副会長 小渡 敬
去る3月15日(木)、日本医師会において標 記協議会が開催されたので、その概要について 報告する。
挨 拶
唐澤人日本医師会会長より、概ね次のと おり挨拶があった。
療養病床の再編を巡る動きについては、平成 18年6月に介護療養型医療施設を平成23年度末 をもって廃止すること等を内容とする介護保険 法の改正を盛り込んだ「健康保険法の一部を改 正する法律(案)」が可決成立し、国から具体 的な政策が打ち出されているところである。
日本医師会としては、療養病床の再編及び診 療報酬改定の影響により、医療区分1の入院患 者の実態と診療報酬上の影響等を把握し、今後 の本会の政策等の策定、検討する際の基礎資料 とすることを目的に、都道府県医師会にご協力 いただき、療養病床再編に関する緊急調査を実 施した。この調査の結果については、中医協に 資料を提出の上で意見陳述を行った。また、厚 生労働省実施の介護サービス施設事業所調査の 結果等を合わせ、在宅医療を推進するにあた り、これからの療養病床や介護保険施設の在り 方について、その重要性を改めて主張している ところである。
さらに本会としても、これからの国民の健康 と安全を守り、生活、人生を保障していく上で 在宅医療の役割が重要と考え、平成19年1月10 日、三つの基本的考え、及び7つの提言からなる 「在宅における医療・介護の提供体制−『かかり つけ医機能』の充実−」指針を公表している。
今回のテーマである、厚労省の打ち出した「地域ケア整備指針(仮称)」が、今後の療養病 床の再編に関わる施策の一つであり、都道府県 においては、地域ケア体制、整備の基本的考え 方の提示、将来のサービスニーズや利用見込 み、年次別、圏域別の療養病床の転換計画を定 める「地域ケア整備構想(仮称)」を発表する こととなっており、現在、全国8地域において モデル事業が実施されている。本日はモデル事 業を行った8地域のうち、新潟県、東京都、北 九州市より報告いただくことになっている。
今後、各都道府県において予定されている地 域ケア整備構想(仮称)の策定については、地 域の特性に応じたものとなるよう、本日の内容 をご参考にしていただき、医師会として積極的 に関わっていただきたい。
議 題
1)新潟県(高齢化地域)
新潟県医師会理事の吉沢浩志先生より、新潟 県におけるモデルプラン作成の概要について報 告があった。
新潟県のモデルプラン作成は、新潟県下越圏 域を対象とした療養病床アンケート調査の結果 を基に行われている。調査対象施設は6医療機 関で、医療療養病床195床、介護療養病床393 床の計588床となっている。
調査結果より、医療療養病床、介護療養病床 の両施設ともに、寝たきり状態の患者さんが最 も多く(ADL区分3の患者さんが、医療療養病 床で56.4%、介護療養病床で56.2%と、それぞ れ最も多い)、また、介護重度者の占める割合が高い(要介護5の患者さんが、医療療養病床 で45.5%、介護療養病床で60%と、それぞれ 最も多い)ことが報告された。
調査結果の概況が報告された後、今後の検討 課題として、「療養病床からの退院患者には医 療区分2の喀痰吸引、経管栄養、胃瘻管理など を必要とする例も多く、老健や特養は現行の施 設設備や人員基準等で受け入れは困難であ る。」、「医療機関の転換意向と患者の状態から 望まれる施設に大きな乖離が見られる。また、 望ましい施設が介護療養病床とされた患者の廃 止後の受け入れ施設の検討が未着手である。」、 「療養病床を退院する患者が介護施設に入所す る場合、待機者との関係もあり、優先入所を保 証できない。」、「圏域内の医療資源のみでは在 宅医療を支える地域医療体制を構築することが 困難な状況のなか、『現に高齢化率が高い地域』 としてのモデルプラン作成は困難な作業と考え る。」と意見が述べられ、新潟県から国へ「介 護施設サービス体系の明確化」、「老人保健施設 における医療体制の見直し」、「老人福祉施設に おける医療サービスの見直し」、「定員の超過 等」、「療養病床転換に係る財政支援措置の拡 充」を提言していきたいと説明があった。
2)東京都(都市地域)
東京都医師会理事の玉木一弘先生より、「東 京都区西北圏域における地域ケア整備構想モデ ルプランの概要と課題及び東京都医師会の取り 組み」について報告があった。
