琉球大学医学部感染病態制御学講座(第一内科)
藤田次郎、比嘉 太、健山正男
【要 旨】
肺炎の診断と治療について臨床医は熟知しておく必要がある。また、かつて結核 は国民病であったし、最近の非結核性抗酸菌症の増加についても注意をはらう必要 がある。ただし実地臨床においては、胸部単純写真にて呼吸器感染症を診断するこ とが一般的であると考えるので、本稿では胸部単純写真を用いた呼吸器感染症の診 断について概説した。まず呼吸器感染症の画像診断を実施する際に必要な解剖学的 知識として、Millerの二次小葉とAschoffの細葉の重要性を強調した。また肺の容 積からみた呼吸器感染症のとらえ方について、胸部単純写真での評価法を示した。 さらに胸部単純写真による画像パターンの解析として、肺炎は3つの型、すなわち i)非区域性分布の肺胞性肺炎、ii)気管支肺炎、およびiii)画像パターンとしての 間質性肺炎、に分類できることと、その解釈を示した。抗酸菌症として、肺結核と 非結核性抗酸菌症の画像診断の特徴についても記載した。
肺炎はわが国における死因の第4位であり、 その診断と治療について臨床医は熟知しておく 必要がある。またかつて結核は国民病であった し、最近の非結核性抗酸菌症の増加についても 注意をはらっておく必要がある。
呼吸器感染症の診断において、胸部単純写真 はきわめて有用な情報を与えてくれることはい うまでもない。ただし胸部単純写真の読影は極 めて高度な知的作業であり、正常解剖、正常変 異、個々の疾患の病態などについての知識や過 去の経験に深く依存するものであり、その解釈 には医学全般にわたる知識と経験に裏打ちされ た総合力が求められる1)。実際に医師会の先生 方にとっては、胸部CTではなく胸部単純写真 にて呼吸器感染症を診断することが一般的であ ると考えるので、本稿では胸部単純写真を用い た呼吸器感染症の診断について概説する。ただ し、より理解を深めるために、一部の症例にお いて胸部CT所見を呈示した。
呼吸器感染症の画像診断に重要な解剖学的単 位は、小葉(lobulus)と細葉(acinus)であ る。この小葉と細葉の定義には様々なものがあ るので、ここで整理しておきたい。この小葉と 細葉が理解できれば肺炎、および抗酸菌感染症 の診断の助けとなる。
呼吸器感染症の病変の広がりを理解するには 小葉を一つの単位として、その中の構造を細気 管支と関連付けて理解しておくことが重要であ る。小葉の大きさは指頭大、すなわち小指の先 から親指の先まで含めて指頭大である。ただ し、小葉と細葉の定義には各種あるので2)、そ の模式図を図1に示す。
まず大きな単位から小さな単 位に進める形で説明したい(図 1)。Millerの二次小葉は、線維性 の隔壁を有する単位でこれは肉 眼的にも認識可能な単位である。 次いでReidの小葉は、径1mm大 の細気管支に支配される領域 (Millerの二次小葉の約1/3)で ある。Loeshckeの細葉は終末細 気管支に支配される領域で、 Aschoffの細葉は呼吸細気管支で 支配される領域(Loeshckeの細 葉の1/2)となる。Millerの一次 小葉は肺胞道で支配される領域 となる。この中で特に重要なもの は、Millerの二次小葉とAschoff の細葉である3)。
図1.小葉、および細葉の定義(文献1)より改変)
小葉、および細葉には、この図に示すように様々な定義がある。これらの定義の
中で、臨床的に有用なのは、Millerの二次小葉、およびAschoffの細葉である。本稿
での小葉は、Millerの二次小葉、細葉はAschoffの細葉を指す。
