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臓器移植普及推進月間(10/1〜10/31)に因んで
―献腎移植について―

新垣義孝

沖縄県立中部病院泌尿器科 新垣 義孝

はじめに

世界各国の臓器移植の臓器提供数を人口100 万人あたりで見てみますと、スペインの33.7 件 を筆頭にオーストリア、ベルギーン、米国、フ ランスなどが続き日本は0.5 件ときわめて少な く、を待ち望む患者さんにとってきわめて厳し い状況にあります。今回は移植の歴史の長い腎 臓移植、とりわけ献腎移植について述べること にします。

腎不全と腎臓移植

腎臓の働きが悪くなると、慢性腎不全という 状態になります。原因は主に糖尿病、高血圧、 腎炎です。体内の老廃物が尿として排泄出来 す、心不全や抗カリウム血症で命を失ってしま います。この尿を作る働きを透析によって代用 することによって体の老廃物を取り除き生命を 維持することが可能です。この透析療法には、 血液透析と腹膜透析(CAPD)があります。血 液透析は週3回、一回4〜 5時間ベッドに横たわ って治療を受けなければなりませんし、CAPD は1日複数回、腹腔内へ注入液を交換しなけれ ばなりません。いずれの場合も、本人の時間 的、肉体的、精神的負担は大変なものです。も ちろん、水分摂取の制限、食事の制限もあり旅 行も気軽に出来る状況にはありません。慢性腎 不全は透析が必要になるまでほとんど自覚症状 がありません。多くの患者さんが、透析がどの ようなものか実際に透析治療がなされるまで理 解出来ていないのが実状でしょう。透析を体験 して、はじめて透析をしなくて済む方法はない ものかと考えます。腎臓移植という方法があり ます。日本移植者協議会の2002年の腎臓移植を受けた方の実態調査では97%の方が移植を受 けてよかったと解答しています。その理由とし て(複数回答)、透析を受けなくても良い71%、 食事水分の制限がない68.9%、健常者と同じ生 活が出来る63.6%、時間の制限がない60.7%、 移植後体調が良い57.0%、生きていることに感 謝出来る51.7%、生きる喜びがある49.3%、社 会復帰が出来た36.9%となっています。

献腎移植の実際

腎臓移植は親兄弟等の身内から2 個ある腎臓 の1 個をもらって移植する生体腎移植と亡くな った方からいただく献腎移植があります。提供 者をドナー、移植を受ける方をレシピエントと 言います。生体腎移植は健康な方に全身麻酔を 行ない手術で片方の腎臓をいただくわけですの で、亡くなった方からいただければこれにこし たことはありません。日本では約8 割は生体腎 移植で2 割が献腎移植です。腎提供が出来る条 件があります。提供する方に1)癌がないこと (治癒していれば良い)、2)結核や敗血症のよ うな全身性の感染症がないこと、です。腎臓は 血流が停止して30分以上経過しますと腐って きて腎提供は出来ません。しかし、腎臓を冷却 水で還流冷却すると48 時間保存が可能です。 実際の献腎の場合は、臨床的脳死の時点で腎提 供の準備をしておく必要があります。主治医が 臨床的に脳死と診断した場合、家族に脳死の病 態と予後について説明し、治療の選択肢が提示 されます。家族が臓器提供に関して説明を希望 すれば日本臓器移植ネットワークのコーデイネ ータから説明を受けることが出来ます。(日本 臓器移植ネットワークのみがこの斡旋の業務を法的に認められており、移植コーデイネータが その任に当たっています。)現実には心停止後 の献腎がほとんどですのでこれに絞って述べま す。臨床的脳死の診断後に日本臓器移植ネット ワークの関与のもとで死期が迫った時点で家族 の了解を得た後に腎動脈部の大動脈に冷却用の チューブを留置しておきます。心停止後に灌流 液で腎を体内で灌流冷却します。ご家族が、十 分にお別れをしたあとに手術室で通常の手術と 同様に無菌的に腎を摘出します。その後に、摘 出した腎は日本臓器移植ネットワークによって 公平公正に選定されたレシピエント候補者を手 術する施設に届けられ、移植が行なわれること になります。献腎移植のレシピエントはある 日、突然に連絡が入り移植を受けるか否かの選 択を求められます。移植を希望すれば、緊急に 献腎移植登録病院で診察、検査や透析を行ない 手術を受けることになります。移植医もある日 突然に、外来診察中や手術中または就眠中に献 腎の情報が入り緊急に体内灌流のセットや手術 道具を車に積んで腎摘出に出かけることになり ます。献腎移植では20 時間以上経過すると成 績が悪いことがわかっていますので、せかされ るような状況下で移植手術のプロセスが進んで いきます。心停止下での献腎の場合は、低血圧 が長く続いたりなどで急性腎不全となっていた り、腎臓の状態はかなり悪いことが少なくあり ません。移植腎が腎機能を回復するには移植術 後も透析を2 〜 4 週間前後必要とすることが多 いのです。また、約5 %は腎機能が発現しませ ん。腎臓移植は100 %うまくいくとは限りませ んので、腎機能が発現しないときは再び透析に 戻って次のチャンスを待つことになります。

献腎移植の現状

日本では1997年に”脳死体からの臓器移植 法”が施行されてから脳死下での腎移植はこれ までに54例しか行われていません。日本での献 腎移植の大部分は心停止下での腎提供です。日 本での透析患者は25万人を超えており、そのう ち献腎移植登録者数は約11,500名ですが、この 数年間の献腎移植の件数は日本全国で年間150 例前後しかありません(図1)。沖縄県の人口は 日本全国の100分の1ですので沖縄県での年間 の献腎移植は1.5件という計算になります。沖 縄県では現実にはこれを越える献腎移植が行な われていますが、献腎移植はきわめて少ない状 況にあると言えます。

図1

沖縄県の腎移植は2005年末までにまでに235 例行なわれています。生体腎移植158 例で献腎 移植77 例です(表1)。沖縄県における献腎移 植は1987 年に第一例が行われ、その後、献腎 移植の普及をはかるため沖縄県腎臓バンクが設 立され、1990年には沖縄県腎移植推進情報センターが設立され、献腎移植推進の仕組みが構 築されました。沖縄県腎臓バンク、沖縄県、市 民団体のみならずマスコミの積極的な協力もあ り献腎数は徐々に増加し1994年には献腎数は 18腎となり、人口あたりの献腎数は国内でも最 上位に位置するまでに増加しました。その後、 臓器移植移植ネットワークの設立や“脳死体か らの臓器移植法”の施行などの動きの中で、多 くの他府県と同様に沖縄県内においても腎バン クをはじめとする各組織の役割や協力体制は大 きく変化し、腎提供は減少してしまいました (図2)。近年、臓器移植ネットワークの再編や ドナー選択基準の変更もあいまって、沖縄県に おいては県や腎臟バンクや沖縄県臓器移植推進 協議会等のボランテイア団体による協力によ り、再び献腎移植普及活動が積極的に進められ 献腎が増加する傾向となってきました。しかし 腎移植を希望する患者さんの数に比べて献腎が きわめて少ないのが実状です。腎不全の原因 は、腎炎、糖尿病、高血圧です。現代社会では 誰もがかかりうる病気と言っても良いでしょ う。もし、自分や身内が腎不全になった時、亡 くなられたどなたかから腎提供していただけた らという思いと同時にもし自分が寿命を終える 時どなたかを助けるために献腎が役に立つのな らと考えることも選択肢の一つではないでしょ うか。

表1
図2