東京都区西北部圏域は、人口1,796,419人、高 齢者人口349,427人、高齢化率19.5%、医療療養 病床が40施設(病床数1,874床)、介護療養病床 が22施設(病床数1,504床)となっている。
調査結果より、医療療養病床では、医療区分 2が43.6%、医療区分1が44.1%とほぼ同じで、 ADL区分は2が40.7%と最も多くなっている。 介護療養病床入院患者の要介護度は、要介護5 が52.4 %と最も多く、要介護4 と5 で全体の 86.2%となっていることが報告された。
調査結果の概況が報告された後、今後の検討 課題として、「転換意向について、未定が多く短期的な対応の方向性を定められない状況」、 「65歳以上人口10万対で、療養病床数は全国平 均より4割弱、介護保険施設は5割弱、引き続 き、医療又は介護施設サービスを担う必要があ る」、「医療療養病床には、急性期の治療後の受 け皿機能や在宅療養の後方支援機能などの役割 が想定され、真の必要数の把握が重要となる」、 「今回のアンケートでは、転換意向が未定の医 療機関が多く、再度意向調査を行い、秋までに 策定する地域ケア整備構想に反映させる必要が ある」、「そのためには療養病床の再編、転換の 判断に必要となる情報等を早期に提供すること が重要」、「介護保険施設における今後の医療提 供のあり方等、転換の判断に必要となるものに ついて、早期にその考え方を示すように国に求 めていく必要がある」と意見された。
また、東京都医師会では、都に対し地域ケア 整備における取り組みの方向性として、介護施 設の偏在については参酌基準の弾力的運用(真 の医療療養病床必要数の把握等)、在宅の介 護・医療提供力の不足については在宅療養基盤 の充実(後方補完病床の確保等)、厳しい経営 環境については実情に即した都の補助・支援の 充実(転換施設の居室面積の緩和、医療療養施 設への経営支援等)等を要望している旨が説明 された。
3)福岡県北九州市(療養病床地域)
北九州市医師会理事の白石公彦先生より、北 九州市におけるモデルプラン作成の概要につい て報告があった。
北九州市は、医療療養病床3,887床、介護療 養病床1,440床の計5,327床となっており、高齢 者人口に対する病床数は47都道府県政令指定 都市中第6位となっている。
調査結果より、療養病床の転換意向につい て、医療療養病床から老人保健施設へ転換意向 を示した施設は非常に少なく(医療療養病床の 維持を回答した施設が70.7%と最も多い)、介 護療養病床については、老人保健施設より医療 度の高い施設への転換意向が多い結果(医療療 養病床への転換16.7%、一般病床等への転換 19.6%、老健35.2%)が示されている。各施設 が老健への転換の際に重要と考える事項とし て、老健の永続性、医療療養病床の医療区分と 診療報酬の見直し結果、老健での医療提供が可 能であること、老健の介護報酬の成り行き、等 を挙げていることが報告された。
調査結果の概況が報告された後、今後の検討 課題として、「医療療養病床数は厚生労働省の 再編シナリオ以上に必要であり、長期療養の 他、急性期、亜急性期の病床としてさらに病床 が必要である」、「老人保健施設へ転換への意思 決定に必要な情報が遅れている」、「患者と家族 の視点で療養病床再編に当たる必要がある」と 意見された。
また、モデルプラン作成上の問題点として、 行政と医師会の視点のズレが考えられると説明 があり、「医師会は高齢者の住まい、見守り、 在宅医療(再編後の受け皿づくり)について、 十分に意見を出さなかった。行政は独自の療養 病床転換の支援策を示さなかった」との見解が 示された。
杏林大学医学部高齢医学教授の鳥羽研二先 生より、「地域ケア整備構想と慢性期医療区分 の考え方」と題して講演が行われた。
先ず始めに、「療養病床の入院患者のうち医 師の対応が殆ど必要のない人が概ね半分(中医 協資料)という数字は本当か」と提言があり、 「(行政は)急性期医療の物差しでしか考えてい ない。チーアプローチによる医療への無理解。 ベッドサイドでの機能維持(ADL、認知、ムー ド)の理解不足。寝たきりは手がかからないと 言うが手をかけないの間違いでは。老年症候群 が置き去りにされている可能性。等々、広い意 味での慢性期医療対応が必要であるが、行政・ マスコミ・医師の一部が医療不要のレッテルを はっていないか」と療養病床再編に係る意見が 述べられた。
