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平成18年度全国医師会勤務医部会連絡協議会

沖縄県医師会勤務医部会部会長 嘉手苅 勤

次期担当県挨拶宮城信雄沖縄県医師会長

去る11月4日(土)埼玉県パレスホテル大宮 に於いて『勤務医のアンガージュマンを求め る』をメインテーマに、標記連絡協議会が開催 された。本県から宮城会長、安里常任理事、城 間先生、私(嘉手苅)、事務局で参加したので、 その概要を報告する。

開会式

1)開会

埼玉県医師会金井忠男副会長より開会が宣言 され、続いて主催者を代表し日本医師会唐澤人会長、担当県を代表し埼玉県医師会吉原忠男 会長より挨拶があった。

2)挨拶

日本医師会唐澤人会長(主催者代表)

平成18年度全国医師会勤務医部会連絡協議 会の開催にあたり主催者としてご挨拶を申し上げます。

本協議会は日本医師会が主催し実施運営を開 催県の担当で行ない、本年度で27回目を迎え ました。第1 回は昭和56 年に福岡県で開催さ れ、当時は担当の医師会主催で開催しておりま したが、平成3年度より日本医師会の主催とな りました。日本医師会では本連絡協議会を勤務 医に関わる重要な事業と位置づけ、これまで勤 務医の組織化、生涯教育、病診連携、卒後臨床 研修、女性医師に関わる問題等多岐にわたる諸 問題に取り組み、着実に成果をあげてきまし た。これもひとえに、都道府県医師会を始め勤 務医部会関係者のご協力の賜物であり、心より 敬意を表する次第であります。

近年、我が国の医療環境は少子高齢化社会の 進展や社会構造の変化等に伴い、大変厳しい状 況にあります。こうした中で、政府による財政優先の医療政策が、医療の質の低下を招きかね ない状況となっております。現在、勤務医の過 重労働や医師不足が問題となっておりますが、 これは政府の医療費抑制策が基本的な要因と考 えております。指摘されている診療科目の偏 在、地域偏在は、医師養成の人数を増やしただ けですぐに解決できる問題ではありませんが、 日本医師会は医療安全の面からも深刻な問題で あると認識しております。

また、医師不足の要因の一つに女性医師にか かわる諸問題もあげられておりますが、女性医 師が安心して出産し、産休・育休を取り、円滑 に離職せず職場復帰が出来るという支援体制を 構築する必要があります。日本医師会ではこれ らの問題について、関係委員会等で検討を行っ ておりますが、今回、本協議会のテーマ「勤務 医のアンガージュマンを求める」とのメインテ ーマのもとに本日のシンポジウムでも、勤務医 の労働条件がテーマにあげられておりますの で、勤務医の先生方から是非忌憚のないご意見 を頂きたく存じます。

これらの様々な医療問題の解決には、医師会 を中心として勤務医と開業医の大同団結が是非 とも必要であると認識致しておりますので、一 層のご理解とご協力をお願い申し上げます。

ここに改めて、本年度の開催に当たりまし て、勤務医の現況調査を集計され、また、貴重 な報告を行うなど準備運営の全てをご担当頂き ました埼玉県医師会吉原忠男会長を始め役職員 の皆様に衷心より感謝申し上げ、ご挨拶と致し ます。

埼玉県医師会吉原忠男会長(担当県代表)

平成18年度全国医師会勤務医部会連絡協議 会の開催にあたり、担当県を代表し歓迎のご挨 拶を申し上げます。

本協議会は、昭和56年の第1回大会から27回 目を数えます。埼玉県は平成15年6月に勤務医 部会を設立し、三年目にして、本協議会を開催 することになった。少し荷が重いかと思ってい たが、前年度開催県の香川県医師会の森下会長並びに事務局の方々に色々ご指導頂き、本日の 開催に漕ぎ着けた。この点を厚く御礼申し上げ ます。

医療行政の話をすると、先月、美しい国の実 現をめざして安倍新政権が誕生した。「美しい 国」という表現はあまり評判は良くないが、私 は少しかっている。「美しい日本」という表現 は、前首相の弱者切捨ての諸改革に対する安倍 さんなりのアンチテーゼだと解釈している。あ からさまに言えない部分は、美しい国と称する ところなど、日本人古来の心の優しさ、礼儀の 正しさが見えてくる。

これで医療改悪の推進に歯止めがかかると多 少期待はしているが、社会保障費の削減を優先 させるとの発言もあるので用心している。小泉 前政権の市場原理主義路線を復活させない様に 日医唐澤会長と共に種々注文をつけていきたい。

4月1日の新保険点数制度の実施に伴い、その 影響で倒産の危機に瀕している病院が多々ある。

この方針の下に、医療者はモラルハザードに 追い込まれた点が2つある。

1つは看護師数の絶対数が不足しているとこ ろに7対1の看護基準に、72時間の勤務体制が 決められたため、看護師をどうしても集めなけ ればならず、都心部の大学病院は、こぞって地 方から看護師を青田買いし始めた。都心部の大 学病院は、自らの機関さえ良ければ良いという モラルハザードに追い込まれている。青田買い をされた地方の病院は看護師不足で危機的状況 にある。

2番目のモラルハザードは、7対1、10対1、 13対1、15対1と細かく入院基本料が設定され たが、最低ランク15対1を達成出来ない病院は 約5,700円の入院料で賄わなければならない。 先日の代議員会でもお願いしたが、最低限1万 円の入院基本料でなければ安全で安心な医療提 供はできない。

我々医療者は、この中で必死で努力をし、良 い医療を提供するには現行の制度では無理があ るため、ランクアップをするためにはベット数 を減らす他ない。これは正に棄民の医療改革である。民を捨ててまで入院料を上げなければ生 存競争に勝てないという院長の苦衷も分かる が、知らず知らずのうちにモラルハザードの中 に入り込んでいると考えている。

また、療養病床の再編に伴い、施設を後にし た高齢者が途方に暮れる様な改革が断行されて いる。

こう言う混乱した状況の中で、本日の協議会 が開始される。

今回のメインテーマ「勤務医のアンガージュ マンを求める」は、これは勤務医の先生方の積 極的な社会参加をお願いしたく選定した。本日 の協議会では「勤務医の労働条件」「勤務医と 医政活動」の2つのシンポジウムを行い、勤務 医の労働実態の窮状を訴えるとともに、開業医 と共に一致団結して、その声を国政に反映させ ていきたいという願いからである。我々は国民 の健康と生命を守るために真の医療改革、特に 日本の医療は世界一効率の良い医療制度と言わ れ、WHO等世界の各機関が等しく認めている。 その様な制度を更に圧縮して、壊すということ は無謀であると考えている。かねがね申し上げ ているが、医療は消費ではなく、国民の為の投 資である。

体を丈夫にし懸命に働けばGDPも増加する。 高齢者は今日の日本を築いてきた方々であり、 大事にしてあげなければならない。

本日お集まりの先生方が我々と一致団結し、 我々の声を行政に伝え、高齢者を泣かせないよ うな医療制度を実現させていきたいと心から願 っている。

最後に本協議会が実り多いものとなることを 期待すると共に、ご参集の皆様方の今後ますま すのご活躍とご健勝を祈念申し上げ挨拶と致し ます。

続いて、来賓祝辞として上田清司埼玉県知事 と相川宗一さいたま市長より歓迎のご挨拶があ り、宝住与一日本医師会副会長より次のとおり 挨拶があった。

宝住与一副会長

勤務医担当副会長、隣県の栃木県ということ もありお招き頂いた。

大会のメインテーマを「勤務医のアンガージ ュマンを求める」と題したことは誠に時宜を得 ている。

私は特に勤務医の医師会参加を求めたい。医 師総数の6割が医師会に入っている。その内の 半分以上は勤務医である。しかし、世間からは 医師会は開業医の団体ということで医師の代表 とは認められていない。世論から認めて貰うた めには、どうしても勤務医の活動が活発になら なければならない。以前から勤務医不足、過重 労働が問題になっているが、新臨床研修医制度 実施後、医師の偏在化が顕著になった。是非、 我々の力を結集し、今の状況を打開していきた い。本日の成果を踏まえて、諸課題解決に向け てご協力をお願いしたい。

