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結核予防週間(9/24〜9/30)によせて

久場睦夫

独立行政法人国立病院機構沖縄病院 久場 睦夫

結核は減少してきていますが、未だに多大な 発生をみ看過できない感染症であります。9月 24 日から30 日までの結核予防週間によせて、 結核の最近の動向と、結核の診断面においてツ ベルクリン反応の開発以来約1世紀ぶりに登場 した画期的な検査法クォンティフェロンについ て概説したいと思います。

1.結核の最近の動向について

我が国の結核は、昭和20年代をピークに減 少してきている事は周知の通りです。しかし、 2004年の新患発生数は29,736人(罹患率23.3) と約3万人を数え、未だに最大の感染症です。 前年での比較では罹患率で6.1%減少している ものの喀痰塗抹陽性者の罹患率は前年の9.3か ら9.0とその減少度は僅かです。本県はという と、2001年、2002年、2003年、2004年の結核 の新発生患者数・罹患率は各々380人・28.1、 294人・22.0、329人・24.4、339人・25.0で 2004年度は前年度および前々年度にに比しや や増加しています。つまり総体的には減少して いますが、近年の減少度は鈍化しており、本県 では現在横ばい状態を呈しています。また喀痰 塗抹陽性者の比率は2001 年から2004 年まで 各々58.6%、55.0%、70.8%、66.7%と増加傾 向にあります。結核はヒトからヒトへ伝染する 感染症で感染の危険性が高い喀痰塗沫陽性患者 数が疫学上重要であり、この観点からも最近の 結核は軽視できないといえましょう。年齢別に は全国的に高齢者の割合が増えていますが、本 県も同様で70歳以上の割合が2001年の40.2% から40.8%、41.9%、44.2%と年々増えていま す。我が国の結核は地域による格差が大きく なっています。都道府県別にみた2004年度の 罹患率は、大阪府の32.4をワーストに東京都 30.4、兵庫県26.4、中でも大阪市は61.8、名古 屋市36.1、東京特別区34.7(台東区86など)と 大都会で高い。沖縄は24.9で全国平均23.3より 高くなっています。結核対策が良好に作動し ているかの指標としては受診から診断までの期 間があげられますが、症状発現から受診までの 期間Pt’s Delayが2ヶ月以上遅れた割合は全国 で18.8%であり、本県では18.5%と特に悪くは ありません。しかし受診から診断確定までの期 間即ちDr’s Delay が1ヶ月以上の割合は全国 24.9%に対し31.2%と悪くなっています。本県 の医療機関では結核に対する認識が甘いのでし ょうか。

世界的にみた我が国の結核蔓延状態はという と、いわゆる先進国に比較するとかなり遅れて います。西欧諸国の罹患率は米国の5.1をはじ め10以下であり、先進国に仲間入りするには今 後20年〜30年はかかるとされています。先進 国以外の世界では毎年900万人の結核患者が発 生しており、アフリカ、インドの他、隣国の中 国、フィリピン等が高蔓延国です。外国との往 来が多い今日、結核の制圧には我が国にとどま らず、世界的規模で結核に対峙しなければ結核 撲滅はあり得ません。現在、WHOを母体とし た組織が今後10年間で5,000万人の結核患者を 治療し、1,400万人を死から救う計画を立てて いますが、“撲滅”には数十年以上かかるとさ れております。結核との戦いはまだまだ終焉に はほど遠い現状です。先述したように本県は罹 患率が全国平均よりやや上回っており、いわゆ るDr’s Delayがやや長い傾向にあります。結核 の80%以上が医療機関で発見されていますが、 結核蔓延防止の成否は、如何に結核を早く発見 し、即治療を開始し中断する事なく完遂できる かにかかっています。近年、結核は減少ととも に等閑にされがちですが、呼吸器症状や発熱等 を呈する患者の診療に際しては常に結核も念頭 に対処する必要があるものと考えます。

結核罹患率の推移
2.結核診断に関連して
−クォンティフェロン検査について−

結核における診断法、治療法に関しては、確 立しているものと認識されている向きが多いと 思われますが、未だに世界最大級の感染症であ る結核に対するため技術的革新も盛んです。より 効率的な診断法としては最近クォンティフェロ ン検査が登場してきました。これは結核菌に対 する特異的なESAT-6およびCFP-10という蛋白 を抗原としてエフェクターTリンパ球を刺激し、 この時放出されるインターフェロンγを測定す るものです。ツベルクリン反応検査がBCGおよ びMAC(Mycobacterium avium Complex) 症等多くの非結核性抗酸菌と共通の抗原を含む のに対し結核特異性が格段に高くなっていま す。臨床応用におけるQFT-2Gの感度は80〜 90%とされています。特異度はツベルクリン反 応検査が35%に対しQFT-2Gは98〜99%とさ れており、QFT-2G陰性の場合、より高い確率 で結核を否定できます。日本結核病学会は QFT-2Gの使用指針として1)接触者検診におけ る精査や予防内服者の絞り込み、2)医療関係者 の結核管理、3)臨床における補助診断、をあげ ています。臨床における補助診断としては、 QFT-2G陽性であれば結核の発病や潜在性結核 感染が強く疑われます。ただ陳旧性結核でも 10%近くが陽性であり、活動性結核の診断には 画像や菌所見その他の臨床所見と併せてみる事 が重要で、QFT-2Gといえどもこれのみで判断 する事は控えねばなりません。QFT-2Gは本年 1月から保険適用になりましたが、本県ではそ のかなり以前から琉球大学感染病態制御学講座 の藤田教授がこの検査を先駆的に開始され、県 内はもとより県外からも要望に応じ検査を引き 受けられ、また保険適用後もいち早く外注検査 が県内でできるようレールをひかれ(沖縄ファ ルコ)、本検査の難点である時間的制約(採決 後12時間以内に検査開始)を排し、恩恵を浴 している事は周知の通りです。QFT-2G検査の 今後の課題として潜在性結核感染上の感度の確 認等種々あげられていますが、現状でのQFT-2Gの健診や臨床現場での活用でその高い有用 性は大きく実感しているところです。結核診療 の様々な場での知見が増すにつれ、その実用性 はさらに高まるものと思われます。

3.おわりに

我が国および本県の結核は減少してきてはい るものの、減少度は鈍化しており、また感染性 の高い喀痰塗抹患者の比率は高くなっていま す。世界的には未だ莫大な数の結核患者が発生 し続けており、制圧にむけ新薬の開発やより 、、 効 率的な診断法の研究も精力的に行われていま す。結核の軽視は米国でみられたように多剤耐 性結核の増加等につながり危険です。我々臨床 医は結核を忘れることなく、早期発見・早期治 療に努めたい。


参考文献
1.結核予防会:結核の統計2005
2.沖縄県福祉保健部健康増進課:結核の現状(平成17年版)
3.日本結核病学会予防委員会:クォンティフェロンTB-2Gの使用指針.結核.2006;81(5):393−397

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