肺炎を肺の容積からとらえた 報告は多くない。一般的に大葉 性肺炎においては、肺の容積が 拡大することはよく知られた事実 であり、実際にbulging fissure sign(図2左上)として報告され ている。また肺炎球菌と比較し て、クレブシェラ肺炎(図2 左 上)の方が、肺の容積の拡大が 強いとされている。
図2.様々な肺炎における肺容積の変化
肺の容積変化は、胸部単純写真の方が評価しやすい。肺の容積の増加する肺炎は
大葉性肺炎である。一方、肺の容積が減少するのは、気管支肺炎、閉塞性肺炎、お
よび無気肺などである。左上の肺炎はクレブシェラ肺炎であるが、上・中葉間
(minor fissure、またはhair line)が下に凸になっている。このことは上葉の容積増
加を示している。右上の肺炎はマイコプラズマ肺炎である。左横隔膜の挙上により
左下葉の容積変化が示唆される。
一方、肺の容積が減少する肺 炎とは、いかなる肺炎であろう か。肺炎で容積が減少する際に は、気管支内に炎症が波及して いる場合と考えられる。すなわち 気管支も病変の場に含む肺炎で ある。このように気管支に炎症を来たす肺炎と しては、気管支肺炎がある。しかしながら肺の 容積が減少するためには、かなり広範囲に気管 支病変を合併する必要がある。このような特徴 を有するのは、マイコプラズマ肺炎である(図 2右上)。マイコプラズマ肺炎の病変の場は、線 毛を有する気道の上皮であり、胸部CTで図2右 上の症例の病変の部位を解析すると、血管・気管支周囲に沿って浸潤影が広がっていることが 示されている(図3)。また末梢までair bronchogram が追えないことも、気管支内腔面の変 化の強いことを示唆する。若年者において、容 積減少を伴う肺炎を見た際には、マイコプラズ マ肺炎を考慮しておく必要がある(図4、図5)。
図3.マイコプラズマ肺炎の胸部CT所見
図2右上のマイコプラズマ肺炎の胸部CTにおいては、まず病変が血管・気管支周
囲にあることが示されている(A、B、C)。これは線毛を有する上皮細胞に感染す
るマイコプラズマに典型的な所見である。気管支周囲の浸潤影のため、気道の内腔
も狭窄し、肺容積が減少したと考えられる。一部、air bronchogramを認めるものの
(D)、大葉性肺炎に比較して、air bronchogramを末梢まで追うことは困難である
(D)。
図4.マイコプラズマ肺炎
右中葉のマイコプラズマ肺炎である。正面写真(A)、および側面写真(B)とも
に中葉の容積変化を示している。
図5.マイコプラズマ肺炎
左下葉の肺炎であるが、治療前の胸部単純写真(A)においては、左横隔膜が挙
上しており、左下葉の容積変化が示唆される。治療後の胸部単純写真(B)におい
ては、左下葉の容積が回復している。
また呼吸器感染症に伴って cryptogenic organizing pneumonia( COP)を呈した際にも肺の 容積は減少すると考えられる。
さらに気管支の閉塞に伴う閉 塞性肺炎は無気肺の前段階であ るが、肺の容積の減少する肺炎 である。加えて、病態は異なる ものの、放射線照射に伴う放射 線肺臓炎も線維化を伴うことか ら、肺の容積の減少する疾患で ある。
一方、呼吸細気管支のみが選 択的に傷害されるびまん性汎細 気管支においては、呼吸細気管 支が気道と肺胞との関所の役割 をし、空気は流入するものの流 出が阻害されるという病態から 肺は過膨張所見を呈する。さら に非結核性抗酸菌症において も、広汎に気道病変を伴った際 には、細気管支の閉塞性変化を 認めることがあり、その結果と して末梢肺に過膨張所見を認め ることがある。
これまで述べたように、肺の 容積変化を考えると、大葉性肺 炎においては肺容積は増加し、 かつair bronchogramを呈する のが一般的な画像所見である。 しかしながら、大葉性肺炎にお いてair bronchogramを認めな い際には、気管支内の喀痰貯留 を疑う必要がある(図6)。すな わち、重症の慢性閉塞性肺疾患 を有する高齢者で、呼吸筋疲労を有するものに おいては喀痰の排出が困難であり、このような 症例においては、気管支鏡を用いて喀痰を吸入 することにより劇的に呼吸不全が改善すること がある。