また、慢性期ケア施設の医療需要と介護需要の特徴、実情に合致したモデルが現状で整備さ れているかを考える必要があると問題提起され、 「急性期病院で対応できないADL低下、骨粗鬆 症、嚥下困難、尿失禁、褥瘡、等の慢性期ケア こそ医療が必要なものである」と意見された。
日本老年医学会の基本的立場(後期高齢者の 心身の特徴と医療の現状認識と問題点)として も、「高齢者医療全体は、国民の福祉に貢献し ている。我が国は世界一の長寿国で、かつ、健 康寿命も世界一である。現状の医療費の総額、 GDP比、今後の医療費の増加といった医療経 済的視点以外は、高齢者医療のマクロ的な欠点 は見いだせない」という考えを示していると説 明があり、「高齢者は複数疾患にかかりやすく、 多くの医療機関を受診し、検査・薬剤処方も多 くなる。この件に関し、一疾患あたりの医療費 が非高齢者より高いかを論ずるべきであり、病 気が多いから、一つ一つの疾患の検査や投薬を 経済的に制限するという議論は、高齢者差別で あり、反対する。高齢者の心身の特性に配慮し た医療が行われるべきである」とした見解が述 べられた。
「85%の人が住み慣れた自宅で療養したいと 考えている」という国の調査結果についても、 「在宅で元気な高齢者の調査を、寝たきり高齢 者の希望に転用している。実際に生活自立困難 で廃用症候群が出てもこの答えは変わらないの か。」と意見され、老健施設入所者、家族の退 所指導時の希望療養場所を調査した結果では、 本人、家族双方が在宅療養を希望した数は全体 の2%しかなかったことが報告された。また、 在宅寝たきり高齢者医療の語られない問題点と して、褥瘡、カイセン、オムツ交換等につい て、施設と同程度のケアを在宅で行うことは可 能かと意見された。
最後に、地域ケア整備構想の策定について、 「地域ケア整備計画においては、高齢者の生活 自立度と疾患・老年症候群に配慮し、高齢者本 人に最適な生活・療養場所が選択できる制度を 構築することが、国民の老後への安心をもたら す。高齢者住宅単独では、十分な医療とケアの受け皿とならない。労働集約型の医療・ケアミ ックス施設の活用方法を再考すべきである」と 述べられた。
厚生労働省老健局地域ケア・療養病床転換推 進室の榎本健太郎室長より、「地域ケア整備構 想(仮称)の策定に向けて」と題した講演が行 われた。
始めに、地域ケア整備構想(仮称)を作成す る趣旨として、「1)地域差が大きい中で、地域 ごとの対応方針を整理する。」、「2)療養病床の 転換推進が惹起する住民や医療機関の不安に応 える。」、「3)療養病床の再編成に関係する関係3 計画(医療計画、医療費適正化計画、介護保険 事業支援計画)の整合性を図る。」の3項目が 挙げられる旨が説明され、現在、厚生労働省で は、各都道府県による地域ケア整備構想(仮 称)策定のための作業ツールとして、地域ケア 整備構想(仮称)に盛り込むべき事項を取りま とめた「地域ケア整備基本指針(仮称)」並び に、20年後、30年後を見通した地域ケア体制 確保に向けた対応指針を検討するための作業ツ ールで、高齢者の見守り、住まいの在り方や在 宅医療の在り方を検討する際の検討のポイント を示した「長期ワークシート」、平成23年度ま での療養病床転換分も含む介護サービスの見込 み量や、見守り機能がついた住まい等の量を見 込むための作業ツールで、介護保険事業計画の ワークシートをベースとして、直近の給付実績 や療養病床の転換に伴う所要量を反映させた 「短期ワークシート」を公表(平成18年12月26 日公表)し作業を進めてもらうことになってい ると報告があった。
地域ケア整備構想(仮称)に盛り込むべき事 項の具体的な内容は、現時点で、「地域ケア体 制の在り方及び療養病床の再編成に関する基本 的事項」や、医療計画、医療費適正化計画、介 護保険事業支援計画、その他関係計画との調 和、市町村との関係を盛り込んだ「地域ケア整 備構想の策定に関する基本的事項」、平成47年 (2035年)に向けた10年ごとの高齢者の介護及 び見守り等のサービスの需要の見通しを盛り込 んだ「地域における高齢者の介護及び見守り等 の将来像と中長期的な体制の確保に関する事 項」、平成23年度までの各年度の介護サービス 及び住まい等の量の見込みを盛り込んだ「療養 病床の転換が行われる期間の地域における高齢 者の介護サービス及び住まい等の量の見込み及 び体制の確保に関する事項」、地域における療 養病床の現状と課題や、療養病床の転換の保険 財政上の影響と試算等を盛り込んだ「療養病床 の転換の推進に関する事項(療養病床転換推進 計画)」となっている。