埼玉県医師会谷本常任理事より開会の辞が述 べられ、開会式を終えた。

【特別講演1】
「国民医療と医療制度改革」
〜日本医師会の新しい取り組みから〜
日本医師会長 唐澤人

本日は勤務医の先生方に関する諸問題・諸課 題を多方面から検討する協議会である。日本医 師会を担当して半年が過ぎた。本日は、その流 れの中で感じたことと、日本医師会がどの様に 取り組んでいくべきか基本的な方向性、勤務医 の先生方を巡る環境について、私の所感を話し たい。本日の審議で、多くの提言が出されるこ とを期待している。

始めに、医師数の推移(開業医別、診療所 別、勤務別)について、どの分野でも年々増加 傾向にある。最近の養成状況として、10ヵ所の 医科大学に於いて10 名の地域枠が設置され、 向こう10年間当地で医師の育成を図る制度が あるが、この結果がどの様な方向に進むかは未だ検討がつかない。

最近、世論では医療財源が少ないことを話題 としているが、国が赤字国債の縮減をめざし、 財政収支のバランスを図ろうとする一方で、医 療費が次第に膨大化することを懸念し、今から 医療費の削減を目論んでいることに整合性があ るのか、国民の健康を預かる医療担当者とし て、はっきり論じていきたい。また、現在、医 療財源に関する問題は日医総研、医療政策会議 で検討を行っている。

医療費の将来予測については、厚労省の過大 な予測で、医療費削減論が進んでいるが、我々 の出した試算と大幅な乖離がある。国民医療と 地域医療に基づき、医療政策を提言していくた めには、日本医師会が独自の医療政策を掲げる ことに注視していきたい。また、日医が掲げる 医療政策が勤務医の先生方にとっても、大変重 要なものであることを認識賜り、この政策は然 るべき国民、行政官庁、国政に訴えていきたい。

次に、先般日本医師会が郡市医師会長、副会 長を対象に行ったアンケート調査について報告 を行う。日医は今何をすべきかとの問いに対 し、最も回答が多かったのが「国民との対話を 重視せよ」、「医療を活性化する道を開け」とい う広報活動の強化であった。2番目は「医療制 度に関する抜本的改革の早期対応」であり、3 番目は「日医の組織の強力化」であった。地域 の医療の現況をしっかりと唱え、新しい国民の ための医療を築き上げるべく、医療政策を強力 なものにしていきたい。そのためには、会員数 の増加や国民との対話を広めていきたい。

また、日本医師会はこれから広報活動、パブ リックコメントを強力に進め、国民の評価を正 しいものにしていくために、ブランディングを 実現させたい。そのためには医療政策集団とし ての活力ある流れを作らなければならない。

また、我が国の医療提供体制は、一次医療 圏、二次医療圏、三次医療圏と階層化した医療 が行われているが、この様な医療は堅苦しく、 国民にとっても何の意味もないと思う。兎に 角、国民が分かり易くかかり易い階層化したヒエラルヒー的な医療は相応しくないと思う。

専門医制度、専門医認定制度については、実 際に多くの病院が専門医療に徹しているか疑問 である。それぞれの分野でその医療に徹せられ るようにするためには、専門医療を高め、プラ イマリ的な高度な総合診療機能をもった医療基 盤を作り上げることが必要である。プライマリ ケア医は専門医に近づき、専門医はプライマリ ケアを十分理解した上で、施設の中で専門医療 を提供するということが大切である。

また、人員配置基準の改正により特定機能病 院が多くの看護師を集めているが、財政優先・ 経営優先の流れになってないか懸念するところ である。

最後に、まとめとして、今後の医療提供に相 応しい体系がどうあるべきか是非ご提言賜りた い。日医も勤務医の期待に反しないようあらゆ る努力を重ね、総合的な地域医療提供体制を将 来築きたい。また、医療財源も国民に示せるよ うな医療政策をしっかりと掲げ進んでいきた い。医師は医学技術を研鑽し、倫理と社会的正 義に基づき地域社会に貢献していくことが医療 であると考えている。その医療を支えるために は医療政策が肝要である。その医療政策を推進 するためには、政治が大切である。様々なもの を進めていく根底には政治がある。政治の流れ に訴えることが出来なければ何の力にもならな い。「政治なくして医政なし、医政なくして医 療なし」であると共に、医療そのものには医療 政策がなければ、医療は推進出来ない。医療政 策だけではどんなに立派なものであってもそれ を実現するための戦略と実現力が大事である。 実現力は即ち実力である。実力は政治に提言で きる力である。そこなくして日本の医療の未来 はない。

吉原会長

財源の問題をしっかり調べ、提言することに 賛成である。エビデンスに基づいた提言を政府 に伝え、実現の努力をして頂けると信じている。

フロアー

2点ばかりお願いしたい。先日ある厚労省の 官僚と話す機会を得た。医療費や医師数の増加 を訴え活動を行っていることを話すと、その官 僚は「国民や政治家に正しい判断が出来るか。」 と言っていた。その時、しっかりした情報を国 民に伝える努力をすべきだと感じた。2点目は 日医が大同団結をめざすということであれば、 日本の医師不足はイコール勤務医不足と言って も過言ではない。勤務医不足を正面に見据えて 頂き、医療費増と勤務医増を主張して頂きた い。そうすれば自ずと医師会の加入率もアップ すると思う。

フロアー

日医の会員構成も勤務医が半分を占めてい る。勤務医のポジションをもっと広げていくべ きだと思う。代議員の数は10%に届いていない のが現状である。勤務医の発言力と責任力を与 えるべきだと思う。組織の中身を改変して頂き たい。

最後に、唐澤会長から「意識は共有してい る。近い将来、代議員制度も変わる可能性があ る。勤務医のご苦労も十分承知しているので、 ご期待に応えるようにしたい」と挨拶し講演を 終えた。

【報告】
「日本医師会勤務医委員会報告」
日本医師会勤務医委員会委員長 池田 俊彦

新執行部が発足したばかりなため、特別決定 したことが報告できないので、委員会の内容を 紹介する程度に留めたい。スライドを基に説明 があった。

□委員会構成---委員13名中7名が新しい委員と なり、新しい視点から新しい風が入るような議 論もある。全国から集まった論客であるため、 いつも絶え間なく議論が続いている。

□勤務医の役割 □会長の諮問 □勤務医のペ ージ企画立案

□組織率の推移---組織率は少しずつ減少傾向に ある。新しく医師免許を取得した医師が医師会 に入会していない。

□日本医師会・都道府県医師会の勤務医会員 数(8 月1日現在)---全国の医師数は270,371 人、日本医師会の会員数は163,501人、うち勤 務医の会員数は76,140人で割合は46.6%であ る。前年度に比べ若干パーセントが減ってきて おり、多くの勤務医がバーンアウトして開業し ている実態が影響していることを懸念する。

□勤務医会員の増加率---一部の地域で勤務医の 数の取り方が異なっていたため、全体の数の推 移では、今年はマイナス62人と減少した。

□勤務医の医師会活動の参画状況---医師会代議 員数350人の中で勤務医の代議員は18人であ る。割合は5.1%である。前年は6.1%であっ た。最も多かった時が2000年で24人(7.3%) であった。

□日医生涯教育制度申告率の推移---年々上昇傾 向にあったが、少し減少している。

□都道府県勤務医部会設立状況---数字の上では 前年度(28県)と変わりはないが1減(静岡) 1増(栃木)である。設立予定(富山)もある。

□大学医師会の設置---全国の大学医師会の連絡 協議会が今年の8月からスタートした。大学医 師会で全国的な集まりが出来たことは嬉しい限 りであり、今後連携を考えていきたい。80大学 中、35の都道府県に59の大学医師会が設置さ れている。