図6.慢性閉塞性肺炎の合併した肺炎球菌による肺炎
正面写真(A)、および胸部CT(B)ともに大葉性肺炎のパターンを呈しているも
のの、側方に比して、背側のair bronchogramが不明瞭である。このような際には、
気管支内腔に喀痰が貯留していることを疑う。本患者は肺炎により呼吸不全となり、
人工呼吸管理がなされた。その際に気管支ファイバースコープにより大量の喀痰が吸
引された。
肺炎は3つの型に分類でき、それぞれが画像 上、または病理学上に明確に分けられる。すな わちi)非区域性の肺胞性肺炎(大葉性肺炎)、 ii)気管支肺炎(小葉性肺炎)、およびiii)画像 パターンとしての(病理所見が必ずしも合致し ないという意味で)間質性肺炎である。もちろ ん基礎疾患の存在によっては、 これらの3つの型が重複するこ とがあるものの、実地臨床現 場においては、多くの場面で 起炎菌を推定する根拠となり うる有用な分類である。
我が国において肺炎の起炎 菌として重要なものは、肺炎 球菌、インフルエンザ菌、モ ラキセラ・カタラーリス、ク レブシェラ、緑膿菌、および マイコプラズマなどである。 胸部画像診断においてもこれ らの起炎菌を想定して、鑑別 診断を進めることになる。ま ず画像診断上、大葉性肺炎な のか小葉性肺炎(気管支肺炎) なのかの鑑別が重要なポイン トになる。肺炎球菌、クレブ シェラによる肺炎は大葉性肺 炎のパターンを呈することが 多いし、緑膿菌、インフルエ ンザ菌、およびモラキセラ・ カタラーリスは小葉性肺炎の パターンを呈することが多い。 肺炎のパターンは菌の毒力と ホストの免疫力とのバランス で生じるものと考えられるゆ え例外はあるものの、臨床的 には有用な分類である。
i)肺胞性肺炎
非区域性分布を示す肺胞性 肺炎は肺炎球菌によることが 最も多い(図7)。またクレブシェラによる肺炎 (図2左上)もこのパターンの画像所見を呈す る。これらの起炎菌による肺炎の重要な病理学 的所見は、比較的細胞成分の乏しい浸出液が短 期間に大量に産生されることによる。肺炎の浸 潤影は当初は肺野末梢の胸膜直下から始まる。 浸出液の量が増えるとともに、浮腫液は肺胞孔を介して周囲へと広がっていく。この浮腫液の 中には多数の細菌が含まれているため、感染も 同時に広がることになる。このため感染は気管 支肺炎のように一部分に限局するのではなく、 最終的には、胸膜、または宿主の炎症反応(細 胞浸潤も含め)による境界は有するものの、肺実質の広い範囲を占めるように なる。
図7.肺炎球菌による大葉性肺炎
右下葉の肺炎球菌性肺炎である。正面写真(A)、および側面写真(B)ともに右下
葉に均一な陰影を呈している。非区域性分布は肺胞性肺炎に認められるパターンであ
り、肺炎球菌、クレブシェラ、およびレジオネラによる肺炎がこのパターンを呈する。
画像所見としては、非区域 性分布を示す肺胞性肺炎(図 8、図9)は、均等な浸潤影を 示し、病変の及んでいない周 囲との境界は比較的明瞭であ る。非区域性分布という言葉 が示すように、浸潤影は区域 の境を越えて進展するという特 徴を有し、このことが区域性 分布を呈する気管支肺炎との 鑑別に重要である(図8、図 9)。しばしば葉間と接するも のの、一葉全体を占めること は稀である(このため急性肺胞 性という言葉の方が大葉性肺 炎より適切である)。太い気管 支は開存しており、空気を含 んでいるためair bronchogram を呈する。炎症による浸出液 が多い際には、肺葉は拡張し、 葉間を圧排する(bulging fissure sign、図2左上)。
