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九州医師会連合会委員・九州各県医師会役員合同協議会

常任理事 安里 哲好

会場風景

会場風景

去る11月18日(土)大分全日空ホテルオア シスタワーにて、標記協議会が開催されたの で、その概要について報告する。

司会より開会が宣言され、九州医師会連合会 会長・大分県医師会嶋津義久会長から挨拶が述 べられた後、座長の選出を行い、慣例により嶋 津九州医師会連合会会長の座長のもと講演に移 った。

特別講演
「今後の医療状況の展望と課題−日本医師会 の取り組む方向−」
日本医師会 会長 唐澤人

我が国の経済・財政は、基本的に公共事業が 中心となっている。

具体的には、平成11 年国債借入金残高は、 493兆円。平成16年は、782兆円。平成17 年 は、前年より55.4兆円の国債を発行している。

平成16年の国債782兆円のうち、78.4兆円が 前年より増えた国債発行額である。そういう流 れの中で、平成11年の医療については、社会保 障に関する国からの拠出金は19.4兆円で、前年 より3.4兆円の増加額である。平成14、15年の 2年間では、約20兆円の社会保障関係の費用が あるが、その増加率は、0.3兆円と0.6兆円と1 兆円にも満たない状況である。

1995年の医療費の将来予測は、2025年が142 兆円、2015年は68兆円、2004年は50兆円にな ると予測されていた。

しかし、現在の2005年の予測では、2025年 が69兆円、2015年は41兆円、2004年は32兆円 である。

医療費の杜撰な将来予測により、医療費を抑 制しようというのが現状である。

また、今年の医療給付費は、28.5兆円といわ れていたのが、実際は27.5兆円であった。

医療費に関する様々な将来予測が2000年以 前と以後では予測レベルに開きがある。ここ5 年間の医療費の増加率は決して多くない。日本 医師会では、様々な検証を行った結果、2025 年の医療費予測は、医療給付費のみで42.1兆円 程度にしかならないという予測を提示した。し かし、予測に対して甘いとの意見をいただい た。そのとおりであり、これでは、日本の国民 医療は成り立たない。

日本の医療に必要なものは、医学技術の進歩 に2%の増額、高齢化における1%の増額を最 低限必要とし、毎年必ず4%の自然増が起こる。 これが達成されなければ我々は医療を支えるこ とができず、医療崩壊に繋がる。

我々日本医師会は、国民にきっちり説明して いかなければならない。

現在、経済団体から我が国の産業を活性化す るために法人税・事業税を減額するよう言われ ている。

しかし、実際には法人税等は減額し続けてい る。それは、国民に医療に対する負担を押し付 けていく流れである。更には、医療にかかろう とする患者さんに対する負担が一層増大してく るという流れを作っている。

この状況にあることを我々が声を大にして発 言し、現状を国民に説明しなければならない。

バブル崩壊の我が国の経済は、約500兆円か ら508兆円とGDPは増加している。

しかし、GDPのわずかな伸び率の反面、法 人税は、14兆円から11兆円に、所得税は19兆 円から15兆円に減少している。

経済界・産業界の財政への対し方に、我々は 十分に注意を払わなくてはならない。

日本のGDPからすると国民1人あたりの医療 費は高く思われがちであるが、アメリカは約 $5,300、日本は$2,100で先進諸国は$3,000 以上のラインにある。日本が如何に低い所得で国民の医療を負担しているかが分かる。それ は、献身的な努力で医療を支えてきているから である。また、アメリカの医療従事者数は、日 本に比べて10倍以上いると言われているのでマ ンパワーで支えられている医療であることが言 える。

毎年約110万の出生数があると言われている 中で、我が国の合計特殊出生率は、1.25を割っ たと言われている。東京では1以下である。

平均寿命は男性78.53歳、女性85.49歳である。

65 歳以上生きる割合は、男性で10 万人中 85,606人、女性で93,000人、85歳以上だと男 性約55%、女性約76.8%と言われている。

しかし、日本は、1970年に65歳以上が7%を 超え、その後わずか24年の間に17.5%を超え た。先進国をみると、アメリカでは14%を超え るのに71年、ドイツは約40年、フランスは約 115年、スウェーデンは約88年かかっている。 先進諸国と比較した時、如何に日本の高齢化率 が早いかが分かる。

2025年には、27.8%の人が65歳以上の高齢 者になると言われている。それらを支える若年 者の割合は、今は約25%で3.6人に1人の高齢 者を支えていると言われている。ところが、 2030年頃になると2人に1人、2050年には1.5 人に1人と著しい高齢化社会が到来する。