□「第5次医療法改正における勤務医の課題」 ---今期の会長諮問である。勤務医の立場から忌 憚のない意見を出して頂き、日医の政策に生か していきたいとのことである。これまでと変わ った点は、これまで勤務医のことに限り意見を 求められていたが、医政全般に関し勤務医の意 見を聞き、日医の考え方に反映させていきたい。

委員会であがっている主な議題は1)医師不足 問題、2)女性医師問題、3)医療機関の機能分担 と連携である。

□人口当たりの医師数(H18.4 WHO)---世界192 カ国中63位、OECD加盟国中最低水準である。

□勤務医の多忙の一因---病院が外来機能を持ち 過ぎている。外来患者に4割の時間を費やされて いる。医療以外の仕事が多くなった。会議類・ 文書作成が増えた。説明業務が増えた。この様 なこともあり医師不足が更に強く感じられる。

□女性医師問題---女性医師が仕事を続けられる よう支援したい。一度仕事を離れても復帰でき るよう支援したい。男性医師の働き方も考える。

□医療機能のあり方---大病院の外来機能のあり 方の見直し、診療所の外来機能の強化

□医師会は勤務医と危機意識を共有できているか。

□勤務医は医師会に対して傍観者になっていな いか。

最後、まとめとして、今回のメインテーマで ある「勤務医のアンガージュマンを求める」は、 積極的な社会参加となっており、医師会への参 加、医政への参加だと考えている。勤務医も是 非、積極的に取り組んで頂きたい。

【報告】
「埼玉県医師会勤務医アンケート調査報告」
埼玉県医師会勤務医部会長 戸倉康之

資料に基づき埼玉県医師会勤務医アンケート 調査の結果報告があった。

調査の目的は、埼玉県に勤務する医師(県医 師会員および非会員)に労働条件に関する実態 と医政に関する関心をアンケート調査すると共 に、医師会の事業、施策に反映させることを目 的とした。会員数は平成18 年9 月1 日現在、 5,628名、勤務医数は2,282名で40.5%の組織率 である。

対象と方法は、27の郡市医師会及び公的病 院協議会を構成する40の施設(大学、国公立、 公的病院)の勤務医2,000人にアンケート調査 を依頼し、1,084名(会員659名、非会員425 名)から回答を得た。回収率は54.2%(郡市医 師会経由40%、公的病院協議会経由71%)で あった。得られたデータは会員、非会員及び全体の3群に分け、単純集計およびクロス集計を 行ない、統計処理が可能な質問事項については 多変量解析による有意差検定を行った。

勤務医の労働条件に対する質問にしての主な回 答結果

□週平均の実労働時間について

40時間未満および40〜59時間では会員が圧 倒的に多く、59〜79時間になると会員と非会 員は拮抗し、79時間を超えると非会員が圧倒的 に多い。

□週休について

会員、非会員とも、4週8休、4週4休、4週6 休の順が多かった。

□一ヶ月あたりの平均当直回数について

会員では2〜3回の当直が18.3%、4回以上が 23.5%、当直なしが45%に対し、非会員は2〜 3回の当直が32.5%、4回以上が38.3%、当直 なしが15.1%であった。当直明けの勤務につい ては勤務医全体の63.4%が通常勤務と答えた。

□主たる勤務先からの年収について

会員の70.9%がほぼゆとりある生活が可能と 回答。アルバイトが必要は25.7%であった。逆 に非会員は50.8%がアルバイトに依存。ほぼゆ とりある生活が可能は46.5%であった。

□現在の仕事内容や労働時間に見合う収入を得 ているかについて

会員は約50.5%が満足と回答、一方、非会員 は67.7%が不満足と回答した。

□勤務医上の負担について

勤務医全体の60%が診断書作成や臨床に付 随する「事務処理の過多」、「治療管理の難しい 重症例の増加」や「検査、治療などにおける非 能率的なシステム」が上位を占めた。

女性医師就業に関する質問に対しての主な回答 結果

□育児と仕事は両立について

勤務医全体の61.9%が両立できたと回答した。

□育児と仕事の両立が可能であった理由について

「保育所、託児所の利用」が71.8%で、「伴侶、両親の協力」が64.1%、「勤務先の理解」 が38.4%であった。

□育児と仕事の両立が困難・不可能であった理由

育児支援体制がないことがトップで、次いで 勤務先の理解がない、育休が取れないであった。

□所属施設における産休育休制度について

十分利用可能であるが、育休は利用しにくい との回答が多かった。

□長期離職後の職場復帰に際し具体的に必要な ものについて

人員補充システム、育児支援システム、再教 育システムの構築が必要との回答が多数寄せら れた。

新臨床研修制度に関する質問に対しての主な回 答結果

□臨床研修指導医として業務量増加による負担 について

勤務医全体の約50%の指導医が業務量が増 えたと回答。

□増加した業務内容について

研修医の指導で業務内容が増えた。

□指導医に対する経済的保障について

64%の勤務医が経済的保障はないと回答した。

医政に関する質問に対しての主な結果

□国民にとって望ましい医療制度は

日本の国民皆保険制度は勤務医の64.1%に支 持されている。

□今の国の医療政策に不満があるか

91.5%の勤務医が不満があると回答した。

□現在、関心のある医療政策について

次の順である。1)医師不足と偏在、2)財政主 導の医療費抑制策、3)診療報酬、4)医療訴訟、 5)地域医療と救急

□関心のある医療政策を実現するための手段は

次の順である。1)医系国会議員を増やす、2) 勤務医が団結し組織を作り独自に活動する。3) 各専門学会が勤務医部会を組織し、入会して活 動する、4)日本医師会に入会し組織力を高める

□日本医師連盟とその活動について

知らないと回答した勤務医が80.8%であった。

□国民の医療に対する信頼を取り戻すには何が 大切か

次の順である。1)インフォームド・コンセン トの徹底、2)医療事故防止と医療事故後の対 応、3)情報開示、4)積極的な広報活動

考察とまとめとして、厳しい医療環境の中、 勤務医と開業医が対比しているところは共生し なければならない。お互いを尊重し、未来を越 えて、国民に安心で安全な良質な医療を提供す るという共通の目標に向かって解決して進むべ きである。

医師不足や偏在、診療科、勤務医の過酷な労 働条件の悪循環を早急に断ち切らなければ、地 域医療は病院から崩壊していくものと考えてい る。これらの問題は直ぐに解決できる問題では ないが、多くの医師がもっと医政に関心を持 ち、今回のメインテーマである「アンガージュ マン」、医師会に入会し、組織率を高め、国民 から信頼され安全な医療に提供する診断者とし て、為政者らに強くアピールしていくことが肝 要である。埼玉県医師会にとっては推定4,000 名の医師会未入会者を如何に入会させ、医政活 動に参加させるかが当面の課題である。

次期担当県挨拶 沖縄県医師会長 宮城信雄

来年、沖縄県で全国医師会勤務医部会連絡協 議会を開催するにあたりまして、一言ご挨拶を 申し上げる。

期日は、平成19年10月13日(土)、会場は那 覇市の沖縄ハーバービューホテルにおいて開催 する予定で、現在、本会勤務医部会役員会で鋭 意準備を進めている。メインテーマは「高めよ う勤務医の情熱、広げよう勤務医の未来」と題 し、シンポジウムは、著しく変化する医療提供 体制に焦点をあて「病院の機能分化について」 を公的病院や民間病院、診療所の立場からご発 言頂く予定である。日本医師会そして埼玉県医 師会のご指導を頂きながら進めて参りたいと考 えているので、よろしくお願いしたい。