非区域性分布を示す肺胞性 肺炎(図8、図9)は一般的に は細菌感染によるものであり、 肺炎球菌、レジオネラ、または 院内ではクレブシェラによるこ とが多い。非区域性分布を示 す肺炎は均一な印象を呈し、 また大葉性に広がったものであ れば手のひらサイズになるた め、胸部単純写真に手の平を かざすことで確認できる。ただ し既存肺に気腫性変化を認める際には、均一な 印象の薄れることに留意しておく必要がある (図9)。肺炎以外の疾患ではCOPも非区域性分 布を呈する。その病態として、非区域性分布を 呈する起炎菌によって生じる浸出液の粘度が低 いためにKohn孔4、5)、またはLambert管6)を通過するためと説明されている。実際にKohn孔 は、肺炎の病理所見の観察から発見されたもの である4、5)。
図8.レジオネラによる大葉性肺炎
右中葉、および右下葉のレジオネラ肺炎である。正面写真(A)、および胸部CT
(B)ともに右中葉に均一な陰影を呈している。大葉性肺炎においては、air
bronchogramが明瞭であり、比較的末梢まで追うことができる(B)。非区域性分布
は肺胞性肺炎に認められるパターンであり、肺炎球菌、クレブシェラ、およびレジオ
ネラによる肺炎がこのパターンを呈する。
図9.レジオネラによる大葉性肺炎
右上葉のレジオネラ肺炎である。正面写真(A)、および胸部CT(B)では比較的
均一な陰影を呈しているものの、既存の気腫性変化のために穴が空いたように見える。
非区域性分布が明瞭に示されている(B)。非区域性分布は肺胞性肺炎に認められる
パターンであり、肺炎球菌、クレブシェラ、およびレジオネラによる肺炎がこのパタ
ーンを呈する。
ii)気管支肺炎
気管支肺炎は黄色ブドウ球菌(図10)、イン フルエンザ菌、モラキセラ・カタラーリス(図11)、および緑膿菌によること が多い。病理学的には非区域性 肺胞性肺炎とは異なり、浸出液 の量は少なく、多くの好中球を 含んだ早期の滲出を特徴とし、 終末細気管支、または呼吸細気 管支に絡まるように滲出液は分 布する。少なくとも発病初期に は、好中球が病原体の進展を阻 止し、このため病変は斑状の概 観を示す。気管支肺炎の画像診 断において特に重要なのは、区 域性分布を呈しているか(気管 支肺炎に認められる[図10、図 11])、あるいは非区域性分布 (肺胞性肺炎に認められる[図 8、図9])を呈しているかを鑑 別することである。
図10.黄色ブドウ球菌による気管支肺炎
右上葉の黄色ブドウ球菌による肺炎である。正面写真(A)、および胸部CT(B)
では斑状陰影を呈している。胸部CT(B)では区域性分布を呈している。
図11.モラクセラ・カタラーリスによる気管支肺炎
右上葉、および左下葉のモラクセラ・カタラーリスによる肺炎である。正面写真
(A)、および胸部CT(B)では斑状陰影を呈している。胸部CT(B)では気管支周囲
に浸潤影が出現しており、典型的な区域性分布を呈している。ただし浸潤影はスリガ
ラス影に見える。胸部CT(B)で認められるスリガラス陰影は、ほとんどの例におい
て間質性病変ではなく、実質性病変を表していることが多い。
気管支肺炎の治癒過程も肺炎 球菌による肺胞性肺炎とは異な る。肺炎球菌による肺炎に際し ては、一般的に組織破壊を伴う ことがないため、宿主の免疫能 が保たれている際には肺の構築 は正常に回復する。対照的に、 気管支肺炎は病原性の高い菌に よって引き起こされ、ある程度 の組織破壊を伴っている。この ため感染から回復すると、炎症 部位の器質化は避けられず、気 腔、または肺胞腔内に肉芽組織 が出現する(器質化肺炎)。
