琉球大学医学部感染病態制御学講座(第一内科)
藤田 次郎
3月24日は世界結核デーである。この世界結 核デーの趣旨は、みんなで結核について考える 日ということである。世界結核デーの意義につ いて、その歴史も含めて述べたい。
1882年3月24日、ロベルト・コッホは結核菌 の発見を学会で発表した。WHO(世界保健機 関)はそれから100年たった20世紀にまだ結核 を根絶できていないという状況を打破するた め、1997年の世界保健総会で、この日を正式 に「世界結核デー」と制定した。
図1 コッホが結核菌と闘っていることを図示したものであ る。Colleagues in Discovery(An American Thoracic Society Perspective by Joseph Wallace [Tehabi Books, CA, 2005])より引用。
世界では、有効な治療方法が確立してから50 年たった現在でも、毎日約2万5千人が結核を 発病している。つまり毎年、9百万人近い人が 結核を発病し、毎年約2百万人の人が結核で亡 くなっている。さらに世界人口の3分の1は結 核菌に感染しているといわれている。
結核は貧困層や弱者を襲い、また最も生産性 の高い15〜54歳の人を直撃するため、貧困問 題の解消を妨げる原因となっている。世界の全 結核推定患者数の80%が22カ国で占められて いる。これらの国の多くでは、政府の関与の欠 如により結核制圧のために最も費用対効果が高 いDOTS(Directly Observed Therapy, Short course)の普及が遅れており、患者のたった5 人に1人がDOTSで治療されているにすぎない。 このため、DOTS戦略の拡大を加速し、人材育 成を強化することが重要課題となっている。
図2 DOTS(Directly Observed Therapy, Short course)のイ メージを図示。Colleagues in Discovery(An American Thoracic Society Perspective by Joseph Wallace [Tehabi Books, CA, 2005])より引用。
一方、エイズの流行により2,200万人の命が 奪われ、1,300万人がエイズ孤児になり社会問題 を引き起こしている。HIV感染者、およびエイ ズ患者は2002年末で4,200万人にのぼり、その 7割を世界の人口の10%であるサハラ砂漠以南 のアフリカが占めている。結核HIV重複感染者 の内68%がサハラ砂漠以南のアフリカにおり、 22 %が東南アジアにいると推測されている。 HIV感染者の3人に少なくとも1人は結核を発症 するため、重複感染の危機は増大している。
2006年10月31日から11月4日までパリで開 かれた肺疾患に関する国際会議「Union World Conference on Lung Health」第37回会議に て、サンパイオ国連特別結核大使が2007年世 界結核デーのテーマを発表した。“TB anywhere is TB everywhere”(いかなる場所にも 結核の脅威は存在する)とのテーマのもと、世 界中に広がる結核問題の対応を求め、世界結核 デーでは世界中でイベントが開催される。
2006年の世界結核デー設定の目的は、結核 と闘うために様々な方面から支援を得ることで ある。そこで、結核対策が世界の優先的な課題 として位置付けられ、2050年までに重要な公衆 衛生問題でなくなるようにすることをめざして いる。また、一般市民に啓蒙することによって 結核に対する認識を高め、政府や援助国が結核 対策に資金提供をするように政治的関与を促す ことも目的の1つである。
参考までに、これまでの世界結核デーのテー マを列記する。
2006年テーマ:Action for life: towards a world free of tuberculosis(結核のない世界 へ:命へのアクション)
2005年テーマ: Frontline TB care providers: Heroes in the fight against tuberculosis( 最前線で結核と闘う医療従事者に焦 点を:見つけた患者は必ず治す)
2004年テーマ:Every breath counts - Stop TB now!(呼吸するたびに唱えよう「ストッ プ結核!」
2003年テーマ:DOTS cured me - it will cure you too!(あなたもDOTSできっと治 る、私のように!)
2002年テーマ:Stop TB - Fight poverty(ス トップ結核、貧困との戦い)
2001 年テーマ: DOTS - TB cure for all (DOTS、結核治癒をすべての人々に)
ストップ結核パートナーシップは昨年1月27 日に「ストップ結核世界計画U(2006〜2015 年)」を公表した。この計画にはミレニアム開 発目標と、2015年までに結核による死亡率と 有病率を半減するというストップ結核パートナ ーシップの目標に沿って世界の結核の状況にイ ンパクトを与えるような活動が示されている。
平成18年12月25日に、多くの抗結核薬が効 かず、WHOが警戒を呼びかけている「超多剤 耐性結核菌」に、国内でも年間60〜70人が新 たに感染していると推定されることが報道され た。WHOは、最初の治療で試すイソニアジド など2種類の薬に耐性がある結核菌を「多剤耐 性」と分類。さらにカナマイシンなど2度目以 降に試すいくつかの抗結核薬にも耐性があるも のを「超多剤耐性」と定義している。世界の結 核患者の2%は超多剤耐性菌に感染していると されるが、日本での実態を初めて明らかにした 報告であった。
結核はいまなお人類を苦しめる最大の感染症 であることを強調し、稿を終える。