はなしろ小児科院長 花城 可雅
毎年3月1日から7日までの1週間は「子ども 予防接種週間」である。日本医師会、日本小児 科医会、厚生労働省の主催で設けられて今年で 4年目であるが、この間予防接種率の向上のた め様々な啓発活動がなされるとともに、私たち 接種を勧める側もここ数年の制度改正による実 施方法の変更について改めて周知を徹底する期 間でもある。
特に近年は、法令改正や厚生労働省の勧告に より日本脳炎ワクチンの勧奨が差し控えられた こと、BCGの接種年齢が生後3月から6月未満 に制限されたこと、麻しん風しん混合ワクチン (MRワクチン)の登場による2期接種が可能に なるなどの大きな変更があった。中でもMRワ クチン登場は、その移行措置と相まって接種対 象者の選択(使用ワクチンを単抗原にするか MRにするか)が複雑になり現場の医療機関で はより注意を要するようになった。
WHO(世界保健機関)は、西太平洋地域の 麻しん患者を2012年までに排除することを目 標にしているが、重点国にはフィリピン、ニュ ーギニア、ラオスなどの途上国と並んでわが国 も入るという不名誉で、米国の麻しん感染源が 中国やわが国からの渡航者であると非難されて いるのが現状である。わが沖縄県の場合は、平 成13年の大流行時に8人の幼い子供たちが亡く なったことをきっかけに「はしかOプロジェク ト」を立ち上げて接種率95%を目標に活動し ているが、一部の自治体を除いて目標が未だ達 成されず数年後には再び流行が懸念されてい る。以下に、予防接種の改正点と課題を述べて みたい。予防接種ガイドラインに目を通す際の参照になれば幸いである。
麻しん風しん混合ワクチン
平成18年4月から制度が変わり、MR(麻し ん風しん混合)ワクチンが登場した。対象者は 生後12月から24月未満の者に1期、5歳から7 歳未満の者で翌年度小学校就学予定のものに2 期を行うことに変わった。当初、2期接種は5 年後から開始する予定であったが、日本医師 会、日本小児科学会など各種団体の要請によ り、平成18年6月から2期接種が開始されるよ うになった。また、MRワクチン以外の麻しん と風しんの単抗原ワクチンであっても公費によ る1期、2期の接種が認められ、さらに移行措 置期間の平成19年3月31日までは未接種者にも 7歳半未満であれば公費による接種が認められ た(詳細は県福祉保健部作表を参照)。しかし、 公費接種対象者が増えたことは望ましいことで はあるが、移行措置期間を置いたことによる年 齢のばらつきや単抗原ワクチン使用も認められ たため制度が複雑になり接種率が落ちることが 懸念されていたが、沖縄市では平成19年1月の 時点で約1,000人もの2期未接種者が出てしま い制度の未周知が露呈してしまった。年度末の 3月31日までに行政とともに未接種者を減らす 一層の努力が求められている。
BCG
平成17年結核予防法改正により、対象者が 従来は4歳未満のツベルクリン反応陰性者であ ったものが、ツベルクリン検査が無くなり、接 種月齢も生後6月に下げられた。これはBCGが乳児結核性髄膜炎や粟粒結核のみに有効である ことによるものである。実際は先天性重症免疫 不全の発症時期を考慮して、生後3月から6月 未満の児に接種が行われている。
生後12月未満まで公費接種を認めている自 治体もある。
日本脳炎ワクチン
平成17年5月30日、定期予防接種の積極的 勧奨を差し控えるよう厚生労働省から勧告がで て以来ワクチン接種者は激減し(中部地区医師 会管内では平成18年度は16年度の僅か2.68% まで減少した)、実質上は中止となっている。 理由は、平成元年〜17年4月までにADEM(急 性散在性脳脊髄炎)という副反応が17例発症 したと認定されたためである。原因としてワク チンの精製過程でマウス脳を使用していること に強い疑いが持たれ、またベロ細胞由来の新型 ワクチンの提供が2〜3年以内には可能になる との見通しがあって、一時接種を差し控えても 流行の可能性は殆ど無いとの、当時厚生労働省 の判断があった。しかし、平成20年に新ワクチ ンの提供が可能かはまだ不確実でありこれ以上 接種勧奨の差し控えが続けば日本脳炎患者が発 症するリスクが増加することを危惧する小児科 医も多い。私もその1人であるが、その理由と して1)沖縄県は日本脳炎ウイルスの汚染地域で あり、特に本島中北部は豚舎も多くまた病原ウ イルスを伝播するコガタアカイエカの存在も確 認されている。2)ADEM の発症頻度は低く、 日本脳炎の方がはるかに重症である。3)現行ワ クチンは現在も世界で広く使用されており安全 なワクチンである。何れにしても私たち接種す る側は、被接種者やその保護者に対して接種の 利益と不利益を十分説明する責任を有すると考 える。
ジフテリア百日咳破傷風3種混合(DPT)ワク チン、ジフテリア破傷風混合(DT)ワクチン
平成17年のガイドラインから法令の適応が厳 格になり、百日咳罹患者への接種が認められなくなった。また、百日咳罹患者に対するジフテ リア、破傷風の基礎免疫をつける目的でのDTワ クチン使用は公費では認められなくなった。DT はあくまで2期に使用するワクチンとなった。
ポリオワクチン
野生株による患者が3年以上なければ根絶さ れたことになるが、ワクチン株による患者が散 見されるため生ワクチンを行う必要がある。よ り安全な不活化ワクチンの開発は遅れており、 供給の目途が立ってない。
インフルエンザワクチン
平成16年10月、神谷斎らによる研究班の報 告〔1)1歳未満児については対象数が少なく、 有効性を示す確証は認められなかった。2)1歳 以上6歳未満児については、発熱を指標とした 有効率は20〜30%となり、接種の意義は認め られた。〕を受け、日本小児科学会は〔1歳以上 6歳未満の乳児については、インフルエンザに よる合併症のリスクを鑑み、有効率20〜30% であることを説明したうえで任意接種としてワ クチン接種を推奨することが現段階で適切な方 向であると考える。〕との見解を出した。年長 児に比べ乳幼児の効果が劣ることを踏まえて接 種することが望ましい。
Hibワクチン
小児が罹患する細菌性髄膜炎の代表的病原菌 であるインフルエンザ菌b型に対するワクチン でありわが国では年間約500人以上の患者が発 生し、そのうち5%が死亡している。すでに米 国では定期接種が行われて大きな効果を上げて いる。早ければ今年秋にも入手が可能となる見 込みだが、任意接種(自費)だとワクチン代金 が2〜3万と高額であり普及の障害となること が危惧される。早期に定期接種に組み入れるよ う、日本小児科学会は国に対して要請している ところである。
水痘ワクチン
わが国の製薬会社が開発したワクチンで、米 国でその優れた効果が認められ世界中に広がっ ている。米国同様にわが国でも定期予防接種へ の導入が望まれる。
「はしかOプロジェクト」が推進する麻しん 対策が効を奏し、今や沖縄県は麻しん対策では 国内では最先進県となった。平成13年の流行 時70%前後であった接種率が、数年は順調に 伸び80%を超えた。中には90%を超える市町 村も現れたが、近年は頭打ちで平成17年度は 80.2%で、中には低下した市町村も見られるよ うになった。接種率が95%を超えないと流行は 防げないことを再確認し、接種率向上のため行 政と緊密に連携しながら、不断の努力を惜しま ないことが求められている。
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