気管支肺炎の画像所見として は、気管支周囲、あるいは細気 管支周囲の局所的な滲出(区域性分布)から、 1つ、または複数の区域にまたがるもの、両側 性のものまで様々である。細気管支および周囲 の肺胞への滲出は4〜10mmサイズの境界不明 瞭な結節影(肺胞性結節)を示し、また二次小 葉全体(1.5〜2.0cmサイズ)に広がることも ある(小葉性浸潤)。このため胸部単純写真では、斑状の印象を呈する。気管支肺炎において は、しばしば気道にも炎症が及ぶため、侵され た区域、または肺葉の容積は減少する。
また高齢者に認められる肺炎の多くは口腔内 分泌物の吸引による誤嚥性肺炎も気管支肺炎の パターンを呈する。この肺炎は誤嚥によるもの であるから、物理的に肺の後方部(区域2、6、 および10)に好発することから鑑別可能である。
iii)間質性パターン
呼吸器感染症の進展を考慮す ると、間質に限定する感染症は きわめて稀である。表に著明な 放射線医による胸部単純写真に おける間質性パターンの分類を 示す(表1)1)。この中で最も問 題となるのが、Fraser&Pareに よるスリガラス陰影である。こ こで強調したいことは、胸部単 純写真においてスリガラス陰影 を間質性パターンに入れている のは、Fraser&Pareのみである ことである。現在の解釈として、 スリガラス陰影は厳密な意味で の間質性パターンではないと考 える。また胸部単純写真でのスリガラス陰影 と、胸部CTでのスリガラス陰影は全く意味の 異なることにも留意すべきである。すなわちス リガラス陰影を見た際に、その肺炎が間質性肺 炎であるとの解釈は多くは誤っており、むしろ 細気管支肺炎、あるいは気管支肺炎などを見て いることが多い。
スリガラス陰影を呈するものとして、非定型 病原体による肺炎があるといわれてきた。細菌 性肺炎群と比較して、非定型肺炎は、i)60才 未満に多い、ii)基礎疾患がない、あるいは軽 微、iii)肺炎が家庭内、集団内で流行している、 iv)頑固な咳がある、v)比較的徐脈がある、 vi)胸部身体所見に乏しい、vii)末梢血白血球 数が正常である、viii)スリガラス状陰影または skip lesionである、およびix)グラム染色で原 因菌らしいものがない、などの特色を有する、 と日本呼吸器学会の旧ガイドラインに記載され てきた7)。マイコプラズマ肺炎は、非定型肺炎 の代表であるものの、胸部CT写真によりマイ コプラズマ肺炎を見てみると病変の主体は気管 支動脈、または気管支、細気管支周囲に強く、 決して狭義の間質(肺胞胞隔)を病変の場とし ているのではないことは明らかである(図3)。
抗酸菌症として、肺結核と非結核性抗酸菌症 ( Mycobacterium avium、またはMycobacterium intracellulare)の画像診断の特徴について述べ る。肺結核の画像診断を行う際には、その病理 所見を知る必要がある。結核の病理所見は肉芽 腫である。この肉芽腫を構成するものは、中心部 の壊死、その周囲の類上皮細胞、筋線維芽細胞、 および周囲のリンパ球である。こ の肉芽腫形成により結核に特徴 的な画像所見が形成される。
特に重要な画像所見は前述し たAschoffが1924年に結核に特 徴的な病理所見として記載した acinar noduleと呼ばれる結節が 形成する陰影である3)。この病 理所見は、肺実質の最小単位で ある細葉(大きさは5 〜7mm、 図1)単位で病巣が進展するこ とを示している。この単位を見 極めることにより、肺結核、お よび肺非結核性抗酸菌症などの 肉芽腫性疾患を疑うことが可能 となる2、8)。最近の論文では、 acinar noduleに替わって、小葉 中心性結節(centrilobular nodule)と呼ぶこ とが増えてきた9、10)。Acinar noduleは、陰影 の大きさとその形によって規定された概念であ る。一方、centrilobular noduleは肺の既存構 造との関係で規定された分布パターンとして認 識される。
