国療沖縄公務員医師会
国立療養所沖縄愛楽園副園長 野村 謙
国立療養所沖縄愛楽園では平成18年6月1日、『古宇利島に来た観光バスが屋 我地大橋上でダンプカーと衝突炎上する交通災害が発生、橋が通行不能となり 名護市内に搬送できず多数の被災者を愛楽園で受け入れる』という想定で災害 医療訓練を実施した。
国立療養所愛楽園は本島北部名護市の屋我地 島に位置するハンセン病療養施設です。現在、 平均年齢77歳の入所者300名余りが長期療養生 活を送っております。
屋我地島は、1960年のチリ地震津波で屋我 地大橋が破壊されたこともあり1)、施設内に海 岸線を有する当施設では、近年の国内外で地 震・津波等の災害が多発している状況で、高齢 の入所者を災害時にいかに避難させるか検討す べきであるとの声が上がっていました。
また、国立の医療機関として医療資源を災害 時に有効活用させるべきとの意見も同時に寄せ られていました。
そこで、これまで台風や火災の対策や訓練を 中心に行ってきた防災対策委員会から新にワー キンググループ(防災部会)を立ち上げこの問 題を検討することになりました。
災害時における入所者の避難および地域住民 の受け入れに職員が対応できることを目標に、 平成17年5月、副園長を部会長とする構成員13 名の防災部会が発足しました。
部会では、(1)マニュアル作成、(2)職員に 対する啓蒙活動、(3)訓練計画立案および実施 を行いました。
(1)マニュアル作成
『津波避難』編と『被災者受け入れ』編の二 部構成とし、特に受け入れ編では『施設が被災 しておらず、50名程度の被災者を平日日勤帯に 受け入れること』を想定し各部署の必要物品や 行動手順をまとめ上げました。
(2)啓蒙活動
全職員対象の意識調査アンケートで災害医療 への取り組みの動機付を行った。さらに、トリ アージ講演会(120名参加)や部署によっては トリアージビデオ学習会を実施した。
(3)訓練計画立案および実施
『津波避難』訓練と『被災者受け入れ』(災 害医療)訓練が執り行われた。
『津波避難』訓練は『津波が発生し2時間後 の施設到達が予想され、既に施設内に浸水が始まっている』との想定で平成17年3月に実施さ れた。入所者避難開始から全員避難終了までの 所要時間を部署別に計測し、今後の津波発生時 避難の基礎資料とした。
また、災害医療訓練である『被災者受け入 れ』訓練は『古宇利島に来た観光バスが屋我地 大橋上でダンプカーと衝突炎上する交通災害が 発生、橋が通行不能となり名護市内に搬送でき ない多数の被災者を愛楽園で受け入れる。』と いう想定で実施された。以下、災害医療訓練の 実際を追記します。
平成18 年6 月1日(木)14 :00 〜15 :00、 国立療養所沖縄愛楽園において、医療職・事務 職合わせて125名の参加で災害医療訓練が実施 されました2)。そして、訓練の講評を名護消防 署救急隊の皆様にお願いしました。
小雨のあがった梅雨空のもと、訓練開始を告 げるサイレンと園内放送で職員は通常業務を中 止し、マニュアルに従って本部・トリアージポ スト・各エリアの設営等の受け入れ準備を開始 した。ほどなく被災者を乗せた救急車が次々と 誘導され、施設内に到着しました。様々な重傷度の混在した模擬患者群を4回に分けてトリア ージポストに搬入し、トリアージ後も各エリア でそれぞれ重症化する模擬患者を設定しておく というシナリオでした。
最終的には赤タグ3名、黄タグ5名、緑タグ12 名、黒タグ1名の模擬患者をトリアージし、各 部署で処置が完了した時点で訓練終了とした。
訓練後の評価も参加者の真剣で一生懸命な態 度と迅速な行動から及第点をいただきました。
訓練当日を臨場感あふれるものにして参加者 全員が、より真剣になれるのに一役買ったのが 模擬患者役の存在です。それぞれ詳細な人物設定および傷病の重傷度設定を行い、事前に個別 演技指導を行いました。訓練当日はノー看板方 式で実施し、傷病に応じて特殊メイクを行いま した。特殊メイクを施すことでより患者役にな りきることが比較的容易であったと考えます。
訓練直後に行った2回目のアンケートでは職 員の災害医療に対する意識の向上が確認され、 また問題点の指摘から今後の改善点や方向性が 明らかになってきました。
多施設広域災害訓練への参加や施設での継続 的な取り組みで更なるレベルアップが今後の課 題であると考えます。
<注釈>
1)施設内は一部膝上まで浸水、3年間施設へ
の物資輸送は船のみとなる。
2)訓練の様子は国立療養所沖縄愛楽園のホー
ムページで御覧いただけます。