独立行政法人国立病院機構沖縄病院外科部長 国吉 真行
当院における医療安全対策は医療安全管理室 が中心となり、ヒヤリハット報告の分析、事故 防止対策の強化等を行っている。
事故を未然に防止する事が最終目標である。 ISO認証取得後は活動そのものの基本は変わら ないがフォローアップまできちんと行う事を要 求されるため多くの労力を費やす様になった。 当院における医療事故対応マニュアルの紹介と 活動状況を紹介する。
沖縄病院は独立行政法人化に伴い、国立病院 機構本部九州ブロック事務所の管轄下にあり、 医療事故対応マニュアルについても本部で統一 されている。
このマニュアルで扱う医療事故とは疾患だけ でなく医療行為によって患者に一過性または永 続的な障害が引き起こされた事象と定義され る。さらに患者側からの重大なクレームがあっ た場合も医療事故と同様に扱う。
(1)遅滞なく、正確な診療録記載。
(2)日頃から十分なインフォームドコンセント を行う。侵襲的な治療、検査の場合は他の 医師、看護師も同席させる。終了後も理解 出来たか確認する。内容を診療録に正確に 記載する。
(3)事故発生後は診療録に未記載などがあれば 追記し、その旨記録する。
(4)事故発生後、状況確認のため、複数で聞き 取り調査を行う。
(1)折衝窓口は院長、副院長、事務職等が加わ り、必ず複数で当たる。
(2)原則として病理解剖を求める。
(3)弁護士に相談する。
(4)文書で回答する場合は院内医療安全管理委 員会を開催し、内容を十分吟味し、事前に 弁護士、ブロック事務所と相談する。
(5)相手が回答に納得しない場合は、院外の専 門家を加えた拡大委員会に委ねる。
(6)当事者の権限を越えた無理な要求が出され た場合は権限のない事を説明し、また解明 のための病理解剖を勧める。
(1)事故発生後可及的速やかに院内医療安全管 理委員会を開催し、事故の概略、障害の程 度、診療の妥当性及び過誤の有無、患者へ の回答内容等を審議する。
(2)障害固定後は再度院内医療安全管理委員会 を開催する。
(3)院内の医療安全管理委員会において、審議 不十分な際は拡大医療安全管理委員会の開 催を医療事故調停委員会に依頼する。
(1)死亡事故は原則として全てブロック事務所 医療課及び本部医療部サービス・安全課に 報告する。
(2)一部の医療事故に関しては財団法人日本医 療機能評価機構の医療事故情報収集等事業の報告義務対象医療機関となっているた め、該当する医療事故についてはWeb上で 報告する。
1)過誤により患者が死亡又は障害が残った 場合で予期した以上の治療を要した場 合、となっている。
2)過誤は明らかでないが死亡又は障害が残 った場合で予期した以上の治療を要した 場合、死亡又は障害が残った場合で予期 した以上の治療を要した場合。
3)その他事故の発生の予防及び再発の防止 に資する事例。
国立病院機構の施設から訴訟に発展する医療 事故に対し審理を求められた場合、第三者を含 めた拡大医療安全管理委員会が開催される。
(1)医療事故調停委員会は九州ブロック所属の 病院の医療事故について医療安全管理委員 会または拡大医療安全管理委員会の報告に 基づき、公正で厳格な審査を行い、当該病 院に提言する。
(2)当該病院は事故処理決着後その結果を報告 する。
詳細省略
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医療安全管理室の仕事は医療事故が発生した ときの対応だけでなく、各部署のリスクマネー ジャーとともにヒヤリハット報告を集計し、リ スクマネジメント部会を開催し、データを分析 するとともに是正を求め、他部門への水平展 開、各種業務マニュアルの改訂、新規の作成等 を提言し事故防止対策を立てる事にある。
他に医療安全に関する意識の向上、技術の習得のため各種研修会を開催している。
医師からのヒヤリハット報告は少なく、また 医師の指示を看護師が誤解し、結果的に看護部 のヒヤリハットや医療事故を誘発するという事 例も少なからず見られた。そこで医師に対し診 療録への指示の書き方、処方箋の記載法等を各 科毎、あるいは個々の医師によってばらばらだ ったのを、可能な限り統一する事にしそれなり の成果が得られた。次の目標は、病棟毎に異な る備品の配置、各種手順書であり、これらを統 一する事で医師と看護師間の指示伝達が均一化 され看護業務の簡素化、医師・看護師間の意識 のずれも減り、ヒヤリハット、医療事故の減少 につながるのではと期待している。
沖縄病院では年間500件前後のヒヤリハット 報告がある。
全体のおよそ4分の1が誤薬関連であり、看 護部からの報告例が多い。今年はこの誤薬事故 防止について重点的に取り組んでいる。
主な内容は声だし・指さし確認の徹底であ り、実施状況は各部署長またはリスクマネージ ャーが評価し毎月の部会で報告する。
ISO認証取得後は事例を分析し、是正処置を 講じ、効果を確認し、さらに第三者によるフォ ローアップが求められ、これまで中途半端に終 わっていたPDCAサイクルを完全にまわし、し かも継続しなければならない。そのため、医療 安全管理室係長が直接現場を訪問しフォローア ップを行っている。他に不定期だがKYTに関す る研修会を行っている。
沖縄病院は病院機能強化、医療の質の向上を 目的に品質管理マニュアルであるISO認証取得 に向けた活動を平成17年7月から開始し、18年 5月に取得した。
その間、コンサルティング会社による研修 会、内部監査、外部機関による監査を通じて多 くの改善要求が出された。
これまで医療はサービス業的雰囲気が強く、 医療サービスに対し工業製品と同じ品質管理の 手法を取り入れる事に対して現場には少なから ず混乱がみられた。各科で診る疾患は異なる が、外来診療時、新患が受診した際、医事受 付、各科外来窓口を通り医師の診察を受けるが その際医師は患者が入ってくるときの外見、動 作などからおおよその印象を得(視診が始ま る)、それから問診、聴診、触診、検査のオー ダー、入院が必要であればその手続き、と一連 の業務が極自然に行われてきた。しかし、ISO では文書によるきちんとした診療の業務マニュ アル(この中には医師の技量評価や治療方針決 定における責任の所在等が含まれる)を要求し ている。これまで医師はヒヤリハット報告への 関心が低かったがISO認証後は単に治療計画を 立てるだけでなく、実行、評価、改善という PDCAサイクルを確実にまわさなくてはいけな い。つまりISO認証を取得した事で、否応なく インシデントへの是正措置が講じられなければ ならなくなり、形骸化しがちなリスクマネジメ ント活動が意義あるものになりつつある。しか し、これまではレポートを提出したら終わりに なっていたのが、是正措置を立てそのフォロー アップまで行うため、当事者も当該部署も長い 期間煩わされる事になるため柔軟な運用が必要 と思われる。
医療行為は本質的にリスクを伴うものであ る。昨今の医療事故の事例をみると、いわゆる KYT(危険・予知・トレーニング)の甘さも一 因ではないかと思われる。Aという結果を期待 してBという医療行為または看護を行っても、 CとかDという好ましくない結果をもたらす事 があり得るとの認識が欠けていた事を伺わせる 場合がある。根拠のない恐れも無駄な労力を費 やしたり逆に過剰な侵襲を患者に与えてしまう 事があるがリスクを正しく評価した上で診療、 看護にあたり、事故を防止するようにKYT活動 等で感性を高める事が重要である。