【シンポジウムT】「勤務医の労働条件」
座長埼玉県医師会理事  丸山 正董
埼玉県医師会勤務医部会副部会長 小谷 昭夫

埼玉県医師会丸山正董理事・埼玉県医師会小 谷昭夫勤務医部会副部会長の座長の下、5人の シンポジストの発表があった。

1)大学病院の立場から

「医療環境と医療の質・構造の変化」と題し て埼玉医科大学病院里見昭先生から大学病院に おける勤務医の労働環境の実態と意識、新臨床 研修制度と医師不足をめぐる問題点などについ て発表された。

2)小児科医の立場から

草加市立病院土屋史郎先生から24時間365日 小児科救急を行っており、他科との労働条件の 違いについて、長時間勤務の原因である当直の 多さの解決方法として集約化とシフト制をあげ ているが、困難な点も多く時間がかかると発表 された。

3)内科医の立場から

深谷赤十字病院茂木陽一先生から地域医療を 担う中核病院に勤務しており、当直あけの通常 勤務の過重労働、睡眠不足などそれに見合う収 入がないなど、現場のストレスを抱えて医療を 行っている医師の負担について発表された。

4)産婦人科医の立場から

越谷市立病院依田綾子先生から、近年産婦人 科医師の減少が指摘されている中、高齢化が進 行し撤退する医師が増加している。また、産科 診療圏の設定による周産期医療の集約化は必要 としても、それだけではニーズに応える事は不 可能で、周辺の地域医療機関との構築が不可欠 であると発表された。

5)女医の立場から

朝霞台中央病院下田仁恵先生から、医師不足 の原因に女性医師の増加があげられる中、男女 共同参画という問題からも、女性医師の活動を サポートする環境作りの必要性を自らの体験から話された。また産休・一時休職を余儀なくさ れた女性医師の復帰の再教育についても、カリ キュラムを作りシステム化を検討頂きたいと発 表された。

以上5人のシンポジストの発表の後、下記のと おり討論及びフロアからの活発な意見があった。

医師不足の問題について

Q1:大きな論点として勤務医と大学の医師不 足が現状である。労働条件、過重労働のために やめていくので医師の不足が生じる。臨床研修 制度によって医師が不足し、そのために過重労 働という結果になり難しい点がある。現実に医 師不足に対して、より具体的にご自身の勤務先 から過重労働による医師不足と臨床研修制度の 影響など、それぞれの立場から伺いたい。

<里見先生>

研修医制度は個人的には良い制度だと思う。 特に研修医にとっては自分の意志で選択でき る。ただ、システムを提供する側に多少問題が ある。若い人たちのニーズをうまく吸い上げて いない。また若い人たちは都会志向であり、よ りよい研修を求めている。それを止める地方と 中央との格差が大きいので、若い人たちを引き 留める方策を図らなければいけない。また、中 堅クラスの医師が追い込まれて現場を離れるよ うになっており、改善策を施さない限り、勝ち 組となっている医療機関でもいずれは医師不足 に陥る可能性がある。

<土屋先生>

2年間の研修医制度でぎりぎりにやっている ので、どの科も不足しており、産婦人科はその 例であり、悪循環が形成されている。卒業した ては小児科を希望していたのに研修して回って いる内に、他科に変わってしまうのが小児科医 の不足する原因である。小児科の面から研修医 制度の在り方に問題がある。医師不足によって 住民が望むような良い医療を提供できない状況 である。

Q2:勤務医の不足している原因について明確 ではないが、大学における医師不足として研修

2年終えて戻ってくるという可能性はないか。

<里見先生>

研修医はある時期にきたら戻ってくるかもし れない。しかし、それまで中堅が頑張れるかと いうとむしろそこに問題がある。研修医は30万 円の保障があり、中堅はその保障がないため、 結局優秀な中堅人材は引き抜きされるので、中 堅を優遇する対策が必要である。

吉原会長からコメント

昔インターン制度に反対したとき、身分の問 題、勉強したくてもさせてもらえなかった。大 学教授の権限が強く、医学博士をもらうために 色々な無駄な事をさせられたため、外国の医師 と比べてあまりに貧困であったのでそれをなく そうと努力をした。

今度、新しい制度を創設した時に、後期の研 修制度ができた場合、対策をしっかり講じない と医師がいなくなるよと日医代議員会で提言し た。予想以上に大学の医師が出てしまい、医師 の派遣制度が混乱している。一つには大学はあ くまで医師の養成機関であるはずなのに、第2 病院を作ったり救急センターを作ったりして、 収入の努力をしている。そのため医師が世の中 に出なくなってしまった。数年、外に出た医師 が戻ってきても全員雇う事ができなくなる。急 性期の病院はインフォームドコンセントで医療 より書類を書くことが多く、今後、大病院は苦 労がかさむと思う。政府は集約化中心的な病院 を作ることで、解消しようとしており、院長先 生が辞める可能性もでてきた。機能的なことが 出来なくなるという問題が多いことが、官僚の 机上の考えで自由に動かされたものと医療現場 の現実は違うということを日本医師会がしっか り訴えていかないといけない。

Q3:医師不足は大きくふたつの観点があげら れる。日本の医学の実態と現状の医師の偏在。 政治の分野で官僚は医師は足りていると言って いる。しかし、日本医師会としては日本には医 師は不足していることを大前提に話さなければ 前に進めない。政府は集約化しようとしてお り、医政との関係が強く求められる。

<里見先生>

女性が参加する分野と男性が参加する役割分 担があり、医療で主治医が10時間いなければな らないという社会意識をかえないと解決しな い。日医は国民に本音で現実を述べ、患者受け することだけを言っていてはいつまでたっても 解決できない。

女性医師として

<佐田先生>

出産の経験はないが実際直面してみないと体 制がうまくできているかどうかは実感としてわ からないが、日勤労働はこなせると思う。夜 間、育児を両立されている医師には何らかの手 はずをとっていただきたい。

<下田先生>

子供が高校受験を控えているので、夜間の当 直をこの4月から外してもらっている。夜間の 当直をしてからこそ脳外科というような状況で あるので、とても申し訳ないと思う。今の病院 では脳外科医が高齢化しており、当直すると次 の日は使えないので、そこをフォローする気持 ちで頑張っている。それもやはり家族の協力が 大変大切である。一般女性で結婚したのは勝組 としたら、女医は結婚が負け組になっているの でつらい。保育所を作ればいいとかお金を出せ ば解決できる問題ではない。男性医師の意識の 改革が必要。このようなディスカッションを持 つことで少しでも育児支援に近づける手がかり となってほしい。

<まとめ>

吉原先生

1)勤務医の過酷な労働条件の緩和ということに は、政府の医療費削減政策が関連しており、 これだけ働く業種はほかにない。勤務医の給 与を増やすべきである。

2)医師不足を外国と比較することが妥当か、日 本には日本の医療風土がある。世界が認めて いるように医療費が17位、医療の達成度は1 位、一概に外国との対比で悪いとか判断すべ きではない。

3)女性医師のサポート体制については、搾乳し て冷凍庫にいれて置くことが恥ずかしいと思 った気持ちがひしひしと感じられた。そうい う面では男性医師が女性医師への配慮が足り ないので意識改革が必要である。また、女性 医師の再教育システムを整備をして復帰する チャンスを与えねばならない

4)後期研修という言葉が法的にはない。都市集 中型、偏在、大変な事を及ぼすことが予想さ れるので私はこの制度には終始反対してい た。有識者懇談会で、アンケートをとると大 学を出たばかりの研修医が30万円保障され、 教えている指導医が平均給料15万円との結果 がでている。明らかに指導医より研修医が多 くもらっており制度的にはよくない。考える べきである。加えて後期研修医は政省令にな いので定着するとますます医師の引き上げが 進み、40、50、60歳の医師に義務づけたらど ういう事態になるかと考えさせられる。残念 ながら後期研修医という制度は一人歩きし、 生きている。注意して使っていただきたい。

