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医師逮捕に思う

アワセ第一医院 浜端 宏英

冤罪(えんざい)罪がないのに、疑われたり罰 を受けたりすること。と辞書にある。福島県で 産婦人科医師が逮捕され、7 月号にその経過が 書かれていたが、かつて私の周囲で起こった医 師逮捕事件が冤罪ではなかったかと今でも時々 思い出す。今回書いた内容は、実際に私が経験 し、また知り得た情報から作り上げたもので、 実際には事実と異なるかもしれない。どうかフ ィクションとして読んでいただきたい。

事件一

A 医師:外科系の独身中年Dr.。いつも手術 や回診で遅くまで黙々と仕事をこなしていた。 写真の腕はプロ級で有名なカメラ雑誌に入選す るほどであった。一度、入選写真を見たことが あった。それは確か題「八重岳の桜」で、?暗 闇に浮かぶ綺麗なピンクの1 輪の桜が見事に写 っていた。しかしその桜を支える枝は風にたな びき、背景に広がる暗闇は寒そうな小雨と風が 見て取れた。鮮やかな桜と背景のコントラスト が見事であった。

さて、その事件はある土曜日の深夜に起こっ た。大学生が交通事故を起こし中部病院に運ば れたのである。一緒に乗っていた彼女と思われ る女性も怪我をし、手術場へ運ばれた。その女 性は誰もが18 〜 20 歳に見えたのだが、事実は 中学生であった。何故、女子中学生が深夜に大 学生とドライブを・・・?そこから中学生を中 心に時計の針は反転し、A 医師が登場してきた のである。実はA 医師はプロ級のカメラの腕前 から、中部に自分のスタジオを所有し、そこで 知り合った中学生の子供たちがいた。その土曜 日の夜、たまたま彼女たちと出会い、早く帰り なさいと自宅近くまで送り届けたのである。し かし、彼女たちは自宅に戻らず、また夜の街へ と消え、そして大学生にナンパされた。

そしてその交通事故からだいぶたったある 日、A 医師は突然逮捕された。新聞をはじめと する報道は悲惨なものであった。最初からA 医 師をわいせつ極まりない者として扱い、悪意に 満ちたものであった。スタジオに残された写真 にも勝手に想像されたと思われるコメントが載 り、事件への関与へのコメントは二の次であっ た。これでA 医師は裁判の結果がどうであれ、 社会から抹殺される運命となったのである。そ して1 年後、医師免許が取り上げられた。

当時、運が悪いことに医師免許が取り上げら れる事件が多く、いわばそのような時代であっ た。A 医師も免許を取り上げられたのだから、 何らかの有罪判決が下りたのであろう。しかし 本当にA 医師は有罪に値するような悪いことを したのであろうか?控訴も出来たのではないか と思われたが、そのような報道は伝えられなか った。おそらく過剰なまでのマスコミ報道に医 師としての居場所がなくなったことを悟ったの ではないかと考えている。

事件二

B 医師:長年公立病院の管理職を務め、その 温厚な人柄で慕われていた。その先生がある日 突然逮捕された。A 医師の逮捕から約1 年後の ことであった。理由は公立病院とは関係がない 施設の理事長をしていたためである。金銭がら みの問題であったようだが、逮捕理由は、はっ きりとしないものであった。1年前のA 医師の時 と同じように逮捕前には病院周辺が妙に静かに なったと思ったら、ある朝突然の逮捕劇である。

テレビには逮捕されたB 医師が手錠をはめら れた姿で映し出されていた。しかしその姿は 正々堂々と胸を張り、手錠も隠そうともしない ものであった。奇妙なことに事件は衝撃的な報 道が数日続いた後、急速にマスコミから登場し なくなり、B 医師もいつの間にか釈放されてい た。私は釈放後、B 医師の自宅に伺ったことが ある。その時、B 医師は事件を詫びた後「何も 悪いことをしていないから心配しないように」 と話されたのを覚えている。何か釈然としない まま、時は過ぎ、そしてB 医師は静かに職を辞 した。

A 先生との違いは医師免許を取り上げられな かった事である。それは何の罪にも問われなか ったことを意味するものではないだろうか。し かし、マスコミの影響は絶大である。手錠をは められたB 医師の姿はそれだけで、取り返しの つかないものだったのである。

ある日突然逮捕しておきながら、有罪でなか った場合もやはり冤罪であるが、警察にすれば 医師の有罪・無罪に関係なく逮捕することが重 要であるらしい。それは県立大野病院の医師を 逮捕した富岡署が、その直後に県警本部長賞を 受賞していることからも容易に考えられる。警 察は医師を逮捕することでそのイメージアップ を図っているのではないかと思いたくなるほど である。冤罪になった医師はどのようにして名 誉を回復できるのであろうか?非常に大切な事 ですが、残念ながら良い知恵は浮かびません。 しかしどこかで名誉を回復する場があっても良 いと思いました。私がA 医師の事件も冤罪と考 えている理由は、小松秀樹医師著の「医療崩 壊」を読めば理解してもらえるであろう。この 本は隠れたベストセラーになっているようです ので、読まれた方も多いと思います。

この本によれば、警察は2002 年に桶川スト ーカー事件でその怠慢が非難されて以後、大半 の市民の訴えに対し捜査するようになり、医療 に関わる事件も捜査するようになったそうであ る。特に病院関係はターゲットになっているら しい。しかし著者は医療現場を捜査する警察関 係者を非難してはいない。むしろ現場の警察関 係者も被害者であるとの認識である。問題はも っと根が深いのである。著者は慈恵医大青戸病 院事件にも言及している。著者が手に入れた資 料から見えてくるこの事件は、報道されている ものとあまりにも異なっているので驚愕であ る。もしそれが真実なら現実に起こっているこ とはマスコミ・警察・司法で作り上げられたと いうことになる。医療界で起こる事件、事故を トカゲの尻尾切りのように処理していたので は、真実は見えてこないし、医療界の発展に寄 与することなく、そして冤罪は限りなく増える であろう。医療界の常識は警察・司法において 何の説得力も持たないことを知るべきである。 そして、この受難な時代を逆に生かすことが出 来なければ医療界は崩壊してしまうということ だと思われます。

終わり