65歳以上の約50%が健常者、約25%が恵ま れている方、残りの約25%が何らかの介護を要 する方(うち、5%は施設で介護を受ける方) であると言われている。

2025年には、人口が減少し、高齢者の割合が 増える一方で、療養病床38万床を一気に医療療 養病床として15万床に削減しようとしている。

その中で老人保健施設や特別養護老人ホー ム、在宅等に収まるのか非常に不安である。

また、高齢者人口の増加に伴い、死亡者数も 増加する等、終末期の体制をどうするか課題に なっている。

こうした幾つもの課題を我々は突きつけられ ていると認識しなければならない。

そこで、高齢者の95%は健康で長生きするよう支えるのが医療であり、現在、メタボリック シンドローム対策等を行っているが、早期発 見・治療・社会復帰という手だてが更に重要に なってくる。

医師不足等について見てみると、現在、日医 会員は約16.3万人である。その内、診療所医師 は約8.4万人、病院医師は約7.9万人である。昭 和43年は、診療所医師は約6万人、病院医師は 約3万人、大学医師が約1万人。昭和63年は、 診療所医師は約7.5万人、病院医師は約9万人、 大学医師は約3.7万人になっており、一気に病 院・大学医師が増えてきた。平成17年は、診 療所医師は約9万人、病院医師は約12万人、大 学医師は約4.2万人である。

日本全体の医師数は、10万対比だと昭和43 年は、約113〜114人、平成12年は約200人を 超えた。2020年になると約246人、2040年には 約280人になる。

高齢者の増加に伴う医師の充足率を今後日本 医師会において検証する必要がある。明らかに 医療は専門化・細分化しているので各科におけ る専門医師が必要となってくる。今、その勤務 医たちが病院経営の健全化に伴い、専門外の一 般医療や事務職の解雇による事務負担等により 多大な負担を負っており、疲弊している状況に ある。だからといって開業に赴くかといっても 莫大な設備投資にかかる費用を補う診療報酬制 度もないので、必ず窮地に立つことは目に見え ている。それを切り開くには日本医師会が実力 を涵養しなければならない。

ここ2〜3年の間で着実に地域医療が崩壊の 兆しであるということを察知しなければならな いと同時に早急に解決の手だてを打たなければ ならない。それには国民医療を守ることが重要 である。

国民医療とは、社会の移り変わり等、どのよ うなことがあっても今の医療レベルでどこで も、だれでも医療が受けられるような医療提供 体制が確立されていることであり、それを支え るだけの財源が確立されていることである。

つまり、国民医療には医療提供体制と国民皆 保険制度の2本柱があり、どちらか一方が崩れ ると崩壊するのである。

様々な課題が山積する中での我々の手段とし ては、日医総研で日本中のデータを集約し、そ れをデータベース化する。その中に全国の地域 の情報をはめ込んでいく。明確な医療政策・将 来の展望を作り出すことが重要であり、それを 社会に訴えることが責務だと感じている。その 戦略としては、日医の実力の涵養、組織力強 化、国民への情報発信、国政への働きかけであ ると考えており、それらを一歩一歩踏み出して いきたい。

フロアーより質問・要望等があり、唐澤会長 からそれぞれ回答があった。

Q1:国民医療を守るために今こそ医師は、一致 団結してあたるべきと考える。多くの開業医 や地域があれば、考えや価値観が一致しない のは当然である。だが、バラバラで良いこと にはならない。男・女・開業医・勤務医・病 院・診療所、地域性の違いを乗り越え日医が 一つの強い組織となり初期の目的を達成する ための原動力となることを望むものである。

組織内での亀裂が深まりつつある時代をリ ードし、何とか丸く固い組織となるよう方策 はないのか。

今、一人でも多くの医師の入会を促進し、 組織率を高め、大きく強い組織にするための 方法も重要ではないか。

A1:今申し上げてきた通りで、組織がバラバラ になるのではなく診療所、病院、大学、医師 会等が力を携えて活動しなければ力が半減さ れる。日本医師会は邁進していくのでご協力 を賜りたい。

Q2:看護学校の入学者数については、1割増の 入学者数を認めてよいと聞いているが、実際 は如何なものか。また、留年を含めて1割な のか、あるいは1割未満なのか。

A2:入学者の1割増については認められている と認識しているが、厚労省へ徹底するよう働 きかける。また、1割未満であるかについて は、はっきりと分からないが、同様に働きか ける。

Q3:先の九州首市医師会で看護学校の入学者 数について、同様な質問を羽生田日医常任理 事に行った際にも1割増については確かであ ると伺っているが、学校の監査の際に九州厚 生局長からは1割増は認めないと言われた。

