沖縄県立南部医療センター・こども医療センター
小児腎臓科・総合診療科部長
吉村 仁志
こどもの尿異常には、大きく分けて排尿パタ ーンの異常と尿の色の異常がある。昨年春に開 設した当院小児腎臓科外来(喜瀬 智郎医長と 筆者2人で担当)にも概ね、この2つの主訴で 保護者がこどもを連れて来院される。最近の若 干の知見や動向を踏まえながら、これらへの対 処法を述べてみたい。
排尿回数が異常に少なく1日に2回しか排尿 しない、逆に排尿回数が多く尿意が生じるとト イレに駆け込む前におもらししてしまう、とい う主訴での来院は非常に多い。まずこのような 主訴で受診した場合に重要なことは、尿濃縮力 障害、神経因性膀胱などの器質的疾患を否定す るため、便秘・尿路感染症の既往(神経因性膀 胱および直腸)、男児であれば尿線はどうか (後部尿道弁)などの病歴を確認し、身体所見 で体重増加不良はないか(尿細管疾患)、低身 長はないか(低形成腎などによる慢性腎不全)、 毛やくぼみなどの腰部皮膚所見(脊髄破裂類縁 疾患)、臀部の非対称(仙骨部奇形)、会陰部の 衛生状態と肛門筋緊張低下(神経因性直腸、性 的虐待)などを確認する。これらが否定できれ ば、3 〜 7 歳の女児に好発するLazy bladder syndromeや不安定膀胱(過敏性膀胱)といっ た一過性、機能性の排尿障害である。前者は排 尿回数が1日に3回以下と少なく巨大膀胱とな り、後者は排尿回数が1日に10回以上と増加し て、尿意が出てトイレに駆け込むまでに尿がも れてしまう、いわゆる切迫性尿失禁を特徴とす る。実際の一般小児科外来で器質的疾患などと 比較にならないほど多く遭遇する。両者とも食 習慣にもとづく便秘(機能性)が背景にあるこ とが多く、便秘を改善させることと、尿意に関 係なく定時排尿させることで解決することが多 い。また代表的な排尿パターンの異常として夜 尿症がある。まず「夜のおもらし」で訪れた場 合には、「昼間のおもらし」=「昼間遺尿」が ないかどうか必ず問診で確認する。これがあれ ば、器質的疾患をまず考える。さらに尿の回数 の異常で述べたのと同様の器質的疾患を疑う問 診と身体所見のポイントを確認し、昼間遺尿が なく、これらの所見がない場合は夜尿症であ る。夜尿症のケアには一定の確立した方法がな いが、役立つエビデンスとして、家族歴が濃厚 であること、5歳で20%、7歳で10%、10歳で 5%、15歳で1%の治癒率であり非常に自然治 癒率が高いこと、各種薬剤や目覚まし排尿は60 〜70%の効果があるが、止めれば再発し、自然 歴はかわらないことなどを知っておくと保護者 の説明に使える。最近では、塾通いなどのスト レスで夜尿も昼間遺尿もある小学生高学年の受 診も増加している。おむつがずっしり重く頻回 に取り替える、また頻尿で外来を訪れた場合に 一回の尿量を聴いてみてその量が多い場合は多 尿を考える。多尿をみたら出るから飲むのか、 飲むから出るのかを問診でよく判断する。前者 では、器質的な尿濃縮力障害(低形成腎で慢性 腎不全の場合、尿細管性アシドーシス、中枢性 あるいは腎性尿崩症など)と浸透圧利尿(糖尿 病の発症)の2つの可能性を考える。
とくにII型糖尿病の若年発症のわが国における 急激な増加は小児のメタボリック・シンドローム の部分症として将来を憂える社会問題である。
尿の色の異常で小児が外来を受診することは 多い。尿の色の異常というと、まず血尿である が、「おしっこが赤い」という訴えの場合、ま ずそれが本当に血尿であるかどうか話を聞くだ けでなく、診察者自らが自分の眼で確かめるこ とをお勧めしたい。血尿とよく間違えられるも のとして、濃縮尿(脱水、ネフローゼ、心不 全)、尿酸結晶(新生児レンガ尿−Brick dust 現象おむつ成分+尿酸)、赤色おむつ症候群 (セラチア菌による、病原性はない)、ビリルビ ン(総胆管のう腫など)、薬物(リファンピシ ン、イミペナム、バクタ、アレビアチン、カロ チン、ワーファリン)、色素(フェノールフタレ イン‐千歳飴の成分)、初潮の月経血混入(驚 いて外来にくることがある)などがある。いざ 自分の眼で確かめて本当に肉眼的血尿であった 場合は診断・治療を急ぐ重篤な疾患の頻度が高 い。悪性腫瘍(ウイルムス、横紋筋肉腫)、結 石、外傷(腎外傷・骨盤骨折・膀胱外傷/異物 で虐待を含む)、血友病、横紋筋融解症(激し い炎天下での運動などが原因)、急性糸球体腎 炎、急速進行性糸球体腎炎(IgA腎症、紫斑病 性腎炎、ループス腎炎などは、まれであるがす べてこの形で発症する可能性がある)、急性腎 不全(溶血性尿毒症症候群など)などである。 一方、頻尿と排尿時痛をともなう出血性膀胱炎 やウイルス感染時に肉眼的血尿が出現するもの の数日以内に改善するIgA腎症は急がない。
全身浮腫があり、尿の消えない泡立ちがあ り、検尿で顕微鏡的血尿がないか、あっても軽 度で尿蛋白が3+〜4+の陽性だと、ネフローゼ 症候群が最も考えられる。この場合、注意すべ きは、尿蛋白の定性試験は大まかなことしか言 えないことである。定性試験は単なる濃度であ るので1+だから大丈夫とも言えないし、3+だ から状態が悪いとも言えない。必ず尿の濃縮度 を相殺するため、1 回尿の尿中蛋白濃度 (mg/dl)を尿中クレアチニン濃度(mg/dl) で除し、比を計算する。これで2以上は月齢・ 年齢を問わず高度蛋白尿であり、2以上3未満 で持続する場合は2〜3か月持続すれば、また3 以上は症状の有無、また血尿の有無を問わずす ぐ専門医に紹介する。検尿異常に加えて、低身 長をともなう場合は慢性腎不全、高血圧をとも なう場合は進行性の糸球体腎炎である可能性が 高いので、すぐ紹介が必要である。尚顕微鏡的 血尿のみであり、蛋白尿が陰性で、高血圧や低 身長をともなわず、学童以上で補体(C3)低 値がなければ重篤な疾患がかくれている可能性 は低い。最後に検尿異常の一つとしての膿尿・ 細菌尿にふれたい。2歳未満でバッグ尿で採取 した検尿の意義は、白血球、細菌が陰性なら尿 路感染症ではないということのみである。どち らか一方または両方で異常があっても導尿すれ ば陰性ということは多く、発熱乳幼児における 尿路感染症の診断は導尿による採尿による培養 が確定診断の方法である。栄養チューブによる 培養採取は忙しい一般小児科診療でも普及しつ つある。
21世紀は消費者中心の医療にさらなる重点が おかれることであろう。話をよく聴き、フット ワークよく五感でよく患児を観察し、無駄な検 査を減らし、患者の利益を最優先させるケアが 子どもの尿異常の管理にも求められる。また子 育て環境に目を向け、医療の社会性をつねに意 識して診療すべきであろう。
参考文献
吉村仁志:18章腎疾患. 吉村仁志監訳WM臨床
研修サバイバルガイド小児科.メディカル・サ
イエンス・インターナショナル. 東京.
2005.p222−237.