構想の作成に向けた地域における検討事項と して、「高齢者が住み慣れた地域において出来 る限り継続して生活できるようにするために は、先に検討する見守り及び住まいの在り方と 合わせて、在宅医療の在り方を検討することも 必要。粗い推計も参考としつつ、地域としての 中長期的検討を行う」と説明があり、長期的将 来像の検討を行うことで、今後の高齢化の進展 に対応した地域としての施設・居住系サービス の今後の整備の方向性や、確保すべき見守りの 内容や見守りを要する者の見込み、高齢者の生 活に適した住宅の供給の必要量等の整備が期待 できると意見された。
当面のスケジュールについては、平成19年3 月末に、国が地域ケア整備指針・モデルプラン を提示し、指針を受けた各都道府県は、4月か ら7月を目処に、先に行ったアンケート集計結 果を踏まえ、短期ワークシートを活用して当面 のサービスニーズを推計するとともに、平成23 年度末までの介護サービスの量の見込み、医療 機関の転換意向を踏まえた療養病床の年次別転 換見込み等を整理し、財政試算等を行う。さら に、地域の特性に応じた検討課題を整理し、具 体的な対応方策を検討することになっていると 説明があった。
介護施設等の基本的な在り方の検討について は、“介護施設等の在り方に関する委員会”を設置し、介護施設等の入所者に対する医療の提 供の在り方に関する事項等の検討を行っている と説明があり、これまでに3回の委員会が開催 されていることが報告された。
今後の高齢化の展望について、2015年には 沖縄県を除く46都道府県で高齢化率20%を超 え、2025年には25%を超えるのが45都道府県、 30%を超えるのが28道県に達すると予測され ており、また、高齢化の進展に伴い、高齢者の 単身世帯及び夫婦のみ世帯の増加が著しいこと や、認知症高齢者が急速に増加することが予測 されていると説明があり、このような状況を鑑 み、高齢者への介護サービス量の増加が見込ま れるとともに、高齢者の「住まい」の問題等へ の対応が不可欠になると述べられた。
Q.療養病床の退出を迫られる方がいると考え られるが、その方の見込み量、中間施設として 受け入れる施設はあるか。
A.患者さんの状況を踏まえながら適切なサー ビスを受けられるようにしたいと考える。地域 において必要なサービスニーズがどれくらいあ るのかを踏まえ転換をしていく。
Q.低所得者対策はどのように考えているか。 高齢者への財政的支援は考えているか。財政的 な観点からケア付き住宅への入所が困難な患者 さんもいる。
A.今後、高齢者住宅等を一つのツールとして 活用できるよう考えている。各都道府県計画の 中で考慮することとして盛り込んでいきたい。
Q.本来予防とは元気な時期からやらないとい けない。これまでにも取り組まれてきた各地域 における福祉(健康)事業への財政的支援は考 えているか。
A.介護予防についてはより力を入れていかな ければならないと考えている。チェックリスト の見直し等。元気な方の予防を進めるというこ とも重要であると考える。
Q.疾病の治療だけでなく、生活機能という視 点も考えなければならない。そこへの新たな医 療提供体制の必要性。
A.後期高齢者医療の中でも議論が進められて いるところである。介護と医療の連携をどうし ていくのかということが大きな課題となる。議 論を進めていきたい。
Q.施設基準の緩和について。
A.去る3月12日の介護保険施設等の在り方に関 する委員会においても議論されている。アンケ ート調査結果からも支援策を考える必要が出て きていると考えている。どういう転換のイメージ ができるのか出来るだけ早く示していきたい。参 酌標準、低所得者が多いという問題、特養ホー ムも一つの受け皿として考えるが、医療法人が 特養を設置できないという制限があり、そこは 本会議では申し上げないが、そういう議論もあ る。15万床では足りないという議論については、 療養病床の在り方について、現在、保険局の方 で検討作業を進めているところである。
総括および閉会
竹嶋康弘日本医師会副会長より、総括が述べ られた。