総括:コメンテーター 鈴木満日医常任理事

新臨床研修制度は研修医からの選択肢が増え たことで間違っていない。昔から親と先輩は選 べないというが、今は先輩を選べるようになっ た。医師不足とこの制度を結びつけることは結 果的にそうなったが、大学病院自体の従来の在 り方をそのままアクセプトされるのは、教育と 研修から離れるというのが正しいものかと、歪みが我々の前に突きつけられた。これを打開す る策を考えなければいけない。また、医師不足 をしっかり日医として言わなければいけないと 考えている。

また、国民に医療の現状を知らせる事はまっ たく同感である。日医は10 月1 日から週末に CMをいれて、国民の理解を得られるよう取り 組んでいる。更に強化できるよう24時間のコン ビニと同じように救急夜間、小児科問題等本当 に回避できるような形作りばかりでなくて、根 っこの部分が欠けているような気もしている。 社会保障の国民負担率でいうように我々から見 て国民が給付を更に更にという要求が、少し逸 脱したような部分がでてきている。国民と共有 できる部分をもう少し分かち合える事が必要だ と印象に残った。

過重労働時間に関しては、患者への説明、書 類の作成、IT化に伴う作業など今までに考えて もいなかった事が現実に起こり、時間を縛られ ている。人件費は医療費政策が徹底されたため に解決方法がみいだされていない。今の医師不 足の解消には人件費の分を増やし、事務的処理 を医療秘書に任せることで、医師が本来やらな ければならない仕事にあたり、効率化をはかる 事が望ましい。平成20年度に改定で大病院は 入院料に専念するよう本来の形、勤務医の過重 労働に関しても当直あけの勤務等今後風穴をあ けていきたい。

女性医師問題解決については先ほど女性医師 から発言があった事に沿うよう実現をしたい。

【シンポジウムU】「勤務医と医政活動」
座長:埼玉県医師副会長 金井 忠男
埼玉県医師会勤務医部会幹事 尾本 良三

1)「医療トラブルを中心に」細田洋一郎先生

増加する医療トラブルへの対応策として埼玉 県医師会の取り組みが紹介された。

不幸にしてトラブルが生じた場合に裁判とい う患者と医療者が対峙するのは最悪の事態である。埼玉県医師会では、平成14年から「専門 的知見を要する医療関係訴訟の適正かつ迅速な 解決」を目的に裁判所、弁護士会、医師会・基 幹病院から成る「さいたま医療訴訟連絡協議 会」を設置していると紹介がありその活動報告 が行われた。

また、埼玉県では、心臓・血管関連分野で他 施設の専門医や第三者の意見を必要とする医療 事故を検討する「医療事故検討委員会」が設立 され、更に事故調査委員会、訴訟審議会も立ち 上げるべく活動している。更に公的病院が中心 に、心血管以外の分野にも広げることを検討し ている。

医療費抑制政策は、医師、看護師の人手不足 をまねき、そして過重労働をまねく。人手不足 は医療の質の低下をまねく。そして、医療事故 が突発すると国民の信頼もますますなくなる。 そうなると医療従事者の士気が低下する。そし て医療が荒廃する。特に中核病院の勤務医には 深刻な問題である。我々勤務医はもっと医政に 目を向け、医師会と共に力を合わせて国に訴え て行かなければ成らないと思う。

2)「産科医療の集約・重点化について」 栃木武一先生

産科医療については崩壊の危機に直面し、日 本各地において何処で分娩すればよいかという 点は今や社会問題化しているのが現状である。 その産科領域を中心に検討を加えた。

この状況になった背景には、平成16年度から 開始された新臨床研修制度が引き金となってい る。三重県の市立尾鷲総合病院の産婦人科医師 問題、さいたま市立病院の土日当直のアルバイ ト医師への分娩手当金の支給、産婦人科医当直 回数、周産期医療を巡る方策、国の小児科・産 科医師集約化へ補助金の検討、女性医師問題等 の産科医療の現況について説明があった。さら に、勤務医は開業医が高齢、健康を理由に産科 医療の中止や施設の閉鎖を行うことにより、産 科医療の担い手として果たす役割は今まで以上 に重要になってきている。現在、産婦人科勤務医は過酷な勤務を余儀なくされ、いつかは燃え 尽きてしまい産科医療の現場から去ってしまう のは必死である。現場に留めるためには、医師 のQOLを考慮に入れた待遇改善の検討、女性 医師の現場復帰、定年後の医師の活用、地域の 開業医の手助け、地域住民へ産科医療の崩壊の 危機を啓蒙、そして勤務医も地域における産科 医療の在り方を地域住民と一緒に考えることが 極めて重要である

3)「救急医療について」加藤泰一先生

救急搬送患者数はさいたま市で5年間で1.3倍 に増加し、毎年2,000名ずつ増えている。その 内訳は重症患者数は殆ど変わらず、軽症者の増 加が著明で救急搬送患者の約7 割を占めてい る。家庭や社会環境の変化により軽症であって も救急車で医療機関を受診するようになってき ている現状である。救急隊員数にもその対応に 限界があり、救急車へのアクセスの制限または 有料化を検討し始めた自治体も出ている。

受入患者数の多い病院では夜間休日にも多数 の患者を受け入れ、当直医は殆ど眠れない夜勤 をこなした翌日にも勤務を行うこともしばしば である。医療従事者が疲弊してきている。こう なると退職や当直が楽な病院へ行くか開業する 例が増えている。大学からの医師派遣の減少が 拍車をかけている。

救急医療を積極的に行っている病院が、今後 急性期の病院病床数が制限され減少すると更に 忙しくなるという状況に陥らないように、厚労 省にきちんと意見を言っていく必要があると考 えている。また、医療従事者の人数を増やすだ けでは解決できない問題である。診療報酬制度 は病院について言えば地域医療支援病院などそ の役割を診療報酬上の評価に加えているから、 救急をしている病院はその病院の果たすべき役 割を満たしているのであれば診療報酬上も評価 してもらってもよいのではないか。病院として そのような状況を訴えていかなければならない と思う。また、医療関係者だけでなく地域住民 にも訴えて理解してもらうことが大事である。

座長の金井先生から次の基調講演の講師であ る古川先生の紹介があった。

来年の参議院選挙に自民党公認候補として埼 玉県から立候補を予定している。本会の会員で あると共に埼玉県医師会にもご協力いただいて いる。大変信頼できるとして全面的に支援すべ く準備を進めているところである。高得票で当 選されて医師会のために尽力いただきたい。

基調講演 「勤務医と医政活動」
〜「立ち去り」か「参加」か〜
講師:慶應義塾大学法科大学院、 医学部助教授・弁護士 古川 俊治

本日設定されたテーマ「勤務医のアンガージ ュマンを求める」、「勤務医と医政活動」は、現 在の医療現場の状況を考えると、最も重要な事 柄である。

相次ぐ勤務医の過労死・自殺問題がマスコミ を騒がしクローズアップされている。一方、専 門家と言われる職業の業種別平均給与ランキン グにおいて、医師は、弁護士、パイロット、大 学教授、マスコミ、金融機関等より低い順位と なっており冷遇されていることが裏付けられて いる。勤務医の労働条件が悪化している状況 は、各シンポジストから述べられたが、大きな 要因は、1)医療機関の経営状況の悪化(医療費 抑制策による)、2)医療安全の要求の高まり (医療安全のための業務負担、医療従事者の刑 事責任の厳格化)、3)臨床研修必修化に伴う医 師不足であり、特に、小児科、産科、麻酔科等 の外科系の医療現場から勤務医が去っていくケ ースが増えている。

現在、政府により医療費抑制策が執られてい るが、実際1997年から2003年迄の6年間の年 平均医療費増加率は介護保険を除くと1.45%し か増えていない。65歳未満で見た場合は、年平 均0.27%増であり、騒がれるほど上がっていな い。何故そんなに医療費増が注目されたかとい うと、GDP比が上がったことをマスコミや政 府が強調したからである。それは、1997年から 2003年まで名目GDPは下がってきたため、人件費の高い医療費分野はGPD比が非常に高く なった。さらに、厚労省が、2025年の医療費の 予測を過大推計したことにも問題がある。

