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救急の日(9/9)・救急医療週間(9/4〜9/10)に因んで

久木田一朗

琉球大学医学部附属病院救急部長
第2回県民救急・災害フォーラム実行委員会
代表世話人 久木田 一朗

近年、日本やその周辺諸国で大きな災害が起 き、多大な被害が生じています。災害には大き く分けると自然災害と人為災害があり、最近あ った自然災害では2004年10月の新潟中越地震、 12月のインドネシア・スマトラ沖地震があり、 人為災害では2005年4月のJR福知山線列車事故 等がありました。いずれも多大な人的被害が起 き、厚生労働省や内閣府などでも災害派遣医療 チーム(DMAT)という組織を全国200ヶ所の 病院に設置するなどの対応をはじめ、沖縄県で は琉球大学にDMATチームが結成されました。

災害だけでなく、突然の病気も人々の安全・ 安心を脅かします。最も急を要する「突然の心停止」も日本では交通事故の死者をはるかに上 回り、年間4〜5万人にのぼると推定されてい ます。「突然の心停止」の8割以上が「心室細 動」と言われていますが、心室細動には早期の 電気的除細動(DC)がもっとも効果的である ということがわかっています。2004年7月から 一般市民にも自動体外式除細動器(AED)の 使用が認められました。DCは1分遅れるたび に約10%ずつ成功率が落ちていくことがわかっ ています(図1)。日本では通報から救急隊の現 場到着までの平均時間が約6分です。一般人に よる効果的な心肺蘇生法施行と那覇空港などに 設置してあるAEDを用いて、救急隊到着前に 現場で早期のDCをかけることによ って除細動の成功率が高まり、社 会復帰例が出て来ることが期待さ れるのです。

図1

米国では院外心肺停止が年間22 万人以上にも及び、アメリカ心臓 協会(AHA)は救命率向上には病 院前救護を良くする社会的な活動 の重要性に早くから気付きました。 AHAは、通報、心肺蘇生法、いち 早いDC、ACLS(2次救命処置) の4つの輪(chain of survival 、救 命の連鎖)を強調し、地域での心 肺蘇生法講習にも熱心です。2005 年11月に国際蘇生連絡協議会 (ILCOR) が「心肺蘇生に関わる 科学的根拠と治療勧告のコンセン サス(CoSTR)」を発表し、院外で の心停止の患者に対する院内ACLS の効果には科学的根拠がないことが示され、現場でのAED使用を含む適切な心 肺蘇生法BLS(1次救命処置)の重要性が科学 的に証明され、強調されました。

救急救命士の業務の高度化も県内でも進み、 2005年末に気管挿管病院実習30例修了者がハ ートライフ病院で1名出ており、現在多くの病 院で実習が進められ、今年には薬剤投与病院実 習修了者が出はじめています。それに伴い、メ ディカルコントロール(MC)体制が新しく構 築され、活動をはじめています。MC体制とは 消防、行政、医師が加わり、病院前救護活動全 般の質を保証するシステムであり、県MC協議 会および県で5地区に分けられた地区MC協議 会があります。

この様な救急医療を取り巻く新しい状況にあ って、9月には1 日の防災の日、9 日の救急の 日、4〜10日の救急医療週間と防災や救急に因 む記念日や週間が多くあります。我々も沖縄県 との共催で2005年9月、はじめて県民救急・災 害フォーラムを浦添市民会館で開催しました。 このフォーラムの目的は、救急・災害医療にお ける新しい動きやAEDを用いた心肺蘇生法を ひろく一般市民に知って頂き、一人でも多くの 方に自分、身近な人、見知らぬ人を危機から救 う手立てを学んで頂き、救命の連鎖を地域に広 げることです。前回は、病院関係、消防関係者 を中心に198名のボランティア、約400名の一 般参加者を得て、講演会や講習会、展示などを 行い、大きな成果と反響がありました。

県民救急・災害フォーラムの特徴は、医療従 事者、救急隊員を中心に民間主導で行ったこ と、実行委員会方式でボランティア活動で行っ たこと、協賛として沖縄県消防長会、沖縄県医 師会、沖縄県看護協会、沖縄県救急研究会(救 急救命士、救急隊員)、浦添市消防本部、日本 赤十字社沖縄県支部と16の病院(県立、民間、 大学)が加わり、この他にも個人や団体として 県立看護大学、ライフセーバー、ダイバー等、人のネットワークが出来たことが挙げられます。

当日の最も重要な企画はAED講習会でした。 受講生5名に1体の人形とAEDトレーナー(練 習用AED)、インストラクターを用意し、AED を用いた心肺蘇生法講習を2時間行いました。 DVDの映像で標準的方法を見て、その後に人 形で練習する方法(watch then practice)で 消防の普通救命講習より短時間の講習でした。 参加者は熱心に練習して、終わるころには AEDを使える自信を持ったと言えるほどにな っていました。参加者は一般の方を中心に学校 関係、ホテル関係、自衛隊員など幅広い方に受 講してもらいましたが、20ブースで100名講習 の予定が119名の受講となり、見学も多数で会 場が一杯になるほどの熱気でした。

第2回目のフォーラムは、今年9月18日(敬 老の日)に沖縄コンベンションセンターで開催 することになりました。県からの予算もつい て、場所を沖縄コンベンションセンターとし、 メイン会場を展示場、さらに500名入る会議場 での基調講演会と消防から正式な修了証を出し て頂く3時間、200名受講の普通救命講習 (AED 講習会)という主要な催しを企画しま す。県の医務・国保課から担当している大仲 氏、県立病院、民間病院、救急隊の代表、消防 長会の代表、もちろん県医師会理事の玉井先生 と、世話人会での熱心な討議過程そのものが災 害や救急医療体制で最も大事な関係機関の横の 連携作りに役立っていると感じます。県民みん なで触れあって、楽しみながら勉強する場とし て展示場でのキャラクターショー、前回なかっ た沖縄県衛生環境研究所からの海洋危険生物の ブース、DMATやITの進歩を医療に生かした 遠隔医療を紹介するブース等も含まれる予定に なっています。どうぞ皆様誘い合って多数のご 参加を頂き、沖縄での救急医療、災害医療の向 上への熱い思いを感じ取って下さい。主催者一 同お待ちしております。