も ある程度研修医を観察するべき。管理型から 受け入れ施設への評価表等の情報を事前に送 り、needsにあったプランを立てると良いの では。(研修医)

・施設毎の地域保健・医療研修のしっかりした 目標を掲げる。(管理型)

・地域保健・医療施設先を研修医自身に選択さ せる。(タスク)

・いいところを見つけて、誉めてあげること。努力したことを認めること。(協力施設・診 療所)

全体討論

全体討論

今回実施した「指導医のためのステップアッ プ講習会」は、新しい試みでもあり、小委員会 で何度も事前検討会を持ち、参加者にとってい かに充実した講習会になり得るかを話し合っ た。その結果については、参加者の感想を列記 したいと思う。1)日常診察のコミュニケーショ ンスキルアップはリスクマネジメントの上から も大切で、若い研修医がこれらのことを学んで いることに、心強く思うと同時に自分も含めベ テランの先生にスキルが乏しいのを実感し、今 後も多くの方に講習会参加を勧めてほしいと思 う。2)参加者が多様でよかった。3)半日スケジ ュールでちょうど良かった。4)もっと研修医を 参加させてよいと思う(モチべーションを上げ るためにも)。5)教育の場では、講習というと 若い先生方が多い中、ベテランの先生が熱心に 参加されていたのに感銘し、研修医教育に定評 のある沖縄ならではと思った。6)研修医が参加 すると言うのは、言いたいことが十分に言える にしろ言えないにしろ、交流の場として非常に 重要だと思う。また、研修医教育は実際に教育 現場を見てない人が、色々な制度を作ることが 多く、現実と理想のギャップが大きい感じもし ます。なので、こういった研修の中で、様々な 立場の人たちが勉強を通じて交流する機会を増 やすことが、より良い医療につながると考えま す。とてもよい機会に参加させていただき本当 に有難うございました。

以上、参加者の一部の感想を列記しました が、今後とも参加したい、今後とも続けて欲し いと言う要望もあり、若い医師達の育成のため にも、指導医の更なるスキルアップと意見交 換・親睦の場としても、可能な限り、第2・第 3と続けていきたいと意を強くした。最後に、 箕輪先生、武田先生、5名のタスクフォースの 先生方、そして4名の模擬患者さんの方々に深 く感謝致します。

タスクフォースの先生方

タスクフォースの先生方
前列左より 武田裕子先生、小生(安里哲好)、箕輪良行、仲本昌一
後列左より 稲福徹也先生、田名毅先生、涌波満先生、安谷正先生

懇親会

懇親会

プログラム

参加者名簿