実際、日本の医療の質は非常に高く、先進国の 中でも平均寿命は一番長く、新生児死亡率は一番 低い。しかし、GDP比は先進国でも日本は最低で あり、年間一人当たりの医療費も最も低い。加 えて、フリーアクセス、国民皆保険制度となっ ており、コストパフォーマンスも世界一である。

英国は、サッチャー政権下で強い医療費削減 政策を執り、結果は第三世界並の医療といわれ た。国中に待機患者が溢れ、一般患者でも診療 まで2日間待たされ、エコーの平均待機時間は 8週間、手術患者で2年間待たされた患者も現 れた。このような状況の中から医療従事者の 24%は海外へ流出し、その穴埋めとして海外か ら多くの医療従事者を迎え入れたが、上手くい かず現場は疲弊し医療事故が多発した。ブレア 政権になって、このような医療状況は放置でき ないとして、医療費を1.5倍にして立て直しを 図ったが、我が国の医療内容、質には遙かに及 ばない。

医療安全を考えた場合、まずコストがかかる。 オーダーエントリーシステムを導入すると薬剤 等のミスは無くなるが導入には莫大な費用がか かる。電子カルテも同様初期投資費用が大きく なかなか進まないのが現状である。また、イン シデントレポートの作成、検討会開催、講習会 受講等長時間にわたる拘束による業務過重が進 む中、経済的裏付けがない。厚労省はコスト抜 きで医療安全の話しをしているが、医療安全が 進展しない原因は金をかけないからである。

医療事故のもう一つの問題は、昨今の厳罰化 にある。昭和63年に鹿児島県の造影剤事件で 逮捕されて以来14年間逮捕者はいなかったが、 平成14年以降毎年逮捕者が出ている。福島県 の事件では警察内部で表彰されたとの話しもあ る。逮捕の合理性は、罪を犯したという疑いに 足りる相当な理由があること、証拠隠滅や逃亡 のおそれがあることと理解するが、福島の事件 は、証拠書類は押収され、また、福島県の事故調査も終え、医師は逮捕当日も診療に当たって おり、逃亡のおそれもなかった。患者取り違え ミスや薬剤ミス等の予見可能なミスとは違う。 米英では医療事故は刑事事件には問われない。

2006年に医療制度改革が実施されているが、 政策はどうして出てくるかというと、歴史や文 化の上に成り立つ制度が目的や利害が絡み環境 が変化して出来上がってくる。そして、もう一 つ大事なのは政治である。今、日本の歴史、医 療理念に叶った政策が立てられているか問われ ている。それを変えるには政治力しかない。こ れが決められた原理である。

我々は、日本国憲法の下で生活しているが、 憲法で、「日本国民は、正当に選挙された国会 における代表者を通じて行動し・・・」とあ り、国会議員は国民の総意を代弁することにな っている。我々が、どうして国の政策に関わっ ていくかというと、国に実際的な政策を作らせ るのが政治であり、政治力のある医師会の活動 に勤務医も参加することが重要である。学会に は全く政治力はなく厚労省も相手にしない。国 民は世論という形で国に訴えるが、これはマス コミによって大きく左右される。最近、国民は マスコミを通じて、勤務医が過酷な状況にある ということが理解されるようになってきた。こ れをさらに実効的に進めるためには、医師会の 行動力によって筋道をつけ、国民を巻き込むこ とがより重要である。

医師会と弁護士会を比較してみると、弁護士 会は全員強制加入で100%、若手会員も積極的 に活動し、強力な綱紀粛正力があり国民からの 信頼も良好である。医師会は、任意加入で 60%の加入率。若手の参加は消極的で綱紀粛 正力もなく、国民からの信頼も低いということ になっている。勤務医の意識として、医師会加 入はメリットがないという主張が多いが、ある 地方医師会は医師会加入のメリットとして「医 師としての社会的責任を医師会活動を通じて地 域に還元できること、流動する医療行政に対し て医療の現場を担っている立場から、情報や意 見を郡市医師会、県医、日医を通じて医療行政にまで発信できるところにある」と説いてい る。従って医師は全員医師会に加入すべきであ り、今後、勤務医がみんな参加する医師会にな っていくことが必要である。

昨今、マスコミの一元的な報道(薬・検査漬 け、社会的入院、医療事故の多発、医師の高収 入等)により、国民の医療への不信が高まり、 医療への財政投資の理解が得られない状況にな っている。従って、今、勤務医こそが、現場の 窮状を正しく伝える主体であり、勤務医中心の 医師会なら、国民のイメージを変えられる。

何故、英国の医師が国民から理解が得られた かというと、世論調査で医師ではなく「医療制 度が悪い」という結果が出た。英国では医師と 患者の信頼関係が上手くいっていたのである。 我が国における患者と医師の意識調査(平成17 年・読売新聞)によると、「インフォームドコ ンセントを充分に実施している」医師72%、患 者45%、「質問しやすい雰囲気を心がけている」 医師81%、患者26%、「患者の意思を尊重して いる」医師83%、患者30%、「治療方法を分か りやすく説明している」医師77%、患者33%、 「質問に丁寧に回答している」医師76%、患者 32%と両者の意識には大きな違いが存在する。

本日のテーマである「アンガージュマン」は サルトルの言葉であるが、サルトルは、「全て の未来は人間が創るものである」といってい る。これからの医政・医療はどうなっていくか というと全て今から創られるものであり、何も 決まっていない。放って置けば厚労省が勝手に 創り、もっと悪いものになる。我々が立ち上が れば変えていくことができる。それを教えてい るのがサルトルの言葉である。

勤務医の生活防衛のための2つの手段がある。

一つは「立ち去り」である。そうすると状況 は悪化し、マスコミ・世論による医師批判が起 こり、職業活動の自由に対する法的規制が強化 されると共に、東南アジア等からの医療従事者 の大量受入が行われる。

また、勤務医が医政活動に「参加」し、組織 構築に動いた場合は、状況改善の可能性が高まり、勤務医中心の医政が実現し国民からの医療 の信頼が回復し、医療費の増大、国民医療の増 大に結びつく。

よって、開業医と勤務医が手を取り合って、 さらには、医師会と学会が一つになることが重 要であり、今、まさに選択の時である。

以上の講演の後、金井座長から本来ならシン ポジストによるディスカッションというところ であるが、先程、このような会議はガス抜きと なることが多いとの意見があり、過重労働に対 してどのような要望をしていったらよいか下記 のとおり、意見交換を行った。

座長:先ずは、医師不足についてです。日医、 国などに要望することについていかがですか。

○我々医師が日本の医療体制を守るのであれ ば、日本の医師不足、特に勤務医不足をきち んと訴えていかなければ、勤務医が医師会に 入ろうという気になれない。そこまで追いつ められているということを医師会は是非ご理 解いただきたい。

○一人一人はどこにどのように声を出したらよ いのか分からない。提案ですがこの連絡協議 会の名の下に何らかの声明とか宣言などを出 して国民にも社会にアピールしていくことを 堂々とやっていくのはいかがでしょうか。 (拍手)

座長:声明を出すことについて先生方のご賛同 をいただきました。これからご意見をいただ き、埼玉県で取りまとめた上、案を作成し日医 の勤務医委員会で見て頂き文書を作り上げたい と思うがよろしいか。(拍手)

○大学医局からの供給が絶ちきられ現場は四苦 八苦して深刻な状態になっていると思う。今 後、医局が将来的にも供給源として機能する見 通しがあるのか教えてほしい。また、それに代 わる機能はどうするか。どこに求めるのか。

○古川:基本的には地域に派遣できなくなった。 しかし、2年経つと戻ってくるから教育機関と しての機能と派遣の機能は残っていくと思う。

○現実に長野県はうまくいっている。長野は信 州大学一つしかない。信州大学は医局員が25 人一挙にいなくなったが残された人たちが県 内の病院を全て統括する集約化を行ってい る。一つの大学が地域をうまく集約化してい る現象が生まれている。医局制度がおかしい というものでなく、問題は医局という名の下 の権力があったところがおかしいということ である。医局からの供給も教育と一緒になっ てやっていけると考えている。