次に重要なことは、病変の分布である。大部 分の肺結核症は肺尖領域ないしは背部上肺野お よび下葉S6を好発部位として始まり、経気道的 な菌の転移で上背部に進展する特徴をもってい る。この特徴的な2つの所見により肺結核の診 断の根拠とすることが可能になる。
具体的には、単純写真で両側性、かつ上肺野 優位であること(図12A)、および胸部CT(図 12B)で示されるように、病変の単位が径5〜 7mm大の細葉単位であることである。これらの 2つの特徴で肺結核を疑うことが可能となる。
一方非結核性抗酸菌症は、近年その増加が注 目されている。非結核性抗酸菌症は、中年女性 に好発し、中葉、または舌区を侵すことが多い。 このことは肺の上方に多い結核菌感染症と異な る。また一般的に気管支拡張像、小葉中心性病 変を示すことが多い。また非結核性抗酸菌症により、気管支拡張症の進行することも示されて いる。肺の中葉、舌区に気管支拡張像と、小葉 中心性病変を認めたたときは緑膿菌、およびイ ンフルエンザ菌などによる感染症に加えて、非 結核性抗酸菌症を考えておく必要がある。
図12.二次性肺結核
両側上肺野の二次性肺結核である。正面写真(A)では病変の分布が両側上肺野に
あることが重要な所見である。胸部CT(B)では粒状陰影を呈しており、1個1個の
結節はAschoffの細葉に相当する。
実際の臨床の場では、細菌検査の結果を待た ずに治療を開始せざるを得ないことも多い。こ れをカバーするのがグラム染色の結果と、胸部 画像所見である。これらの結果を踏まえて総合 的に判断することにより起炎菌を高い確率で推 定することが可能となり、ひいては適切な治療 を選択しえるようになると考える。
VU.文献
1)林 邦昭、中田 肇:新版胸部X線診断 秀潤社 2000.
2)岩崎龍郎:改訂 結核の病理 日経印刷 pp52-55, 1997.
3)Aschoff L:Lectures on Pathology. New York, Hoeber,pp42-43, 53-57, 1924.
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10)Hatipoglu ON, et al :High resolution computed
tomographic findings in pulmonary tuberculosis.
Thorax 51:397-402, 1996.
著 者 紹 介
琉球大学医学部感染病態制御学
講座(第一内科)教授
藤田次郎生年月日:昭和31年6月15日
出身地:香川県 高松市
出身大学:岡山大学医学部 昭和56年卒
著者略歴
昭和56年3 月岡山大学医学部卒業
昭和56年4 月〜
昭和58年3 月 国家公務員共済組合連合会虎の門病院内科レジデント
昭和58年6 月〜
昭和60年10月 国立がんセンター病院内科レジデント
昭和60年11月〜
昭和62年10月 米国ネブラスカ医科大学呼吸器内科留学
昭和62年12月〜
平成5 年9 月 香川医科大学医学部附属病院第一内科助手
平成5 年10月〜
平成13年1 月 香川医科大学医学部第一内科学助手
平成13年2 月〜
平成15年9 月 香川医科大学附属病院第一内科講師
平成15年10月 香川大学医学部附属病院第一内科講師
平成17年5 月 琉球大学医学部感染病態制御学講座(第一内科)教授専攻・診療領域
臨床呼吸器病学
臨床感染症学その他・趣味等
論文執筆 琉球ガラス
問題: 胸部単純写真において、肺の容積の増加する病態を1つ選択せよ。
問題:脳内多発病巣を見たときまずあげるべ き腫瘍を2つ選べ。
正解 1)と5)