果たしてどちらが正しいのか迷っている状 況である。

A3:看護師志望の方を試験制度で排除すると いうのは今の時代ではおかしい話である。だ からといって、上限なしの定員ではなく、緩 やかな対応をしていただくよう働きかける。

Q4:1)有床診療所(特に内科系)について、 佐賀県では殆どが床を放棄している。それ は、介護型が無くなるからではなく、純粋に 患者が減っているからである。

原因を探ると、老健・特老の送迎バスの対 象者が有床診療所の入院・外来患者とかぶっ ていること。また、一般の病床と有床診療所 の点数を早くあげないと有床診療所は無くな ると考えるがいかがか。

2)看護師の7対1の問題については、佐賀 県では、沖田会長の指示により7対1を取る なら、ベッド数を減らし、病棟を減らして1 病棟を確保するよう、既存の労働力で看護師 確保に努めるよう強く訴えており、前向きに 対応いただいている。そうでないと開業医の 正看護師がどんどんとられていくと、特に病 院が70%の看護師を確保することや最低の基 準である40%の看護師を確保することさえで きず、一気に崩壊に至ってしまう。

国公立の引き上げにより、中小病院が危機 的状態にきている。また、来年、再来年の改 定に向けて厚労省は、その40%を引き上げ て、一律7割に持っていく可能性がある。それでは、2,000〜3,000の中小病院が医療機能 評価を受けることができず崩壊に至ってしま うという危機的状況を認識いただきたい。

A4:1)有床診療所には、療養病床を持ってい る先生もいらっしゃるかと思う。有床診療所 そのものが、規模により重要な位置付けにな ることと思われる。医療は、一次医療(圏)、 二次医療(圏)、三次医療(圏)という階層 的な医療提供体制であるが、国民には理解が 得られず、体制が間違っていると思う。

階層的な医療提供体制より、むしろ、総合 診療基盤の中にある様々な特色ある医療機関 が点在しているというやり方が地域医療の中 で最も大切だと考えている。

したがって、開業医の先生方の役割は大き く、相互的な高い診療能力のプライマリケア によって支えられていくべきだと考える。十 分にプライマリケアを理解した専門医と、実 際にプライマリケアを担いつつも専門医療を 十分に理解した先生方が相互に連携を組む地 域医療が大事である。そうすることにより、 有床診療所の先生方の理念を追求した医療が 実現されると考える。

2)要望のため回答なし

Q5:現在、我が国では、入院日数の短縮化、 療養病床の減少がある中で、高齢者の増加に 伴う死亡者数は、ピーク時に約170万人と言 われている。それに対応するには、ベッド数 は減らすべきではないと考える。

また、在宅医療のスキルアップが必要であ る。終末期医療を含めた在宅医療について、 現在の在宅支援診療所は大変難しい枠がはめ られてきている。これをもう少し使いやすい 制度にしていただくよう政府に働きかけてい ただきたい。

A5:現状は、在宅医療の基本的な枠組みは出 来ていない。在宅医療支援診療所に対する 様々な基準等、過度的な施策の中にあるよう に思う。

基本的に在宅医療を作り上げたのは我々であるので、各地域毎に我々の手で在宅医療を 作り上げることが大切である。それに合わせ て行政側の基準やあり方、あるいは診療報酬 点数設定等を検討する等、現状に合わないも のは改正していくべきである。

Q6:組織力の強化は当然重要であるが、入会 者が増えても、政治的な問題になると必ず相 反し、集票力に欠けるといった非常に難しい 点がある。

組織力強化に関して、会員数を増やすこと だけが問題ではないと考える。ついては、同 じ医師の団体である保険医協会との関係につ いてお伺いしたい。

A6:日本医師会は、明らかに国民を認め、行政 を認め、先生方の意見を代表しており、あら ゆる立場の医師が参加している組織である。

しかもそこからの意見は、自らの守りに属し ている意見ではなく、本当に国民の医療を考 えている中から意見を発していく。そういう高い理念を示しながらやっている。人によって は、不満だと感じることもあろうかと思う。

例えば、産科医療に関して、無過失医療保 険があるが、それは全ての科においてあるべき だと考える。しかし、産科医療が崩壊の危機 に直面していることから、一つの明かりを灯 そうではないかという事が大きな要である。

我々は、何が重要であるかを一番重点的に 考えていくことが大切であるので、他団体と の兼ね合いは今のところ考えていない。

Q7:今の診療報酬体系、特に入院基本料につ いては看護師数によりほとんど決められてい る状況であり、看護協会の政治力に押されて いるのではないかと思われる。もっと医師の 評価を高くするような診療報酬体系に持って いくべきではないかと考えるが如何か。

A7:おっしゃるとおりであり、看護協会だけ でなく、その他の団体からの目論見が感じら れるので、早急に直していきたい。