○全ての問題が医療費抑制というところに全て 原因があると思う。国の予算を見た場合国家 公務員法を変えて国家公務員が国の奉仕者だ ということがはっきりとさせない限り永遠に 解決できない問題だと思う。過重労働が無視 されている。医療環境を悪くしている。医療 費の国の予算は9兆円である。非常に少ない。 我々医師は一つになって、日本の医療を考え なければいけない時代にきている。国民を犠 牲にできないので、政治的なことを主張した 上で国民の納得を得なければならないと思っ ている。

座長:勤務医師が残らない。特に中堅医師が辞 めて開業に向かうドクターが多い。それを留め る方法はないか。

○当直手当がもらえるようになる。ごく普通の 労働条件の改善である。一般企業より給料は 安く労働条件が悪く逮捕されたとなるとそこ に入る人はいない。良くするために全員が心 を一つにして訴えて行くことしかないと思う。

○国家公務員である。国立病院機構に勤めてい る。民間病院と同じように独立採算制であ る。給料は民間より安い。中堅が辞める要因 は低賃金がある。お金の面での待遇は非常に 重要である。どこの病院も独立採算制を求め られるので、そこを解決するためには医療費全体に占める人件費率を抑えなければならな い。勤務医の報酬を上げるためには病院の診 療報酬を上げないといけない。そのために全 体の医療費をあげる必要がある。日医として 医療費を上げるための理由付けはたくさんあ る。その中でも勤務医の労働条件を良くして 医療安全を良くするために診療報酬を上げる ことを大きな声で訴えてほしい。

○脳外科医で過重労働の中にいる。勤務医は明 日の医療から困っている。次々と医師が辞め ていく。早急にくい止めなければ増員や診療 報酬を待っていられない状況である。医師の 代替は医師しかいない。これは見識と経験の ある開業医が勤務医をサポートするしかない。 日医がそれを認識して開業医に通知するなど 率先して行って欲しい。そうすることによっ て勤務医は今までの医師会とは違うという認 識にたつと思う。

○三次救急病院に対して民間病院が当直を代わ って手伝っている。地域医療において勤務医 と医師会が一緒になって地域住民を守る運動 をしていきたいと思っている。

○3年前から始まった新臨床研修体制ができた ために麻酔科、産婦人科、小児科が減ってき ている。先日、奈良県で起きた病院をてんて んとして亡くなった事件があったが、実は先 日自分の病院で同じようなケースがあった。 患者の受け入れ先としてあたった病院が13施 設、ようやく探したがかかった時間は3時間。 こういうことはいつでも起こり得ることであ る。責任を取らされる立場にいる。また、ド クターが評判を悪くする原因となっている。 こういう時こそきちんとした意見を述べてい かないといけないと思う。

○勤務医と医師会が一緒になり、医療政策につ いて発信しようと日医に対して宣言を提言し ようということはすばらしいと思う。と同時 に各々の県医師会で勤務医と一緒になって国民の皆さんに大きな問題を理解してもらわな ければならない。そのために私は福岡で安全 な医療を作るために集会を開こうと思ってい る。是非各県でそのような働きをしていただ くと本日のいろいろな問題の解決に繋がると 思う。

○古川先生は医師会の広告塔になっていただき たい。18の県がまだ勤務医部会を立ち上げて ないようだから古川先生に全国を回って勤務 医にかつを入れていただき、日本の医療をバ ックアップしていただきたいと思う。

○古川:勤務医がかなり医師会の中心に入ってい って国民の声を国に伝えていくには政治が必 要だと思っている。広告塔になっていきたい。

○国民に訴えるのは非常に大事である。がんば って質を上げ、研修医も受け入れている。当 直をして翌日も診療している。しかし、この ままさらに続くと質が落ちざるを得ない。今 の医療費では燃え尽きてしまう。それを国民 に訴えていかなければならない。それは各方 面でマスコミにもうまく賛同してもらい国民 に訴えていくことが必要だと思う。燃え尽き てからでは国民全員が損害を受けることにな ると訴えていくことが必要である。

○栃木県は今年勤務医委員会を作った。なるべ く勤務医全員に参加していただくため特別委 員会を3つ作った。会議で言われた事はいく ら協議しても、上にいかなければ意味がない ということであった。本日の協議会、都道府 県医師会勤務医担当理事連絡協議会ともテー マ、演題が決まっていて各県の勤務医委員会 の意見が反映できない。よって提案ですが、 できれば各県の勤務医部会長会議を1年に1 回は開催してほしい。各県の活動状況を報告 しながらやってほしい。日医が勤務医を取り 込み具体的な実践をつめていくことが大事で ある。

座長の金井先生から「意見はつきないが、何 かあれば、後日、埼玉県医師会にご連絡頂きた い。」と述べ、まとめに入った。

吉原会長

今日は貴重なご意見をいただき感謝する。テ ーマはいろいろあったが、結局医療制度をいい 方向に変えていこう。また、医療費削減の阻止 については政治に訴えるということである。そ のためには、勤務医のアンガージュマンが必要 であるということにきちんとまとめていただい て感謝しています。古川先生とは平成8年から の付き合いである。本日の様々なご意見は古川 先生の頭に入ったと思うので、是非全国の先生 方のご協力をいただいて、古川先生を国政の場 に送り込んで我々の代弁者としていただきたい。

総括:コメンテーター 鈴木満日医常任理事

貴重なご意見ありがとうございます。日本医 師会は病院が入院医療だけで経営ができるシス テムを支持し、要求しようと思っている。直ぐ ではないが、これがかなえられれば勤務医の労 働条件は改善されるのではないかと期待してい る。宮城県、兵庫県、愛知県では医師の偏在対 策として3年間の契約を結び2年間は県が指示 した場所で務める。1年間は県内、県外留学と 自由に勉強できるとして募集したところ、宮城 県は5名応募の中4名採用されたとのことであ る。このへんにも何かヒントが残されているの かもしれない。

医師に対する行政処分が10月から決まった。 これは情状酌量がまったくないので、この辺を 状況に応じた扱いをするように要請している。

直接勤務医に関係ないが、密接な関係がある のは18年度の診療報酬改定であった。その内日 本医師会が対応している点について報告する。

入院基本料7対1の問題である。大学病院が 全国で82施設ある。看護師の新卒者8,000人に対し、1病院が100名雇用すると足りなくなる。 東大病院で300 人の内定が済んだと聞いてい る。例年の2.5倍の採用だそうだ。それに対応 できる教育体制が整っているとは思えない。ひ いては医療の質の低下、中小病院、有床診療所 で形成される地域医療の崩壊に繋がると危惧し ており、早速、今の実態調査結果を中医協を通 じて要請している。結果次第では大ナタを振る う対応に迫られることになるかもしれない。

次は療養病床区分の問題、介護・医療難民の 問題は受け皿がなくてこのような状況になった ことが一番の問題である。リハビリも同様に言 えることである。医療費を削って介護に付けれ ばいいという責任放棄の形で動いている。これ は非常に問題がある。

DPCの問題である。自分の病院なりにホー ムメイドの請求という形が散在することが問題 になっている。調整点数は良質な医療の質を担 保してもらうために前年度の実績がかからない ような数字になる。それをいいことに7〜12月 まで荒稼ぎするような大病院が如実に出てき た。非常に頭の痛いところである。調整点数は 総枠医療に繋がりかねないので、7対1をとり DPCをとって急性期で生き残るという今の風 潮は危険な感じがして日医としては賛成できる ものではない。

高齢者医療の診療報酬体系をどうするかとい うことで議論されているが、高齢者医療法とい うものがどうなるかということが手術を始め、 病院にも大きな影響を及ぼすと思う。入院医療 で病院が成立しても高齢者の診療報酬がガタガ タになると、とても経営基盤の安定は望めない と思う。

このような中、日本の国民医療を保持すると いうことで日医はやっているのでご理解いただ きたくお願いし、最後のまとめとします。

閉会

印象記

嘉手苅勤

沖縄県医師会勤務医部会部会長 嘉手苅 勤

今回の連絡協議会は来年度沖縄県が担当県である事から、3日の前日打合せ会(懇親会)から 宮城信雄会長、安里哲好常任理事、城間寛先生、事務局が出席した。打合せ会では埼玉県医師会 会長の挨拶があり、その後宮城会長が乾杯の挨拶をし、懇親会が始まった。埼玉県医師会、日医 勤務医部会委員長、シンポジスト、日医事務局との懇親交流を行った。シンポジストとして県出 身の埼玉医科大学里見昭教授も出席された。

翌日4日に連絡協議会があり、日医会長唐澤人先生は挨拶の中で「勤務医の過重労働や医師 不足が問題となっており、診療科や地域偏在は医師養成をしただけではすぐには解決しない。日 医は医療安全の面からも深刻な問題であると認識している。」と話した。(昨年の協議会では植松 治雄会長は医師不足ではなく地域偏在と言っており、会場では不満の声が上がっていた)。また女 性医師にかかわる諸問題についても支援体制を構築する必要があると話した。

日医会長唐澤人先生の特別講演の後、質問があり埼玉県勤務医部会本田宏先生から「日本の 医師不足は勤務医不足である。日本医師会は勤務医不足を正面に見据えて医療費増、勤務医増を 主張していただきたい」とのお願いがあり会場からは拍手が沸いた。また広島県の方から「この 会は勤務医のガス抜きに終わっている感じが強く、協議会として声明文を出すなど考えて欲しい」 「勤務医の代議員数の増と勤務医の発言力、責任力を与えるべきである。」と要望が出された。

シンポジウム「勤務医の労働条件」では、女性医師から育児中当直があり、搾乳や保管で恥 ずかしい思いをしたと話され、出産、育児など女性本来の役割を理解し、医師として活動を続け る環境作りを切実に訴えたのが心に強く響いた。

シンポジウム「「勤務医と医政活動」では「医療トラブルを中心に」医療トラブルに対する埼 玉県医師会の取り組みに感心した。「産科医療集約・重点化について」では栃木武一先生の産科現 場からの叫びに聴こえる気迫がこもった熱弁には圧倒された。

基調講演では古川俊治先生が来年の参議院選挙に自民党公認として埼玉県から立候補を予定し ていると紹介された。医療現場を知っている医師で弁護士の古川先生は、勤務医の労働条件、医 療政策など日本の医療問題を厳しく指摘した。勤務医の現況を変えるため「立ち去り」でなく、 政治力のある医師会の活動に勤務医は「参加」することが重要であるとし、勤務医の立場から医 政を行うと述べた。今後の日本の医療政策改善に期待すべき人物であると感じた。

最後に座長はガス抜き発言等もあり、連絡協議会として声明を出すことを提案し、拍手喝采で 賛同が得られた。例年とは全く違う雰囲気で連絡協議会の今後の活動を期待させる会であった。

来年度は沖縄県が担当であり、勤務医の皆様のご協力をお願い致します。


印象記

城間寛

沖縄県医師会勤務医部会委員
城間 寛(豊見城中央病院)

平成18年11月4日、埼玉県で開催された全国医師会勤務医部会連絡協議会に参加してきました。 来年は沖縄で開催されるとのことで、その視察を兼ねての参加でしたが、私は初めての事なので、 なかなか勝手が分からず部会長の嘉手苅先生や県医師会常任理事の安里先生に色々尋ねながらの 協議会参加となりました。

昨今、勤務医を取り巻く環境は非常に厳しく、テレビや新聞など、マスコミにも取り上げられ ることがよくあります。しかしそれらは日々診療している我々の立場で見ると、なかなか的を得 た報道がなされていないと苛立ちを感じるのは私一人ではないだろうと思います。そういう中で の協議会なので、どんな内容の会議になるか、大変興味深く臨みましたが、シンポジウムや基調 講演とも大変意義深い内容で、実のあるものでしたのでその一部を御紹介したいと思います。

今回の埼玉県がメインテーマとして選んだタイトルは「勤務医のアンガージュマンを求める」と 言う題で、アンガージュマンとはフランス語で積極的な社会参加と言う意味だそうです。

基調講演は慶應義塾大学法科大学院、医学部助教授で、また現役の弁護士でもある古川俊治先 生が「勤務医と医政活動」〜「立ち去り」か「参加」か〜、と言う演題での講演がありました。 その内容の趣旨は以下のようなものでした。

勤務医の労働条件が悪化している状況の大きな原因は1)医療機関の経営状況の悪化(医療費抑 制政策による)、2)医療安全の要求の高まり(医療安全のための業務負担、医療従事者の刑事責任 の厳格化)、臨床研修必修化に伴う医師不足(特に小児科、産科、麻酔科等の外科系の医療現場か ら勤務医が辞めている)などがあげられる。現在、政府により医療費抑制政策が執られているが、 これは1997年から2003年まで名目GDPが下がってきたため、人件費の高い医療費分野はGDP比 が非常に高くなったことと、さらに厚労省が2025年の医療費の予測を過大推計したことに問題が ある。昨今、マスコミの一元的な報道(薬・検査漬け、社会的入院、医療事故の多発、医師の高 収入)により国民の医療への不信が高まり、医療への財政投資の理解が得られない状況になって いる。

医師会と弁護士会とを比較すると、弁護士会は全員強制加入で100%、若手も積極的に活動し、 強力な綱紀粛正力があり国民からの信頼も良好、医師会は、任意加入で60%の加入率、若手の参 加は消極的で綱紀粛正力もなく、国民からの信頼も低い。今、勤務医こそが、現場の窮状を正し く伝える主体であり、勤務医中心の医師会なら国民のイメージが変えられる。従って医師は全員 医師会に参加すべきであり、今後、勤務医がみんな参加する医師会になっていく事が必要である と講演をまとめた。

シンポジウムでは「勤務医の労働条件」というテーマで1)大学病院、2)小児科医、3)内科医、 4)産婦人科医、5)女性医師の立場からの発表と討論がありました。大学病院の立場として発表し たのが埼玉医大小児外科の里見先生(県出身者)で、「とにかくスタッフの給料が研修医よりも安 くその状況を何とかしなければ大学は崩壊する」という悲痛な叫びでした。産婦人科の場合、地 方と、都会とでは問題が異なり、地方では人がいなくて困り、都会の病院では仕事が荷重で勤務医に負担がのしかかってきているとの事でした。特にその中で印象に残ったのは女性医師の立 場としての発表で、女性が、家庭を持ち、子育てをしながら医師としての職業を全うすることが 如何に大変かということが、発表者の経験を通して切実に伝わってきました。質疑応答では、こ の全国勤務医部会協議会が単なるガス抜きの協議会に終わることがないように、日本医師会は是 非、今回話し合われた事を全国に発信し、有効な対策を講じてほしいという発言でまとめられま した。

最後に、これは私の感想ですが、これまで日本医師会が勤務医の労働条件や環境について、ま ともに取り上げ、その改善のために何かを決議したという事はあまり聞きません。しかし、今の 医療を取り巻く環境(特に病院・勤務医)は限界にきていると思います。この状況を切り開くた めには開業医と勤務医が共に協力して、古川先生が講演でも述べられたように、国民から信頼さ れる医師会を作り、正確な情報を発信していく事が必要な事だと感じました。


お知らせ

平成19年沖縄県医師会新年祝賀会

  • 日 時  平成19年1月6日(土)19:00〜
  • 場 所  ラグナガーデンホテル(羽衣の間)
  • 会 費  当日ご持参下さい。
    •    会 員  :1万円
    •    配偶者・家族:無 料

※お年玉福引き会も準備しておりますので、是非ご参加下さい。